065 満州事件-4
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ユーラシア大陸東部での戦雲の高まりに、アメリカ政府は痛痒を感じつつも対応の準備を進めていく。
アメリカにとってチャイナはその人口故に市場として期待できる面はあるものの、同時にチャイナ人がフロンティア共和国で暴動を繰り返した事で否定的な感情を抱いているのだった。
それは、チャイナに商売をする為に入国した人間が手荒く扱われた事も理由にあった。
この為、将来に起こるであろう戦争はフロンティア共和国の防衛が主目的で在り、間違ってもチャイナ本土進攻を予定しない作戦計画が立てられる事となった。
侵攻して来るチャイナ軍を都度都度で打ち払い、併せて航空戦力による
グアム共和国(在日米軍)から得た
――日本連邦国
チャイナとの全面衝突を想定とした戦争準備を進める事となったアメリカが頼ったのが日本だった。
とは言え参戦を求める訳では無い。
軍需物資の売却や医療支援、或は将兵の休息に関する協力要請であった。
この要請を受けた日本は、アメリカとの間で締結されている対ソ連として締結されていた極東軍事協定に基づいて受諾する事となる。
その中には、チャイナの洋上封鎖作戦を行う際の支援と共に、寄港地として
又、グアム共和国(在日米軍)に対して、アメリカ合衆国の特別州 ―― グアム特別自治州としての動きを要求した。
目的は、米海兵隊を基幹としたグアム共和国陸軍の派遣である。
グアム共和国軍は、その成り立ち故に自衛隊を除く日本連邦統合軍の中で別格の位置にあった。
人口規模故に1個師団しか編成されてはいないが、連邦統合軍の中では唯一、師団編制の中に
この為、日本連邦統合軍統合司令部では、戦略機動予備としての役割を与える程であった。
その第501機械化師団の投入の要求であった。
日本政府は、グアム共和国政府の判断を確認した上で容認する事となる。
この他、フロンティア共和国政府がシベリア共和国に対して参戦要請を出す事となる。
此方は相互安全保障を謳った東ユーラシア安全保障協定に基づいたものであった。
広大な面積を有する満州の大地を守るには、部隊は幾らあっても多すぎると言う事は無かったのだ。
この要請を受け、シベリア共和国は日本に確認の上で1個機械化師団(第702機械化師団)と2個自動化師団(第712自動化師団 第714自動化師団)の派遣を決定する。
守勢任務向けの装備が与えられている自動化師団が派遣されたのは、主たる役割がフロンティア共和国の国境線防衛であると説明されたからである。
又、対ソ連との前線から重装備の機械化師団を複数抽出し派遣する事に日本連邦統合軍シベリア総軍司令部が反対したと言うのも大きい。
ソ連軍の活動は、カレリア地峡紛争以前より活性を失っていたが、油断できるものではないというのがその判断理由であった(※2)。
――パルデス
ユダヤ人国家であり、同時にフロンティア共和国とシベリア共和国の衛星国でもあるパルデス国は、東ユーラシア安全保障協定に基づいた戦力の派遣をアメリカから要求されると同時に承諾していた。
国家の興亡、或は維持が血を以って贖われる事を理解しているが故の事であった。
とは言え産業に乏しいパルデス国の経済事情は良好とは言い難く、その為、保有する軍備も機械化どころか自動化も充分ではないのが実状であった。
この為、参戦の対価としてパルデスはアメリカに対して広大な満州で活動するに十分な量の自動車に始まり、戦車や装甲車の提供を要求する事となる。
これに対してアメリカは、フロンティア共和国で製造しているトラック類の優先提供を約束した。
戦車に関しては、装備更新に伴って余剰となっていたM2系の戦車が提供されていた。
だが装甲車に関してだけは、提供が行えぬとの返答であった。
パルデスの念頭にあったのは日本が手頃な値段で世界中に売却しつつある全装軌式の装甲車(※3)であったが、アメリカでは全装軌式の装甲車両をまだ開発と配備を出来ずにいたのだ。
工業力、或は技術的な限界が理由であった。
戦車を開発製造する技術を踏まえれば、全装軌式装甲車が必要とするエンジンや足回りを造れない訳では無いのだが、それでは戦車と同じ様な値段の装甲車となってしまうのだ。
それでは数を揃える事が出来ず、意味が無いと言うのがアメリカの軍上層部の判断であった。
これはアメリカだけではなく、ブリテンやフランス、その他の先進諸国でも同様であった。
この為、装甲化された人員の輸送に関しては
とは言え此方も安いとは言えず、しかも平時体制であったアメリカ軍の予算では、その軍内部の需要を満たす程の量を揃えては居なかったのだ。
この為、装甲化人員輸送手段に関しては将来的な提供の約束に留まる事となった。
――フロンティア共和国
アメリカの号令の下、戦時体制に突入する事となる。
この事がフロンティア共和国内での人種問題 ―― チャイナ系フロンティア人や在留チャイナ人と、それ以外の民族との間での緊張感を呼ぶ事となる。
この為、在留チャイナ人やチャイナ系フロンティア人の中にはフロンティア共和国からチャイナへの移住を図る人間が少なからず出た。
又、ごく一部のチャイナ系フロンティア人はフロンティア共和国軍に志願し、忠誠の証を立てようとした。
この、フロンティア共和国内部でのチャイナ人の動きが、チャイナにアメリカの決断を伝える事となった。
(※1)
グアム共和国軍第501機械化師団は、米第3海兵師団を母体としており、師団記章もその頃のものが継承されている。
とは言え、グアム本島の人口は20万を超える程度である為、その労働人口的な意味で2万人近い第501機械化師団を編成し続ける事は通常は不可能である。
既にタイムスリップして10年以上が経過し、退役した軍人もおり、若い兵卒も歳を重ねている。
にも関わらず、師団規模を維持できているのは、人員がアメリカ本土からも派遣されてきているからである。
これは当初、米海兵隊の持つ先進軍事技術の習得を目的としていた。
だが現在はグアム共和国(在日米軍)に対するアメリカの影響力確保が役割となっていた。
故にアメリカ海兵隊の帳簿上、グアム共和国陸軍第501機械化師団はアメリカ合衆国海兵隊第3師団でもあった。
尚、日本本土からも将兵は派遣されている。
これは将校の教育機関が日本連邦統合軍として統一され、日本本土の各学校で行われている事も理由にあった(※学校制度への提言や、教官の派遣も在日米軍として実施しており、全くの日本色に染まる訳では無い)。
ある意味で第501機械化師団は、日本とアメリカとの狭間に居る国家であるグアム共和国の象徴であり、日本とアメリカとの鎹でもあった。
(※2)
ソ連側の事情として、この時点でソ連軍は活動をかなり低下させていた事がある。
繰り返された戦争や粛清によって、ソ連軍は再編成の季節に入っていた。
又、ソ連指導部が
とは言え、戦力自体は移動していない為、油断など出来るものでは無いのだ。
にも関わらず、定期的に国境線付近を国章の描かれていない
日本連邦統合軍シベリア総軍としては警戒を緩める筈もなかった。
尚、ソ連政府内では、スターリンが10年を目処として日本との戦争を避ける方針を打ち出してはいた。
とは言え、スターリンは融和的な態度を日本に取る事が、日本にシベリア以西への領土的な野心を起させる可能性を危惧しており、日本と対峙している第1東方戦線に対しては、一歩も退かぬ態度を日本に対して示すように厳命していた。
(※3)
現在、日本が正式に販売を開始したのは38式装軌装甲車ファミリーであった。
アルゼンチンが非G4国家としては初めて導入し、その性能もさることながら整備性の高さと、整備性に裏打ちされた稼働率の高さから評判を呼んでいた。
38式装軌装甲車は、非先進国への売却と運用を前提とした、多少の性能向上よりも整備性を優先した設計が成されている。
補修部品も、高品位高精度な日本製でなくても良い様に設計されている。
この為、列強クラスの国家であれば性能面であれば38式装軌装甲車に準じた装軌装甲車を量産する事は可能であった(※値段に目をつぶればと言う但し書きは付くが)。
とは言え日本製と言う
2019/11/17 文章修正
2019/11/17 文章追加
2019/11/20 文章修正