タイムスリップ令和ジャパン   作:QgkJwfXtqk

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50.1938-9 欧州の混乱

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 ドイツは苦境にあった。

 強大な艦隊で海洋を支配するブリテンや裏切り者であるイタリア、そして積極的にドイツと敵対してくるフランスに半包囲されているのだ。

 ソ連との間に強固な同盟関係を築いているとは言え、その間には目障りなポーランドも居る。

 四面楚歌と言うべきドイツ。

 だがそれでも尚、ヒトラーはドイツの領域(レーベンスラウム)拡大を諦める積りは無かった。

 ドイツが発展する為には、常に労働者と市場とを欲している。

 そして何より償還の時期を迎えつつあるメフォ手形の問題があった。

 メフォ手形の債務に関しては、オーストリアやチェコスロバキアを併合し建設する予定の大欧州連合帝国(サード・ライヒ)でひと息つける予定であった。

 併合する国々の中央銀行から金を収奪出来る筈であるのだ。

 それ故にドイツは、何としても中欧の諸国を併合する積りであった。

 その最大の障害であるG4、特にフランスをどうするのかが問題であったのだが、ある意味で想定しない方向からの攻略法が親衛隊(SS)から提案された。

 カギとなるのはフランス国内に存在する共産主義者だ。

 現在のフランス政権は1920年代後半 ―― タイムスリップしてきた日本との接触以降、大統領は変われども常に政権を維持しているG4協調主義者であり、反ドイツ主義者であり、軍備優先主義者であった。

 それ故に(・・・・)、一般のフランス人有権者の間では政府に対するある種の飽き(・・)が生まれていた。

 そこを突こうと言うのだ。

 ソ連を介して共産主義者に接触し欧州の大連合を提案し、ドイツ敵視政策を実施しているフランスの現政府の打倒を目指すのだ。

 その提案 ―― 策謀にヒトラーは許可を出す。

 

 

――フランス

 1930年代のフランスの政治勢力は、大きく4つの派閥に分かれていた。

 基本的な民意として、フランス国内が再度戦争によって荒らされる事を嫌がるという意味において、4つの派閥は共通していた。

 即ちフランスの平穏。

 違いは、その目的の実現手段であった。

 G4としての協調、ドイツとの敵対、欧州の統括を自認する事を柱とした大陸派。

 G4との協力と共にドイツとの協調も重視し、欧州での再度の戦争を阻止したい融和派。

 現時点で築き上げた軍事力を基に欧州での主導的立場を得たいとする民族派。

 社会主義に基づいた平等な世界を希求する平和派。

 問題は、平和派が4つの派閥の中では最も勢力が小さく、そして名前とは裏腹な過激な共産主義者の集まりであったという事であった。

 とは言え平和派は、それ程に大きな勢力では無かった。

 その状況を変えたのがソ連の接触 ―― 物心両面からの大規模な支援であった。

 特に活動資金を得た事が平和派の活動を活性化させた。

 大規模に行われた宣伝は、おおよそのフランス人が持つ親ロシア的社会主義的なものへの親近感を掻き立てさせた。

 その上で、長期に渡った大陸派政権への反発 ―― 親G4政策で得られる利益の配分が少ないと感じていた人々を煽る事に成功する事となる。

 大陸派は政権与党という事で独占的に得ていた未来情報を基に国家運営を行ってきた。

 その運営は誠にフランスの未来と繁栄とを考えていたと言えるのだが、未来を知って動いているという意識が独善的な行動を取らせており、その結果、大陸派は平和派のみならず、それ以外の派閥からも距離を取られる事へと繋がっていた。

 とは言えども、フランスに安定と繁栄をもたらしていた為に大陸派はフランス人有権者の支持を消極的ながらも集める事に成功し続けていたのだ。

 その状況が、ソ連を介したドイツの介入によって変化する。

 豊富な資金を得た平和派は大馬力で宣伝工作を実施していく。

 その主張は、G4との協調によって繁栄するフランスは、繁栄するが故に戦争を忌避するべきであり、その為にはソ連やドイツとも協力関係を構築していくべきであるという内容であった。

 ある意味で正論であった。

 正論であるが故に平和派は勢力を拡大する事に成功するのだ。

 だが、その平和派はその急伸ゆえに政権与党に危機感を抱かせる事になる。

 フランスは政治の季節に突入する。

 

 

――ドイツ

 ヒトラーは半信半疑で行ったフランスの政情を不安定化させる工作が成功 ―― フランスの意思決定能力が著しく阻害され外交的な活動力が低下するという好機を逃さず中欧の統一に乗り出した。

 オーストリアやチェコスロバキアなどの国々で国民投票を強要し、その結果を以って連邦国家の建国を行ったのだ。

 反ナチスの人間たちは国際社会にドイツの不正義を訴えるが、建前であっても国民投票が行われており、その結果としての連邦国家の樹立 ―― ドイツ連邦帝国(サード・ライヒ)の誕生である為、欧州に直接的な権益の無い日本やアメリカは戦争を行うだけの大義を得られないのだ。

 同様に、ブリテンも戦争の大義は兎も角としてブリテン国民が中欧に対する関心の薄い為、戦争を行う事は出来なかった。

 これらの事から国際社会と国際連盟では、ドイツの行為を非難こそすれども、経済的な締め付け以上の施策は打てなかった。

 唯一、ポーランドは戦争も辞せずとの態度を取ったが、それもソ連がドイツ支持と、ドイツとポーランドの戦争となればドイツ側に立って戦争に参加する用意があるとの声明によって腰砕けとなっていた。

 フランス大陸派と同様にドイツに敵意を持ち軍備拡張に努めていたポーランドであったが、ドイツとソ連を敵に回しての2正面作戦を行う程に血迷ってもいなかった。

 フランスであれば、大陸派が盤石の政治体制を維持できていれば、条理道理を捨ててドイツへと宣戦布告を行っていたであろう。

 ある意味で、対ドイツの主軸であったフランスの混迷がドイツの拡張を許したのだ。

 その事がヒトラーに自信を与えた。

 そして、ドイツ経済に猶予を与える事となった。

 とは言え、それは経済の破綻が少しだけ先延ばしにされたというものに過ぎないのであった。

 故にヒトラーは次の標的に、ポーランドを定めた。

 大ドイツ(サード・ライヒ)の建国に、小癪にも邪魔を仕掛けて来たのだ。

 その懲罰を行うべきであるというのが、その判断理由であった。

 

 

――ドイツ海軍の拡張

 ポーランドとの戦争を決意したヒトラーであったが、軍の全てを欧州大陸での戦争に振り向けられた訳では無かった。

 貴重なお得意先 ―― チャイナとの問題があったからである。

 特に軍事面でチャイナはアメリカと対立し続けている為、常にドイツに最新の装備を求めていた。

 ドイツの軍事研究費用にも少なくない額を投資してくれていたのだ。

 そんな大事なチャイナへの海洋交易路がブリテンやアメリカ、日本などによって脅かされているのだ。

 ヒトラーは海軍に対して、万難を排して海洋交易路を護れるだけの艦を建造する事を厳命した。

 慌てたのはドイツ海軍である。

 それまでドイツ海軍はブリテンとフランスの海軍を主敵と定め、ドイツ近海での制海権の維持と北大西洋でのブリテンの海洋交易路の破壊を主任務と考えていた。

 そこに、チャイナとの海洋交易路の確保命令が下ったのだ。

 慌てるのも当然であった。

 最終的にドイツ海軍はZ艦隊計画とは別の、2万t級装甲艦12隻と2万t級哨戒空母4隻、そして補給艦を中心としたE艦隊計画をまとめ上げる事となった。

 ヒトラーはこの計画に修正を加え(※1)承諾する。

 だがこれは、あからさまなまでに東京軍縮条約違反であった。

 装甲艦は巡洋艦の範疇をあからさまに超える大型艦であり、戦艦として数えた場合にはドイツの保有枠を遥かに超過するのだ。

 世界に大きな波紋を広げる事となる。

 

 

――海軍休日の終焉

 ドイツのE艦隊計画に強烈な反発を示したブリテン。

 ドイツが世界中で大型艦を動かすと言う事は、世界帝国であるブリテンへの明確な挑戦であると認識したのだ。

 或いは、世界規模での通商破壊作戦を実施する力を欲しているとの認識だ。

 その反応にドイツは慌てる。

 ドイツとしては、12隻の装甲艦と言っても主砲は30㎝を越えず、砲門数も6門と少なく抑える事で戦艦では無いとの主張であったのだ。

 外洋航海に対応する為に、少し大きくなった巡洋艦 ―― その程度の認識であったのだ。

 だが東京軍縮会議では、巡洋艦の定義も定められていた。

 戦艦の補助戦力として整備を行わない様に20㎝砲を上限とし、基準排水量も1万tを超えぬ事が定められていたのだ。

 これを基にブリテンはドイツに対し、E艦隊計画の破棄を要求する。

 この要求にヒトラーは激怒した。

 上述の様に、ドイツ/ヒトラーとしては東京軍縮会議に対して配慮していたにも関わらず、ブリテンから一方的に断罪され、日本もアメリカもブリテンに協同しているのだ。

 断じて許せる筈が無かった。

 ヒトラーは東京軍縮会議からの脱退を宣言。

 世界の建艦競争が勃発する事となる。

 

 

 

 

 

(※1)

 E艦隊計画の象徴となる3万t級の大型巡洋戦艦の建造をヒトラーは求めたのだ。

 ドイツ海軍首脳部としては、大型艦の建造保有枠をZ艦隊計画で使い切っている為、反対であったが、ヒトラーとしては交渉の見せ金としての大型艦を欲したのだ。

 交渉が行き詰まれば、建造を中止し、それを以って交渉の妥結を目指すと言う理由であった。

 

 

 

 

 

 


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