タイムスリップ令和ジャパン   作:QgkJwfXtqk

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29.1936-03 シベリア独立戦争-02

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 シベリア独立戦争。

 後にそう呼ばれる戦争は、その響き程に確たる戦闘が続いた訳では無かった。

 特に、アドミラル・エヴァルトの亡命事件から数ヶ月の間は、散発的な銃撃戦が起きる程度であった。

 これは、シベリアの状況が原因であった。

 シベリアのインフラは日本ソ連戦争の被害から立ち直れていなかった為、如何にソ連赤軍が大規模な軍隊を送って鎮圧しようと計画しても、それを実行し得る余力が無かったのだ。

 その上で5ヵ年計画による収奪が、シベリアの大地から軍隊を養うだけの力を奪っていた。

 兵員を輸送するにも時間が掛かり、その上、軍隊として活動する為に必要な食料物資その他も後方 ―― ソ連西方域から持ち込まねばならぬのだ。

 如何にスターリンが脅し、或は発破を掛けようとも、ソ連赤軍の動きが遅々たるものとなるのも当然であった。

 対して独立運動側も、元ソ連赤軍シベリア駐留部隊も含めて、多くの人々が生きるか死ぬかの所にあり、能動的な行動は行えずにいた。

 

 

――交渉・日本/ソ連

 日本とソ連の交渉は、シベリアの独立戦争の発端となったアドミラル・エヴァルトに関する事であった。

 ソ連の国家資産である同艦の即時引き渡し要求であった。

 艦長と政治将校に関しては犯罪者としての引き渡しを要求していた。

 日本としては艦長と政治将校、そして乗組員に関しては事情聴取後にオホーツク共和国への亡命を認める予定であった為、犯罪者としての引き渡し要請に関しては人道的な配慮から拒否する旨、最初に宣言した。

 問題はアドミラル・エヴァルトである。

 同艦をソ連へと返却する義理も義務も日本には無いのだが、同時に沿海州での権益と言う問題があった。

 ソ連の外交代表は必死だった。

 もしアドミラル・エヴァルトの返却が成されない場合、沿海州で行っている日本ソ連戦争終戦条約の賠償協定に基づく経済活動を排除せざるを得なくなると通告した。

 日本とソ連の間での信義が失われたと判断せざるを得ないからであるとソ連外交代表は言い切った。

 これには日本も憤慨した。

 高圧的なソ連の姿勢を糾弾し、条約内容を遵守しないのであれば条約成立前の状態 ―― 戦争状態へと戻らざるを得ないと反論する。

 紛糾する会議。

 そこに齎されたシベリアでの武装蜂起の一報に、互いに相手がやったのだと確信した(※1)。

 取りあえず、交渉は事態が落ち着くまで一時閉会となった。

 この時点で日本もソ連も、シベリアでの蜂起が長期間に渡る事は無いと判断していた。

 

 

――沿海州対応・日本/アメリカ

 シベリア独立戦争終結後の流れを知るものからすれば意外な話であったが、この戦争に日本は当初から関与していた訳では無かった。

 想定外であった。

 日本連邦への圧力の軽減を狙い、ソ連の国力を低下する様には活動してはいたが、シベリア全土で独立運動が勃発する様な事は想定していなかった。

 故に日本は、日本の管理下で沿海州を中心にシベリアに進出しているアメリカ企業と事態の把握と対策を練る為に開催されたアメリカの外交代表との会議の場で、開口一番にアメリカの陰謀を疑う事を発言したのだ。

 尋ねられたアメリカ外交代表は、唖然とした表情で日本の策謀では無いのかと問い返していた。

 日本とアメリカの仲介役として居たグアム共和国(在日米軍)代表は、この短い応酬にて事態を把握すると「何て事だ(ホーリー・シット)」と天を仰いでいた。

 だが状況を把握してからの決断は早かった。

 国境線に戦力と物資を集積させ、可能であれば干渉する ―― ソ連からシベリアを分離独立させ緩衝国家の建国を目指すとした。

 可能であれば、という曖昧な表現を用いた理由は、世界大戦後の干渉戦争の影響であった。

 軍事力を持って侵攻し土地を掌握したとしても、民心まで把握できなければパルチザンによる抵抗運動が発生し、統治は不可能になる、なったという戦訓である。

 しかも、住民から外敵であると認識された場合、対立する独立運動派とソ連赤軍とを怨讐を越えて団結させてしまう可能性だってある。

 最終的には軍事費を浪費しただけで、投資した沿海州の権益をすべて失い撤退する羽目になりかねない。

 この点に於いて日本とアメリカの認識は一致していた。

 

 

――日本・オホーツク共和国

 日本政府はオホーツク共和国から、シベリアの独立戦争への干渉を要求されていた。

 正確に表現するならば、生活物資や食料を奪われ塗炭の苦しみを受けているシベリア住民の保護だ。

 同じロシア人(ロシア系日本人)として何とかしてやりたいという気持ちであった。

 アドミラル・エヴァルトの艦長たちからの事情聴取によって、ソ連の内情を知ったオホーツク共和国は義憤に駆られていたのだ。

 内情は、マスコミが面白おかしく編集した上で新聞やネットで公開していた。

 余りにも脚色の強い部分には日本政府やオホーツク共和国政府から指導が入ったが、基本的に情報統制を是としない方針の下で情報は公開され続けた。

 この為、気の短いオホーツク共和国住民などは武器を手に、漢気あるロシア人であれば義勇軍を組織してシベリアに渡ろう! 等と街路で呼びかける程であった。

 そこまで行かない者たちも、シベリアの国は違えども同胞たる人々の為に義援金や義援物資の提供を行う様になっていった。

 又、この動きはオホーツク共和国以外でも日本やその他の邦国にも広がって行った。

 善意、それは日本と日本連邦の豊かさがもたらしたものであった。

 タイムスリップから国土の拡大、そして戦争と言った立て続けの難題によって日本の経済は混乱から脱する事は出来ずにいたが、それでも2020年代の科学力と経済力とを持つ日本である。

 その日本に統制された日本連邦は世界でも随一と言って良い豊かさがあった。

 衣食住に於いて絶望する様な不足など無い生活があった。

 故に、隣人の不幸に敏感となっていたのだ。

 民主主義国家である日本は民意に逆らう事は出来ない。

 この為、ソ連との関係を極度に悪化させない範囲での人道的な干渉の道を探る事となる(※2)。

 

 

――ソ連・義勇軍

 日本との交渉の席で、日本がシベリアの蜂起の裏側に居ると確信したソ連は恐怖した(※3)。

 何とかして日本が本格的に侵略をしてくる前にシベリアの反乱を鎮圧しようと決断した。

 だがその為には自動車や戦車が不足していた。

 日本ソ連戦争で鉄道を代表とするシベリアの交通インフラは完膚なきまでに破壊され、そして今だに十分に回復していないのだ。

 であれば部隊を展開させる為には馬車や自動車が必須であった。

 だが、馬車は兎も角、自動車は不足していた。

 又、人に対する威圧効果が高い戦車も不足していた。

 この窮状に救いの手を伸ばしたのはドイツとイタリアであった。

 両国とも戦車や自動車の売却を提案したのだ。

 それだけではなく義勇兵の派遣、戦闘機や爆撃機のパイロットをその機材ごと派遣する事を提案していた。

 無論、善意では無く開発したばかりの装備を実戦で試験をしたいと言う思いがあった。

 又、31式戦車の登場で一気に陳腐化してしまった戦車などの処分の為に売りつけたという側面もあった。

 その事をソ連も理解していた。

 足元を見られている事にスターリンは怒りすら感じていた。

 だが同時に、窮状に於いて助けの手が伸ばされた事を感謝していた。

 これがドイツ、イタリア、ソ連による事実上の3国同盟の発足であった。

 

 

 

 

 

(※1)

 日本からすれば、ソ連への反感が溜まっていたシベリアを意図的に暴発させる事で武力鎮圧の口実を作ったのだと考えていた。

 ソ連からすれば、日本が沿海州のみならずシベリア全土を侵略する為に策謀したのだと思えていた。

 

 

(※2)

 人道的な干渉を主とするが、同時に、武装難民対策として日本政府は日本国統合軍に対し初めて実戦的な命令 ―― 部隊の動員を含めた戦争準備を発するのだった。

 日本とソ連の国境線に3個師団(第17師団 第201師団 第601師団)を基幹とする日本連邦統合軍第1軍団が編制された。

 オホーツク共和国では旧ロシア軍人やソ連軍人が大挙して義侠心を持って共和国軍の門を叩いたため、臨時として第603師団(自動化)が少ない国防予算をやりくりして編制された。

 又、シベリアでの作戦行動を前提とした航空部隊が新しく編制された。

 航空自衛隊やオホーツク共和国軍などから集めたパイロットと新鋭の戦闘機、後に自由の守護者(フリーダム・ファイター)の名で知られるF-5戦闘機で編成された第10航空団であった。

 3個飛行隊を基幹とした第10航空団は、シベリア各地を転戦する事を前提として輸送機や連絡機、果ては重編制の地上警備部隊(連隊規模)が指揮下にあった。

 又、第10航空団の運用を支援する為、朝鮮半島の防空指揮所が強化される事となった。

 

 

(※3)

 全くの杞憂であったのだが、猜疑心の強いスターリンにとって疑惑は事実と同一の存在であった。

 日本を滅ぼすべし。

 そう凝り固まっていく事となる。

 

 

 

 

 

 




2019.05.21 言葉を修正
2019.06.12 表題のナンバリング修正
2019.06.16 表現を変更

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