燐子さんと付き合い始めて3年が経過した。燐子さんは花咲川を卒業して大学に進学した。俺も卒業後、彼女に付いて行くかのように同じ大学に進学した。
ーー俺は卒業してから一人暮らしを始めた。ここまではいいんだ。そう、ここまでは……。
「燐子さん」
「千景君……何……?」
「あの……いつまでくっついているんですか?恥ずかしくて耐えられないんですけど……」
「私の気が……済むまでかな……」
俺の隣にいる女性、もとい燐子さん。この人、俺が一人暮らしをするって言った途端、一緒に住もうって言ったのだ。それも顔を近づけて必死にだ。断ったら毎日夜這いを掛けるって脅してくるし、ここまでされたら命が危ない。
もちろん、俺は了承した。この人はありがとうって言って俺に抱き着いたりもした。抱き着かれるのは嬉しいが、あまりやられると色んな意味で身が持たない。
「ねえ千景君……何度も言うんだけど、私のこと……呼び捨てで呼んでって……言ってるよね?あと敬語も禁止だよ?」
「それは……絶対ですか?」
「また敬語使った」
「分かった、分かったよ。えっと……燐子」
よろしい、そう言って燐子は俺の頭を撫でた。何か弟みたいな扱いを受けてるんだけど、気のせいか?いや、気のせいであってくれ。
呼び捨てと敬語禁止は付き合ってから言われた。今まで燐子を先輩と呼んでたのに、今は呼び捨てで呼んでいる。まぁ、燐子が幸せそうならいいか……。
「そういえば、今日って七夕だよな?」
「そうだね……千景君は願い事どうするの?」
「願い事?もう決まってるよ」
「決まってたんだ。私はまだ……決めてないや……」
燐子はまだ決まってないのか。俺は既に決まっている。願い事は誰かに言えば叶わない何て言うが、本当なのか。本で何度か見ても、諸説ありますとかだから疑問だ。
▼▼▼▼
千景君は願い事は決まっていると言った。でも、私は決まっていなかった。そもそも、願いなんて叶っているんだ。
RoseliaとしてFWFに出る、千景くんと付き合う、千景君とずっと一緒にいる、千景君と幸せになる。もう全部叶っている。願い事なんてもう無い。
「あれ……これって全部千景君のことだ……」
「燐子?何かあった?」
「な、なんでもないよ!」
「そっか、何かあったら言えよ?話なら聞くからさ」
「あ、ありがと……」
どういたしまして、彼は微笑みながら言った。相変わらず笑顔が眩しい。今日の千景君、何かキザだなぁ。ライブの感想を言われた時の事を思い出すよ。
千景君の髪は肩まであったけど、今は腰まで伸びている。よく見ると、今日はポニーテールだ。7月7日は七夕だけじゃなく、″ポニーテールの日″でもあるらしい。私は髪を下ろしてるけど、ポニーテールにした方がいいかな?
「ねえ燐子」
「千景君!?顔……近いよ……」
「燐子元気ないからどうしたのかなって思ったんだ。俺、何かしちゃったか?」
「ううん!千景君は何もしてないよ!」
「そうか?NFOでフレンドリーファイアしちゃったとかで怒ってるのかなって思ったんだけど……」
「あれは終わった話だよ。怒ってないから安心して」
千景君は心配してくれてる。願い事が決まってないっていう理由で、彼に迷惑を掛けるなんて情けない。これじゃあ私、千景君の隣に立つ資格無いよ……。
「燐子、また自分のこと下に見てる?」
「下には……見てないよ……」
「もう一つ聞くけど……何で泣きそうになってるの?」
「っ!?こ、これは……」
私は彼に言われるまで気づかなかった。そう、涙を流していたのだ。千景君は私に近づき、涙を拭って抱き締めた。頭を撫で、背中をさすってくれた。私を安心させようとしてるんだ。
私は彼の胸に顔を埋め、気が済むまで泣いた。千景君は私が泣き止むまで頭を撫でてくれた。私が年上なのに、年下の千景君に慰められるなんて、これじゃあ私の立場が無くなる。
ーーありがとう……千景君。
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燐子はどのくらい泣いたんだろう。理由を聞くと、願い事が決まっていなくて、どうしようか焦っていたのだ。このまま決まらずに1日が過ぎたらどうしよう、また俺に迷惑を掛けるかもしれないと不安だったのだ。
「相当追い込まれてたんだな……」
俺は彼女に膝枕をして寝かせている。泣き止んだ後に寝ちまうなんて、高校の頃と変わってないな。
俺はこうして燐子の寝顔を眺めている。燐子が起きるまで待っていようと決めた。こんな所を友希那先輩達に見られればどうなるか、リサ先輩ならからかってくるだろう。紗夜先輩ならお楽しみでしたねって言うかもだし……あこちゃんだと、どこまでイッたのとかやべえこと聞きそうだな。
「まぁあこちゃんなら聞きかねないよな」
「ん……」
「あ、燐子起きたか。おはよう」
「おはよう千景君……。私、どのくらい寝てた?」
「1時間くらいかな」
燐子は膝枕をされていることに気付き、顔を真っ赤にさせた。俺に何度も謝り、膝痺れてないよねとか立てるとか言って心配した。全く、燐子は可愛いな。
「燐子、大丈夫だから安心して」
「本当に?本当に大丈夫?」
ーー燐子が安心するまで数分掛かった。燐子ってこんなに心配性だったっけ?
時間は過ぎ、深夜になった。俺と燐子は二人で部屋から空を眺めることにした。綺麗な夜空だ、こうして燐子と空を眺めるなんて……嬉しいな。
「燐子、願い事は決まったのか?」
「もう願い事は決まってるよ」
「あれ、決まってたのか」
「うん……その願い事はもう叶ってるけどね……」
「叶ってる?」
俺がそう言うと、燐子が俺に近づき、唇を奪った。こんなロマンチックな雰囲気で唇を奪うなんて、燐子……恐ろしい女だ。
▼▼▼▼
ーー私は不安だった。
七夕の当日なのに、願い事が決まっていないということに不安だった。このまま決まらずに七夕が終わったらどうしようか、凄く不安だった。
私がそのことで泣いた時、千景君は側で慰めてくれた。私が何かあった時、彼は側にいてくれた。今回のことを彼に話した時もだ。一緒に決めようかとまで言ってくれた。
願い事はいっぱいあって迷った。Roseliaのことはもう叶っているからいい。千景君のことでいっぱい悩んだ。
私は悩みに悩んで答えを見つけた。千景君と空を眺めている時に答えを見つけた。彼の唇を奪って、私は叶った願いを言った。
「それはね……千景君とずっと一緒にいることだよ」
「それが燐子の願いか。俺も言うけど、これから叶える」
「千景君の願い事って何?」
「俺の願い事は……」
願い事を言う前に、彼は私に近づき、目を瞑って私の唇を奪った。
「燐子を幸せにする」
千景君の願い事を聞いた瞬間、私はまた涙を流した。今度は違う、今度は嬉しくて泣いた。
「り、燐子!?」
「違うの……これは嬉しくて……泣いてるだけだから……」
「よかった、一瞬やばって思ったから……」
千景君、本当にありがとう。私は涙を流しながら、感謝の気持ちを込めて言った。今の私は笑顔なのかもしれない。どんな顔をしているか分からない。でも、私はそれでも彼に伝えたい。
ーー千景君、私と出会ってくれってありがとう。
ーー私を好きになってくれてありがとう。
千景君の隣に相応しい恋人になろう。千景君に何かあったら側にいてあげよう。私も彼を幸せにするんだ。二人で、これからの未来を歩むんだ。
昔の私ならこんなことは出来なかった。でも、今の私なら……千景君と一緒なら出来る。
願い事はもう叶ってたんだ。私の願い事は叶っているけれど、千景君の願いはこれから、その願いは私も一緒に叶えてあげよう。
ーー千景君、ずっと一緒だよ。
これからの二人に幸あれ