タイムスリップ令和ジャパン   作:◆QgkJwfXtqk

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A.D.1933
024 アメリカの道


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 1930年代に入ったアメリカは、株の一時的な暴落 ―― リセッションこそ経験したが、その後も順調な経済発展を続けていた。

 極東を新しいフロンティアとして手に入れたアメリカは、雄飛を続けていた。

 満州は国家を樹立し、沿海州では鉱物資源を得ると共に民主主義を伝授し、日本は農作物も鉱物資源も大きなお得意様となっていた。

 技術開発ではグアム共和国軍(在日米軍)の協力で、長足の進歩を遂げつつあった。

 開発した技術を工業製品として商売を行う為に必要なものは日本が売ってくれるのでアメリカの裏庭である南米経済を席捲する事が出来た。

 その経済力を背景に国内の開発も進んでおり、アメリカは正しく黄金時代を迎えていた。

 外敵としてチャイナやソ連も居るが、極東に於いてはG4の足並みが乱れる事は無い為、アメリカは文字通り無敵の国家として在った。

 但し、小癪な存在も居た。

 チャイナ共産党である。

 フロンティア共和国や、その周辺で跋扈し、治安を悪化させる存在として嫌悪していた。

 この為、アメリカはフロンティア共和国を通して民間企業がそれぞれ独自に組織していた自警組織を整理統廃合して大規模な重武装民間軍事組織を作り出す。

 フロンティア警備保障、通称F.D.Sである。

 警察や軍隊としなかったのはフロンティア共和国以外での運用を考慮しての事だった。

 チャイナ全域や沿岸州などで活動する企業にも安全保障業務を行う為であった。

 顧問にはグアム共和国軍(在日米軍)が就任。

 本部を関東州アメリカ軍基地に隣接する場所に置いた。

 有事にはフロンティア共和国軍に編入される為、戦車などの重装備の保有が認められている。

 その人的な中心はコリア系日本人であった。

 F.D.Sは朝鮮共和国と提携し、朝鮮共和国軍で軍事訓練を受けた人材をリクルートしているのだった。

 アメリカと朝鮮共和国の物価の差が大きい為、アメリカにとってコリア系日本人は手頃に使える人材であった(※1)。

 

 

――アメリカ海軍

 ワシントン軍縮条約以降、太平洋は平穏な海のままであった。

 海上自衛隊やグアム共和国(在日米軍)海軍部隊と演習や交流を行いながらも平和に過ごしていた。

 その状況が変化したのは、アメリカの極東進出であり、ソ連の海軍再建計画であった。

 ソ連が20,000t級で28㎝砲を持った巡洋戦艦1隻を建造し、ウラジオストクに配備する事を計画している事が判明したのだ。

 ワシントン軍縮条約に参加していないソ連が大型艦を建造し、アメリカにとって重要な権益のある極東へ配備する事は座視し得ない問題であった。

 しかも、ソ連新大型艦はドイツの通商破壊向け巡洋艦であるドイッチュラント級の設計を踏襲したものになるという。

 アメリカの核心的海外領土 ―― 富を生み出す満州、沿海州とのアクセスを邪魔される危険性、それだけでアメリカ海軍は色めき立った。

 新しい敵、殴り掛かっても殴り殺しても良い相手の誕生に歓喜した。

 この為、アメリカ海軍はソ連大型艦の性能を過大に見積もり(※2)、その対策として高速戦艦の建造を計画した(※3)。

 幸い、フロリダ級とワイオミング級戦艦の4隻が代艦条項に合致していた為、この4隻を退役させて2隻の高速戦艦を建造する事とした。

 ワシントン軍縮条約連絡会議にて、その旨を伝達した所、満場一致で了承された。

 

35,000t級高速戦艦

 基準排水量 35,000t

 主砲    14in.3連装砲塔 3基

 速力    31ノット

 

 グアム共和国軍(在日米軍)の支援を受けて設計された本級は当初、30,000t級12in.砲艦として設計されていたが、友好国とは言え日本の35,000t型新型戦艦に見劣りするのは如何なものかと議会で問題となり現案へと拡大する事となった。

 この為、当初は3隻建造する予定であったものが2隻へと縮小される事となった。

 

 

――アメリカ陸軍

 フロンティア共和国の建国に伴い、満州の地に3個師団を派遣する事となった。

 アメリカ経済の好調に支えられて順調に規模拡大を図る事に成功する。

 問題は戦車を筆頭とした装甲車両であった。

 1932年時点でアメリカが保有する戦車群は、31式戦車shock以降の列強諸国が計画した20t~30t級の戦車整備計画には全く対応出来て居なかった。

 特に、大々的に重戦車の開発を叫んでいるソ連とフロンティア共和国北方で対峙する関係上から、30t級中戦車の開発と配備は急務であった。

 当初はブリテンやフランスに倣って、日本へと31式戦車の購入を依頼するべきとの声もあったが、議会がそれに反対した。

 急務ではあっても即時、必要では無い。

 ソ連も又、まだ開発段階である為にアメリカが開発し製造するべきだとの事であった。

 グアム共和国軍(在日米軍)の協力の下、開発は進められる事となる。

 30t級の車体と90㎜砲を持った中戦車の開発がスタートする。

 又、量産する必要性から戦車よりも軽量かつ簡素で量産に向いた戦車駆逐車の開発も、歩兵部隊向けとしてスタートした。

 この他、上海事件でその威力を感じたヘリコプターの開発もスタートした。

 飛行機と比べると新機軸である為、試行錯誤が続いていく事となる。

 

 

 

 

 

(※1)

 邦国として独立以降、それ以前の日本帝国時代の様に国家の予算が潤沢に得られる訳では無くなった朝鮮共和国としても、主要産業が鉱山でしかない国にとっての貴重な外貨獲得手段となっていた。

 ODAなどはあったが、一応は返済期限のある借金であった。

 朝鮮共和国は独自の産業を、金を生み出す手段を求めていたのだ。

 この為、F.D.Sへの人材供給は1930年代に於ける朝鮮共和国の主要産業へと発展していく事となる。

 朝鮮共和国軍に志願して男として一人前。F.D.Sへ参加出来て一流とされた時代である。

 顧問であるグアム共和国軍(在日米軍)としても、日本 ―― 自衛隊式の訓練を受けた部隊と言うのは使い勝手が良い為、非常事態などでは重用する事となり、手厚い対応を行う事となる。

 尚、コリア系日本人部隊は最低でも中隊単位で運用される。

 1930年代の主要任務は、フロンティア共和国とチャイナ北部との国境線警備であった。

 チャイナ人の流入阻止である。

 この任務でコリア系日本人部隊は、流入して来るチャイナ人へ酷薄な対応を行う事で有名となり、チャイナ人の怨嗟の的となっていた。

 

 

(※2)

 配備されるであろう港から、ウラジオストク級巡洋戦艦と呼称された。

 その性能見積もりに関しては、元設計となったドイッチュラント級のそれではなく、アメリカ海軍が通商破壊に用いられると困る性能が元となっていた。

 つまりは日本帝国海軍の金剛級高速戦艦である。

 金剛級の性能を元に、情報収集で得たウラジオストク級の性能は想定された。

 

ウラジオストク級高速戦艦(推定)

 基準排水量 25,000t

 主砲    28㎝3連装砲 3基

 速力    30ノット

 

 自らの推定したウラジオストク級の性能の厄介さに、アメリカ海軍は戦慄した。

 新型高速戦艦の必要性を痛感する事となる。

 尚、このアメリカの対応に驚いたのはソ連である。

 自らが建造するバローン・エヴァルト級装甲通商破壊艦を2回りは凌駕する巨艦が建造され、アジアに配備される事となったのだ。

 慌てて50,000t級戦艦の建造計画を先に進める事となった。

 又、この事に脅威を感じたのはドイツであった。

 チャイナと対立状態にあるアメリカが強力な海洋戦力を東アジアに展開させるという事は、ドイツとチャイナの貿易関係に甚大な影響を与えかねないと危惧したのだ。

 この為、ドイツは35,000t級の日本アメリカの戦艦群に対抗できる ―― 少なくとも脅威を相手に感じさせるだけの戦艦を青島租借地へと配備せねばならぬと確信する事となった。

 この為、バローン・エヴァルト級をドイツ向けとして建造するものとした。

 だが、ヨーロッパの中型戦艦の建艦競争がある為に、26,500tのダンケルク級への対抗を無視する訳にも行かず、最終的には公称20,000tの装甲巡洋艦と称しながら実態は基準排水量28,000tの高速戦艦として建造がスタートした。

 このベルサイユ条約を丸きり無視した方針は、ドイツ海軍内部でも問題とされたが、ドイツ政府より、そう遠くない時期にベルサイユ条約自体を破棄する予定であると告げられ、沈静化する事となる。

 その後、ソ連とドイツの新型戦艦の建艦とアジアへの配備計画にブリテンとフランスも対応する事となる。

 両国とも、アジアに戦艦を配備する事となった。

 アメリカの建艦計画による波及効果であり、海上自衛隊は非公式会合にてアメリカ海軍に対してアジアの緊張状態を生み出す引き金を引いた事を糾弾した。

 

 

(※3)

 尚、アメリカ海軍の一部には、極東の友好国である日本がウラジオストク級へは対応するであろうし、その日本が建造中の35,000t級高速戦艦もあるので、アメリカ海軍が過大な対応をする必要は無いのではないかとの声も上がっていた。

 だが、ワシントン軍縮条約締結後、ようやく巡って来た大型艦建造のチャンスに目の色を変えた海軍上層部は、その声に耳を傾ける事は無かった。

 

 

 

 

 

 




2019.05.16 文章修正
2022.10.18 構成修正

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