図書委員の奏でる旋律と綴られし恋歌   作:ネム狼

22 / 32
後輩のプライベートを知りたい


二重奏のお誘い、少しでも貴女と一緒に

 燐子先輩を家に誘う約束をしてから5日が経過した。時間とはこんなに早く流れるのかというくらいにあっという間だった。燐子先輩とはcircleで待ち合わせってことにしたが、大丈夫だろうか。

 

「眠い……。昨日は楽しみだったせいか眠れなかったな」

 

 楽しみだったせいか、3時間しか眠れなかった。目を瞑って無心になれば寝れるんじゃないかと思ったが、無駄だった。燐子先輩と約束をしただけなのに、ここまで眠れなくなるとは思わなかった。

 

 今日の予報だと、夕方から天気が崩れるって言ってたな。そうなると時間が限られてくる。こうして歩いてる間に、先輩と一緒にいる時間が無くなる。歩いてる場合じゃない、俺はそう思い、走ることにした。

 

 少しでも一緒にいたい、好きな人と一緒にいたい。そう思いながら必死に走った。今の時間は9時だ。着くまで後何分だ?先輩は待ちくたびれてるかもしれない。急がないと!

 

「はぁ……はぁ……。運動すればよかったな。これじゃあ燐子先輩に恥ずかしい所見られちまう」

 

 全力で走ること15分、途中で歩いたりもしたが、何とかcircleに到着した。ヤバい、疲れた。まだ朝なのに、ここで体力使い切るのはマズいな。

 

 俺は限界だった。今にも倒れそうで、燐子先輩が目の前にいるのに、幻に見えるんじゃないのかってくらいに限界だった。待たせた挙句、心配まで掛けるなんて……情けないな、俺って……。

 

「千景君……大丈夫!?」

「おはようございます……燐子先輩……。待たせちゃい……ましたよね……?」

「ううん、待ってないよ。とりあえず休もう!千景君……休まないと倒れちゃうよ……」

 

 先輩は涙目だった。やっちまった、また先輩を泣かせちまった。はぁ、情けない。燐子先輩と少しでも一緒にいたいって思ったがために、こんな事になるなんて……何をやってるんだ俺は……。

 

 俺は燐子先輩に椅子に座るように促された。とりあえず休もう。休んで、後で先輩を家まで案内すればいいか。さすがに、焦り過ぎた。俺は椅子に座り、目の前の机に突っ伏した。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 千景君がcircleに着いてから数十分経過した。彼は机に突っ伏したままだった。しかも鼾みたいな声まで聞こえる。どうして数十分経過しているのか、その理由はーー

 

 

ーー千景君が寝ているからだ。

 

 

 ここまで走ってきたせいかもしれない。顔は汗びっしょりだったし、息は切れてたしで大変だった。今は寝ているからか、顔色も良くなっている。

 

「千景君、大丈夫かな……」

 

 私は机に肘をつきながら彼の寝顔を眺めた。こうして見ると、千景君の顔は綺麗だ。寝てても綺麗とさえ感じる。あんまり綺麗だって言ってると、語彙力が無くなりそうだ。千景君にはこのことは言わない方がいいかな。

 

 千景君の私服は黒のTシャツにジーンズと、シンプルな服装だった。私の私服は黒の長袖のブラウスに黒のロングスカートと、黒一色だ。やっぱり、黒の方が落ち着く。派手過ぎないようにしたけど、大丈夫かな?

 

「ん……あれ……燐子先輩?」

「あ、起きた……千景君……大丈夫?」

「俺、寝てました?」

「うん、座って……そのまま寝ちゃったかな……」

 

 私の話を聞くと、千景君は固まり始めた。どうしたんだろう、私は心配になり、彼に声を掛けた。何かあったのかな、何か焦ってるように見えるけど……。

 

「どのくらい寝てました?」

「えっと……30分くらいかな……」

「マジかよ……。燐子先輩、待ち合わせしたにも関わらず、時間掛けてすいません」

「謝らなくてもいいよ。千景君、どうしてそんなに急いでたの……?」

 

 私は彼に急いでいた理由を聞いた。理由は、私と少しでも一緒にいたいからだった。一緒にいたい、そんな言葉に私はドキッとした。千景君の口からそんな言葉が出るなんて思わなかった。それも好きな人から言われるなんて……恥ずかしいよ。これじゃあ聞いた私が馬鹿みたいだ。

 

「と、とりあえず行きましょ!俺が案内しますから、着いてきて下さい!」

「う、うん……案内お願いします……」

「分かりました。燐子先輩、手繋いでもいいですか?」

「へ!?手を……繋ぐ……?ど、どうしたの千景君!?」

「花火大会の時、手繋いでくれましたよね?そのお返しです」

 

 駄目ですか、彼は微笑みながら手を差し伸べた。こんなお返しをされたら断れない。私は千景君と手を繋ぐことにした。恥ずかしい。でも、自分で蒔いた種だ。私は手を繋ぎながら、彼と一緒に歩いた。

 

 

▼▼▼▼

 

 

俺と燐子先輩は手を繋ぎながら家まで歩いた。互いに恥ずかしいのか、終始無言だった。話をしたかったけど、気まずくて話が出来なかった。

 

 歩いて数分、ようやく自宅に到着した。さっきは話せなかったが、家の中なら話せる。家に着いたせいか、さっきより落ち着いたような気がした。

 

「千景君の家って……大きいんだね……」

「燐子先輩程じゃないですよ。とりあえず、俺の部屋に着いてきて下さい」

 

 俺は燐子先輩を家に上げ、部屋に案内した。まずは部屋で待ってもらうか。あと、何飲むか聞いてだよな……。こういうこと、初めてだから上手くいくか心配だな。

 

 家にいるのは俺と燐子先輩だけだ。父さんと母さんは2人で旅行に行ってていない。久しぶりに2人で出かけたいって言ってたから、俺は一人留守番をすることにした。

 

「燐子先輩、何か飲みますか?」

「じゃあ……ホットミルクでいいかな……」

「分かりました。すぐ淹れて来ますので、待っててもらっていいですか?」

「うん……待ってるね」

 

 燐子先輩、ホットミルク好きだって言ってたっけ?図書室で受付をしてて、話してた時のことだったか。そんなことを思い出しながら、ホットミルクとコーヒーを淹れ、トレーに載せた。俺はコーヒーでいいか。あと、お菓子も適当に用意しよう。

 

 トレーを載せながら俺は部屋に向かった。さて、これから二人きりだ。ここからが正念場だ、俺は深呼吸をした。それにしても、部屋からピアノの音が聞こえる。部屋にはグランドピアノと電子ピアノの2種類が置いてある。この音は……グランドの方だ。

 

「燐子先輩、入りますよ……」

 

 俺はノックをせずにドアを開けた。ノックするべきだが、そんなこともせずに俺は入った。燐子先輩の音に釣られたのかもしれない。

 

 ドアを開けると、本当に弾いていた。しかも弾いている曲はメルトだ。先輩は歌ってはいなかったが、弾いているのはメロディの部分だ。

 

 

ーーここで止めるべきか、最後まで弾かせてあげるか。

 

 

 俺は決めた。最後まで弾かせてあげよう。それで、弾き終わったら褒めるんだ。綺麗だって、凄かったって言うんだ。

 

 先輩が弾き終わるのは2分掛かった。俺が部屋に入った辺りで、曲は二番に入っていた。メルトは何度も弾いてたから分かる。今では楽譜無しで弾ける。先輩も楽譜無しで弾けてるようだ。燐子先輩が弾き終わると同時に、俺は拍手をした。

 

「あ、千景君!ごめんね……勝手に弾いちゃって!」

「いいですよ。燐子先輩、綺麗でしたよ」

「そんな……ことないよ……。千景君に褒められると……照れちゃうよ……」

 

 頬を掻きながら彼女は言った。さっきの燐子先輩は本当に綺麗だった。あんな弾いてる所を見たら、世界が違う、この人の隣に立っていいのか、俺とこの人は釣り合うのかとさえ思い知らされる。

 

 俺は燐子先輩に近づき、彼女の頭を撫でた。いや、今はそんなの関係ない。俺は燐子先輩を単純に凄いと思ったんだ。

 

「千景君……!?」

「燐子先輩、もう一度弾きませんか?」

「もう一度?えっと……メルトだよね?」

「はい、今度は一緒に歌いませんか?」

「一緒に?私何かでいいの……?」

「何かでじゃなくて、俺は燐子先輩と一緒に歌いたいんです。駄目ですか?」

「……そこまで言われたら断れないよ。うん、分かった。じゃあ……お願いします!」

 

 燐子先輩は笑顔で言った。相変わらず眩しい笑顔だ。燐子先輩がもう一度弾いてくれるんだ。足を引っ張らないようにしよう。しかもぶっつけ本番、失敗するかもしれないし、一発で成功するかもしれない。

 

「じゃあ……弾くよ……」

「はい、お願いします」

 

 

ーーさぁ、奏でようか!

 

 

 

 

 

 

 

 




これより奏でるは融解の旋律
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。