本棚を漁っていた時、俺はある一冊の本を見つけた。本の内容は、赤い糸についての事が記されていた。二人が赤い糸で結ばれた時、二人は両想いになるという王道展開な恋愛小説だ。この本を読む奴っているのか?
「見たことない本だな。燐子先輩なら知ってるかな?」
「その本……読んだことあるよ」
「燐子先輩!?急に驚かさないで下さいよ、後近いです」
「……ごめんね。その本……久しぶりに見たから……。千景君、興味あるのかなって……思ったから……」
燐子先輩が涙目になりながら謝った。何だろう、何もしてないのに罪悪感が込み上げてくる。今の燐子先輩は小動物みたいで、耳が生えていたら垂れ下がっている感じだ。燐子先輩、男子からの目線が怖いって言ってるけど、こういう所なんじゃないのか。
とりあえず早く離れよう。名残惜しいけど、離れないとおかしくなりそうだ。俺は燐子先輩から少しは離れることにした。これくらいならいいか、離れ過ぎると燐子先輩に申し訳ない。
――燐子先輩、ごめんなさい。
「あっ……」
「燐子先輩、どうかしました?」
「な、なんでもないよ!?」
「そうですか。ああそうだ、この本読んだことあるんでしたよね?」
「うん……私が図書委員に……なってから読んだんだ。恋愛系なんだけど、女の子同士なんだ」
「女の子同士、要は百合ですか」
俺が聞くと、燐子先輩が頷いた。百合系か、最初は抵抗あったけど、某弾幕シューティングゲームの二次創作を読んでから耐性付いたんだっけな。
ここで立ちっぱなしで話すのもアレだから座るか。俺と燐子先輩は椅子に座り、赤い糸の本の話をすることにした。しかし、赤い糸で結ばれるっていう辺りにロマンを感じるな。
▼▼▼▼
私が読んだ赤い糸の本、この本は私が読んだ恋愛小説の中で特に良いと思った本だ。百合系という所で人を選ぶけど、内容は凄く良い。私が千景君に薦めたい本でもある。語り過ぎないように気を付けよう
「この本っていつから置いてあったんですか?」
「確か去年だったかな。私が一年だった頃から置いてあって……同じ図書委員の先輩に薦められたんだ」
「そうだったんですね。俺も最初見た時、普通の恋愛小説かなって思ったんですが、百合系の恋愛は予想してませんでした」
「騙されるのは私も分かるよ。私も千景君と……同じで普通の恋愛かなって……思ったんだ。今見ると……これを書いた人は凄いよ」
私は千景君にこの本の魅力をネタバレをしないように気を付けながら語った。千景君は真剣に聞いてくれた。他の人に話すと、凄いねって引かれるけど、千景君は私の話をドン引きせずに聞いてくれた。
――何だろう、聞いてくれてるだけなのに、凄く嬉しい。何でだろう……。
「こんなところかな。後は読んでからの……お楽しみ……」
「燐子先輩、凄い語りましたね」
「それくらい……面白かったってことだよ。千景君……話……聞いてくれて……ありがとう」
私は彼にお礼を言った。引かないでくれたことが嬉しかった。私の話を聞いてくれたことが嬉しかった。好きな人に引かれなくてよかった。もし引かれたらどうしようかなって思ったけど、よかった。
「お礼を言われるようなことはしてないですよ。久しぶりに本を薦めてくれましたから、ありがとうございます」
「え!?私はそんな……何もやってないよ……?」
「本を薦めてくれたでしょ。図書委員になる前もしてくれましたし、今回も薦めてくれた。俺はそのお礼を言いたいんですよ」
図書委員になる前、確かに私は彼に本を薦めた。言われてみれば久しぶりだ。あの時のことを思い出す。あの時、私と千景君が出会った四月……懐かしいな。
涙が出そうになる。千景君と出会って……ライブに招待して……海に行って……花火大会に行って、想いに気付いて、ここまで来た。ここまで来るのに長かったんだ。
「燐子先輩、泣きそうになってますけど……何かありましたか?」
「ううん、何でもない。ちょっと昔のことを思い出してね……」
駄目だ、涙が止まらない。私は千景君の胸に顔を埋め、涙を隠すことにした。彼は突然のことで動揺したけれど、私の頭を撫でてくれた。手は震えていて、不器用だってことが伝わってくる。
――千景君、ありがとう。
▼▼▼▼
「燐子先輩、落ち着きましたか?」
「うん、もう大丈夫。千景君……ありがとね」
「え、ええ。落ち着いたならよかったです」
「さっきまで手震えてたけど……」
言わないでくれよ、俺は心の中で突っ込んだ。それを言われたら撫でたのが馬鹿みたいじゃねえか。緊張してたのに、この人は……。
燐子先輩が胸に顔を埋めてきた時はマジで焦った。どうしたらいいか分からなかったが、こういう時は撫でて落ち着くまで一緒にいればいいって父さんが言ってたな。
しかし、もう5時か。1時間しかいなかったのに、あっという間だ。燐子先輩は今日は練習は無いって言ってたが、帰りが心配だな。これは一緒に帰った方がいいよな?
「燐子先輩、今日は家まで送りますよ」
「大丈夫だよ、私は一人で帰れるから……」
「俺が一緒に帰りたいんです。駄目ですか?」
「……そこまで言われたら断れないよ。いいよ、一緒に帰ろう」
正直言うと心配だった。さっきまで泣いてたから、帰りに何か起こるんじゃないのかって心配だった。俺が一緒にいてあげよう。先輩に何かあったら耐えられない。俺が壊れそうで怖い。
図書室の鍵を閉めて職員室に返し、俺と燐子先輩は門を出た。出る途中で氷川先輩と会ったが、お楽しみでしたねって言われたが、そんなことは一切してない。しかもナニはしないようにして下さいねって、風紀委員怖えな。
「千景君、氷川さんに何か言われたの?」
「何も言われてませんよ!?何もありませんからね!?」
「そう?怪しいけど……聞かないことにするね」
こんなこと燐子先輩に言えない。もし言ったら氷川先輩も巻き添え食らうし、燐子先輩に口聞いてもらえなくなる。そんなことされたら俺の身が持たないし、心臓に悪い。
一緒に帰っている時、あることを思いついた。赤い糸を燐子先輩と繋いでみたいと。いくらこの人を好きだからと、やり過ぎか。一度でいいからやってみたいな。
「あの、燐子先輩」
「何?」
「今度って時間空いてますか?」
「空いてるけど……どうしたの……?」
――こんなこと言っていいのか?言わなかったらいつ言う?
――いや、今しかないだろ!
「今度……俺の家に来ませんか?」
「え!?ど、どうしたの……」
「この前の中間テストの勉強の時、燐子先輩の家に上がったじゃないですか?それで、俺も先輩を家に上げた方がいいかなって思って……」
言葉が詰まりそうになった。勇気を出して何とか言えた。燐子先輩に唐突に言ったのは申し訳ない。でも、タイミングを逃したら一生言えなくなるって思ったんだ。
「千景君、私もね……千景君の家に遊びに行きたかったんだ」
「え?じゃあ……」
「うん、今度遊びに行くね」
燐子先輩は笑顔で言った。その笑顔が眩しかった。嬉しさのあまりに泣きそうになった。ここで泣いたら駄目だ、今は堪えないと駄目だ。
俺と燐子先輩は約束をした。前から俺の家に行きたかったって、そんなこと言われたら舞い上がっちまう。好きな人にあんなことを言われたら、嬉しくない訳が無い。
言ってよかったな。言えたせいか、安心してる。燐子先輩との関係が進展出来たらいいんだがな。まだ好きだって気づいてそんなに経ってないが、どうなるか……。
その訪問はどんな展開を迎えるのか