【完結】けものフレンズ(勝手に)2   作:佐藤東沙

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 お待たせしました、やっと書けました。


第七話 じゃんぐる

「つ、疲れた……」

「あおかげたちはよろこんでたんだから、叩いてあげたらよかったのに」

「そんな事できないよぉ……」

 

 競馬場を後に走るバスの中。ぐったりしているかばんに、サーバルが無情な言葉をかけます。彼女としては、喜んでいるのだからそうしてあげればいいだろうという事のようです。そういう事ではありません。

 

「馬ノオ尻ノ皮ハ分厚イカラ、叩ククライナラ平気ダヨ」

「ほら、ボスもこう言ってるよ?」

「ラッキーさぁん……」

 

 ラッキービーストがいらん知識を出してきます。確かにその通りだし、フレンズは頑丈なのでかばんの力で振るう鞭程度は平気なのでしょうが、そういう事ではありません。

 

「そ、そうだサーバルちゃん、次はどこに行こっか」

「次?」

 

 困ったかばんが、いっそ清々しいほどあからさまに話題を逸らします。サーバルはきょとんとした瞳を彼女に向けました。

 

「ほ、ほら、ラッキーさんは元に戻ったから、次に行くところは決まってないよね」

「そういえばそうだね」

 

 ヒトを探して出港し、トラブルのために戻り、ラッキービーストの体を元に戻すために競馬場を目指した、というのがこれまでの道のりです。ラッキービーストの件が片付いた以上、彼女らに明確な目的地は存在していません。

 

「かばんちゃんは行きたいところがあるの?」

「折角の機会だから、もっとパークを見て回ろうと思って」

「パークを?」

 

 こてんとサーバルの首が斜めに(かし)ぎます。

 

「うん。ホテルもそうだけど、まだまだ僕の知らない事がパークにはたくさんある。だから、ヒトを探しに行く前に、それをもっと知りたいと思ったんだ」

「えーと、つまり……これからも一緒ってことだね!」

 

 サーバルが思考のステップを何段か飛ばして結論に至りました。とは言え飛ばさずとも結論は同じだったでしょう。何だかんだで、サーバルは本質を突く女なのです。

 

「いいの?」

「うん! 私も、もっとかばんちゃんと一緒にいたいから!」

「……ありがとう、サーバルちゃん!」

 

 向日葵(ひまわり)のような笑顔が花咲きます。そこで話はまとまったと見て取ったのか、バスを運転しているラッキービーストが口を挟んで来ました。

 

「ソウイウ事ナラチョウド良カッタネ。モウスグ次ノエリアニ到着スルヨ」

「つぎのエリア?」

 

 その時ちょうど、バスが朽ちかけたゲートをくぐります。その先にあったのは、暗幕と見紛うばかりに鬱蒼と茂った森と、その隙間から落ちて来る強い日差しでした。濃い陰影の中、蒸し風呂みたいに粘っこい空気が肌にまとわりつきます。

 サンドスターの力によって、場所ごとに気候が、時には太陽光の強さまでもが変わっているのです。ラッキービーストがそのエリアを、一言で言い表しました。

 

「じゃんぐるダヨ」

 

 

の の の の の

 

 

「あー…………」

 

 ジャングルの中にぽっかりと開いた、日光が照らす広場の中央。崩れかけた石柱、欠けた石像、朽ちゆく塔が立ち並ぶ中。太く高い切り株の上で、とあるフレンズが大の字になっておりました。

 

 グレーのニット帽に同色のアームカバー、白いへそ出しのタンクトップに、これまた白のジーンズ。肌は少しだけ浅黒く、髪は黒で目は鈍いオレンジ。『哺乳綱 霊長目 ヒト科 ゴリラ属 ニシゴリラ亜種 “ニシローランドゴリラ” Gorilla gorilla』のフレンズです。

 

 ゴリラなのに服が白いのは、おそらくシルバーバックが反映されているのでしょう。ゴリラは成長すると、背中の毛が鞍のような形に白くなっていくのです。

 

 もっともシルバーバックになるのはオスだけなのですが、フレンズは性別に関係なく『種の特徴』が出るのでおかしくはありません。フレンズは皆女性ですが、ライオンはタテガミのような髪を持っているし、ヘラジカは角が生えています。

 

「くっそーあいつら、なんで仲良くできないんだよぉ……」

 

 そんなゴリラな彼女は、死んだ目で中空を見つめ、誰にも言えない愚痴を独り言として吐き出していました。頭を埋め尽くす愚痴の種は、彼女の手下についてです。具体的には、ヒョウ姉妹とワニコンビの(いさか)いについてです。

 

「いっくら言っても全然聞かないし……私がいなくなるとすぐケンカするし……。そもそも何で私が親分なんだ……ああ胃が痛い…………」

 

 剥き出しのお腹を押さえ顔をゆがめます。ゴリラは見た目によらず繊細なのです。ストレスで体調を崩したり、心臓を悪くして死に至る事すらあります。

 

「――――ッ、何だ!?」

 

 聞き慣れない音を聞きつけたゴリラが飛び起き、道の向こうを見据えます。単に警戒したという事もありますが、彼女は手下の前では威厳ある親分を演じているので、万が一にも気を抜いた姿を見られる訳にはいかないのです。

 

「…………?」

 

 ですがその警戒は半分無駄に終わりました。姿を現したのは、手下どころか全く見も知らぬ謎の物体だったからです。その物体は道なりに進んでくると、ゴリラのいる切り株の根元で止まりました。

 

「ラッキーさん、ここは?」

「古代遺跡ヲモチーフニシテ作ラレタ場所ダヨ。デモ、大分壊レテシマッテイルネ」

「こだいいせきって?」

「遥カ昔、ココデハナイ沢山ノ場所デ、人ハ色ンナモノヲ作ッタ。ソレガ古代遺跡ダヨ。ソノウチノ一ツヲ真似テ、コノ場所ヲ作ッタンダヨ」

「へー、こんなおっきなものを作るなんてすごいね!」

 

 物体からは、フレンズと思しき三種類の声が聞こえてきます。どうやら中に入れるようになっているようだと彼女は気づきます。興味を引かれたゴリラは、その物体の前に飛び降りました。

 

「お前ら、ここに何の用だ?」

 

 

の の の の の

 

 

「へぇ、旅か……気楽そうでいいなぁ……」

 

 かばん達の話を聞いたゴリラが遠い目を見せます。まるで疲れたサラリーマンのような目です。

 

「それなら、ゴリラちゃんもいろんなところに行ってみたら? たのしーよ!」

「いや、そういう訳にもいかないよ。あいつらほっといたら、どうなるか分かんないからね」

「縄張り争い、ですか」

「ああ、そんなに仲が悪いんならいっそ離れりゃいいだろと思うんだが……。どうも意地になっちまってるようでねえ……」

 

 はあぁぁ、とゴリラが重いため息を吐き出します。吐いた息が塊になって、そのままずぶずぶと地面に沈んでしまいそうな重さです。とそこで、彼女は何かに気付いたようにかばんに顔を向けました。

 

「……そうだ、アンタはヒトなんだろ?」

「え? はい、そうです」

「ならさ、『動物を思いのままに操る方法』ってのを知らないか?」

「動物を――」

「――思いのままにあやつる方法?」

 

 かばんとサーバルが思わず声を合わせます。ゴリラがかばんに向けて身を乗り出しました。

 

「ああ、噂で聞いたんだ。そんな方法があるんなら、ケンカばっかりしてるあいつらをまとめる事が出来る。だから教えて欲しいんだ。その方法ってヤツを」

「そんな事言われても……」

「そんなの、聞いたことないよ?」

「何?」

 

 ゴリラの顔が横を向き、きょとんとしているサーバルを捉えます。

 

「私はかばんちゃんとずっと一緒にいるけど、そんな方法なんてしらないよ」

「……それは、本当か?」

「はい。僕は確かにヒトですけど、そんな方法なんて聞いた事もありません。パークに昔いたというヒトなら何か知っていたかもしれませんけど、僕はここで生まれたフレンズなので……」

 

 サーバルがぽんと手を打ち、目線を下にやりました。

 

「そうだ! それならボスが何かしってるんじゃない?」

「ボクモソンナ話ハ聞イタ事ガナイネ」

「そうか……噂はしょせん、噂だったという事か……」

 

 ゴリラががっくりと落ち込みます。ラッキービーストが喋っているという、驚愕の事実も頭に入っていなさそうです。それほどまでに頭を痛めていたのでしょう。

 

「ごめんなさい。でも、もしそんな方法があっても、それを使ってフレンズさんに無理矢理言う事を聞かせるというのはよくないと思います」

「うっ……。……いや、その通りだ……」

 

 そしてかばんの正論に更に落ち込みます。言った方は何となくこうなるような気はしていましたが、言わない訳にもいかないので仕方がありません。

 

「ああしかし、そうすると私はどうしたらいいんだ……。あいつらはほっとけないし、でもこのままじゃ……」

 

 進退窮まったゴリラは、頭を抱えてぺたんとへたり込んでしまいました。それを見たサーバルの眉尻が下がります。

 

「なんか気の毒だね……かばんちゃん、なんとかならない?」

「うーん……」

 

 話を振られたかばんは首を捻ります。何とかしてあげたい気持ちはありますが、現状では何ともなりません。そこで彼女は、妥当かつ無難な提案を出しました。

 

「とりあえず、その四人の様子を見に行きましょう」

 

 

の の の の の

 

 

「さっさと出ていきな! ここはアタイたちの縄張りだよ!」

「そうですよ! 何度も言わせないでください!」

 

 太いワニの尻尾がお揃いの二人が、木を見上げトゲのこもった言葉を投げます。『爬虫綱 ワニ目 クロコダイル科 クロコダイル属 “イリエワニ” Crocodylus porosus』と、『爬虫綱 ワニ目 アリゲーター科 カイマン属 “メガネカイマン” Caiman crocodilus』のフレンズです。

 

 イリエワニはダメージジーンズと、大胆に胸元をはだけた黒のジャケットを身に纏っています。ジャケットの素材がワニ皮なのは正しいと言えば正しいのですが、いいのでしょうか。そして薄い灰色の髪は、前側がまるで大顎を開けたワニの口の如くなっており、その種族を主張していました。

 

 メガネカイマンの方は、これまた胸元を大きく開けた半袖シャツに、黒スパッツと白ホットパンツです。薄緑の髪を三つ編みにし、赤いリボンが頭の上に乗っかっています。そして何より、その名の通りメガネです。メガネカイマンは『メガネをかけているように見える』というだけなのですが、妙な事もあったものです。

 

「うっさいなぁ、文句あるんやったらここまで上がってきぃや!」

「姉ちゃんの言う通りや!」

 

 そのワニコンビを樹上から見下ろすのはヒョウの姉妹です。『哺乳綱 ネコ目 ネコ科 ヒョウ属 “ヒョウ” Panthera pardus』と、『哺乳綱 ネコ目 ネコ科 ヒョウ属 “クロヒョウ” Panthera pardus』のフレンズです。

 

 姉のヒョウは、胸元の赤いリボンを除けば、白いシャツに斑点模様のスカート・ニーソックス・ロンググローブと、どことなくチーターに似ています。ですがチーターにはあったアイシャドウは無く、髪型もツインテールで、服の斑点の形も少し違います。チーターは本当に単なる斑点ですが、こちらは花が崩れたような形で、元の動物の模様そのままです。

 

 妹のクロヒョウは、服と髪が真っ黒な事以外は姉と瓜二つです。もっとも同種なので当然と言えば当然でしょう。黒いのはあくまで突然変異*1なので、フレンズ化する前から姉妹であってもおかしくはありません。

 

 それよりも関西弁の方が不思議です。おそらく“豹柄=大阪のおばちゃん=関西弁”というイメージがどこかで混ざり込んでしまったのでしょう。フレンズ化にあたっては明らかに日本の影響を受けている*2とは言え、大阪のおばちゃん恐るべしです。

 

「あんまり仲はよくなさそうだね……」

「いつもあんな調子でな……どうにかなりそうか……?」

「う、うぅーん……」

 

 そんな四人を、木の陰からかばん達が見つめます。ゴリラは藁にも縋る顔でかばんに目線を向けていますが、向けられた方はかなり困っています。ここまで本気で仲が悪いのは予想外だったようです。

 

「……さっきゴリラさんも言ってましたが、あそこまで仲が悪いのなら、一緒にいない方がいいと思うんですが……」

「言っても聞かないんだよぉ……」

「なわばりはあそこじゃないとダメなのかなぁ」

「ワニハ水辺ジャナイトイケナイケド、ヒョウハソンナ事ハナイヨ。フレンズ化シタ今ナラ、ドコデモ問題ナインジャナイカナ?」

 

 縄張りを作る主な目的は、『エサ・安全・繁殖場所の確保』です。フレンズとなった今、どれも必要性は薄れています。である以上、フレンズが縄張りを作るのは本能の名残と言っていいでしょう。フレンズはその本能が強いので問題になっているのですが。

 

「ハン、臆病モンどもが! 降りて来る勇気もないんだろ!」

「登って来る事も出来んのが何ぬかす! 悔しかったらここまで来ればええねん!」

「降りてこないという事は、ここは私達の縄張りだと認めたという事ですね!」

「何勝手な事言うとるんや! ウチらのモンに決まっとるやろ!」

 

 そうこうしている間に、どんどんヒートアップしていっています。売り言葉に買い言葉で、どっちも全く引く気はなさそうです。そんな剣呑な空気の中、真っ先に爆発したのはイリエワニでした。

 

「もう我慢ならねえ! 降りてこねえってんなら降ろしてやるよ!」

 

 オリーブの瞳が鈍く光り、虹色がその体から漏れ出ます。誰が止める間もなく、鋭い正拳突きがヒョウ達の居座る木に向けて叩き込まれました。

 

「うおっ!?」

「おおぅっ!?」

 

 その拳は驚くべき事に、一抱えはありそうな木を容易くへし折りました。現生生物最強の咬合力*3は、腕力という形で表出しているようです。ヒョウ姉妹はネコ科特有のしなやかさで地面に降り立つと、そのコメカミにびきりと青筋を浮かばせました。

 

「やってくれよったな……!」

「姉ちゃん、もう我慢する事なんてあらへんよな……!?」

「ハン、そりゃこっちのセリフだよ!」

「あなた方に我慢なんて高尚な機能がついてたとは初めて知りましたよ」

 

 ワニとヒョウがにらみ合い、辺りに緊張感が満ちます。空間が歪んで見えるほどの一触即発を、ポコポコという太鼓にも似た音が切り裂きました。

 

「こ、この音は……!」

「お前たち、何をしている」

「お、親分……!」

 

 ドラミング*4をしながら登場したゴリラに、四人の目が集まります。ゴリラが一睨みすると、彼女達の背筋がぴんと伸ばされました。

 

「何度言えば分かるんだ。争いはやめろと言っただろう」

「は、はい!!」

 

 先程までの勢いはどこへやら、気を付けの姿勢で直立不動です。ゴリラがどれほど畏怖されているかよく分かる光景です。

 

「すっごいオーラだね……」

「うん、迫力が凄いね……」

 

 それを見たかばん達は小声でひそひそと感想を言い合います。そんな二人に目を向けたイリエワニが、おずおずとゴリラに問いかけました。

 

「あの、その後ろの二人は……?」

「あー………………私の客だ。失礼のないように」

 

 長い沈黙の後、適当な言い訳を引っ張り出したゴリラの向こう側で、四人の注目がかばん達に向けられます。

 

「はー、親分に客なあ……」

「珍しい、いえ、初めてでは……?」

「親分にそんなヤツがおったんやなあ……」

 

 微妙に失礼な上息がぴったりです。ふと湧き上がる、実は仲が良いんじゃないかという疑惑は口に出さず、かばんはぺこりと一礼しました。

 

「初めまして、僕はかばんと言います。こっちが――」

「サーバルだよ! よろしくね!」

 

 元気よく自己紹介したサーバルにつられ、ワニコンビとヒョウ姉妹も次々に名乗ります。そんな彼女達に向け、かばんが少しだけ首を傾け言いました。

 

「少しお話、いいですか?」

 

 

の の の の の

 

 

「ええっとつまり、こういう事ですか? 『特に理由はないけど、何だか気に食わない』、と」

「せやな」

「そうだ」

 

 かばんは内心困ります。理由がないという事は、何をどうすれば改善するのかも分からないという事だからです。離れるのが最も手っ取り早く確実な解決法なのですが、互いの意地にかけてそうはしないだろうという事は、口振りの端々から伝わってきます。

 

 近くにいればケンカは避けられず、かといって離れるという選択肢はない。要するに状況は詰んでいるのですが、同時に一つ、感じる事がありました。

 

「……でも、ゴリラさんの言う事は聞くんですよね。何故ですか?」

 

 正確には『なるべく聞く』ですが、それでも聞こうとしている事には変わりありません。頭に血がのぼると忘れるだけです。

 

「そりゃあ親分だからな!」

「ええ、親分ですから」

「親分やからな」

「親分なんやから当然や」

 

「そ、そうですか……」

 

 やっぱり仲が良いのではという疑惑は飲み込み、かばんはちらりとゴリラに視線を向けます。一見泰然としていますが、かばんには分かります。あまりのプレッシャーに表情が固まっているだけです。かなり分かりやすいので、意外と空気の読めるサーバルも気付いています。気付いていないのはワニとヒョウだけです。

 

 ゴリラは当てにならないと判断したかばんは、大きく深呼吸し、この詰んだ状況を打破すべく四人を正面から見据えました。

 

「……ところで、その親分さんの事なんですが」

「何や?」

「悩みが、あるそうです」

「悩みぃ?」

 

 四人の顔が訝しそうにゆがめられますがそれも一瞬の事。あっという間に彼女達は、いかにもバカバカしい事を聞いたというように笑い始めました。

 

「あっはっはっは!」

「ありえへん! んな訳ないわ!」

「ゴリラの親分に悩み? おもろい冗談やな!」

「ぷっ、くく……!」

 

「かばんちゃん……」

「大丈夫だよ、サーバルちゃん」

 

 その反応にサーバルが不安そうにかばんを見つめますが、かばんはにっこりと笑って見つめ返します。気弱だった彼女はもういません。これまでの経験が、彼女を成長させているのです。

 

「悩みというのは、皆さんについての事です」

「アタイら?」

「はい。皆さんが何かとケンカをするのが、心苦しいと」

「う……」

 

 心当たりしかない四人は思わず怯みます。それを見逃さず、すかさずかばんが畳みかけました。

 

「ケガでもしたらどうしようって、とっても悩んでましたよ。初めて会った僕達に相談するくらいには」

「ちょ」

「親分……」

「そないに、ウチらの事を……」

 

 ようやく我に返ったゴリラが何かを言おうとしましたが、ワニとヒョウのうるんだ瞳に言葉は喉元で止まります。

 

「親分がそんなに悩んでいたなんて……」

「反省せんとアカンな……」

「ぉ、ぉぅ……」

 

 肝心のゴリラを置いてけぼりに、話が勝手に進んでいきます。しかしかばんは、ここで一旦仲直りしても、またヒートアップしたら忘れそうだと感じ、一計を案じました。

 

「そこで提案があるんですが」

「んあ?」

「提案?」

 

「はい。ここは、相撲で勝負してみたらどうでしょう?」

「すもう?」

 

 きょとんとした瞳が、かばんに向けられました。

 

 

の の の の の

 

 

「やり方は簡単です。この円から少しでも身体が出たら負け。足の裏以外が地面についても負け」

 

 拾った棒で地面に円を描きながら、かばんは相撲のルールを説明していきます。何故そんな事を知っているかは不思議ですが、おそらく“ヒトのフレンズ”が持つ知識の一つなのでしょう。

 

「押したり投げたりはいいですけど、殴ったり蹴ったりはダメです」

「そんだけ?」

「はい、それだけです」

 

「ほお、面白そうだな……よし、早速やるか!」

「おっしゃ、負けへんで!」

 

 乗り気なイリエワニとヒョウが、早速土俵に足を踏み入れます。それを確認すると、かばんは手を高く上げ、勢いよく振り下ろしました。

 

「ではいきますよ――――はっけよい、のこった!」

 

 かばんの合図と同時に相撲が始まりました。二人が両手を合わせるように組み合い、土俵の外からメガネカイマンとクロヒョウが声援を送ります。

 

「負けないでくださいイリエワニさん!」

「がんばりや、姉ちゃんなら勝てるで!」

 

 最初は中央で拮抗していましたが、すぐに天秤が傾きます。力で押し負けたヒョウの足元が、ずるずると後退を始めたのです。イリエワニの口元が、愉快そうに吊り上がりました。

 

「……アタイの力にゃ、勝てないみたいだね……!」

「ぬっ……ぐぅっ……!」

 

 ヒョウも全力を振り絞っていますが、イリエワニには押される一方です。それを見たサーバルが、感心したように口を開きました。

 

「イリエワニちゃん、力つよいねー」

「イリエワニハ現代最大ノ爬虫類ダヨ。体長ハ6mヲ、体重ハ1tヲ超エル事モアルヨ」

「ええっと、それってどのくらい?」

「大体ダケド、長サハサーバルガ縦ニ4人分、重サハサーバルガ22~23人分*5ダネ」

「お、おっきいね……だからあんなに力がつよいんだ」

 

 サーバルがイリエワニのサイズに目を丸くしている間に、相撲の決着がついていました。イリエワニがヒョウを押し出して勝ちです。何の捻りもありませんが、初めてならこんなものでしょう。

 

「ぅおっしゃー! アタイの勝ちだ!」

「さすがですイリエワニさん!」

 

「ぐっ、すまん妹よ……!」

「大丈夫や! 姉ちゃんのカタキはウチが取る!」

 

 目を光らせたクロヒョウが土俵に入ります。イリエワニは上がった口角のまま、余裕綽々な態度でそれを迎えました。

 

「ふっ、何人こようが同じだ。返り討ちにしてやるよ!」

「笑ってられるのも今のうちやで。姉ちゃんのおかげで、勝ち目が見えたからな!」

「何?」

 

 訝しげなイリエワニを横目に、クロヒョウがかばんに開始の合図を促します。かばんはイリエワニに目で確認を取ると、再度勢いよく手を振り降ろしました。

 

「はっけよい、のこった!」

「オラァ!」

「んなっ!?」

 

 開始の合図と共に、クロヒョウは素早く横に跳びます。イリエワニはいきなりの動きに対応しきれず、その隙をついてクロヒョウはイリエワニの足を掴み、勢いよくひっくり返しました。

 

「そこまで! クロヒョウさんの勝ちです!」

 

「ま、まけた……」

「っしゃー! 見たか!」

「ようやったで、さすがウチの妹や!」

「姉ちゃんが先に戦ってくれたから勝ち方を思いつけたんや!」

 

 ヒョウは最大で体重は90㎏程度ですが、そこまで大きいのは稀で、大抵は大型犬くらいです。しかし、そのサイズで()()()()()を持っています。その特長はフレンズ化した今でも全く損なわれておらず、むしろ磨きがかかっているようでありました。

 

「まだです! 次はこの私、メガネカイマンが相手です!」

「おっしゃ来いや、今度はこっちが返り討ちにしたるわ!」

 

 かばんの合図も待たず、クロヒョウとメガネカイマンが戦い始めました。メガネカイマンは小型のワニ*6ですがその分小回りが利くようで、クロヒョウに何とかついて行けています。結果として、一進一退のいい勝負となっています。

 そんな中、ゴリラが柔らかい笑みを浮かべつつかばんに話しかけました。

 

「なあかばん、ありがとな」

「ゴリラさん?」

「私じゃ上手く行かなかった。お前のおかげだ」

 

 ゴリラのその言葉に、かばんはゆっくりと首を横に振りました。

 

「ゴリラさんが皆に慕われる“親分”だったからですよ。そうじゃなかったら、こんなに上手くはいきませんでした」

「そ、そうか……」

「はい、そうです」

 

 ゴリラはぷいっと顔を横に向けます。肌が浅黒いので分かりにくいのですが、その顔はわずかに赤く染まっています。照れている事がまる分かりです。

 

「と、ところでこの“すもう”というのはいいな! これならケガもしにくいし、いつでもどこでも簡単に出来る!」

「それはよかったです。ライオンさん達の時みたいに体を動かす何かがいいと思ったんですが、ちょうどよかったみたいですね」

 

 照れ隠しにゴリラが話題を変えました。相撲でも怪我は付き物ですが、頑丈なフレンズならその心配はあまりありません。また、ワニもヒョウもそこまで怪我を恐れる動物ではないので、そういう意味でも適当と言えました。

 

「よし、私の勝ちです!」

「ぐっ、ぐぐぐぐ……!」

「じゃあ次わたしー!」

 

 土俵の外に弾き出されたクロヒョウと入れ替わるように、サーバルが乱入しました。かばんの合図も待たずに三回戦が始まります。

 

 メガネカイマンが風切り音と共に剛腕を振り回し、サーバルがぴょこぴょこ飛び跳ねてそれを躱しています。もはや相撲ではないような気もしますが、フレンズの身体能力ならむしろ自然なのかもしれません。

 そうこうしているうちに、速度で翻弄していたサーバルがメガネカイマンの背中を取って外に押し出し、決着がつきました。

 

「やったー、わたしのかちー!」

「くっ……もう一回、もう一回です!」

「おっと待った、次はウチや!」

「いやアタイだ!」

 

 その時。どこかほのぼのとした喧騒を、禍々しい声が引き裂きました。

 

「――――――ォォォォオオオオッ!!!!」

 

 理性というものが感じられない、唸り声のような遠吠えのような、不吉な声です。それを耳にしたゴリラ達は一瞬で気を引き締め、即座に行動を開始しました。

 

「声は東からや!」

「よし、一旦ここを離れるぞ! 西に向かう!」

「はい!」

 

 ゴリラの指示で皆まとまって動き始めます。まるで軍隊のごとき機敏さです。状況を飲み込めていないかばんが、目を白黒させました。

 

「な、何が……?」

「話は後だ。“アイツ”が来る」

「あいつ、って?」

 

 どこか不安そうな様子を見せるかばんとサーバルに、ヒョウが硬い表情で告げました。

 

「“ビースト”。ウチらは、そう呼んどる」

 

*1
黒変種。メラニズム。アルビノの逆。メラニン色素が過剰に生成され、身体が真っ黒になる。ヒョウ以外でも存在する。

*2
フレンズはどう見ても日本語を喋っているし、残された本等も日本語で書かれている。

*3
実際に計測された中では。大きい個体だと、奥歯部分で25tもある。シャチはイリエワニを上回るとも言われているが、計測が出来ないので詳細不明。

*4
ゴリラが胸を叩くアレ。本来はオスしかしない。ちなみに拳ではなく平手で叩く。

*5
サーバルを身長150㎝、体重45㎏と仮定。

*6
大きくても全長2.5m、体重60㎏程度。全長3mに達する事もあるが稀。

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