メルトをデュエットした後、俺と燐子先輩は話をした。コーヒーとホットミルクは冷めてしまったが、燐子先輩は冷ますにはちょうどいいでしょと言ってくれた。フォローしてくれたのかもしれない。
「燐子先輩、ホットミルク淹れ直しましょうか?」
「平気だよ……千景君コーヒー冷たくない?」
「俺は大丈夫です。先輩、後でホットミルク飲みます?」
「また飲もうかな。千景君……後で淹れてもらっても……いい?」
もちろん、俺は頷きながら言った。先輩が俺に頼むなんて珍しい。燐子先輩はあまり人に頼むことは無いのに、今回は俺に頼んだ。頼りにされてるみたいで嬉しいな。
さて、これからどうするか。先輩を家に上げたまではいいが、話をしようってなっても何を話そうかに迷うし、ゲームにことやRoseliaのこととか、大体同じこと話してるから、偶には違うことを話したい。
「ねえ……千景君」
「は、はい!」
「相談があるんだけど……いいかな……?」
相談?急にどうしたんだ……。燐子先輩は深刻な表情で言った。嫌な予感がする、胸騒ぎがする。俺に関係していることなのかもしれない。何故、俺に関係しているのか、何故、こんなにも嫌な予感がするのか、それは分からなかった。
燐子先輩は俺の隣に座った。隣に座られると気まずくなる。大事な事なのに、何を考えているんだ俺は……。こんな状況で気まずくなったら駄目だろ。切り替えろ、切り替えるんだ。
「相談って何ですか?」
「相談というかね……大した事じゃないんだ」
「大した事じゃなくても聞きますよ。話でも悩み事でも、俺は聞きますから」
「ありがと千景君……。今から話すことは悩み事なんだ」
暗い表情をしながら燐子先輩は言った。暗いってことは深刻な問題だろう。燐子先輩が抱えてる問題、結構ヤバい物かもしれない。とりあえず聞いてみて、そっからどうするか一緒に考えるか。
「悩み事って何ですか?」
「……視線が気になるんだ」
「視線?」
「うん……。最近ね、男子からの視線が……怖いんだ。千景君は別だから……大丈夫だよ」
男子からの視線か。この半年の間、燐子先輩は男子から相当見られた。冬服の時も夏服の時も卑しい目で見られた。図書委員の活動中も見られていた。活動中の時は俺が側にいたから大丈夫だと思っていたが……。
燐子先輩は人見知りだ。このまま男子からの視線が酷くなるとマズい事になる。そうなる前に何とかしないと、俺が先輩を助けないと!
「氷川先輩には相談したんですか?」
「ううん、氷川さんには相談してない。氷川さんに言ったら……巻き込んじゃうんじゃないのかって思って……怖くて……。千景君なら……言えるかなって思って言ったんだ」
「そうだったんですね。燐子先輩、よく頑張りましたね」
燐子先輩は俺に抱き着いた。怖かったんだ、先輩は半年も耐えたんだ。氷川先輩に言ったら巻き込んでしまう。もし襲われていたら、元には戻れないし、Roseliaの活動も出来なくなる。何で俺は気付けなかったんだ。
ーー本当に情けない、これじゃあ燐子先輩の隣に立つには相応しくないじゃないか……。
でも、そんなことを言っている場合じゃない。今は燐子先輩を慰めるんだ。相応しくないとか、情けないとかは後だ。先輩は怖い想いをしながら俺に言ってくれたんだ。こうなったら、燐子先輩の側にいた方がいい。
俺は燐子先輩を抱き締めた。付き合ってはいないけれど、今は先輩を元気付けよう。俺は燐子先輩が落ち着くまで、頭を撫でることにした。
▼▼▼▼
「先輩、落ち着きました?」
「うん……。千景君、本当にありがとう」
私は千景君にお礼を言った。あれから私は彼に慰められた。どれくらい泣いたかは分からない。気付けば、時間は11時だった。デュエットの後に暗い話をしたのはマズかったかな……。
「何かあったら言ってくださいね?燐子先輩に何かあったら、洒落になりませんから」
「うん、何かあったら……また相談するね」
氷川さんに言えなかったら、千景君に言おう。男子からの視線は本当に酷い。胸だったり、太ももだったり、身体目当てなんじゃないのかっていうくらいに酷かった。耐えてばっかりじゃ駄目だ。耐えてばっかりじゃ前に進めない。
ーー私は変わろうって決めたんだ。目の前にいる好きな人、千景君に相応しい彼女になろうって決めたんだから……。
「暗い話はここまでにしましょ。このまま話してるとキリがありません」
「そうだね……。ねえ千景君」
「何ですか?」
「千景君ってNFOで使ってるジョブって他にある?」
「他ですか?」
私は気になっていた。千景君は色々なジョブを使っている。彼はオールラウンダーだけど、何か隠してるような気がする。お遊び用だったり、ガチ用だったり、何かあるかもしれない。
「他っていうか……お気に入りのジョブとかかな」
「お気に入りはありますが……よかったら、俺のデータ見ます?」
「いいの?」
「もちろん!他の人にデータを見せるのは燐子先輩が初めてですが……」
私が初めて、何か嬉しいな……。彼はデスクトップの電源を付けた。千景君、デスクトップ2台なんだ。私の部屋には3台ある、そのせいかあまり驚かなかった。
私はデスクトップ用に使っている椅子に座るように言われた。千景君は勉強机用の椅子に座った。この椅子、座り心地が良い。最近見るゲーミングチェアかな?
「千景君、この椅子って……」
「ああその椅子ですか、座り心地良くて気に入ってるんです。見た目はゲーミングチェアですけど、普通の椅子ですよ」
「そうなんだ……。あまりに心地良いから……ゲーミングチェアかと思っちゃったよ」
「騙されやすいって気持ちは分かります。最初座った時もそう思いましたから」
千景君は話をしながらNFOを立ち上げた。どんなデータ何だろう、私やあこちゃんは魔法系だけど、千景君は状況に応じてジョブを使い分けてる。チャットで話し合って決めてるって言ってたっけ?
「えっと……これだったかな……。あったこれです」
「これが……千景君のデータ……凄いね」
「強くするのに苦労しましたよ。ジョブはオールですけど、お気に入りはこれです」
「これってデスサイズだよね?」
「はい、見た目がカッコよかったので使い込みました。普段は使わないんですけど、お遊びの時はこれにしてます」
デスサイズ、性能はピーキーで中距離メインのジョブだ。ステータスは魔法寄りだけど、千景君はサブスキルを使ってカバーをしている。アサシンで回避と一撃必殺成功率を高めたり、ソードマスターで攻撃力を高める等、試行錯誤してカバーしてるそうだ。
武器はメインで鎌、サブで両手剣を使っている。デスサイズはマニアックなジョブ故に使う人は少ない。千景君が使いこなす辺りで、どれだけやり込んでるかが伝わってくる。
「凄いね……千景君」
「そんなに凄くはないですよ。このジョブは使ってる人少ないですけど、愛があればどうってことないですよ」
その後、私と千景君は一緒にゲームをすることにした。引き分けになったりが多かったけど、彼とやるゲームは楽しかった。外が曇ってきてるけど、大丈夫かな……?
ーーしかし、私は予想していなかった。それも最悪で想定外な事だった。
千景の家遊び回は2、3話くらいで終わります