ブンブン!ハローユry…   作:雨降り

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伸びない視聴数

霞は不思議に思っていた。

何故、自分の動画は伸びないのか…と。他の実況者がやっている面白い動画を真似て、自分も作っているはずなのに…と。

今までに挙げた動画を見返してみても何がいけないのかがいまいち分からない。むしろ抱腹絶倒不可避の最高の出来なはずだった。

先ほど挙げた最新のものを見返してみる。

『朝潮姉の食事にワサビとか入れてみた』という自信作だが、視聴回数は十を下回っている。一つだけつけられた好評ポイントが何とも虚しい…しかもそれがヤラセなのだから余計に虚しい。

 

ふむ…。

 

霞は思案する。先日の『激辛麻婆豆腐を食べさせてみた』とか、今回の『ワサビとか入れてみた』という題材は他の大物W-Ctuberもやっているからお墨付きなはず。すると一体何が視聴数を下回らせているのか…。

そこで霞は気が付いた。いや、気付いてしまった。

 

…朝潮姉がダメなんじゃないの?

 

なるほど…そう考えるといろいろ合点がいく。

題材は完璧なのだ、なら後はそれに引っ掛けられる人の問題なのだろう。道理が通った。

朝潮姉のリアクションが壊滅的だったに違いない…霞は目を閉じ、そう断言する。

具体的にお伝えしよう。朝潮姉と言えば…激辛料理を食べようが、激甘料理を食べようが、リアクションするのが恥ずかしいのかノーリアクションを装うとする。そして真面目すぎる性格故、最後まで料理を残すことはないのだ。激辛麻婆豆腐の時は、素直に辛いと言って、地面をのたうち回れば面白かったものの、朝潮姉は涙を流しながら静かに食べるだけ。無言なのだ。

 

…クソつまらないったら!

 

そんな動画を見て誰が笑うというのだろうか?

好評価を受ける動画を見てみれば、皆リアクションが光っている。「ギャーギャー」と絶叫をあげながら、体全体を使って辛さを表現する大物実況者。ワサビとか辛子入りの昼食を悲しげな表情で食べるだけの姉とはレベルが違うのだ。

 

どうやら人選を誤っていたようね…。

 

ではリアクションを取るのが上手いのは誰なのだろう?霞は思考を巡らす。朝潮姉が適任だとばかりに思っていたので、正直誰がいいのかなんて想像がつかなかった。出来れば姉妹の中から選びたいというもの…。何せ霞の実写動画は嘘偽りのないリアルをお届けすることをモットーにしているのだ。つまり事前の打ち合わせは無し、ぶっつけ本番なのである。

そして視聴数の為なら過激なことも惜しまないのが『カスミンの部屋』だ。

事前に打ち合わせもなしに、過激なことをする…戦艦や空母の人にやったらまず怒られるだけでは済まされないだろう…。

 

…やっぱり朝潮型の誰かから後任を探すしかない。

 

血祭りにあげられる自分を想像し、肩を震わせる霞だったが、自分の野望を果たす為には立ち止まる訳にはいかない。そう思うと霞は再び思考を巡らした。

 

…霰や山雲なんてどうだろうか?どちらも雰囲気としてはおっとりとか天然って感じだけれど、意外とリアクションがいいかもしれない。新鮮な感じがする。

例えば激辛料理を………いや、やはり止めておこう。確かにゆるフワ系の彼女たちにゲテモノ料理を食べさせたり、リアクションの取れるような企画をやらせてみたりしたら面白いかもしれない…だけれどもし朝潮姉のようにノーリアクションだったらどうする?朝潮姉の二の舞もいいところ…はっきり言って彼女たちは未知数過ぎる。今回もまたノーリアクションでしたなんて、滑稽すぎる。やはりここはちゃんとリアクションの取れそうなのを選ぶべきだ!

すると大潮はどうだろうか?朝潮型の中でもマイペースでムードメーカーって感じだし、リアクションを取らせるのにはうってつけな存在のように思え…いやダメだ。大潮はしばらく自分探しの旅に出るとか言って鎮守府に居ないんだった。ホント自由過ぎる!

荒潮は動画に撮られることを極端に嫌がるから、撮ったら絶縁されかねないし…。朝雲は…いや、この話はよそう。

…となると残ったのは満潮だけになるんだけど。

うーん、満潮かぁ。リアクション取れるのかなぁ。なんか激辛料理とか食べさせたらキレそうだし。…キレ芸ならいける?うーん。

 

「…ま、実践あるのみよね?」

 

霞は自分にそう言い聞かせると早速次の動画の構想を練り始めるのだった。

 

●●●

 

「…なんか怪しくない?」

 

訝しげな顔で霞に問い掛けるのは朝潮型駆逐艦三番艦の満潮だ。そして椅子に座らされた彼女の目の前には湯気を立てるお味噌汁らしき物体。

 

「…日頃の感謝を込めてお味噌汁を作ったのよ?食べてくれないの?」

 

満潮の問い掛けに霞が答える。その声は妙に震えていて満潮は不信感でいっぱいになるのだが、同時に彼女は思った。もし…もしこれが自分の杞憂で、本当に霞の好意によるものだったとしたら?自分はとんでもないことを考えてしまっているのではないか?

満潮は決して顔を合わせようとしない霞を数秒見つめると、味噌汁の入ったお椀を手に持った。

 

「…いただきます」

 

彼女は意を決したようにそう言うと、味噌汁を一気に啜った。

 

●●●

 

味噌汁をイッキ飲みした満潮は凄かったわ…。飲んだ瞬間、顔を真っ青にして吹き出すんだもの!そして「甘過ぎるぅ!」って絶叫して、額を机に押し付けるという高等なリアクションを、満潮は私に見せてくれたわ!

それで口直しにって私が差し出した水を引ったくるようにするとそれをまたイッキ飲みしたんだけど…。

「か゛ら゛い゛ィィィー!!!」って叫ぶと四肢をばたつかせて見せてくれたわ!

 

どうして気がつかなかったのかしら…?

こんな有能なリアクションガールが身近にいたのに、私は地蔵娘にばかり焦点を当てて…。

とにかく早速動画を挙げないと!これは視聴回数がとんでもないことになるったら!!

 




ちなみにこの「満潮に激甘味噌スープを飲ませてみた」の総視聴回数は三十回にも満たなかったが、視聴回数平均がほぼゼロに近い彼女は大いに喜んだそうな。
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