ブンブン!ハローユry…   作:雨降り

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炎上

朝潮は悩んでいた。

 

朝早く目を覚ました彼女は寝台から降り、パソコンを起動させる。眠気眼を擦りながら、片手で器用にキーボードを打つ朝潮。しばらく待つと、白一面だったパソコンのスクリーンは『W-Ctube』という文字を大きく映し出した。

様々な動画がラインナップされているようだが、彼女のお目当てはただ一つ。検索欄に『カスミンの部屋』と打ち込み、自分の妹が挙げている動画を閲覧出来るようにする。そして六時間前に挙げられた新着動画にマウスポインターをあて、クリックする。すると彼女のよく知る声が静かな部屋にこだました。

動画は『満潮の髪をローションで洗ってみた』という、自分もやられたことのある内容。しかし大きく違うのはその閲覧回数だ。確か自分がやられた時は視聴数が十を下回っていたはず…けれど今、視聴している動画の視聴回数を見れば、三十三回と記されている。

 

(私の時と全然違う…)

 

彼女は動画の視聴を途中で止めると、再び寝台に横になった。天井をボーッと眺め、今、自分が思い悩んでいることについて考える。

 

(…どうして)

 

考えて答えが出るのならどれだけ楽なのだろう。

彼女は答えの出ない問いを考えるのを止め、重くなってきた瞼を閉じることにした。

 

●●●

 

「はいっ!カスカスカスミン♪カスミンミン♪」

 

「どーも皆さん!おはようございますぅ!カスミンの部屋へようこそ!」

 

…え?何やってんのかって?

 

見てわからないのかしら…?動画の撮影よ、撮影!!

朝早くからよくやるねって…それどういう意味よ!カスミンの部屋は余程のことが無い限り、毎日やるんだからぁ!

しかも今日はただの動画撮影じゃないのよ?生よ、生!ライブ配信するの!!

 

…え?じゃあもう映ってんのかって?

 

当たり前じゃない!もうとっくの昔にアンタはカメラにおさめられているわっ!

 

…さて、それじゃあ本題よ!今日の生配信のテーマ!それはズバリ、寝起きドッキリ!

こんな朝早くにやるといったらそれしかないじゃないのよ!?そしてその寝起きドッキリに嵌められるのは……もちろんあの娘!満潮よ!

 

さぁ…この扉の先にはグースカピーの満潮がいるわ。そこへ私が突入して、このバズーカ砲をターゲットの耳元でぶっぱなすから、視聴者にはそのリアクションをご堪能あれって感じかしらね…!

いいわ!これは絶対視聴数がとんでもないことになるったら!五十回…ううん、下手したら百回再生も有り得るわね…フフ!

さ、ご託を並べるのはこれくらいにして、早速突入よ!

霞、行きまーす!!

 

●●●

 

カーテンの隙間を縫って差し込んだ光が、薄暗い部屋をぼんやりと照らす。

静かな部屋の真ん中には、ポツンと煎餅布団が置かれている。そして丸くなった掛け布団は、ゆっくりとしたリズムで上下に動き、すぐ側で耳を澄ますと寝息が聞こえてくる。

 

「おはようございまーす…」

 

押し殺したような声が静まりかえった部屋に響いた。

その声の主…霞は抜き足、差し足、忍び足といった感じで、音を立てぬよう布団に近付くと、慎重に掛け布団を捲る。そして心地よさそうにスヤスヤと眠る満潮の顔を見ながら、バズーカ(この日の為に、お小遣いをはたいて買った)を構えると、霞は先程とは打って変わって大声で叫んだ。

 

「総員起こしー!!!」

 

バーン!!!

 

「んにゃあああああああああああッ!?!?」

 

霞の大声とバズーカの砲声が静寂に包まれた部屋に轟いた。そして大音量が部屋に響き渡ったのと同時に掛け布団が宙を舞ったのだが、それは今の今まで掛け布団にくるまっていた満潮が勢いよく飛び起きたことに起因する。

 

「霞!?え、なに!?敵襲!?」

 

血相を変えた満潮は、霞の姿を目に捉えると、慌てた口調で捲し立てる。しかし次に彼女が見たのはニコッと笑う霞の姿だった。

 

「ドッキリ大成功!!!」

 

「…は?」

 

霞の訳のわからない発言に目を丸くする満潮。それとは対象的に満面の笑みを浮かべる霞。互いに異なる表情を浮かべ、何とも言えない雰囲気が両者を包み込む。

 

不意に霞が言葉を発した。

 

「いいリアクションだったわよ!満潮!!」

 

「…え?いや訳わかんないんだけど…?」

 

「これよこれ!」

 

そう言って霞が指をさした方向には、最近満潮が嫌と言うほど目にしたカメラが。

 

「………」

 

カメラを凝視する満潮の顔が、どんどん赤みを帯びていく。

 

「……え、ドッキリ…?」

 

「そう!ドッキリよ!」

 

ドーンと胸を張る霞。

 

「霞いいいいい!!!よくも…よくも、やってくれたわねぇぇぇ!!!」

 

霞の態度に満潮は遂にブチ切れた。

大声で怒鳴りながら、霞に掴み掛かる。

だが霞は謝るどころか、怒りに顔を真っ赤にさせた満潮が視聴回数をさらに稼いでくれる…美味しい展開だと思っていた。

 

「…動画をご覧の皆さん、見てください!満潮の着ているパジャマを!!なんと可愛いネコのキャラクターが至るところに散りばめられています!満潮に似合わぬ、まさに、お・ん・な・の・こ・ら・し・いパジャマですねぇ!」

 

霞の発言に満潮はその動きを止める。

満潮は今、自身がどんな状況にさらされているのかを知り、ガタガタと体を震わすと、さらに顔を赤くさせ、その場に踞ってしまった。

 

そして霞がパジャマのことをさらに言及しようとすると満潮は涙を溜めた瞳を向け、弱々しく言った。

 

「撮るなぁ…」

 

後にこの出来事…「満潮に寝起きドッキリを仕掛けてみた(生配信)」は、『カスミンの部屋』初の視聴数千回という大台に乗り、霞は大いに喜んだそうなのだが、寄せられたコメントを見て彼女は凍りついた。

 

「朝潮だけじゃなく満潮までイジめるとは…いい加減にしろ、このタコ」

 

「十番艦!お前のネタは古いんだよ!」

 

「満潮ちゃんのことペロペロしたい」

 

「霞ママ、ご乱心」

 

霞は知ることになった。

 

炎上というものを。

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