自分の想いに気付いてから3日が経過した。想いに気付いたというより、燐子先輩に恋をしていたというのが正しいか……。
夏休みが終わり二学期に入る。これから燐子先輩に会うが、どう話し掛けるか。普通に挨拶するか、又は花火大会楽しかったですか?これしか思いつかないなんて、どんだけ緊張してんだ俺は……。
「燐子先輩に会うだけなのに、迷いすぎだろ。会う前に落ち着かないとだめだ」
「あ、千景君……おはよう……」
「り、燐子先輩!?お、おはようございます!」
ちょっと待て、何で燐子先輩がここにいるんだ!?図書室にいたんじゃなかったのか!?俺は燐子先輩に図書室にいたんじゃなかったんですか、と疑問形で話した。燐子先輩は首を傾げながら連絡した筈だけど、と返した。
――首傾げてる先輩、可愛いな。
「え、連絡しましたか?」
「した筈だけど……スマホ見なかった……?」
「スマホ?えっと……あ、ホントだ。すいません、気付いてませんでした」
「謝らなくてもいいよ。図書室に向かってる途中で……千景君に会えたから……私は気にしてないから……」
「燐子先輩……」
俺は燐子先輩を見つめながら思った。会えたからいいって、この人、天然で言ってるのか?それとも狙って言ってるのか?天然だったら恐ろしいぞ。
「そういえば千景君、髪切ったんだね」
「これですか?切ったといっても、少ししか切ってないですが……」
――髪を切ったといっても少しだけで、いつものように一つ縛りだ。
「前は結構伸びてたけど……今は肩までなんだね。千景君、似合ってるよ」
「あ、ありがとうございます。燐子先輩こそ、髪……綺麗ですよ」
「っ!?あ、ありがとう……」
俺は何を言ってるんだ。いくら相手が燐子先輩とはいえ、言い過ぎだろ。それも好きな人に言うなんてどうかしてる。昼休みの終わりまで俺の心臓は持つだろうか。
▼▼▼▼
千景君が髪を切るなんて思わなかった。私は何故切ったのか、何があったのかを彼に聞いた。似合っていたのに……カッコよかったのに……どうして切ったんだろう。
「燐子先輩、落ち着いて下さい。そんなに切ってませんから、少し切っただけですから!あと、顔近いです」
「ごめんね。心配だったから……。千景君が髪を切るっていうことは……何かあったのかなって思って」
「心配掛けてすみません。髪を切った理由は、変わらなきゃって思ったんです」
変わろうと思った?どういうことなの?私は疑問に思った。何が彼をそうさせたんだろう。私は知りたかった。他にも理由があるんじゃないのか、重大なことがあるんじゃないのか。
それから私は彼に質問をした。花火大会の後、変わったことはあったか、好きなことは増えたか、色んなことを聞いた。けれど、千景君は特に何もありませんよ、と何もかも否定した。
「本当に……何もないの?」
「はい、本当です。燐子先輩にも言えないことです」
「そうなんだ……。私にも教えてくれないんだね」
「ごめんなさい、今回は言えないんです」
彼は俯きながら言った。ここまで頑なに言われたらどうすることも出来ない。私は泣きそうになった。千景君に見放された感じだ。好きな人に見放されるって思いたくないのに、どうしても思ってしまう。こんな想いを抱いてしまう自分を殺したい。
――好きな人の前で……千景君の前でこんなことを思ってしまう自分を呪いたい。
そんなことを思っていると、何かが私の手を包んだ。よく見ると、千景君が私の手を包むように握っていた。
「燐子先輩、一つだけ教えます」
「一つだけ?」
「はい、一つだけです。″ある人″のおかげで変わろうって思ったんです」
「そのある人って誰なの?」
「それはまだ言えません。言えませんが、これだけは言えます。その人のおかげで俺は変われたって……向き合わなきゃって」
ヒントみたいなものですが、千景君は付け足して言った。まだ言える時じゃないのかもしれない。でも、これだけは言える。私にライバルが出来たのかもしれない。それはまだ分からない。安心していいのかもしれない、警戒した方がいいかもしれないし……。
その″ある人″は、近くにいるかもしれない。その人は千景君を狙ってるかもしれない。それでも私は千景君を信じる。彼と結ばれるまで好きでいたいから……。
▼▼▼▼
燐子先輩は落ち着いた。だが、落ち着いたというよりは攻めてきた。さっきまで俺は燐子先輩の手を握っていたのだが、今度は先輩が俺の手を握ってきたのだ。それも、俺の顔を見つめながらだ。
「燐子先輩、そろそろ離してもらえると嬉しいのですが……」
「昼休みの終わりまで握らせて……もっと顔を見せて!」
「どうしたんですか先輩!?先輩の方こそ何かありましたよね!?」
「何もないよ。これは……私を困らせた罰だよ。私に何も教えてくれなかった千景君が悪いんだよ」
誰か助けて、この人怖い。燐子先輩は好きだけど、ここまでされると流石に引く。俺は燐子先輩から目を逸らすことにした。恥ずかしくて見られない、先輩が美人なのがいけない。
「目を逸らさないで千景君」
「目逸らしたくなりますよ!今の燐子先輩、怖いですって!」
「千景君がカッコいいのが悪い」
「そういう燐子先輩だって、可愛いのが悪いんですよ!」
あ、やべえ。今の爆弾発言だったよな!?俺と燐子先輩が言い合うと、互いに赤面した。ああもう俺の馬鹿!何でこんなこと本人の前で言っちまうんだよ。せっかくいい雰囲気になったのに、余計気まずくなったじゃねえか。
燐子先輩の顔は赤くなっている。多分、俺も赤くなってる。こんなこと言えるのは燐子先輩だけだ。他の人に言ったら嫌われるレベルだ。最悪、縁切られるくらいに嫌われる。
「燐子先輩」
「な、何……?」
「燐子先輩が可愛いのは事実ですからね?」
「あ、ありがと。千景君も、カッコいいのは本当だから……」
「……ありがとうございます」
俺と燐子先輩は気まずくなり、図書室を出ることにした。よく見たら時間だった。このままだとヤバいな。明日から燐子先輩とどう向き合えばいいんだよ。
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「心臓が止まらない。千景君、あんなこと言うの反則だよ」
いきなり可愛いって言うのはズル過ぎる。千景君に言われるのは凄く嬉しいけど、事実って付け足す所が千景君らしい。千景君は女顔だから、カッコいいどころか綺麗だ。
「これじゃあアレだよね?百合……だよね?」
いや、百合って私は何を言ってるんだろう。千景君は女の子じゃない、男の子だ。私は首を左右に振りながら否定した。もし千景君が女の子だったら、私はレズになる。
――千景君が女の子、これはこれでアリかもしれない。
「考えるのやめよう。好きどころか、重症だよ……」
練習に集中出来るか心配になってきた。とりあえず、このことは置いておこう。千景君とは普通に話をしよう。そうだ、そうすれば上手くいく。普通にしてれば問題ないんだ。
千景君にまた可愛いって言われたら今日のこと思い出しそうだよ。何もかも千景君が悪い、私をこんな風にさせた千景君が悪いんだ。
でも、彼に可愛いって言われたのは嬉しい。これは本当のことだ。もっと言われたい、そんなことを心の何処かで思ってしまう自分がいた。
その"ある人"は目の前にいる