タイムスリップ令和ジャパン   作:◆QgkJwfXtqk

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136 第2次世界大戦-03

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 1940年代に入ったオランダ陸軍は好調な経済を背景にして、全部隊の完全な自動車化を達成していた。*1

 日本を真似る形で高練度な常備軍的な性格を持った8個師団1個旅団 ―― 2個の自動化(歩兵)師団と6個の機械化師団、そして1個の戦車旅団だ。

 加えて、8個の予備歩兵師団も保有していた。

 オランダの国家規模を考えれば、中々に頑張っていると言える。

 又、更なる規模の拡大も検討されはしたのだが、経済が堅調に拡大傾向にあった為に経済界との人材の奪い合いとなった事、又、ドイツへの配慮から見送られていた。

 そして現在、2個の自動化師団と3個の機械化師団、そして動員がかろうじて完了していた1個の予備歩兵師団が国境線地帯に塹壕を掘って抵抗を続けていた。

 残る部隊は電撃戦(機動突破)を図るドイツの装甲連隊戦闘団(カンプグルッペ)群への対応を行っていた。

 将兵の質と言う意味に於いてドイツに水をあけられているオランダは、それを補うには数をもって当たらざるを得なかったのだ。

 これは空の戦いに於いてオランダ側が劣勢であった事も理由にあった。

 列強(ジャパンアングロ)はおろかドイツと比較しても旧式 ―― 1000馬力級レシプロ戦闘機が主体のオランダでは、ドイツのジェット戦闘機や2000馬力級エンジンを持ったレシプロ戦闘機には抵抗出来なかったのだ。

 ブリテンが航空部隊を展開(エアカバーを提供)してはいたのだが、この時点ではブリテンとオランダの間で効果的な指揮と連携の体制が整っていなかった為、ドイツ空軍機の跳梁を抑えきる事は難しかったのだ。*2

 空間の壁、航空基地と前線との距離の近さがドイツに優位性(アドバンテージ)を与えているのだ。

 ドイツ本土のレーダー網がブリテン空軍の動きを把握し、その間隙を縫う様に地上攻撃を繰り返していたのだ。

 戦えば負ける事は無いブリテン空軍機であったが、ドイツが徹底してブリテン空軍機との接触を回避しては如何ともし難かった。

 だがオランダ軍の奮戦は、それらの劣勢をものともせぬ、正に献身であった。

 血と地積とで贖いながら援軍が来るまでの時間を稼ごうとしていた。

 

 

――ドイツ/オランダ戦線

 オランダの抵抗の頑強さはドイツにとって計算外であった。

 当初は1週間でアムステルダムまで到達し戦争を終わらせる事が出来るだろうと豪語していたドイツネーデルランド軍団司令部であったが、国境線を突破して3日目となっても100㎞どころか50㎞と進む事が出来ずにいた。

 将兵の質、装備の優位性があっても尚、オランダ軍の抵抗を排除するのは難しかったのだ。

 このままでは攻勢が頓挫する危険性があった。

 開戦2日目から謎の高性能(日本の)爆撃機がドイツの空を飛び回りだし、北ドイツ平原を中心としたオランダに隣接するドイツ領の鉄道や橋、軍事拠点への爆撃を開始しだしたのだから。

 要撃不能な高高度からの爆撃は絨毯爆撃の様な物量感こそ無かったが、投下された爆弾は呆れる程の精度を発揮し、ドイツの戦争インフラを破壊し続けていた。*3

 このままでは前線部隊への燃料弾薬の補給が不可能になる恐れがあった。

 故にドイツネーデルランド軍団司令部と国防軍参謀本部は早期の決着を求めて更なる戦力の追加を決めた。

 問題は、その戦力をどこから抽出するかであった。

 南部方面の部隊は遠すぎた。

 東部方面の部隊はポーランド攻略に投入されていた。

 西部方面の部隊、その主力は来るべきフランスとの闘いに備える為、動かす事は難しい。

 迷った国防軍参謀本部に、親衛隊作戦本部が声を掛けた。

 ドイツ西部で錬成訓練中であった武装親衛隊(Waffen-SS)の部隊があり、これを預ける事が出来ると。

 2個の装甲擲弾兵(機械化歩兵)師団と1個のSS重戦車大隊と言う、強力な戦力であった。*4

 政治的には対立している親衛隊からの提案を、国防軍参謀本部は受け入れていた。

 どの様な思惑があれ装甲化された戦力は大事であり、又、この様な二流の戦場(オランダ)で国防軍の貴重な装甲戦力を消費しないと言う事は、フランスとの決戦を控えた今にとって極めて重要であるからだ。

 だが、戦場はドイツの都合だけで動く訳では無かった。

 ドイツの増援が到着するのと前後する頃には、オランダ側にも増援が到着していた。

 日本とブリテンの旅団戦力だ。

 戦力のシーソーが一気に変わる。

 

 

――北海南部戦域

 オランダへの打撃を目的としてドイツ海軍は行動が命じられた。

 戦艦ビスマルクを旗艦とした4隻の戦艦と3隻の装甲艦、そして2隻の巡洋艦からなる打撃部隊(ストライクグループ)であった。

 この護衛に空母グラーフ・ツェッペリンが付いていた。

 事実上の空母機動部隊であった。

 対するフランスは、ガスコーニュ級の戦艦3隻を投入して対抗した。

 本来はリシュリュー級戦艦3隻まで一緒に投入するべきであったが、ガスコーニュ級の準姉妹と呼べるリシュリュー級は、大西洋に展開していたドイツ装甲艦への対応に派遣されているのだった。*5

 期せずしてドイツはフランスに対して戦力分散を強いる事に成功していたのだった。

 結果、第2次世界大戦初の洋上海戦、そして人類史初の空母機動部隊同士の戦いはフランスが数的劣勢を強いられながら戦う事となる。

 更に不幸であったのは、空母艦載機の質に於いてドイツ側が優位であったと言う事だ。

 これはフランスが、空母艦載機のジェット機化を具体的に計画する段階であったが故の事であった。

 陳腐化したレシプロ戦闘機の更新、乃至は改良に予算を投じる意義が見いだせなかったからだ。

 対してドイツは、空母艦載機のジェット機化がまだまだ困難であった為、エンジンの換装を含む改良を進めていたのだ。

 全般的な航空機の技術に於いてはフランスが優越していたにも関わらず、この1944年の洋上に限ってはドイツが優位に立つ事となったのだ。

 この事実にフランスとドイツは気づかぬまま、両航空隊は北海南部で衝突する事となる。

 結果は言うまでも無く、フランス側の敗北であった。

 別に全滅や潰走をした訳では無い。

 フランスによる攻撃部隊は、機体の格差を理解した時点で対艦攻撃部隊を撤退させ、戦闘機部隊は殿としての時間稼ぎに徹したというだけである。

 問題は、ドイツからの攻撃であった。

 併せて30機にも満たない小さな戦爆連合であったが、豪胆なドイツ側指揮官は強襲を指示する。

 機体の能力差にモノを言わせて強引にフランスの防空部隊を突破、急降下爆撃と雷撃とを成功させたのだった。

 都合3発の250㎏爆弾と4発の航空魚雷がフランスの戦艦群に命中した。

 特に旗艦として艦隊の先頭に居たガスコーニュには攻撃が集中、250㎏爆弾2発と魚雷2発が命中し艦上で火災が発生する惨事となった。

 ドイツ海軍航空隊にとって大戦果であった。

 とは言えこの程度で沈むほどにフランス戦艦も脆い訳では無かった。

 そもそも戦艦と言う兵器は実にしぶとく、その上でフランス海軍は()()()()()()()を基に被害対応(ダメージコントロール)能力を磨いてきていたのだ。

 ものの2時間で火災の鎮火と応急処置とを済ませてみせたのだった。

 とは言え戦闘任務の継続は困難と判断し、フランス艦隊は北海南部域から後退する事となる。

 後に、第1次北海南部海戦と呼ばれる戦いは、こうして幕を閉じる事となった。

 フランス水上艦部隊を排除したドイツ水上艦部隊は一気に南下を図った。

 だが、行く手を阻むものはまだ存在した。

 ブリテン海軍である。

 ブリテン海軍が北海に展開させていた大型水上艦は、空母機動部隊の護衛に配置していたフネ ―― 近代化改装を行っているとは言え旧式のウォースパイトとレパルス、そして巡洋艦部隊であった。

 この時点でアルビオンを含むブリテン海軍部隊はオランダに展開し、部隊や物資の輸送を行っているのだ。

 オランダの港湾が焼かれるのは戦争であり()()()()()が、ブリテンの戦友が被害を受けるとなれば見過ごす訳にはいかなかった。

 空母機動部隊指揮官は即座に、護衛部隊に迎撃を命令した。

 数でも砲雷戦能力でもドイツ側に劣るブリテン水上艦部隊であったが、命令が下されるや否や、聊かの怯みを見せる事無く喜び勇んでドイツ水上艦部隊へと向かって突進を開始したのだ。

 見敵必戦(キャッチアンドキル)

 合理的ではあるが敢闘精神に欠ける様にも見えるフランス水上艦部隊に対し、ブリテン海軍の将兵は王立海軍の伝統を身をもって示すが如く、或いは狂犬(ウォーモンガー)の如くドイツ艦隊に突進した。

 又、空母艦載機による攻撃も敢行した。

 艦載機の質と言う意味に於いてはブリテンもフランスと大差は無いのだが、数が違っていた。

 イラストリアス級空母6隻が集中投入されていたのだ。

 ブリテンは数を揃える事、そして集中して運用すると言う原則を忠実に守っていた。

 結果、ドイツ水上艦部隊は一度に100機を超える戦爆連合に襲われる事となった。

 ドイツ側は対艦攻撃機迄も防空に回して対応したが、それでもグラーフ・ツェッペリン1隻が積める程度の数 ―― 30機にも満たない迎撃機では焼け石に水であった。

 更にはドイツの航空指揮誘導システムも飽和し、30機のドイツ海軍機は集団ではなく個々の戦闘機へと分解され戦う事となった。

 否、戦いと言うよりも生き残るのに必死になっただけであった。

 それが3波に及んだ。

 ドイツ側にとって幸いだったのは、ブリテン海軍の対艦攻撃機の性能が乏しかったが為、ドイツの大型水上艦で撃沈されたものは出て居ないという事であった。

 それでも、どの艦も少なからぬ被害を受けていた。

 大は爆弾か魚雷、小は機銃掃射による被害だった。

 だが、深刻な被害が出なかった事から、ドイツ水上艦部隊は応急処置を行い隊列を整えるとオランダへの突入を再開しようとした。

 そこをブリテン水上艦部隊が襲った。

 ドイツ水上艦部隊が、対空回避運動(盆踊り)によって足が止まってしまった事によって会敵に成功したのだ。

 戦力数の差だけで言えば圧倒的にドイツ側優位であったのだが、長時間に及んだ防空戦闘によって疲弊していた為、撤退を選択した。

 それはフランス海軍との戦闘で得た勝利を、ブリテン海軍との戦闘で汚したくないと言う功名心(スケベ心)でもあった。

 ブリテンの戦艦を沈めるよりも、ドイツの戦艦が傷つく事を恐れたのだ。

 尚、ブリテン側はウォースパイトの速力では本気で後退を始めたドイツ艦に追従する事は不可能であった為、早々に追撃を断念した。

 結果、第1次北海南部海戦は国際連盟側が勝利を得る事となる。

 戦術的には引き分け、戦略的には明確に国際連盟側(ブリテン - フランス)の勝利であった。

 

 

――フランス/アルザス-ロレーヌ地方

 オランダへのドイツ水上艦部隊突入を阻止した国際連盟。

 一応はフランス海軍も勝利側には居る。

 だが、勝者との称号はブリテンの恩情(政治的配慮)で与えられたものでしかない ―― その事をフランス自身がよく理解していた。

 ()()()()()()()()、フランスは勝利を欲した。

 フランス陸軍は未充足であった。

 戦力の集積も予備役の動員も不十分であったが、政治的に勝利が必要とされたのだ。

 軍事は政治に隷属する。

 民主主義国家にとってそこに例外は無い。

 フランス陸軍首脳部は一応の反論を行った上で、ドイツ侵攻部隊に対して作戦開始を命令した。

 発令から3時間後、先鋒部隊はドイツの国境線を突破する。

 第2次世界大戦西部戦線の始まりである。

 

 

 

 

 

 

*1

 オランダの機械化部隊を支えるのは、G4やそれに準じた国家群の様な本格的な装軌装甲車や半装軌式装甲車(装甲化ハーフトラック)では無かった。

 その殆どは日本の37式装甲機動車(Type-37AMV)のコンセプトを真似て軍用トラックをベースに開発した装輪装甲車であった。

 機械化と名乗ってはいても諸外国の部隊とは性格が全く異なっていた。

 路外機動力は低いが舗装率の高いオランダ国内での運用が前提であり、兵員輸送手段の装甲化と割り切っていた為、それで十分であったのだ。

 

 

*2

 ブリテンとしては航空部隊の指揮権をオランダに与える積りは無く、オランダとて無条件でブリテンの指揮下に入りたくない ―― 政治的にも入れないと言う問題もあった。

 この問題は国家間の面子も掛かっている為、解消には時間が掛かる事となる。

 短期的には、高度な通信システムを持つ日本の早期警戒管制機(AWACS)が展開する事で解決したが、抜本的には統合的な指揮統制調整機関、国際連盟安全保障理事会統合参謀本部が発足するまで解決する事は無かった。

 

 

*3

 戦術目標への爆撃が行われない理由は、対地攻撃を行う上で必要な目標策定(UAV)部隊がヨーロッパへ進出出来ていなかったからである。

 固定目標への爆撃が可能であったのは、地球全域を網羅するGPS網が完成しており、その誘導によって知性化爆弾(Joint Direct Attack Munition)が使用出来る為であった。

 尚、この固定目標への爆撃は、この時点ではベルリンなどのドイツ政府機関へは行われていない。

 現時点での優先順位が低い事と、万が一のドイツ側が降伏する可能性を見ての事だった。

 

 

*4

 この戦力供出は、国防軍の苦慮を慮ってと言う訳では無いし、オランダ工作に失敗した事への汚名返上と言う訳でも無く、単純に親衛隊による功名稼ぎであった。

 戦力不足で苦戦はしていても勝ちやすい場所であると親衛隊作戦本部はオランダの戦いを認識していたのだ。

 戦功を稼ぎ、その功績をもって更なる組織拡大を図るのが狙いだった。

 親衛隊はこの戦争を理解していなかった。

 

 

*5

 このドイツ装甲艦(プロイセン級装甲艦)対策で大型艦を派遣していたのはフランスだけではなく、アメリカやブリテンも高速戦艦や哨戒巡洋艦、或いは大型巡洋艦を派遣していた。

 基準排水量が20,000tを超えるプロイセン級装甲艦はそれ程の脅威であったのだ。

 条約型巡洋艦では対抗できない火力と装甲を兼ね備え、標準的な戦艦よりも遥かに優速で長い航続距離を持つプロイセン級は、洋上交易路を持つ側からすれば絶対に自由にさせてはならぬ戦力 ―― 脅威だった。

 

 


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