タイムスリップ令和ジャパン   作:◆QgkJwfXtqk

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120 中央アジアに吹く風-2

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 チャイナは、日本からの()()を受けチベット地域への治安維持を目的とした軍の追加派兵を断念した。

 その代わり、3000名からの治安維持特別行動警察隊(スペシャル・ポリス・タスク・ユニット)の派遣を行う事とした。

 無論、当初予定されていたチベット派遣軍から人員を選抜抽出した部隊だ。

 看板を架け替えただけ、では無い。

 銃器などの武装は持たない、平和の為の純然たる治安維持部隊である ―― チャイナはそう宣伝していた。

 実態としては、チャイナ軍は相次ぐ敗北と大規模な徴兵によって武器が不足気味であると言うのが大きな理由であった。

 その上でチャイナ軍上層部は、アメリカとの戦争が終わるまでは本腰を入れる事の出来ないチベット方面での治安維持に、武器は回したくなかった。

 そこに日本からの要請があり、それに嬉々として乗った部分があったのだ。

 治安維持作戦であるのに非武装、チベットへ棍や杖などは持ち込んでも銃火器の類は持ち込めないと言うのは大きく不利な話であった。

 だが別にチャイナも無策な訳では無い。

 チベットの警察組織には旧式ながらもそれなりの数の武器が備蓄されており、暴徒(チベット独立派)が武装しているのでと言う建前で使用させる積りであった。

 ある意味で外交的平常運転(タヌキと狐の化かし合い)であった。

 

 

――ブリテン

 ブリテンから見て日本の対チャイナ外交は拙いの一言であった。

 もう少し追い込んで、上手く煽って暴発させれば良いのだがと思う程に。

 とは言え、日本が()()からこそ吸える蜜もある為、そこを矯正しようとは思っていなかったが。*1

 故に、香港系の工作員(チャイナ系スリーパー)に対してチャイナの現地治安維持部隊が暴発する様に誘導する事を命じていた。

 既にブリテンは少なくない労力を払って、インドにあった古い武器を大量にチベットに流し込み、ばら撒いていた。

 その上で日本製の武器、ML-157*2を持たせたボランティア(義勇兵)も送り付けていた。

 香港系工作員による工作は、チベット領域内の不満を持ったチャイナ人難民グループに接触し、焚きつけたのだ。

 曰く、チベットはチャイナの土地であり、チベットの先住民が先に居たと言うだけで()()を持っているのはおかしい。

 曰く、自分たちのみならず子どもや親まで家も無く食事にも事欠いているのに、チベットの人々は先住であると言うだけで家を持ち腹いっぱいに食べている。

 などなど。

 聞く人の良心を眠らせる(正義感を暴走させる)囁きは、難民生活によって疲れ果てていたチャイナ人の耳に良く馴染んだ。

 不満を燻らせていく。

 何日も何日も、何週間も何週間も、じっくりと時間を掛けて燻らせ、下地を作っていく。

 そして最後にそっと風を吹き込む。

 チベットの人々による()()()がチャイナ人難民を襲っている。

 若い女性がかどわかされ、性的奴隷とされている。

 火が、点いた。

 

 

――チベット

 ブリテンの手腕(ワッザ)によって武力蜂起したチャイナ人難民は、()()()難民キャンプの近くに放置されていた銃や青龍刀を手にするやチベット人の自警団施設に向かって突進した。

 チャイナ人の警察組織が押っ取り刀で駆けつけて、兎にも角にも暴力の応酬だけは阻止しようとする。

 だがブリテン人が時間を掛けて誘導していたのだ。警察の説得如きに暴発したチャイナ人難民が治まる事は無かった。 

 それどころか、警察はチャイナ人の尊厳を穢すのかと怒鳴る始末であった。

 最終的に武器で非武装(銃器不携帯)の警察を脅して排除するや、暴発したチャイナ人難民の集団は自警団の施設を襲った。

 だが、成功したのはそこまでだった。

 警察を下した事で己に酔っていた彼らは、自警団の施設を見るや問答無用で発砲していた。

 内奸討つべし(チベット人に死を)! と叫び、火炎瓶すら投げようとしていた。

 この時点で彼らの脳裏には、()()()()()()()()()()()と言う話は消えていた。

 ただ只管に、日ごろの不平不満をぶつけたいと言う感情だけがあった。

 だから気が付かなかった。

 蜂起した難民キャンプから自警団施設までの間で、一般のチベット人を見なかった事を。

 男性はおろか、買い物に出た女性も、街路で遊ぶ子供も見なかった。

 その事に、その事の意味に気付かぬままに銃を発砲した。

 その返答は、その100倍1000倍の銃弾であった。

 ML-157やリー・エンフィールド、果てはルイス軽機関銃まで使用した歓迎の弾幕は、防弾装備など何も持たなかったチャイナ人を、難民も警察も問わずに打ち倒した。

 点火した火は盛大に燃え上がった。

 

 

――チャイナ

 チャイナ政府にとってチャイナ人難民の暴発も問題であったが、応戦で警察まで巻き込んで()()()にした自警団は論外であった。

 急いで自警団への立ち入り検査と逮捕、武器の没収を行おうとした。

 だが、ブリテンの仕込みはチャイナの対応の先を行く。

 警察が動く前に、マスコミに対して声明を発表した。

 チャイナ人暴徒と一緒にチャイナ警察も自警団施設を襲って来た為、実力を以って自衛したのだと堂々と発表した。

 常であれば信用されない類の話であったが、そこに暴徒に混じって()()()()()()()()()()()()()()()の写真を添えたのだ。

 又、写真と主張とが印刷された紙が何ものか(ブリテン)の手によって大量にチベット各地にばら撒かれ、情報は一挙に広まった。

 その威力は絶大であった。

 中立的なチベット大衆が一気に反チャイナに染まり、まだ血生臭さの残る自警団施設周辺に支持者が集まる程であった。

 過激な者は警察署や難民キャンプにまで抗議デモを行う有様ともなった。

 チャイナ政府は大きく慌てた。

 日本は怖いが、これをこのまま放置していてはアメリカとの戦争が終わる前にチベットが手に負えない事になると判断、軍の派遣を決断した。

 取りあえず、アメリカ戦に投入するには不安な装備と練度の部隊を10万名ほど。

 自警団や暴発しそうなチベット人を数で潰す積りだった。

 尚、武器弾薬の不足は、豊富な武器を持っていた自警団を襲って取得せよとの命令も併せて発令していた。

 相手から武器を奪う事で相手の戦闘力は低下し、自らの戦闘力は向上する。

 名案であった。

 先ず、()()()()()と言う点を除けば。

 叩き上げの派遣部隊指揮官は、チャイナ参謀本部から来たまだ年若い連絡官の(ドヤァ顔)を見て、嘆息を堪えるのが精一杯であった。

 とは言え感情的に反発出来る筈も無かった。

 武器は、そもそも不足しているのだから。

 長江流域の工業地帯が必死になって武器弾薬を製造していたが、作った片端からアメリカ戦で熔け散っているのだ。

 前線で輸送途中で、或は工場で。

 しかも、武器を必要とする将兵は徴兵によって常に増え続けているのだ。

 チャイナ政府は、長江流域の工業地帯以外のチャイナ人を総動員する勢いを見せていた。*3

 これではチベット派遣軍の装備が酷い事になるのも仕方の無い話であった。

 代償とするかのように、チベットの地での自由な徴発その他がチベット派遣軍には認められる事となった。

 装備劣悪であっても餌をぶら下げればどうにでもなる。

 チャイナ参謀本部は、そう考えていた。

 

 

――日本

 チベット情勢に日本が気付いたのは、状況が加速度的に悪化 ―― チベット人とチャイナ人の間で頻発的ながらも銃弾の応酬が日常化してからの事であった。

 仕方の無い側面があった。

 チャイナがアリバイ工作染みた提案に()()()折れて軍のチベット派遣を取りやめた為、日本はチベット情勢が動くのはもう少しかかるだろうと判断して外交資本(人員や予算)をオランダに振り分けていたのだ*4、さもありなんとも言うべき事態であった。

 とは言え、座視する訳にはいかない。

 日本は当初予定していたチベット独立へ向けた支援に全力を傾ける事となる。

 

 

 

 

 

 

*1
 

 ブリテンは、資源を対価とした日本の支援を受けた事によって1930年代以降、大規模な経済的な躍進を遂げていた。

 特に、グレートブリテン島の発展は第2期黄金時代(リブート・ゴールデンエイジ)と称される程であった。

 正に日本の甘さであると言うのが、ブリテンの正直な感想である。

 日本は適正な貿易こそ望んでも、その絶対的と呼べる国力を以って世界に覇を唱える(パクス・ジャポニカ)を行おうとはしなかった。

 技術の提供と流出こそ警戒はしていたが、発展の協力は幾らでもしていた。

 ()()()()()

 競争相手を育てる様な行為はあり得ないし、他国の植民地を収奪し自国の利益を極大化しようともしない態度もあり得ない。

 だが同時に、そうであるが故に日本は発展しているのだとも理解していた。

 ()()()()()によって、日本はブリテンのみならずアメリカやフランスのみならず世界中と交易をおこなっている。

 穏当であり平和的であるからこそ、日本の商売相手である世界は日本製品を買うだけの経済力を保持しているのだ、と。

 ある意味でブリテンは、日本を通して世界を見る事で、ゆるやかに帝国主義から脱しようとしていた。

 無論、()()の為の武力行使を躊躇する積りは無かったが。

 ブリテンの、世界帝国の主たる矜持(名誉も守れぬ繁栄に意味はない)に些かの曇りも無い。

 

 

*2

 ML-157 9㎜短機関銃は、日本が安価な歩兵以外の兵科の自衛装備(PDW)として提供する為に開発したコンパクトな火器であった。

 M3短機関銃や9㎜機関拳銃を参考に開発されており、直線で構成されたボディはプレス加工の鋼材で構成されており、合理的ではあっても色気は無かった。

 樹脂を多用したブルパップ式のデザインであるML-371 5.56㎜自動小銃に比べれば古臭く感じる部分もあったが、その分、極めて安価に、そして手早く製造出来ていた。

 又、鋼材で構成されるが故の重さも値段以外の理由があった。

 ML-157が拳銃用の9㎜パラベラム弾を高速でばら撒く際に、その反動を抑える効果を狙っていたのだ。

 ML-157の開発に携わった米系日本人自衛官は、CGG(四角いグリースガン)と言う愛称を与えており、何時しかそれが公式名に採用されていた。

 設計主任は簡易型9㎜機関拳銃と言う名で呼んでいたのだが、そちらが流行る事は無かった。

 言いやすさもだが、そもそも、人間だれしも中年自衛官(リーダー)よりも金髪美女自衛官(アイドル)に弱いモノなのである。

 そもそも、デザインはグリップにマガジンを差す構造であった為に外見的には9㎜機関拳銃的であり、オープンボルトを採用し鋼板プレス加工と溶接を多用した構造はM3グリースガンに類似点が多かった。

 その意味に於いてはどちらも近く、どちらとも違う。

 無理に近いモノを言えば、参考品としてグアム共和国軍(在日米軍)から提供されていたCBJ-MSと言う有様である。

 どちらでも良かったから、後は発言者の()()()()になったとも言えた。

 尚、ML-157の支給を受けた一部の自衛官(ナラシノ・バスターズ)は、この話を知って淑女の差し込み銃(パッキン・ガン)と言う卑猥な渾名を付けてしまい、それを知った同僚(メスゴリラ)達から白い目で見られたと言う。

 

 

*3

 経済や食料生産、或は生活といったものを考慮しないチャイナ政府による無茶な動員は、一般チャイナ人の不満を燻らせる方向に働く事となっていた。

 その事をチャイナ政府も認識はしていたが、理解はしきれていなかった。

 アメリカとの戦争で負ければ死ぬだけ、その思いがあったからだ。

 だが一般のチャイナ人からすれば、それは事実では無かった。

 アメリカとの戦闘で負けて捕虜となった人間が、お菓子などのお土産を手に解放されたりしている事を知ったからだ。

 アメリカが捕虜虐殺などは考えず、面倒事から離れる為に適当に行った行為は、チャイナ人が重視する儒教 ―― ()と言う視点から見て、決して小さな事では無かった。

 だがチャイナ政府は、解放された捕虜の再動員に目を向け過ぎて居て、()()()()()()()()()()と言うものがどんな影響を及ぼすか、理解しきれなかったのだ。

 精々がお人よしの(マヌケな)アメリカ人めと嘲笑う程度だった。

 故に、地獄への道は善意によって舗装されていると言う事を思い出すのは、もう少し先の話となる。

 

 

*4

 オランダの一般市民の対日感情悪化は、排斥にまでは至っていないものの、軽視するには余りにも危険、そう日本政府は判断していた。

 オランダ本国は勿論、オランダ領東インドでも地味に反日感情がまん延しつつあった。

 大本は拗らせた人々だった。

 日本企業に雇われたが白人待遇(エリート扱い)をされなかった事に反発し、会社を辞めて悪口を言いふらす。

 その事が、日々の鬱屈を晴らす格好の娯楽となっていたのだ。

 オランダ政府も、経済政策の失敗 ―― 富の一定層への集中によって再分配が阻害されている現実から目を逸らさせる為、これを助長していた側面があった。

 内部を安定させるには外敵を用いる、その範例であった。

 外敵としては、ドイツも候補に成りえたのだが、オランダの親ドイツ派は親日派以上に規模が大きく、なによりドイツは隣にある大国なのだ。

 政治的にも下手な事が出来る筈も無かった。

 ある意味で日本は、オランダにとって適当なサンドバッグであったのだ。

 日本としてはオランダ本国の反日感情などどうでも良かったが、オランダ領東インドでの経済活動に影響が出ては問題である為、その慰撫に努めようとした矢先の事であった。

 この為、オランダの反日感情への積極的な対策は後回しにされる事となる。

 

 

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