図書委員の奏でる旋律と綴られし恋歌   作:ネム狼

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本当の地獄(天国)はこれからだ


二人きりの部屋、乗り越えるべき壁

 千景君はお風呂に入りに行った。千景君の手を握りたい、千景君に寄り添いたい。どうしてこんなこと思っちゃうんだろう。どうして……こんなに恋しくなるんだろう。

 

「千景君がいないだけで悲しくなるなんて……重症だ」

 

 千景君が戻るまで時間が掛かるけど、ちゃんと待とう。ベッドの下とか気になるけど、漁るのはやめよう。もしバレたら何を言われるか分からない。引かれちゃったら、口聞いてもらえなくなるし……。

 

 それにしても、このジャージ、ちょっとだけだけど大きい。千景君の身長って確か168㎝だったっけ?前に言ってたような気がする。私は157cm、彼とは11㎝の差がある。私より背が高いのは複雑だけど、彼は男の子で、私は女の子だ。

 

「私が背が高かったら、千景君を抱き締められるんだけどなぁ……」

「はぁ……。お待たせしました、燐子先輩」

「どうすればいいかな……」

「燐子先輩、どうしました?」

「ち、千景君!?何でもないよ!」

 

 私は彼にバレないように何もない、何でもないと必死に誤魔化した。千景君、お風呂に出るの早いけど、普段は早いのかな?

 

 今の彼は髪が少し濡れていた。髪が濡れているせいか、カッコイイと思ってしまった。風邪引きそうだから、ドライヤーで乾かしてあげようかな。今日は千景君に色々してもらってるんだ。千景君に何かしてあげないと駄目だ。

 

「千景君、ドライヤーって何処に置いてある?」

「ドライヤーですか?洗面所にありますけど、どうしました?」

「髪……まだ濡れてるから、乾かしてあげる」

「いいですよ!自分でやりますから!」

「私にやらせて!これは……先輩命令だよ!」

 

 先輩命令って言えば従ってくれる。ここで言うのは千景君に申し訳ないけど、私がやらないと意味が無い。泊めてくれてるんだから、千景君にはゆっくりしてもらわないと……。私はそう思いながら、洗面所に向かい、ドライヤーを探した。

 

 ドライヤーを見つけ、部屋に戻る。千景君はじっとしていた。ちょっと言い過ぎたかな?乾かしてる間に謝っておこう。

 

「乾かすから……じっとしててね」

「はい……。燐子先輩、どうしたんですか?俺の髪乾かすなんて……」

「乾かしたいだけだよ。千景君に恩返ししたいから……」

 

 そう、これは恩返しだ。自己満足なんかじゃない、千景君のためだ。ドライヤーの電源を付け、彼の髪を手櫛で梳きながらドライヤーを当てた。千景君、どんな顔をしてるんだろ。気になるけど、今は集中しよう。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 燐子先輩に髪を乾かされ、今度は膝枕までされた。しかも、耳掻き付きときた。何でここまでしてくれるんだ?俺は先輩を泊めてあげてるだけなのに、何でここまで……。

 

「千景君、気持ちいい?」

「は、はい……気持ちいい……です」

「ふふっ、可愛い」

「可愛いって……。それにしても先輩、耳かき上手いですね。初めてやるんですか?」

「初めてじゃないよ。たまにあこちゃんにしてあげてるんだ。でもね……男の子で初めては……」

 

 

ーー千景君だけだから……。

 

 

 燐子先輩は耳元で囁いた。俺は囁かれ、ビクッと身体を震わせた。くすぐったい、そんな近くで囁かれたらどう返事をしたらいいか分からない。燐子先輩に膝枕をされているせいか、俺は上を向けない。向いたら、俺の命が無くなる。

 

「……終わった。反対側やるから、私の方に寝転がって……」

「はい……」

 

 俺は先輩の方に寝転がった。寝転がる瞬間に何かが視界に入った。何かというより、大きい物だ。見てはいけない、俺は寝転がった後、目を瞑った。忘れろ、忘れるんだ!今はこの場を乗り切ることに集中するんだ!

 

 燐子先輩は耳かきは男では俺が初めてと言った。耳かきをされると眠くなってくる。気持ちいいのが原因だ。先輩の耳かきは癖になるくらいに気持ち良かった。

 

「取れた……千景君……終わったよ。起きていいよ」

「終わりました……?」

「うん、終わったよ。千景君、途中で眠そうにしてたけど……眠いの?」

「いえ、眠くはないです。耳かき、ありがとうございます」

「どういたしまして」

 

 俺は先輩に耳かきをしてくれたことにお礼を言った。どうするか、やってくれたなら俺も何かやらないといけない。だが、何をするかを考えようにも見つからない。ここで悩んだら時間掛かるし、何をすればいいんだ?

 

 何をすればいいか、悩む時間なんてなかった。何故なら、時間は9時を回っていた。あまり起きていてもしょうがないか、今は置いておこう。とりあえず、寝ることをどうするか、それが問題だ。

 

「燐子先輩、もう寝ますか?」

「寝る?時間は……9時。早いね、もうこんな時間なんだ」

「あっという間ですね。じゃあ俺、リビングのソファーで寝ますので、先輩は俺のベッドを使って下さい」

「え、私一人で?千景君、もしよかったらなんだけど……」

「はい?」

 

 

ーー私と……一緒に寝ない……?

 

 

 へ?何を言ってるんだこの先輩は?正気か、正気なのか?俺、男ですよ?俺は先輩を説得した。しかし、先輩は一緒に寝て欲しいの一点張りだった。やっぱり、一緒に寝るしかないのか。

 

 

ーー俺の身が持つか心配だな。何とか朝まで持ってくれよ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 私は千景君と一緒に寝ることにした。彼は恥ずかしいので、後ろ向きで寝ますと言われた。それを言われたら何も言い返せない。向き合いながら寝るなんて、私には出来ない。もしやったら、恥ずかしくて眠れなくなる。

 

「千景君……起きてる?」

「……起きてますよ」

「ごめんね、急に一緒に寝よって……言っちゃって」

「いいですよ。燐子先輩に言われたら逆らえませんし」

 

 逆らえないって、それだと私が千景君に圧力を掛けてるみたいに聞こえる。もう少し言い方があると思うんだけど……ちょっと酷いな。

 

 それにしても眠れない。抱き着こうかな?抱き着いたら眠れるかな?私は眠れると信じ、彼に抱き着くことにした。ごめんね千景君、朝まで耐えて!朝まで耐えたらご褒美あげるから!

 

「っ!?ちょ、燐子先輩!何してるんですか!?」

「ごめんね」

「謝りながら抱き着かないで下さい!当たってますから!」

「あ、当たってる?ごめんね!い、今離れるから!」

 

 名残惜しいけど、当たってるなら駄目だよね。私の胸が小さかったら気付かなかったのかな?今だけは、私がこんな身体なのを呪いたい。それに、千景君の髪……いい匂いしてたし、嗅ぎたかったな。

 

 そう思っていると、千景君が私の方に寝転がった。恥ずかしいって言ってたのに、何で私の方を向いたんだろう。話したいことあるのかな?

 

「千景君、私の方を向いてどうしたの?」

「眠れないので、燐子先輩と話をしようかなって」

「そうなの?実はね……私も眠れないんだ」

「先輩も何ですか?」

「うん……私も……」

 

 そう言うと、彼は微笑んだ。何かおかしいこと言ったかな?千景君が笑っていると、私まで釣られる。案の定、私は彼に釣られて微笑んだ。

 

「何か私達……同じだね」

「ええ、同じですね」

「ねえ千景君」

「何ですか、燐子先輩」

 

 私は彼に眠くなるまで話をしようと言った。今は彼と一緒にいる、千景君の部屋に私と彼だけの二人きり。この時間は思い出に残る時間にしたい。顔が近いっていうことを気にしないくらいに話がしたい。この瞬間だけが貴重な時間だ。

 

 

ーー好きな後輩と一緒にいる時間が……私は好きだ。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 凄く恥ずかしい。先輩に突然抱き着かれた時はビックリした。胸が当たった瞬間なんて、心臓が止まりかけた。死ぬかと思った。当たったくらいで死んだら、先輩に怒られるな。

 

 先輩とこうして話をしているけど、顔が近い。燐子先輩はさっき俺の髪を乾かしてくれた。俺も何か先輩にしてあげたい。だが、何をすればいいんだ?

 

「千景君、私の方見て……どうしたの?」

「何でもないです。髪を触ってみたいなとかは思ってませんので……あ、やべ」

「私の髪を触りたいの?いいよ」

「いいんですか?」

「いいよ……千景君なら……私は全然いいし、触ってもいいよ」

 

 待て、触っていいって言ってるけどいいのか?裏があるんじゃないのか?燐子先輩を疑いたくはない。けど、おかしい。何で燐子先輩は俺に対して素直なんだ?それも″俺だけ″、何で?

 

 俺は疑問に感じた。一緒に寝るとか言ったり、先輩は俺に素直になったりする所が多かった。何で俺に対してなんだ?どういう意味で俺にここまでしてくれるんだ?俺は燐子先輩に聞くことにした。何故、ここまで俺にしてくれているのかを……。

 

「ねえ先輩」

「何?」

「先輩は……どうして俺にここまで尽くしてくれるんですか?」

「それは……。何だろう、千景君を信じれるから……かな」

「信じれるって、それはあまりにも無防備過ぎです」

 

 本当に無防備過ぎる。もし、俺以外の男だったら、先輩はどうなっている?こんなことは考えたくない。先輩にとって俺は……何なんだ?

 

「それは分かってるよ。本当にそれだけなの」

「それだけって、理由とかあるんですか?」

「理由はないよ。私はね、千景君を信じてるの。千景君なら……いいかなって。それにね、私は普段は敬語なの」

「それがどうしたんですか?」

「私がこうして千景君に敬語を使ってないのは……理由があるんだ。千景君が……」

 

 

ーー千景君が……好き(大切な人)だから……。

 

 

 大切な人って、どういう意味なんだよ。俺は聞こうとしたが、聞けなかった。聞ける勇気が無かった。これじゃああの時と同じだ。夏祭りに誘えなかった、あの時と……。何で肝心な時に躓くんだ。情けない。

 

「燐子先輩」

「ど、どうしたの!?」

「何でもないです。寝るまでこうさせて下さい」

 

 俺は燐子先輩を抱き締めた。自分でも分からない、何で抱き締めたのか。大切な人って言われたのが嬉しいからか、髪を触るための口実が欲しかったのか、どちらかだった。

 

「千景君、撫でていいよ。髪、触りたいんでしょ?」

「ありがとうございます」

「どういたしまして……おやすみ、千景君」

「おやすみなさい、燐子先輩」

 

 俺と先輩は互いに目を瞑った。背中に先輩の手が回ったような気がしたが、気のせいなのか。もし手が回っていたら、抱き合って寝てるってことになる。それでもいいか。今だけはこうしていたい。

 

 俺は燐子先輩が好きだ。口に出せないけれど、心の中では言える。告白はしたいけど、言える勇気が出せない。でも、いつか言える。いや、言おう。また学校で先輩に会ったら、側にいてあげよう。

 

 

ーーそれで、告白をしたい。先輩のことをもっと好きになりたい。

 

 

 

 




敬語を使わないのは大切な人で好きな人だから
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