図書委員の奏でる旋律と綴られし恋歌   作:ネム狼

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旋律は終幕を迎える


去り行く嵐、想いは交わるのか

 嵐は去った。燐子先輩を泊めた次の日は晴れだった。予報では一日雨と言っていたが、どうやら外れたようだ。晴れということは、先輩を家に送らないといけない。名残惜しいけど、仕方ない。

 

 送る時も、俺と先輩は手を繋いだ。先輩から手を繋ごうと言われたからだ。しかし、手を繋いでいても無言で、互いに会話をすることもない。添い寝をしたことが原因かもしれない。

 

 俺と燐子先輩は抱き合って寝たんだ。付き合ってもないのに、好きだということも分からないのにだ。何であんなことをしたんだ、何で先輩を抱き締めたんだ……。

 

「じゃあ先輩、また明日」

「うん……また明日。そうだ……千景君……」

「何でしょう?」

「こっち来て……」

 

 俺は先輩の元に向かった。何かされるのか?不安に感じる、先輩を疑いたくない。けど、何かされるんじゃないのかと思ってしまう。俺は警戒することにした。近づいた瞬間、突然柔らかい何かが重なった。

 

 

ーー今、何をされたんだ?

 

 

「り、燐子先輩!?」

「泊めてくれた……お礼だよ。じゃあ、また明日!またね!」

 

 そう言って、先輩は自宅に入っていった。頬に当たった柔らかい物、お礼、まさか……いや、そんなことは無い!ある筈が無い!

 

 俺には受け入れ難い物だった。思い出すだけで顔が熱くなりそうだ。燐子先輩が俺にしてきたこととは……キスだった。あの先輩が俺にキスだなんて……。

 

「何てことしてくれてんだよ先輩。あんなことされたら、余計好きになるだろ」

 

 本当に何てことをしてくれたのか。お礼っていう意味でやったんだよな?好意があってやったんじゃないよな?駄目だ、考えるだけ無駄だ。そもそも、分からないんだ。燐子先輩が俺の事をどう思っているのか、それが分かれば苦労しない。とりあえず、戻ろう。

 

 俺は決意した。先輩の側にいると、告白をしようと。告白出来る勇気は無いけど、やるだけやるしかない。遅くなると、先輩は誰かと付き合ってしまう。そうなる前に早く告白しよう。

 

 髪を乾かす、膝枕と耳かき、更に添い寝……。燐子先輩は俺にここまで尽くしてくれた。あの人は俺を大切な人だと言ってくれた。ここまで言ってくれたんだ。俺も、先輩に相応の事をしてあげないと駄目だ。

 

 

ーーだから……前に進もう。進んで、隣にいてあげよう。

 

 

▼▼▼▼

 

 

 千景君と別れて次の日を迎えた。昨日は眠れなかった。彼がいなかったらではない、理由は他にある。千景君に泊めてくれたお礼で頬にキスをしたからだ。

 

「よく考えたらあれって……ファーストキスだよね?ファーストキスなのかな……?」

 

 キスは初めてだ。それも人生で初めて……。好きな人は出来ても、そこまでの事は分からなかった。もう少し、恋愛関係の本を読もうか迷ったが、読んでも恥ずかしくて続かないからやめよう。

 

 千景君は寝る時、私を抱き締めた。突然のことだったから焦っちゃったけど、どうしたんだろう。あの時の千景君は少しだけ涙目になっていた。私を夏祭りに誘おうとしたときも涙目だった。私に理由を聞こうとしたときも堪えてたようにしてたっけ……。

 

「ここにいましたか白金さん」

「氷川さん……」

「暗い顔をしていますが、何かありましたか?」

「え?暗い顔……してました?」

「ええ。考え事をしているような顔でしたよ」

 

 私は氷川さんに千景君の事を話した。これまでの事や彼と泊まった事、全部を話した。どっちみちバレる、バレるならここで話した方がマシだ。告白をするべきなのか、このまま後輩として接するべきなのかを話した。

 

「なるほど、椎名さんと一緒に寝て、抱き締められて寝た、と……」

「は、はい。言葉にされると……恥ずかしいです……」

「それは確かに恥ずかしいでしょうけど……。では、話を戻します」

「すいません……話を逸らしてしまって」

 

 氷川さんに話を逸らしたことを謝ると、彼女はいいですよと言った。これから相談になる。氷川さんはどんなことを話すんだろう。あこちゃん達がいたら色々話をしてくれるけど、三人はここにはいない。ここにいるのは氷川さんだけだ。

 

「白金さん、貴女はどうしたいんですか?」

「どうしたいって……どういう事ですか?」

「告白をしたいかという事です」

「それは……もちろん、告白したいです」

「じゃあ聞きますが、どうして白金さんは後輩として接するべきかを言ったんですか?」

「それは……」

 

 

ーーそれは……私が千景君の隣に立っていいのか、だからです。

 

 

 本当に私は彼の隣に立っていいのか、彼と付き合う資格が私にあるのか。私は泣きそうになった。ここで泣いたら、弱いですねなんて言われるかもしれない。ここで泣いたらおしまいだ。

 

「もし後輩として接し続けるのなら、私が椎名さんに告白します」

「ひ、氷川さん……何を……言ってるんですか……?」

「白金さんがそんな事を言うのなら、椎名さんと私は付き合います。弱音を吐き続けるのなら、そうして下さい」

 

 そう言って、氷川さんは立ち上がった。何でそんな事を言うの?何で私を傷つけようとするの?

 

 

ーー千景君の事を知らない癖に……。

 

 

ーー千景君の事を好きでもない癖に……。

 

 

 

「駄目です……氷川さん!」

「白金さん……?」

「千景君には……私が告白します!私が……好きって言います!だから……だから……千景君に付き合うなんて言わないで下さい!」

 

 私は泣きながら氷川さんに言った。喉が枯れるくらいに、彼女に自分の想いを告げた。ここで挫けたら、千景君を取られる。このまま、後輩として接し続けたらおしまいだ。

 

「じゃあ白金さん。もう一度聞きますが、椎名さんが好きですか?」

「はい!」

「好きですか……」

「氷川さん!?」

「先程はすみませんでした。白金さんがあまりにも見苦しかったので、きつく接してしまいました」

 

 氷川さんは私を抱き締めながら謝った。さっきのはわざとやったの?確かに、さっきの私は弱かった。氷川さんは私に敢えてきつく接して、私の想いを聞こうとしたんだ。ここまで助けられるなんて、私はなんて情けないんだ。

 

 私は氷川さんの胸に埋まり、涙を流した。どんな顔をしていたんだろう。どんな風に泣いていたんだろう。私は氷川さんの制服が涙で濡れていることを気にせずに泣いた。

 

「落ち着きましたか白金さん?」

「はい……。あ、制服濡れちゃいましたよね?」

「いいですよ。このくらい、どうということも無いです」

「そんな……」

「それに、いい物を見れましたから」

「いい物って何ですか?」

「白金さんの笑顔です。椎名さんのことを話していた時の白金さん、輝いてましたよ」

 

 輝いていたなんて、そんなことを言われたら恥ずかしくなる。氷川さんは何て人だ、私は心の中で彼女を恨めしく思った。そして、氷川さんは付け足して言った。

 

「あと、今日は練習はお休みです。湊さんが白金さんのためにお休みにしたそうです」

「友希那さんが……ですか……?」

「ええ。最後に言いますが……湊さんと今井さんと宇田川さんから伝言です」

 

 

ーー頑張って伝えなさい、だそうです。

 

 

 氷川さんは微笑みながら言った。私はまた涙を流しそうになった。友希那さんと今井さんとあこちゃんから応援の言葉を貰うなんて思わなかった。ここまで言われたら、彼に告白するしかない。いつまでも、ここに止まってたら駄目だ。

 

「図書室に行って下さい。椎名さんはそこで待ってます」

「図書室にですか?」

「はい、私が椎名さんに話がありますので図書室に来て下さいと言っておきました」

「ありがとうございます氷川さん!」

「頑張って下さい白金さん。椎名さんと白金さんが結ばれることを祈ってますからね」

 

 私は氷川さんにお礼を言い、図書室に向かった。氷川さんに背中を押された、友希那さんと今井さん、あこちゃんからエールを貰った。もう後戻りは出来ない、選択肢は一つしかない。千景君に伝える言葉は一つしかない。急ごう、図書室に……。

 

 

ーー千景君と出会った、あの場所に……!

 

 

 

 

 




物語は佳境へ
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