僕の名前は太郎です。
今日、僕は七才になりました。
お母さんに手伝ってもらい、お部屋をかざりつけしました。
そして、小学校の子がたくさん来てくれました。
お母さんが作ったご馳走と大きなケーキを口いっぱいに頬張りました。
来てくれたみんなとお友達になれました。
今度は誰かの誕生日会に行きたいな。
俺はある一冊の絵本を手に取った。
『太郎の人生』
内容は、主人公の太郎くんの一生をえがくというものだ。
絵本にもかかわらず辞書のように分厚いそれは、売れない作家が書いたものである。
幼い頃、母親がこれを延々と読み聞かせしてくれた。
なので幼い頃の俺は、この内容が世界の全てだと思ってしまった。
太郎君は小学校に上がる時に引っ越した。俺もなんの縁か同じ時期に引っ越しをした。
それに、運命を感じその世界に全身で浸かった。
自分はこの絵本の主人公であり、一生これをなぞって生きていくのだ、と。
現在俺は絵本の中間地点、高校生二年生までページをめくって生きてきた。
そして、俺は学校では中心的な立ち位置にいる。多くの友人がいる。何より彼女も。
何から何まで絵本通りだ。一度だって上手くいかなかった事はなかった。
因みに明日、生徒会役員選挙があり、俺は会長の座に選ばれる。
これは決まっている事だ。誰よりも俺が知っている。
……ただ。……俺はこの上手くいく人生に不安を感じている。
このまま、絵本をなぞって生きていけば、幸せな未来が待っている。
でも、そこに俺はいない。そこに幸せな太郎は居ても、心から幸せな太郎は居ない。
俺は俺でありたい。
手に持っている絵本は燃えていた。その炎は猛々しくは無く、貧相でとても焦げ臭い。
黒く焦げ付きその姿を変える。この絵本が読めなくなろうと、頭に焼きついた内容を忘れる事はない。それでも、自分の意思を示すため消し炭にしたのだ。
俺はこの絵本の世界から破り出たのだ。
予想以上に燃え上がった炎は宙を舞い、流れの強い川に掻き消された。
◇◆—————————————————————
ここはどこだろうか。
先程まで俺は、橋の上で黄昏ていたはず。なのに気が付けば、何も見えない暗闇の中だ。
絵本から解放された喜びで気絶でもしたのか?
それで、暗い病室に運ばれた、とか?
だが、そうでもないらしい。体を動かそうとしてもうんともすんとも言わない。声すら出ない。
まるで、金縛りにでもあっているかのようだ。
こんな暗闇に急に放り出されたが、一切の不安を感じない。どころか、心の底から安心できる。
だが、突如としてそれは消え。死に近い恐怖が迫ってきた。
———おぎゃー!!おぎゃー!!
暗闇から一転。目が焼けるほどの光が俺を包んだ。
「おめでとうございます。可愛い女の子ですよ」
吐き気がするほど激しくなく俺は持ち上げられ、その言葉を聞いた。
その言葉への感情を知る前に意識が飛んだ。
—◇◆————————————————————
再び意識が戻ったのは、三年後だった。
「花子、おいでー」
見慣れた人物が聞き慣れた声で聞き慣れない名前を呼んだ。
すると、齢三歳の肉体が動いた。安心を求めて。
「花子、こっち!」
そして、また見慣れた人物がその名前を呼んだ。
それに肉体は喜び、進路を変えた。
だが、肉体とは裏腹に心では嫌悪を感じていた。
「たろー」
喋り慣れない口から発せられた名前に俺は背筋が凍った。
太郎。あの絵本の主人公の名前。
そして、俺の名前でもある。
俺の顔をした俺の名前の齢五歳程の男の子は、俺の肉体に抱きついた。
読みにくくてすみません。