タイムスリップ令和ジャパン   作:◆QgkJwfXtqk

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A.D.1941
075 アメリカの帝国主義-3


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 チャイナを狙い撃ちにした紛争国への武器輸出制限に関して筋道が見えてくると、次にアメリカは軍事政権国家に対する武器の輸出制限を国際連盟安全保障理事会に提案した。

 無論、その標的はドイツとの急接近を図っているベネズエラだ。

 アメリカは、ドイツがアメリカ大陸に手を出す事を許す積りは無かった。

 躊躇の無い力の行使。

 それを、正義(・・)として行うのだ。

 建前として、ベネズエラの軍事政権による一般市民への圧政を阻止すると言うものであった。

 軍事政権が行っている政策と行動を、圧政と見える様に針小棒大に脚色した報告書をいつも国際連盟安全保障理事会に提出する。

 それは情報戦であり、宣伝戦でもあった。

 グアム共和国(在日米軍)の手ほどきを受けて行われたソレは、国際連盟に加盟する国々の世論に大きな影響を与える事となる。

 それは人権意識であった。

 人が人として普遍的に得られるべき権利の保護。

 その目的の為、人道に基づき人を傷付ける武器の商業的な管理を行おうと言うアメリカの示した建前は、武器を商う国家以外にとってとても耳に心地良く響いたのだ。

 甘美な正義の響きである為、裕福な先進国の有権者たちが主導する国際世論は正義の名に酔う事となる。

 国際世論に推される形で、国際連盟の安全保障理事会はアメリカの意図通りに動く事となる(※3)。

 

 

――ベネズエラ

 軍事政権は、その国家の体面としてアメリカによる過度な干渉に対して大きく反発する事となる。

 だが同時にベネズエラ国内では反軍事政権派が、国外からの助力を基に軍事政権への対決姿勢を強めた。

 反軍事政権派は、軍事政権とドイツの接近がベネズエラに更なる軍事的な圧政を齎すと危惧していた為、アメリカの干渉は千載一遇のチャンスであると認識していた。

 この為、反軍事政権派はアメリカに接触し、協力を申し出る事となる。

 如何にベネズエラの軍事政権による圧政が過酷であるかを、ベネズエラ人の口から語ってみせたのだ。

 国際世論もだが、ベネズエラの国内世論も軍事政権に対して厳しい目を向ける事となる。

 これに軍事政権は大いに慌てる。

 慌てた結果、最悪の選択を行ってしまう。

 批判に対して弾圧を行えば、益々もって世論の風向きは悪化する ―― そう冷静に判断する事の出来ない人間が軍事政権の中枢に居たのだ。

 短絡的と言っていい判断で、ベネズエラ国内に報道管制を敷くと共に国家非常事態を宣言、軍部隊を街路に立たせて国内世論の引き締めを図ったのだ。

 その上で、国内のアメリカ人などの拘束を図った。

 最悪の選択であった。

 

 

――関係諸国の反応

 ベネズエラの軍事政権の選択に対し、アメリカは米大陸の正義を担うモノとしての行動を開始した。

 ベネズエラに対して遺憾の意を表明すると共に、不測の事態に備える為としてアメリカ大西洋艦隊から空母を基幹とした任務部隊をカリブ海に派遣する事を宣言したのだ。

 併せて、海兵隊の緊急展開部隊1個旅団に渡洋準備を命令した。

 判りやすい威圧であった。

 このアメリカの行動に慌てたのはドイツである。

 ドイツから見てアメリカの行動は、最早、ベネズエラの軍事政権打倒へ向けた準備行動に見えていた。

 ベネズエラはドイツにとって重要な石油の輸出元であり、軍需物資の輸出先なのだ。

 何としてもそれだけは阻止せねばならなかった。

 アメリカを牽制する為、ドイツは乏しい重油をやり繰りして戦艦と空母を含む大規模な艦隊をベネズエラに派遣する事を決定した。

 これは、最悪の場合でもドイツがベネズエラに派遣していた各タンカーの護衛とし、ドイツへと原油を満載にして無事に帰還させる為の戦力であった。

 戦艦ビスマルクと共に派遣する、就役したての空母グラーフ・ツェッペリンがあればアメリカもそこまで無法な事は出来ないだろうと言うのがドイツの判断であった(※1)。

 アメリカとドイツが空母と戦艦を含む大規模な戦力をカリブ海に派遣する事に、心穏やかで居られなかった国家がある。

 ブリテンだ。

 ベネズエラの隣国はブリテン連邦のガイアナであり、ガイアナ政府はブリテンに対し、ベネズエラで軍事衝突が発生した場合に備えた戦力の派遣を要請したのだ。

 又、ブリテン連邦に属する国々がカリブ海周辺に存在する事も、ブリテン連邦の盟主であるブリテンに、この状況を座視すると言う選択肢を与えなかった。

 ブリテンは、アメリカと連絡と連携をしつつ、此方も空母と戦艦を含む戦隊をカリブ海へと派遣する事となった。

 アメリカ、ブリテン、ドイツの海洋戦力がカリブ海で睨み合いをする事となる。

 

 

――ベネズエラ軍事クーデター

 ドイツの加勢があるとは言え、列強の上位存在であるG4の2ヵ国の戦力に睨まれる事となったベネズエラ軍事政権は慌てる事と成る。

 如何に穏便に事態を終息させるか。

 発端となったのがベネズエラ国内のアメリカ人の拘束である為、軍事政権内の穏健派は即時解放を行うべしと主張したが、これに強硬派が乗る事は無かった。

 ベネズエラという国の面子が掛かっているのだ。

 ここで列強、G4を相手にするとは言え、容易に引き下がっては更なる内政干渉を受けるだろうと主張していた。

 ある意味で正論であった。

 この為、ベネズエラは国際連盟の場にてアメリカとブリテンの非道を非難し(※2)、不当な内政干渉を即座に中止する様に要求した。

 国際連盟の総会は、ベネズエラの主張を一蹴した。

 アメリカが展開しているのは公海上であり、その要求は不当な拘束を受けている(アメリカ)国民保護である為、内政干渉では無いと言うのだ。

 国際連盟常任理事国の貫目 ―― 或は日本がタイムスリップ後に作り上げられてきたG4の主導権(イニシアティブ)は、国際連盟を発足当時の烏合の衆の如き何も決められない組織から、実際的な利害調整と危機対応組織へと変貌させていた。

 国際連盟は綺麗事を盾にした中小国家の泣き言を相手にする事は無いのだ。

 国際連盟安全保障理事会は、ベネズエラに対してアメリカ国民の即時解放と共に、ベネズエラ国内での国民に対する弾圧の停止を要請(・・)する事となる。

 完全にベネズエラの面子を潰す要請に、ベネズエラ軍事政権の強硬派は沸騰する事となる。

 国際連盟をG4による帝国主義の徒と呼び、断固とした対峙を主張する。

 対して穏健派は、国際連盟の安全保障理事会にて将来的な経済封鎖を含めた実力行使が話し合われていると言う事実を前に、妥協する事(・・・・・)を決定した。

 強硬派の排除 ―― 軍事クーデターだ。

 穏健派はアメリカと密かに連絡を取り、穏健派による一定期間のベネズエラ統治の継続と共に、将来的な民主選挙の実施を約束する事で協力を取り付ける事に成功した。

 アメリカとしては、中南米からのドイツ勢力を一掃できさえすれば良かったので、軍事政権の継続も民主主義化も、そこまで重要視する事では無かった。

 

 

――対峙

 軍事クーデターは、アメリカと軍事政権穏健派の交渉が成立後、即座に行われた。

 強硬派が何らかの行動を起こす前にケリを付けると言う算段であった。

 この為、穏健派はアメリカの軍事支援を要請した。

 アメリカは大西洋艦隊から空母を更に2隻派遣し、この要請に応じた。

 その上でアメリカはブリテンに対し、ドイツ艦隊の牽制を要請した。

 共に戦艦と空母を1隻づつ保有する戦力であった為、睨みあいをする事で膠着状態を作り出しやすかったのだ。

 ドイツは増勢されたアメリカ艦隊に気を配りつつ、ドイツ艦隊の傍で演習するブリテンの戦隊と対峙する事を強いられる事となる。

 この為、軍事クーデターに積極的に対応する時間を奪われた。

 気付いた時には、穏健派による政権奪取が終わっている有様であった。

 ドイツの面目を保たんと、グラーフ・ツェッペリンはベネズエラの首都、カラカスの上空に情報収集を目的と称して艦載機を飛ばそうとするも、ブリテンの艦載機が邪魔をして、示威行動を十分に果たす事は出来なかった。

 だが同時に、アメリカが3隻集中投入した空母の破壊力 ―― カラカスの強硬派軍部隊が簡単に掃討される様を間近に見て、空母の重要性を再認識する事とはなった。

 ドイツ艦隊はアメリカ海軍空母部隊の情報を手土産に、ドイツのタンカー船団を守りつつドイツへの帰路に就いた。

 

 

 

 

 

(※1)

 ドイツ初の正規空母として就役したグラーフ・ツェッペリンであったが、その戦闘力はヒトラーなどのドイツ政権中枢の人々が思う程に強力な訳では無かった。

 アメリカの艦載機は、既に2000馬力級のエンジンを搭載したものが主力となっており、対してドイツは1000馬力級である。

 しかも、ドイツの航空機開発と製造の軸足がジェットエンジン搭載機の開発と製造に移っている為に1000馬力級の艦載機の製造は満足に行われておらず、今回のカリブ海派遣でも定数一杯に艦載機を搭載出来ていなかった。

 一応、1500馬力級空冷エンジン機の新規開発をドイツ海軍としても行ってはいたが、試作機の飛行が始まったばかりであり、主力になってはいなかった。

 尚、今回のカリブ海派遣には、その試作機2機がグラーフ・ツェッペリンに搭載され、持ち込まれていた。

 ドイツ海軍は、今回の派遣で戦闘が発生する危険性は乏しいと判断していた。

 

 

(※2)

 自衛の範囲で動いていたブリテンが非難されるのは、日ごろの行いと言うべきであった。

 日本とフランスはブリテンを同情の目で見て、ドイツとソ連は猜疑の目で見ていた。

 

 

(※3)

 国際連盟加盟国が(ドイツなどから見て)安易に国際連盟安全保障理事会でアメリカを支持したのは、人道人権の言葉で国民が酔っていたと言う事と同時に、アメリカの目的が国際連盟の各加盟国の政府にとってそこまで刺激的では無い事も理由であった。

 独立した国家の内政に干渉するのでは無く、純然たる武器管理 ―― 国家の外側から、国民を弾圧する道具を無責任に供給する行為を止めようと言うだけなのだ。

 国民に圧政を行っている国家か或は軍事独裁政権の国家でも無ければ、国民世論に迎合し、その支持を集めたいと言う気分(スケベ心)が出るのも当然であった。

 

 

 

 

 




2020/01/07 文章修正

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