タイムスリップ令和ジャパン   作:◆QgkJwfXtqk

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083 チャイナ動乱-2

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 チャイナ政府とチャイナ共産党の間に立ち上る戦雲に、割って入ろうとする大アジア主義者(グレート・アジア)たちの蜂起を知った日本は手を叩いて喜んだ。

 愛する(・・・)チャイナが数を増やす機会(・・・・・・・)を得ようと言うのだ。

 喜ばぬ筈が無かった。

 その喜びのままに、日本は支援(・・)を決定する。

 但し、売名では無いのだから善意と言うものの表明はあからさまにやるものではない。

 日本が支援したとは判らない様に、ひっそりと行う事が決定した。

 具体的には、シベリア共和国にペーパーカンパニーを作り、動機(カバーストーリー)として社長がソ連に嫌な思いをさせられたから反チャイナ共産党で、ついでに商売の邪魔をするチャイナ政府が嫌いだから、とされた。

 シベリア独立戦争で鹵獲したものや、シベリア共和国軍装備を日本製へ更新する事で余剰となって倉庫に積み上げられていたモノ ―― 廃棄する予算も勿体ないと放置されていたソ連製の武器弾薬を送りつける事としたのだ。

 カバーストーリーを信じさせる為、表に立たせたのはロシア系日本人と言う念の入れ様である。

 これにはチャイナ人も簡単に騙されるしかなかった。

 

 

――G4

 日本の愛するチャイナの増殖計画(・・・・・・・・・・・・)であるが、日本はその前段階としてG4連絡部会の秘匿会議(オフレコ会)で議題にした。

 最終的にチャイナが分裂し、弱体化するとは言え、短期的には戦乱が加速するのだ。

 チャイナへの権益を持つアメリカ、ブリテン、フランスに一言、声を掛けるのも当然であった。

 特にフランスは、支援する予定の大アジア主義者(グレート・アジア)とフランス領インドシナで現在進行形として戦っており、その支援ともなれば気を遣う部分があった。

 対してフランスは、大アジア主義者(グレート・アジア)が武器を持ってフランス領インドシナに戻ってこないのであれば問題は無いと返答した。

 尚、その戻って来ないかの確認は、日本はフランスに対して積極的に協力(・・・・・・)するべきであるとも主張した。

 日本は、大アジア主義者(グレート・アジア)へ提供する武器を陸揚げする港として、チャイナに接するフランス領広州湾市の利用を認める事を対価として了承する事となる。

 フランス領インドシナの国境線監視とは、主要街道と入国審査所を介さないヒトやモノの往来(密入国)の摘発であった。

 この監視に日本は最新鋭機 ―― 輸出を前提にTAI(トヨタ・エアクラフト・インダストリー)*1が開発した双発ターボプロップ旅客機を基に、レーダーや様々なセンサーと通信機を積んだP-4対地監視機の投入を決定する。

 とは言え、日本連邦統合軍機を素直に投入すると国会で野党に追及される可能性がある為、日本政府は日本連邦統合軍軍事業務外注組織という体裁を取ってPMSCで対応する事とした。

 念を入れて日本の目の届きにくいグアム共和国に本籍を置く半民半官(アンダーグラウンド)な企業、後に日本の非公式非公開軍事作戦の遂行を担当するSMS(スズキ&マリー・スペシャルサービス)社の設立である。

 SMS社はP-4P(民間仕様機)部隊をフランス領広州腕市に展開し、フランス領インドシナの国境線監視に当たった。

 尚、SMS社の設立に併せて日本もグアム共和国(在日米軍)からの助言もあって非公開特殊工作部隊(アンダーグランド・ユニット)を整備する事とした、

 部隊名は特務情報隊(オメガ)

 社外に対してはSMS社の警備部隊として公表されており、その拠点は機密保持のし易いグアム島に置かれていた。

 日本の南チャイナ支援に関する諸行動に関してブリテンとアメリカは、特に否定する理由も無い為、行動を肯定する事と成る。

 只アメリカは、それとは別に日本がフランス領インドシナ国境線地帯に投入するP-4対地監視機へ興味を示す事と成る。

 フロンティア共和国国境地帯に投入している空中哨戒機が、地上の監視は乗員の視認に頼っているのとは異なり、P-4対地監視機は対地レーダーやセンサーと言った先進的な監視手段を持っているのだ。

 興味を示さぬ筈が無かった。

 国境線の広さと武器の密輸入と言う意味ではブリテンやフランスもアフリカで問題を抱えているのだが、此方は広大過ぎるからと、匙を投げているのが実状であった。

 空中からの国境線監視は、国力もだが監視する地域が広すぎてはどうにもならぬと言うのが、両国の実感であった。

 

 

――大アジア主義者(グレート・アジア)

 フランス領インドシナ帰りの人間が中心となって、チャイナ南方で武力蜂起を敢行した。

 その数約3万。

 瞬く間に勢力としての基盤となる都市を掌握した。

 チャイナ政府が軍の主力を北方、チャイナ共産党討伐に集めた隙を突いた格好だった。

 地方軍閥からも兵を動員していた為、その勢いを止められる兵力がチャイナ南方には存在しておらず、大アジア主義者(グレート・アジア)は破竹の勢いでチャイナ南方の沿岸域を掌握していく。

 そしてフランス領インドシナとの国境線地帯まで勢力を拡張させた時点で自らの望む新国家、チャイナ共和国 ―― 南チャイナの建国を宣言する事となる。

 腐敗し天命を失ったチャイナ政府を打倒し、チャイナに敵対的な諸勢力*2を国内から追い払い、チャイナ人を中心に諸族の王道楽土を作り出すのだと高らかに謳っていた。

 

 

――ジャパン系日本人

 武器の供与に絡んで大アジア主義者(グレート・アジア)と接触したロシア系日本人(日本政府工作員)は、交渉を進めるうちにとんでもないものを見る事となる。

 南チャイナ軍で活躍するジャパン系日本人だ。

 義士将校と慕われ、政治的な意味合いと役割を持った高級指揮官こそ居ないが、ジャパン系日本人将校たちは南チャイナ軍で重要な役どころを担っていた。

 その報告を受けて唖然とした日本政府。

 慌てて詳細と身元の確認を行う様に指示を出した。

 隠されている事でも無く、それどころか彼ら自身が自慢げに言う為、詳細は直ぐに判明した。

 北日本(ジャパン)邦国軍出身であり、大アジア主義(グレート・アジア)に賛同して軍を抜け、国を抜けてやって来たと言う事。

 総数は15名。

 フランス領インドシナでの戦乱を戦い抜き、生き残れた男たちはそれだけであった。

 日本政府は頭を抱えた。

 北日本(ジャパン)邦国に確認した所、確かにジャパン系日本人であると言う事であった。

 アジアを憂い、アジアの大義に殉じる為、軍を出て、国を捨てたのだと言う。

 日本政府は激怒した。

 日本政府は関東処分以来、名誉欲に取りつかれた様に見える旧帝国(ジャパン)軍人が、一事があれば何をしでかすか判らないと動向を警戒しており、北日本(ジャパン)政府に対しても行動の把握を命じていた。

 にも拘らず、北日本(ジャパン)政府は旧帝国(ジャパン)軍人が軍を辞め、國を出た事を報告しなかったのだ。

 しかもその理由が、ミスや失念していたからなどでは無く意図的なもの ―― 大アジア主義者(グレート・アジア)へ賛同した者たちへの情、身内意識による隠蔽である。

 日本政府が激怒するのも当然であった。

 しかも、ひっそりと活躍しているならまだしも、南チャイナの建国宣言以降は公然とマスコミに名前も顔も晒し、その活躍の詳細を語っているのだ。

 曰く、アジアの曙 ―― 世界史に於ける再興を目指すのだ、と。

 この事態に日本政府はフランス(活躍した場の主)が知るのも時間の問題であると判断し、自らの手で処断(ケジメ)を付ける事を決断する。

 北日本(ジャパン)邦国で情報の隠蔽に関わっていた全ての軍と政府関係者の処罰、服務規程違反による公職追放と被選挙権のはく奪、公安警察による身辺監視の実施が決定した。

 ジャパン帝国からの伝統で、名誉を重んじる社会である北日本(ジャパン)邦国に於いて、この内容は事実上の社会的死刑であった。

 そして、南チャイナ軍に参加した者たちへは物理的な死を与える積りであった。

 だが、実行前にフランスの情報機関が気付いた。

 即座にフランス政府は日本に対し遺憾の意(早急な原因と対応、そして謝罪の要求)を告げる。

 日本政府は素直に折れた。

 掴んでいる限りの情報を伝達し、その上で早急な処分(・・)の実施を約束した。

 謝罪 ―― 謝意に関しても、フランスが満足する回答(誠意とは金額)を用意した。

 1つは装備更新によって二線級はおろか練習用からも外され保管されていた車両の提供である。

 具体的にはフランス領インドシナで今最も必要とされ、かつフランスで用意するのは難しい装甲車、96式装輪装甲車200台の無償提供だ。

 そしてもう1つは、F-9戦闘機の海外売却開始時に於ける優先権である。

 フランスが欲するものを、欲するよりも少し多く用意する。

 この日本の提案をフランスは、満面の笑みと共に受け入れた。*3

 フランスが解決すれば、後は義士を自称する名誉乞食将校である。

 日本はフランスと共同で抹殺作戦を敢行した。

 少数のフランス領インドシナに残っていた者たちに対しては、非正規特殊部隊(オメガ・ユニット)による暗殺を実行した。

 夜間、トンキン湾の母艦おおすみを発ったV-22垂直離着陸機で現地へ高速で侵出し襲撃、そして撤退すると言う早業は、レーダーなど持たないベトナム独立派で対処できるものでは無かった。

 対して、人数の多いチャイナに居る者たちは無慈悲な処罰が実行された。

 南チャイナのチャイナ人を買収し、ジャパン系日本人に大東亜の為の壮行会(・・・)と称した宴会を行わせ、そこをステルス戦闘機であるF-3戦闘機で爆撃したのだ。

 現地に先行していた現地工作員が現地を確認し、レーザーで誘導した爆撃は、狙い誤る事なく目標となった宴会場を直撃した。

 念の為、と4発も叩き込まれたレーザー誘導2,000lb.爆弾は、爆心地を文字通り消し飛ばした。

 

 

――南チャイナ

 ジャパン系日本人将校たちに行われた爆撃。

 内陸の、南チャイナの領域であるにも関わらず正体に関わる情報を一切残さなかった高度な爆撃は、そうであるが故に、犯人が誰であるかを南チャイナに理解させていた。

 尚、ロシア系日本人(日本政府工作員)との交渉に携わっていた南チャイナの要人は、交渉の場の雑談でその点を率直に尋ねた。

 返答は笑顔だった。

 コーカソイド系らしからぬ曖昧な笑い(アルカイックスマイル)だった。

 何も言わぬその姿に、チャイナ人は怖気を感じ、以後、その点に触れる事は無かった。

 

 

 

 

 

*1

 TAIとは、トヨタ資本の民需向け航空機開発製造メーカーである。

 トヨタが航空機の製造に進出した理由は、その自動車メーカーとしての生産力が、このタイムスリップ後の世界では十分に発揮させられないと言う現実を睨んだものであった。

 シベリア開発などでの需要は旺盛であったが、それが乗用車の需要と言う訳では無かった為、工場を持て余したのだ。

 この持て余した工場と行員の転用先として考えられたのが、航空機の製造であったのだ。

 配下のスバルが航空機部門を持っていた為、それを中核として国内の中小規模の航空機メーカーを買収しTAIとして再編成したのだ。

 航空機開発メーカーの雄である三菱重工が日本政府の要請もあって拡大した日本の領域を縦横に飛び回れる中型以上の旅客機開発と製造を指向していた為、これ幸いと日本連邦外への輸出などを想定した小規模旅客機の開発と販売を商売の主軸とした。

 尚、TAIとしては小規模旅客機販売だけに終始する積りは無く、技術を研鑽し、最終的には大型旅客機の開発を行う積りであった。

 トヨタの航空機分野への進出を見て臍を噛んだのは、ホンダであった。

 優秀な航空機部門を持っていたが、その全てをタイムスリップで失った為である。

 とは言え、その開発データは残されていた為、再出発を決意する事となる。

 

 

*2

 この時点でロシア系日本人(日本政府)と好意的接触が行われていた為、南チャイナは慎重に外夷(ジャパン・アングロ)と敵対する文言を宣言から排除していた。

 その事に、大アジア主義者(グレート・アジア)でも過激派に属する人間は不満の声を上げていたのだが、実際問題として、フランスは兎も角として日本やアメリカと敵対して勝てると思う程に南チャイナの指導層は夢を見て居なかった。

 

 

*3

 この時点で、フランス領インドシナの紛争の天秤はフランスに傾きつつあったと言うのが大きい。

 勝者としての余裕があったのだ。

 フランス本土の対ドイツ部隊を除く、世界中のフランス軍を後先考えずに投入した結果でもあった。

 戦意に於いて不足の無いベトナム独立派であったが、大した後ろ盾も無しに世界有数の大国と戦い続ける事は困難であった。

 チャイナからの人や物資の融通(密輸)は、日本のP-4対地監視機が展開し、それに連動したフランス軍の掃討部隊が活動しだすと共に、急速に減少していく事となる。

 更に致命的であったのが、義勇兵として来ていた大アジア主義者(グレート・アジア)が南チャイナの建国に前後して、フランス領インドシナでの戦いに向けた戦意を喪失した事であった。

 その多くが、早急に帰国し南チャイナで地位を得るという事に関心を移していたのだ。

 これでは大アジア主義者(グレート・アジア)が戦力になる筈も無かった。

 その他、迫りつつある対ドイツ戦争を考えた場合、陸空の重要な戦力供出を期待できる同盟国としての日本の機嫌を損なう訳にはいかないと言う生臭い理由もあった。

 フランス領インドシナの戦乱が拡大した原因に日本の人間が関わっていた事は腹立たしいが、所詮は海外領(ドミニオン)の出来事であり、フランス人の死者は余り出ていない。

 それよりも本土たるフランスの防衛こそが最優先課題なのだ。

 フランス本土に戦禍を及ぼさせない為、日本を引き回さねばならないと考えていた。

 その意味で今回の日本の失敗(・・)天祐(神の助け)であると神に感謝をささげた程であった。

 傲慢さで知られるフランス人であったが、その程度の計算は行っていた。

 

 




2020/02/15 文章修正
2020/04/28 文章修正

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