タイムスリップ令和ジャパン   作:◆QgkJwfXtqk

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061 彼らの海/我らの海-1

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 東南アジアや南米、アフリカで活動を行っているドイツであるが、その本国域外に於いて本命と呼べるのはチャイナであった。

 特に、戦闘機や戦車などの売却を対価とする資源、希少資源の確保はドイツ経済にとって死活的な問題に繋がる部分もあった。

 この為、チャイナとの交流と交易は、政府よりも民間が積極的であった。

 武器弾薬に医療品、食料品や衣料品その他色々と。

 満州事件によってアメリカ/フロンティア共和国と本格的に対峙し戦争状態に陥ってはいないものの、事実上の戦時体制へと移行しつつあるチャイナは物資をあればある程に購入する様になっていた。

 ドイツ中の企業が沸き立つのも当然であった。

 又、ソ連も対シベリア共和国を睨んで軍事物資の購入を行っており、それ以上に経済発展 ―― 重工業の涵養に必要な物資をドイツから買いあさっていた。

 その上で、ドイツは経済の血液である石油を、ベネズエラより安定的に供給を受ける事が可能になっているのだ。

 活性化した外交、そして宣伝省の活躍によってドイツ国内の雰囲気は極めて盛り上がり、景気に空前の好況感を与える事となっていった。

 

 

――ドイツ

 チャイナにⅣ号戦車を筆頭とした大量の軍事物資を売却する契約をしていたドイツだが、その大量の物資の輸送は上手くいっていなかった。

 先ず問題となったのはドイツの海運業界が持つ輸送力 ―― 貨物船の量と規模の問題であった。

 貨物船をドイツが保有していないと言う訳では無い。

 だが、それらは既に民間の交易で運用されており、ドイツからチャイナまで無寄港で到達可能でドイツ政府が傭船出来る大型船は極々少なかったのだ。

 徴発が不可能と言う訳では無いのだが、ヒトラーは民間に負担を掛けない事を公約に掲げている関係上、政治的に困難であった。

 航海に於いて無寄港を要求される理由は、ドイツがG4を筆頭とする国際社会と対立状態にある為であった。

 ブリテンやフランスの持つ世界中の植民地に寄港した場合、何の嫌がらせを受けるか判らない。

 そうドイツは判断していた。

 補給や上陸を断られたりするのは可愛いもので、難癖を付けて物資の接収が行われるかもしれないと危惧していたのだ。

 その上でアメリカが居る。

 チャイナへの軍事物資の売却を大声で非難しており、対抗手段を取ると明言しているのだ。

 この時点で国際連盟の安全保障理事会では、チャイナの地で起こっている軍事的衝突の再発と拡大を抑止する目的で、国際連盟加盟国に対してチャイナへの軍事物資売却の自制を求める内容の決議が行われていた(※1)。

 ドイツは、この決議を拡大解釈したアメリカが軍艦を派遣し、公海上でドイツ貨物船を拿捕する事を恐れた。

 この為、ドイツは就役していた大型艦から、戦艦シャルンホルストと装甲艦アドミラル・グラーフ・シュペーの2隻を抽出、これに仮装巡洋艦や補給艦を組み込み船団護衛部隊、モンスーン戦隊を編成する事と成る(※2)。

 航路に関しては、外交で、親ファシズム的な立場を取っていたポルトガルの協力を得る事に成功し、途中の寄港地としてポルトガル領モザンビークを使う事が可能となった。

 真水や食料、燃料の補給はそこで出来る事となった。

 とは言え戦艦を含む大型艦船への補給となればその必要な量は莫大であり、辺境と言って良いポルトガル領モザンビークで賄うのは中々に難しいのが現実であった。

 この為、ドイツはポルトガルに対して補給物資の対価とは別に資金を提供し、事前に物資の集積を依頼する事となった。

 

 

――アメリカ

 ドイツの軍事物資の輸送船団を妨害する為、アメリカは巡洋艦の派遣を検討していた。

 足が速く長い新鋭のブルックリン級軽巡洋艦で2乃至3隻程度の小規模な任務部隊を編成すれば、捕捉に失敗する事も無いだろうし、接触し続ける事も可能であろうとの判断であった。

 そこにドイツ・モンスーン戦隊の戦力情報がもたらされた。

 戦艦を含む大戦力である事を知ったアメリカは、頭を抱える事になる。

 ドイツの正気を疑うと共に、ブルックリン級による妨害部隊(ハラスメント・ユニット)の編制と派遣は諦める事となった。

 ソ連と並ぶ粗暴な独裁国家としてドイツを見ていたアメリカは、ドイツが万が一に血迷う ―― 妨害部隊への攻撃を行う可能性が高いと判断していた。

 戦艦と装甲艦を前にすれば、如何に新鋭とは言え所詮は軽巡洋艦でしかないブルックリン級では散々な結果になるのは目に見えていた。

 そんな状況で血に飢えた粗暴なドイツ人が踏み止まれる筈がない、と。

 ドイツ人への酷い風評、或いは偏見であったが、ドイツ連邦帝国(ナチス・ドイツ)実績(・・)を見れば、強ち間違えていないと言うものであった。

 その上で、グアム共和国(在日米軍)から未来にして過去に起こされた独逸第3帝國の蛮行(・・・・・・・・・)を伝えられているのだ。

 とてもではないがドイツ人の理性に期待など出来るものでは無い、そう判断していた。

 であれば通常は、理性を発揮せざるを得ないだけの戦力を投入するものであるのだが、現時点でのアメリカには戦艦であるシャルンホルストに対抗できる高速艦が存在していなかった。

 高速性であれば、シャルンホルストを超える戦闘艦はある。

 火力であっても、シャルンホルストを超える戦闘艦はある。

 だが高速性能と火力とを併せ持った戦闘艦、いわば高速戦艦をアメリカは保有していなかったのだ。

 東京軍縮条約体制下で新造艦の整備が止められていた事が理由であった。

 現時点で30ノットが発揮可能な50000t級高速戦艦4隻の建造と、ドイツの装甲艦への対抗を目的とした25000t級大型巡洋艦6隻の建造を予定しており、アメリカが無策と言う訳では無かった。

 特に25000t級大型巡洋艦は、その1番艦と2番艦は整備計画がアメリカの議会を通ると同時に、臨時予算措置で着工まで行われていた(※3)。

 アメリカは、ドイツの長距離航行可能な高速戦闘艦を恐れていたのだ。

 或いは、今の状況を予見していた。

 残念ながら、今回は対応が間に合わなかったが。

 この為、アメリカは対策として任務部隊に空母を組み込む事を考えた。

 艦載機を用いて遠距離から接触し続け、行動を監視する事としたのだ。

 だがその案では一定の安全は確保出来はするものの、ドイツが本格的に任務部隊への襲撃を図った場合には遁走するしかない点に於いては、さして差のある案では無かった。

 護衛戦力の必要性と不足とを痛感するアメリカであったが、そこへ救いの手が差し伸べられた。

 差し出したのはフランス。

 G4の連絡部会に於いてシャルンホルストに優越する火力と伍し得る速力を持った最新鋭の高速戦艦ダンケルクの、乗員込みでの提供(リース)を申し出たのである。

 対価は大規模な車両 ―― 小型四輪駆動車やトラックなどの提供である。

 フランスは、フランス領インドシナに於いて治安維持活動に必要な各種車両が不足していたのだ(※4)。

 アメリカはフランスの提案を二つ返事で受け入れた。

 最新の小型4輪駆動車(ジープ)を含む、各種車両約2000台の提供を約束した(※5)。

 こうして有力な護衛戦力を得る事となったアメリカ海軍は、空母1隻巡洋艦2隻の大西洋艦隊第1任務部隊(TF-21)(※6)を素早く編成すると、フランスへと派遣した。

 

 

 

 

 

(※1)

 この決議に付帯し国際連盟安全保障理事会は国際連盟加盟国に対し、チャイナへの軍事物資の輸送と思われる貨物船の貸し出し要請を受けた場合の拒否及び安全保障理事会への報告を求めていた。

 この点に関しG4やドイツなどの国家以外の外交代表から、民間の経済活動を抑止しようというのはいかがなものかと疑念が述べられたが、国際連盟安全保障理事会のメンバー国は、民間を否定するものでは無いが紛争を抑止する事が優先されるべきと反論した。

 この為、ドイツは外国籍貨物船の傭船を諦めたのだ。

 

 

(※2)

 モンスーン戦隊は、シャルンホルストを中心に7隻の戦闘艦と補給艦から構成されている。

  戦艦    1隻(シャルンホルスト)

  装甲艦   1隻(アドミラル・グラーフ・シュペー)

  駆逐艦   2隻

  仮装巡洋艦 2隻

  補給艦   1隻

 戦隊に航続能力に乏しく居住性が限定的であり遠洋への投入に問題を抱えているドイツの駆逐艦が含まれて居る理由は、潜水艦への警戒であった。

 バルト海にてソ連が行った事と同じことをアメリカが行うのではないかと警戒したのだ。

 特にアメリカの植民地であるフィリピンにはアメリカの潜水艦部隊が配置されている。

 警戒しない理由が無かった。

 尚、外洋に於ける哨戒の主力として期待されたのは水上機の運用機能を強化された仮設巡洋艦であった。

 

 

(※3)

 それだけ25000t級大型巡洋艦をアメリカ海軍に必要としていた。

 アメリカ議会には余りにも建造を急ぐ姿勢に疑念を抱く議員も居たのだが、後に、このシャルンホルスト級とドイッチュラント級の脅威を再確認する情勢に至って、アメリカ海軍の慧眼を称える様になった。

 尚、25000t級大型巡洋艦の設計が素早く完了したのは、グアム共和国(在日米軍)の協力あればこそであった。

 米海軍(・・・)が嘗て保有していたアラスカ級の設計図を参考にし、その運用実績を加味した上で設計されていた。

 そこまで手間を掛けたにも関わらず短期間で設計図が完成したのは先進技術(コンピューター)の賜物であった。 

 25000t級大型巡洋艦は、アメリカ海軍が先進的手法で初めて建造する大型艦であった。

 技術的な特徴としてはアメリカが独自に開発した自動装填装置付きの12in.砲の存在があった。

 その他、徹底的に建造の効率を追求した設計が行われている事が特徴となっていた。

 結果、25000t級大型巡洋艦は着工から1年6ヶ月で就役すると言う記録を打ち立てる事となる。

 最終的に27400tの大型巡洋艦として生まれた艦はアラスカと命名さられた。

 

 

(※4)

 フランスの自動車産業も発展しては居たのだが、フランス国内に於ける混乱 ―― 所謂“平穏の為の平和の否定(レッド・パージ)”によって生産の現場は効率的な商業活動を行えていない事が最大の理由であった。

 又、予算面の都合もあった。

 フランス政府は国内の混乱やフランス領インドシナの独立運動に対するに当たり、特別予算を組みこそすれど、それは戦時予算の様な規模にはなって居なかった。

 危機感の問題というよりも、融和派や民族派との政治的な取引の結果であった。

 2つの派閥、特に避戦を重視し平穏な社会情勢の下での経済発展を重視する融和派が、国庫への負担の大きい大規模な軍事予算に難色を示した為である。

 フランス政府部内にも、この状況を楽観視する者も少なからず居た事が、この妥協に繋がった。

 結果としてインドシナ連邦軍で使用する車両が不足する事と成った為、フランス政府は金を掛けずに車両を入手する手段を模索し、その結果が、アメリカに対するダンケルクの貸与と物々交換(バーター)での各種車両の提供申し込みであった。

 

 

(※5)

 一度の貸与に対する対価としては大盤振る舞いと言って良い。

 この背景の1つには、アメリカ国内でトラックの在庫がだぶついていたのが大きかった。

 アメリカの自動車業界は、グアム共和国を経由して未来の自動車の方向性を知り、その方向性に基づいた新技術を開発し、それを投入した新世代の自動車を市場へと送り出す様になっていたのだ。

 市場も、アメリカ人たちはそれを歓声を持って受け入れており、その為に旧式の車両は不人気となって売れなくなっていたのだ。

 ある意味で、アメリカ国内の中古車市場、その健全性を維持する為の不良在庫一掃という側面があった。

 この為、使う現場であるフランス領インドシナのインドシナ連邦軍は車両の故障や補修部品の不足に苦しむ事になり、フランス政府に苦情を上げる事になるのだが、フランス政府は事実上無償で手に入ったのだから文句を付けるなと黙殺した。

 尚、ジープに関しては初期生産分であり、ある意味で先行量産型の実地テストを押し付けた側面があり、此方も少なからぬ故障が発生していた。

 

 

(※6)

 TF-21は、最終的に6隻の戦闘艦で構成される事となる。

  戦艦    1隻(ダンケルク)

  空母    1隻(レンジャー)

  巡洋艦   2隻

  大型駆逐艦 2隻

 大型駆逐艦は、ダンケルクを貸し出す際にフランスがジョフレの前例(潜水艦による被害)を思いだし、万が一に備える為として、追加で提案したものである。

 アメリカは戦力が増える事を肯定的に判断し、フランスの提案を受け入れた。

 航続能力の問題に関しては大型駆逐艦は比較的余裕を持っている為、フランスがアフリカなどに有している植民地で補給を行えれば問題は無いだろうと判断された。

 それでも念の為、アメリカは高速補給船を2隻、手配していた。

 

 

 

 

 

 




2019.11.02 文章の修正実施
2019.11.02 文章の記述修正実施
2019.11.02 文章の記述修正実施

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