タイムスリップ令和ジャパン   作:◆QgkJwfXtqk

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166 第2次世界大戦-33

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 四方全ての戦場で圧倒されると言う立場となったドイツ。

 その現実は、如何にナチス党及び宣伝省が糊塗(情報操作)しようとしても消せるものでは無かった。

 重装備は勿論、手持ちの武器すらも放棄して後退(敗走)する国防軍。

 熱心に抗戦しようとした結果、幽鬼めいた有様になった武装親衛隊(Waffen-SS)

 それら敗残の兵に守られる人々。

 家財を持たず、着の身着のままで下がっていく難民たち。

 それが明日の我が身である事を、ごく普通の人々であっても理解出来ない筈も無かった。

 そして、目端の利く人間は、難民たちに高齢者や子ども ―― 乳幼児から5~6歳頃までの幼児が居ない事に気付くのだ。

 徒歩による過酷な撤退に参加できない人間は、労働力として期待できない人間は、国家から切り捨てられたと言う現実を直視する事となる。

 その現実を噛みしめる前に、人々の家の扉は叩かれる事となる。

 扉の先には糊の利いた、汚れの無い綺麗な制服を着たナチス党親衛隊(SS)の人間が居る。

 笑顔で言うのだ。

 

『善良なるアーリア人。あなた方には戦争の惨禍を避ける為に、安全な後方に下がって貰います』

 

 そこに拒否権が無い事は、親衛隊が引き連れた()()の目を見れば判るのだ。

 思い思いの服を汚れ果てさせた男たちの目は、疲れ果て絶望した人間特有の、何の感情も浮かんでいないガラス玉の様な鈍い色が浮かんでいた。

 腕章で国民突撃隊(Volks Sturm)とかろうじて判る敗残兵たちは、機械的に人々を家々から連れ出し、難民の群れへと加えさせていくのだ。

 ドイツと言う国家は末端から消えつつあった。

 終末の情景。

 それはヒトラーナチス政権のおひざ元、帝都ベルリンですら同じであった。

 親衛隊と警察は流入の阻止を図ったが、家財の全てを失ったような人間はまだしも、地方の郷士(ユンカー)の様な資産を持ったまま避難して来た人間を止める術を持っている筈もなかった。

 特に、ルール工業地帯の喪失は、ドイツ経済に痛打などと言う表現ですら生ぬるい被害を与える事となった。

 大人口地帯、一大消費地であるベルリンへの物資流入が止まりつつあるのだ。

 国際連盟は戦争に関与しない民間人の生活に痛打を与える積りはないと表明していたし、実際、赤十字マークの書かれた車両や民間用と見て判る車両に被害は出ていなかったが、移動する難民などによって道路が埋められつつあるのだ。

 物流が予定通り出来る筈も無く、食料などは大多数が路上で腐っていく有様であった。

 一部の機転が利くトラックドライバーなどは、無理を悟れば会社に了解を得て周りの難民たちに食料を配るなどしていたが、殆どはドイツ人らしく(チュートン的生真面目さによって)無駄にしていた。

 悲惨すぎるドイツの現状を把握する組織は数あれど、その中で最も悲惨な未来図を見ているのはドイツ軍であった。

 当然だろう。

 国際連盟(ジャパンアングロ)に正面から向き合っているのだ。

 ドイツに対する憎悪を隠そうともしないフランス。

 陰湿さに於いて比肩する事の出来ないブリテン。

 圧倒的な物量で踏みつぶして来るアメリカ。

 そして言葉に出来ぬ(名状し難い)日本。

 ドイツは負ける。

 皮膚感覚でそれを理解していた。

 その上で情報部と秘密偵察部隊とが調べて来た、フランスの支配下に落ちたドイツ領の状況は、フランスがドイツと言う国家ではなく存在の消滅を図っていると理解させるものであった。

 それが決定打となる。

 ヒトラー/ナチス政権下のドイツが消滅するのは別に良い。

 ドイツ軍人の大半は、主義者(ナチス思想)とは無縁の職業軍人(プロフェッショナル)だと言う自負があったからだ。

 だが、ヒトラーとナチズム()ドイツから消えるのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()となれば話は別なのだ。

 だからこそドイツ軍上層部は独自に、国際連盟との和平の道を探る事となる。

 

 

――国際連盟

 ドイツ軍上層部 ―― ドイツ軍参謀本部が主導する国際連盟との和平工作は、国際連盟(ジャパンアングロ)にとって極々普通の事であった。

 只、既に戦争が始まって半年以上が経過しているのだ。

 西部戦線ではフランスに叩き返され、東部戦線では格下と見ていたポーランドを圧倒しきれなかった現実を見て来たにも拘わらず、交渉を開始したのが今となっているのだ。

 国際連盟の安全保障理事会の常任理事国会の場でブリテン代表は、判断が遅いと笑う程であった。

 誠に以って事実であった。

 勝てるかもしれない。

 もう少しマシな形での負け方があるかもしれない。

 そんな()()()()()()()()と言えた。

 兎も角、交渉自体は受け入れる事となった。

 ドイツと言う民族国家を消滅させると言う結論こそ変わらないのであれば問題は無いと、フランスが同意した結果であった。

 尚、他の3国のうちブリテンは、飽きた(消化試合化した)のでどうでも良いと言う感情であった。

 アメリカは、チャイナの地で名誉欲を充足させたので兵士たち(アメリカンボーイズ)を故郷へ返して経済を回したかった。

 そして日本。

 日本は戦後の支配地域(旧ドイツ領)での自給問題があるので、インフラなどを破壊せずに掌握出来るのであれば便利だからと言う理由で賛同したのだった。

 正直な話として、国際連盟側にはドイツ国防軍側が希望する、ドイツと言う形を残しての降伏など認める気は一切なかったのだ。

 その事をドイツ国防軍の交渉担当が思い知ったのは、外交交渉の席であった。

 

 

――護衛艦やまと/外交交渉

 国際連盟(ジャパンアングロ)とドイツ国防軍との交渉の場となったのは、バルト海に展開している護衛艦やまとであった。

 これは異例の事態とも言える。

 ドイツ国防軍はドイツの代表ではなく、ドイツの命運を左右する力を持っている訳では無いのだから。

 にも拘わらずこの交渉、接触を認めた理由は、主にドイツ内部の感情を把握したいと言う情報機関サイドからの要請であった。

 佐官級将校を中心にしたごく少数の交渉団は、先ず、比較的安定した北部戦線の前線で、捕虜と言う形で接触する。

 その上で身元確認の上でヘリでやまとに移動した。

 やまと、未来の戦艦。

 船体規模こそドイツの誇ったビスマルク級に近いが、その雰囲気は異質であり、その事も交渉団の緊張を呼ぶ事となる。

 そもそも、ヘリ自体がドイツでは実用化されていないのだ。

 日本のソレを見て概念研究自体は行われているが、航空機開発に関わる技術者は軒並みジェットエンジン搭載機の開発に投入された結果であった。

 全てのモノが真新しく、恐ろしく感じる交渉団。

 そのおっかなびっくりの様を、やまとに派遣されていたブリテンなどの連絡将校が見て笑うのだった。

 尚、それは初めてやまとに、日本の護衛艦に乗船した時に同じような挙動をしていた事を忘れた仕草であった。

 さて、交渉の場となったのはやまとの士官室、では無く科員食堂であった。

 別段に他意があっての事ではない。

 単純にやまとの士官室が狭い事が理由であった。

 これは、やまとは基準排水量で35,000tに迫ろうかと言う巨艦であったが、その乗員数は恐ろしく少なく、諸外国の同規模艦(戦艦)に比べると1桁少ない乗員で動かしている事が理由であった。

 乗員(幹部将校)が少なければ、専用の空間も狭くなる。

 そう言う事であった。

 シーツなどで装飾はしていたが元が実用最優先の科員食堂、それも被弾上等で被害対応最優先として整備されている海上自衛隊のフネなのだ。

 初めて部屋に入ったドイツ国防軍の交渉団は、その雰囲気に尋問室めいたモノを感じていた。

 尚、やまとには会議等にも使える多目的大部屋も存在していたのだが、大型ディスプレイやPCといった機密性の高い設備が整い過ぎ(備え付けされ)ている為、敵国の将校を案内するには不適切と判断されていたのだ。

 結果、色気の欠片も無い部屋での交渉となった。

 そして交渉内容は、その部屋の内装同様に味気の無いものとなった。

 少なくともドイツ国防軍の交渉団にとっては。

 対話自体は成立した。

 フランス代表すら、言葉を交わす事を厭う事は無かった。

 だが、その成果は皆目なかった。

 先ず交渉にはならないと言う事が、フランス代表から宣言されていたのだ。

 国家代表では無いのだ、ドイツ国防軍の代表も厳しい顔で受け入れた。

 只、ドイツ国防軍の代表団にとって無駄ではなかったのは、虚心坦懐に国際連盟(ジャパンアングロ)のドイツへの方針を知る事が出来たことだ。

 それは一切の甘さの無い、()()()()()の方針であった。

 救いがあったのは、一般のドイツ人であれドイツ軍人であれ、犯罪者で無ければ過度な処罰対象にはならぬと言う事だった。

 報復は無いのかと驚いたドイツ国防軍の代表に対してブリテン代表はとても楽し気に、報復される様な事をドイツが出来たとでも? と返した。

 事実であった。

 少なくともG4(ジャパンアングロ)にとっては、誠にその通りであった。

 尚、国土を荒らされたオランダやポーランドのソレは()()()()()()()であれば認める方針であるとも言い添えられていたが。

 その事はドイツ国防軍の代表にとって一筋の光明であった。

 だが同時に、光明の外側は暗黒であった。

 戦争はドイツの完全占領まで継続し、ヒトラー/ナチス政権の消滅まで行う。

 その上で、ドイツ人の民族国家としての再興(独立)は許さないとフランス代表は良い笑顔で言い切ったのだ。

 その言葉に、ドイツ国防軍の代表は反論する。

 国際連盟の根幹をなす、民族独立の原則を定めたベルサイユ体制に反すると言うのが内容であった。

 だが、アメリカ代表が心底興味なさげに否定した。

 ベルサイユ体制を崩壊させたのは、ドイツ自身であると。

 オーストリアその他の国家を次々と併合した国家が、民族独立を口にされても困るとブリテン代表は嘲笑した。

 そしてフランス代表は言う。

 今のドイツ人は安心して欲しい、と。

 旧ドイツ系として差別させる積りは無く、各国で各国の一部として平等な権利を与える事になるのだ、と。

 事実上のドイツへの死刑宣告であった。

 

 尚、余り口を開く事のない日本の代表は、フランスやブリテンの代表を見て、実に楽しそうだと呆れていた。

 

 

――ドイツ

 ドイツ国防軍の独自の策謀、それをヒトラーは気付いていなかった。

 自らを大ドイツの父であるとして国家も軍も、その完全に掌握しているとの思いあればこそであった。

 だからこそ、ドイツ国防軍にクーデターの兆候があると言う親衛隊(SS)の報告は寝耳に水であった。

 衝撃。

 だが同時にヒトラーは納得していた。

 精強であったはずのドイツの軍が余りにも不甲斐なく敗走を繰り返す理由として、ドイツ国防軍参謀本部によるドイツ掌握の陰謀であったと言うのは理屈の合う話であるとなったのだ。

 不合理な現実を理解できる形へと変える理屈の合う話(陰謀論)は、ヒトラーの胸にそっと入り込んだのだ。

 満面の笑みを浮かべ、ヒトラーは断言した。

 裏切り者を粛清する。

 併せて、破滅的な怠慢(サボタージュ)を行った外務省も粛清する。

 この2つの革命をもって大ドイツは生まれ変わり、真に偉大な大ドイツを生み出すのだと宣言した。

 尚、ドイツ国防軍のクーデター計画は全くのデタラメであった。

 証拠として提出されたモノは全てが親衛隊によって捏造されたモノであった。

 それ程の事を親衛隊が行った理由は、ヒトラーと同様に不甲斐ない戦争を行っているドイツ軍参謀本部に対する不満と言う実に救いの無い(政治的)理由であった。

 同時に、国を守りたいと言う意思あればこそであった。

 国際連盟との戦争に血道を上げているドイツ国防軍を抑え、その上でヒトラーを説得する事で戦争を終わらせようと考えたのだ。

 善意であった。

 正に、善意こそが地獄への道を舗装していたのだった。

 政治の季節(地獄)が始まる。

 

 

 

 

 

 

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