タイムスリップ令和ジャパン   作:◆QgkJwfXtqk

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126 世界大戦の胎動-01

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 日本が行った大規模建艦計画のキャンセルは、世界に衝撃を与えた。

 G4の連絡会でその意図は説明していた為、アメリカ、ブリテン、フランスの3国は日本の意図を誤解する事はなかった。*1

 だが、その様な情報を得ていない諸外国は日本が対ドイツ姿勢を緩和する兆候であると判断していた。

 30,000t級大型空母(39,000t級 多機能航空支援護衛艦 ひりゅう型)*2を筆頭にした100隻規模の大規模建艦計画を、臨時国債(戦時国債)の発行などもせずに実行していた日本だが、遂に限界に達したのだろうと言われれば、納得する国が多かったのだ。

 その筆頭は無論、ドイツであった。

 G4筆頭であり世界を相手に戦争が出来る(ワールド・オーダー)日本が強硬路線を捨てたとの一報を、ベルリンの総統府で聞いたヒトラーは歓声を上げた(オッパイプルンプルン!)

 爆発した感情のままに、総統府に集まっていたナチス党高官などと祝杯を挙げた。

 そして、外交工作部隊に対して、この機を逃さずオランダ併合を更に加速させる様に()()した。

 G4とは言え、ブリテンは欧州に興味が無く、フランスは植民地対策に走り回り、アメリカはチャイナとの戦争に掛かりっきり(人民の海での運動会)、そして日本が日和った ―― そう見えていたが故の指示だった。

 又、日和った日本がドイツ側に付くようにジュネーブで日本の国際連盟代表団に接触し、外交交渉をさせる事も併せて指示した。

 融和の対価は、ドイツがオランダを併合した際には税制面で優遇する事だ。

 ()()()()()()()()()()を自任するヒトラーの戦略的な判断であった。

 歯車が回った。

 

 

――オランダ

 ドイツが国運を賭ける勢いで親ドイツ派工作を仕掛けた。

 狙うのは金。

 国庫に積み上げられている金であり、金を生み出すオランダ領東インドである。

 オランダは今、国内が2つに分かれつつあった。

 オランダ領東インドが生み出す金(日本への資源売却の上がり)を得られる富裕層と、そうでない人々とである。

 富裕層が使う金が回りまわって、一般の人たちの財布も豊かにはしてくれるが、それで納得できる程に人間は()()ない。

 特に、目の前で狂乱する金遣い(バブルのバカ騒ぎ)を見ている人々は。不満を燻ぶらせていた。

 ここに、オランダ領東インド帰りの、挫折した人々*3が加わった時、煙は火へと変わる。

 国富を独占し、アジア人に阿って白人の尊厳を汚すオランダ政府の打倒を目指す政治運動へと発展していったのだ。

 デモによる政治要求活動が活発化していた。

 ここにドイツ人が加わった。

 そもそも、アーリア人(北方系白人)優越主義を唱えているのがナチス党で、ドイツの国是なのだ。

 拗らせたオランダ人の胸には良く響くというものである。

 調子よくドイツの工作官たちが、オランダ人は名誉アーリア人である等と耳元で囁けば、後は手のひらで転がされるだけになっていた。

 特別である事に憧れ挫折した子供は、特別であると認められた時、他の事が見えなくなるのだ。

 その上、オランダに入っていたドイツ工作班の財布は厚い ―― ヒトラーの肝いりの作戦と言う事で予算を大きく与えられており、その金をばら撒く事で、貧困を原因とした反政府の人々の心を捉える事にも成功する。

 オランダの反政府グループが親ドイツに瞬く間に染まったのも当然の話だった。

 

 

――ベルギー

 アフリカの植民地で発生した独立運動への対応能力が無かったベルギーは、最初、原因となったフランスへ非難の声を上げた(泣きついた)が、フランスは遺憾の意を表明するだけでなんの対処もしようとはしなかった。

 当然である。

 原因が何であれ、独立国には自分で問題を解決する能力が要求されるからだ。

 だが、そんな原則すらベルギー領コンゴでの独立運動に慌てたベルギー政府は忘れていた。

 結果、国際連盟の総会に於いて国際社会の()()による独立運動の鎮圧を主張する有様であった。

 無論、国際連盟加盟国は嘲笑をもって答えた。

 植民地とは未開の地を預かり文明の灯を伝える為に行われるから認められているだけであり、それが出来ないのであれば放棄するべきだというのが、概ねの国際連盟加盟国の反応であった。

 とは言え、独立運動による植民地の放棄とは余りにも不名誉な話であった。

 とてもではないがベルギー政府に受け入れる事の出来るものではなかった。

 せめて他国に売却しようとしても、独立運動鎮圧に掛かるコスト問題からどの政府も二の足を踏んでいた。

 そもそも、ベルギー領コンゴの様な広大な土地の独立運動を容易に鎮圧できるのはG4位なものである。

 とは言えフランスは自前の植民地(海外県)鎮圧で手一杯。

 そしてフランス以外のG4は、植民地と言う形に否定的に(独立させてモノを売った方が儲かると)考えている為に論外であった。

 頭を抱えたベルギーに、ソ連が声を掛けた。

 ソ連は共産主義国家として植民地を欲する事は無いが、人道的配慮に基づいてコンゴの地に平和を齎す任を背負う用意があると告げたのだ。

 ベルギー領コンゴは優良な資源地帯である為、失われた資源地帯であるシベリアの代替を欲したのだ。

 シベリア独立戦争の敗北によって、ソ連の発展は著しく停滞していた。

 これを、コンゴを委任統治領として吸収する事で経済発展の起爆剤としようと考えたのだ。

 独立運動平定には相応の軍事力 ―― 陸軍の派遣が必要になるが、主敵である日本が積極的に戦争を仕掛ける気は無いと判断されていた為、何とか出来るという計算であった。*4

 このソ連の提案にベルギーは乗った。

 名誉も富も失うが、ベルギー領コンゴの惨状が続けば続くほどに国際社会から嘲笑されると言う未来予想に耐えられなかったのだ。

 無論、ベルギーがベルギー領コンゴに保有する権益に関しては、ソ連と保証する約束が交わされはしていたが。

 ベルギー領コンゴは、ソ連委託統治領コンゴとして再出発する事となる。

 コンゴは暗闇の時代(レオポルド2世の統治)が終わり、少しばかりの休養期間の後に暗黒の時代(スターリンの統治)が始まる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

*1

 日本の方針自体には理解は示したが、同時に、日本が用意するとした地対地超音速滑空弾(GGSGM)などの新世代兵器に関して、知見の無さから有効性に懐疑的であった。

 特に、矢面に立つフランスは、そんなモノよりも戦車と戦闘機を派遣してくれと言う有様であった。

 多少は大威力で、少しばかり長射程で、なんとなく高精度な長距離砲。

 その様に地対地超音速滑空弾を認識していたのだから当然かもしれない。

 認識が覆るのは、シベリアでの演習で実際に着弾するところを確認してからの事であった。

 正確に目標に着弾し、破壊していく様にフランスの観戦武官は興奮し、自国への売却を要請していた。

 先進技術の塊である事を理由に、日本は断った。

 この為、フランスは独自に誘導爆弾の開発に取り掛かった。

 航空機のジェット化に伴って余剰が生まれつつあるレシプロエンジンを流用した、機械式の飛翔爆弾(クルーズミサイル)である。

 機械式誘導なので、精度の期待できない無差別爆撃染みた代物であったが、被害を与えれば良し。

 与えられなくてもドイツ側の防空資産(リソース)を消費させれば良しと考えた荒っぽい兵器の開発であった。

 一方でドイツ戦への切迫感の無いブリテンは、日本の軍事水準に近づく為に政策 ―― 全ての基本となるコンピューターの開発を推し進めた。

 尚、アメリカはコンピューターを含めた全般的な技術開発を進めると共に、今の非G4相手であれば航空優勢を握って絨毯爆撃をすれば良いかと割り切って、6発式の超爆撃機の開発を進めた。

 

 

*2

 艦名 ひりゅう(ひりゅう型多機能航空支援護衛艦)

 建造数   1隻(ひりゅう)

 基準排水量 39,200t

 兵装    Mk41 32セル

       CIWS 2基  SeaRAM 2基  3連装短魚雷 2基

 航空    STOVL機 22機~30機  ヘリコプター12機

 

 ひりゅう型は当初、しょうかく型と2隻でグループを組んで航空戦隊(ユニット)を構築する予定であった。

 この為、()()()()の自衛能力と対潜能力、そして僚艦防空能力が求められ、VLS及び短魚雷が搭載されている。

 1939年度中期防の破棄に伴い、ひりゅうにはしょうかく型と共に空母ローテーションを組む事が要求される事となり、艦隊指揮システムや医療システムその他の強化が行われる予定とされている。

 戦時対応量産艦の性格を持っていたひりゅう型は新機軸が投入されておらず、いずも型としょうかく型での実証された各設備をそのまま搭載されている。 

 その1つは、実用化されていた艦船向け反応炉(パッケージ化原子炉)の搭載である。

 潜水艦では、従来の守勢的な運用を担う通常動力潜とは別に、攻撃的運用を担う特殊動力潜水艦(SSn)として、小出力炉(AIPとしての小型原子炉)を搭載したクラス(くろしお型)が生産されているのだが、ひりゅう型への搭載は諦められていた。

 炉自体の値段と、設計に掛かる時間が嫌われたという事が理由であった。

 そして文章化されない非常時の行動として、しょうかく型を守る被害担当艦になる事が要求されていたというのも大きな理由であった。

 建造の進んでいたひりゅうは姉妹艦が流産した結果、艦様や内部構造の大きな改装も必要とせずに対応できる部分、相応の余裕と後日装備でお茶を濁された部分には大きく手が入る事となった。

 対価として、後日装備の空間的な余裕が与えていた居住性(アメニティ)に関しては悪化する事となる。

 尚、艦載機はF-35BR型である。

 F-35BR型とは、タイムスリップ後にグアム共和国軍(在日米軍)の了解の下でF-35B戦闘機を解体分析し、日本独自で生産したSTOVL(短距離離陸・垂直着陸)機であった。

 計画のスタートはタイムスリップ後、かなり早かった。

 これはF-35Bの生産拠点が日本に無く、全機がアメリカからの輸入であった事が大きな理由であった。

 日本に生産拠点のあるF-35Aと共通する部品なら何とかなっても、STOVL機故の独自部品に関しては入手の当てが無いのだから、当然の話であった。

 グアム共和国軍(在日米軍)としても、自前のF-35Bを稼働し続けさせる為に協力した。

 尚、当初はF-3戦闘機の艦載機モデルか、或いは新型艦載機の開発も検討されていたが、しょうかく型護衛艦(航空機搭載護衛艦)がF-35Bを前提とした航空艤装を行っていた事と、STOVL機を独自開発する事の高い難易度が勘案され、F-35Bの解体分析による生産が決定されたのだった。

 機体構造や制御プログラムなど、日本では再現しきれなかった部分もあり、又、F-3の技術を導入した部分もあり、外見はF-35B型とBR型に差異は無いが、内部構造は4割が異なっている。

 又、日本の技術向上などもあって、1943年次で生産されているBlock41では純正のF-35Bと同等の性能にまで達している。

 現在、日本連邦統合軍の艦載機はF-35BR系で統一された状態にある。

 

 

*3

 オランダで高等教育を受け、立身を狙ってオランダ領東インドへと渡った若者たちは少なからぬ規模であった。

 彼らが思い描いていたのはアジアの変異種(日本企業)()()()()()()()現地未開人(インドネシア住人)を顎で使う優雅な生活であった。

 だが現実は厳しい。

 彼らが受けた高等教育は、日本企業が要求するモノとは異なっていた為、扱いは現地採用スタッフ(インドネシア住人)と変わらぬものであった。

 無論、高等教育を受けた事によって()()()()を習得していた為、真剣に仕事に取り組んだ若者たちは、相応の待遇を直ぐに受ける事が出来るようになった。

 問題は、真剣に取り組まない ―― オランダ人としてインドネシアの住人に優越感を拗らせていた人間であった。

 オランダ人(支配民族)として得られるべき待遇が与えられず、インドネシア住人(被支配民族)風情と一緒に扱われ、或いは昇進したインドネシア住人に使われる事が我慢できなかったのだ。

 この扱いを、()()()()であるとオランダの現地総督府に訴える人間が出る程であった。

 無論、日本企業に()()され、日本の生み出す金のお零れに与っている現地総督府の人間が、この馬鹿馬鹿しい訴えに対応する事は無かったが。

 果ては、昇進し管理側になったインドネシア住人に手荒く扱われる様になるのだ。

 拗らせた人間に耐えられる話では無かった。

 夢破れた人々は、()()()()()()()()インドネシア住人への怒り、()()()()()()()()()()()()日本への憎悪、そして何より()()()()()()()()()オランダ政府への怨嗟を持ってオランダに帰ってきていたのだ。

 

 

*4

 全方位に猜疑の目を向ける被害妄想の申し子的なソ連らしからぬ判断ではあるが、これは日本が日本連邦統合軍シベリア総軍から戦力を引き抜いていたからこそであった。

 日本がチャイナやドイツ相手に国力が削られている内に発展せねばとの思いであった。

 尚、非情な話であるが日本の国力は減衰していない。

 円と言う輸出品を持ち、過剰生産力を戦争国への輸出で消費する、戦争の前面に立たない国家は戦争で儲ける事が出来るからだ。

 

 


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