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アメリカが政治的にも軍事的にも準戦時態勢へと移行した事はチャイナに恐怖を与えた。
彼我の国力差を良く理解するチャイナ政府は、国民世論を基にしたアメリカとの対立こそ是としてはいたが、全面対決 ―― 戦争は全く望んでいなかった。
最低でも、ドイツに発注していた武器弾薬類が届くまでは戦争を行う気は無かった。
その為、慌てて融和姿勢へと舵を切る事となる。
又、国際世論に平和を訴える事も併せて行う。
国際連盟の場で、チャイナ北部に関する平和化に向けた努力を提案していく。
又、南チャイナの領域で交易関係を維持しているブリテンとフランスに対して強い働きかけをする事となる。
――アメリカ
チャイナの平和希求の行動は、守勢攻撃に向けた準備で戦意が折れた ―― そうアメリカは理解した。
だが同時にチャイナ国内の世論が対アメリカ強硬路線である為、最後までチャイナが折れる可能性は乏しいとも判断していた。
この為、チャイナと和平交渉を行うのと並行して、現時点で行っている戦争計画の準備を進める事とした。
和戦両様の構えである。
事前に声を掛けていた3ヵ国に加えて日本と
そこにはチャイナの民心を威圧すると言う側面もあった。
実施する場所は、フロンティア共和国とチャイナの国境線地帯 ―― チャイナ側へと国境線を押し出している
――チャイナ
積極的な和平交渉に出たチャイナ。
その中でアメリカとの大きな争点になったのは、チャイナ国内に於けるアメリカ人の排除であった。
チャイナ政府としては、民間で大きな流れとなっているアメリカ人排斥運動を止める事は難しいと言う態度であった。
チャイナ側からすれば、チャイナ人の反アメリカ感情はフロンティア共和国でのチャイナ人の扱いに起因するものであり、チャイナ側がそれを受け入れるのは困難であると言う主張である。
だが、アメリカはそれを受け入れなかった。
フロンティア共和国でのチャイナ人の扱いに関しては、治安維持の側面から行われているものであるというのが理由であった。
そこでチャイナは、相互の排斥活動の禁止を提案するが、それもアメリカ側は拒否する事となる。
アメリカはチャイナ人の排斥的政策を行っても居ないフロンティア共和国が、明らかにアメリカ人の排斥運動を実施しているチャイナと同列に語られる事は異常であると反論した。
事、この時点でチャイナは気付く事になる。
アメリカは交渉をしている積りは無いのだと。
非戦を目指すのであれば、アメリカが求める事をチャイナはまる飲みせよと要求していたのだと。
チャイナは恐怖した。
この交渉に前後して各国のメディアを受け入れての満州大演習が行われており、1000台近い
これにフロンティア共和国内に残る部隊や、チャイナ領への
チャイナ政府はチャイナ軍司令部に対しアメリカ軍へ対抗しうる可能性を確認した所、現有兵力では平野部の多い河北部 ―― 中心となる北京を含めて黄河北岸側の保全は不可能であるとの返答であった。
であれば江南 ―― 長江以南への引きずり込みを図ればどうかと追加して尋ねた所、今のチャイナの国際関係では支援が受けられぬ為に抵抗が成功する見込みは無いとの返事であった。
周辺諸国がアメリカの
ドイツなどへの支援を求めても届く当てもないというのが実状であるという返事であった。
開戦すれば必敗、その返答にチャイナ政府はアメリカへの妥協を選択する事となる。
――チャイナ共産党
チャイナ政府内に居る情報工作員からの報告によって、チャイナ政府がアメリカとの妥協へ外交の舵を切った事に歓喜していた。
これで、チャイナ政府とチャイナ人との間での断層が生まれるとの判断である。
1940年の時点でチャイナ共産党はチャイナ政府からの攻撃と弾圧を受け続けた結果、軍閥としての組織を維持し続けるのが困難な状況に陥りつつあった。
であればこそ、チャイナ政府がチャイナ人民の支持を失う事は願っても無い慶事であった。
チャイナ共産党指導部は、当座は武力的な活動よりもチャイナ人の不満が高まる様に宣伝工作に力を入れていく事となる。
又、戦力涵養の為、ソ連に接近していく事となる。
経済支援や軍事支援を求めたのだ。
当初はソ連とチャイナの関係から難航した。
ソ連はドイツを介してチャイナとも近い関係にあった為だ。
これはチャイナが対峙するフロンティア共和国がソ連の敵であるシベリア共和国と同盟関係にあるが故の部分があった。
チャイナに協力する事でフロンティア共和国へ圧力が掛かり、最終的にシベリア共和国の国力が低下する事を狙っていたのだ。
この関係が、チャイナがアメリカへの妥協姿勢を国際社会で打ち出した事で破綻したのだ。
ソ連はチャイナに変わる、対
――アメリカ-チャイナ1940 融和条約
紆余曲折の末、アメリカの要求をまる飲みする形で外交交渉は終結する事となる。
チャイナ領域に於けるアメリカ人の保護義務をチャイナ政府は受け入れた。
その上で、チャイナ領内での非アメリカ/フロンティア政府軍を除く
フロンティア共和国とチャイナの国境線には50㎞の非武装地帯が設定される事となった(※2)。
又、アメリカへの賠償として、チャイナに対するアメリカ/フロンティア共和国製品の輸入関税の、向こう10年間の停止も行われる事となった。
尚、チャイナの軍事装備の更新に関しても明確な枠こそ作られなかったが“平和の為に自制的に行うものとす”という文言が条約に含まれて居た。
この余りの屈辱的内容に、チャイナ人の世論は沸騰する事となる。
――チャイナ
チャイナがアメリカと締結した融和条約は、チャイナ人にとって到底受け入れられるものでは無かった。
アメリカ帝国主義への反対と、それを受け入れたチャイナ政府の弱腰に対する反発が大きく盛り上がる事と成る。
とは言え、チャイナ政府はそれらの反対運動を、融和条約に基づいて取り締まっていく。
チャイナ国内で高まる不満の矛先は、同じ帝国主義者への抵抗運動を行っているフランス領インドシナへと向かい始める。
同じアジア人の連帯を叫び、アジア人の裏切り者である日本人やチャイナを蝕むアメリカ人などの
この動きは少なからず日本 ――
(※1)
満州大演習
参戦兵力 約100,000人
参加AFV 約 1,000両
参加野砲 約 1,500門
10個師団
1個旅団
1個連隊
アメリカ
1個師団(機械化)
日本
1個連隊(機甲化)
グアム共和国
1個師団(機械化)
フロンティア共和国
1個師団(機甲化)
1個師団(機械化)
2個師団(自動化)
シベリア共和国
1個師団(機械化)
2個師団(自動化)
パルデス国
1個旅団(機械化)
1個師団(自動化)
戦闘序列
在フロンティア共和国アメリカ作戦司令部
満州大演習第1軍集団
第1軍
第1軍団
第11機械化師団(アメリカ)
第5歩兵師団/機械化(フロンティア共和国)
第702機械化師団(シベリア共和国)
第4軍団
第3海兵師団/第501機械化師団(グアム特別自治州/グアム共和国)
第1独立装甲連隊(日本)
第7機甲旅団(パルデス国)
第2軍
第2軍団
第3師団/自動化(フロンティア共和国)
第4師団/自動化(フロンティア共和国)
第712自動化師団(シベリア共和国)
第714自動化師団(シベリア共和国)
第3軍団
第2師団/戦車(フロンティア共和国)
第204自動化師団(
2個の軍に分かれての対抗戦である
尚、
当然、事前に日本からの了承も得ている。
但し、邦国として
(※2)
これは国境線からチャイナ領での50㎞である。
同時に、上空を
チャイナ政府も当初は、領土割譲に近い条件であると難色を示したが、アメリカは譲らなかった。
今回の満州事件がチャイナ領からの攻撃が始まる切っ掛けと主張し、それを押し通したのだった。
2020/03/13 文章修正