007 欧州の余波
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――ブリテン
最初のインフラ輸出先となったブリテン。
そこでブリテン人の目を引いたのは、高性能な作業機械もであるが、先ず何よりも自動車だった。
日本政府が気を効かしてブリテン王室へと贈呈した自動車は日本政府が特注した最上級のそれであり、その佇まいと機械的な信頼性が評判を呼んだのだ。
特に、貴族たちはこぞって購入する事となる。
ブリテン製自動車とは比較にならない機械的な信頼性と居住性。そして高価格と相まって、日本製自動車を持つ事がステータスシンボルとなっていく。
日本はブリテンに於ける日本ブランドの確立の為、自動車 ―― 高級車専用の整備工場を生み出した。
ブリテンは英国大使館と共同で、ブリテンの経済拡大を主目的とした経済政策を纏める事となる。
10年後を見据えた軍事力の拡張よりも、20年後を見据えた経済力を求めたのだ。
製鉄所を含む重工業の再建と投資。
その市場としてのブリテン植民地への投資が行われて行く事となる。
建前としては植民地ではなく、ブリテン連邦加盟国への国力涵養としての投資として。
これによってブリテン政府は莫大な負債を抱えていく事となるが、同時に、経済の活性化に成功する。
第2次産業革命とも自称する事となる。
――フランス
日本の情報でドイツの再隆起を知ったフランスは、対ドイツ戦争計画の立案を始める。
具体的にはドイツが再軍備を行った時点で宣戦布告である。
その軍備が整う前にドイツ経済の心臓部でもあるルール地方を掌握し、フランス-ドイツの国境線を東へと100㎞押し込む事を決断したのだ。
世界大戦の傷跡癒えぬフランスであったが、国家の矜持として決してドイツの風下には立たぬという決意があった。
その事が日本との関係強化に繋がっていく。
1つは、日本がフランスの毒ガス汚染地帯の防除にと持ち込んだ各種の土木機材である。
民生用の機材ではあったが、その作業効率は驚異的の1言であったが為、将来のドイツ戦を睨んだ場合、野戦築城――塹壕の設営その他に大なる効果を発揮すると認識。
当時、フランスに派遣されていた民間の技術者は、フランスからの各種接待によって装備の融通こそしなかったものの、様々な発想を伝えた。
それを元にフランス政府は国内メーカーへ類似のものを発注する事となった。
とは言え、日本の持ち込んだソレは油圧式のディーゼル機であり、電子制御され無人作業すら出来る程の最新鋭型であった、
その様なモノ、到底まねのできる筈も無かった。
であればと、日本への売却を要望する事となる。
併せてフランス国内に製造工場の誘致も要請した。
日本は売却を受諾する。
只、製造に関しては国内工場での一括製造を行って居た為、不可能である事を回答し、整備工場と訓練所の併設という形をとった(※1)。
――ドイツ
フランスから極度に敵視されている為、経済的な混乱と政治的な混乱が悪化の一途を辿る。
その為、強い反フランス思想が醸成されていく。
パブなどでも「フランスの死か、我らの死か」と叫ばれる程になっていく。
ついでにユダヤ系への憎悪もぶち上げられるのが国家社会主義の政党の常だった。
国家社会主義の泡沫政党に、日本から密航した独国外交官であった若者が接触した。
彼はネオ・ナチだった。
ゲルマンの、ドイツ人のドイツを取り戻す為、危険を乗り越えて魂の祖国へと渡ったのだ。
彼の苦労は報われる。
――ポーランド
ドイツへの未来情報の漏えいはネオ・ナチの若い外交官だった。
だがポーランドに関しては、在日本波国大使館の総員が関わっていた。
祖国の滅亡と塗炭の苦しみを回避する為に、どうするべきかと苦慮しての結果だった。
結論は、現状では軍事力に乏しいドイツへと先制攻撃をする事によって、ドイツという国家を滅亡させてしまえば、残るはソ連への対応だけである。
そちらは隙を見せなければ何とかなるであろうという計算だった。
事実上の新興国であり、ポーランドの軍事力も立派とは言い難いが、フランスがドイツへ攻撃的な政策を行っているのを見て、共同して殴り掛かれば問題ないという結論に達したのだった。
後は、戦車などを如何に揃えるか。
ポーランドと波蘭大使館は、日本を活用する事を検討する。
(※1)
ノックダウン形式であれば不可能では無いのだが、ジャパン・プレミアムとして日本は国内での製造に拘った。
ブランドを生み出す為であった。
安い取引はしないという意思表示でもあった。
メイドイン・ジャパンの銘板が付けられた機材は高級品であると認識させようというのだ。
又、工場を設置しない理由はもう1つあった。
将来にあり得る第2次世界大戦である。
フランスとドイツの戦争が勃発した場合、工場が接収され、或は略奪されるのが見えて居た為、その様な危険を冒す気になれなかったのだ。
2022.10.18 構成修正
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