事の始まりは中国、
以降各地で「超常」は発見され、いつしか「超常」は「日常」に、「
世界総人口の約八割が何らかの「特異体質」である現在、個性を悪用する
そう、
長きに渡るヒーローとヴィランの対立。数多くの犯罪事件と、その中で多くの命が散っていった。しかし、そんな時代も一人のヒーローの出現によって大きく変化することになる。
No.1ヒーロー、オールマイト。
彗星の如く現れたそのヒーローは瞬く間にヴィランたちを打ち倒し、笑いながら無辜の市民を救う。最強にして最高のヒーローの高らかな笑い声は人々に安心を、ヴィランたちには恐怖を与えた。
だからと言って、ヴィランもただそのような状況を見ているわけではなかった。各地で暗躍するもの。闇に潜み組織を広げるもの。
そう、悪もまた屈してはいなかった。
「連続失血死事件について?」
「はい、先輩の意見が聞きたくて」
警察の休憩所。タバコに火をつけた先輩警官に後輩警官が尋ねる。
「お前は何が引っ掛かっているんだ?」
「容疑者として追跡中のトガヒミコ。彼女が犯人なんでしょうか?」
「……現状で上がってるホシはそれだな。正直なとこ、それしか分かっていない、っていうのが真実かもしれんな」
ふぅと煙を吐きながら呟く。
「だが、俺はもう一人、別の存在も疑ってる」
「別の存在……」
先輩刑事の言葉にごくりと唾を飲み込む後輩刑事。
「というのも、単独犯にしては活動範囲が広すぎる。これは捜査本部の間でも共通見解ではあるんだが……」
「何かあるんですか?」
少し躊躇う様子を見せた先輩刑事が少し声を小さくして続ける。
「これは絶対に漏らしてはいかんぞ。命にかかわる」
「命……?それは流石に……」
「いや、冗談じゃないんだよ。……警察の上層部に圧力がかかっている」
「まさか……!」
「そのまさかなんだよ。だから、犯人はトガヒミコ。そういうことになってるんだよ」
吸い殻を灰皿に押し付ける先輩刑事。
「だから、下手に追及するんじゃない。何にしろ俺たちの手には負えない。ヒーローに任せるしかないんだよ」
都内某所。人が寄り付かない区画の廃工場の中で叫び声が響いていた。
「も、もうやめてくれっ!!」
2mはあるだろうか、巨体の男が腕を抑えて這いずりながらそう叫ぶ。
「なんなんだよ、お前!」
男の視線の先には暗闇に紛れて煌々と輝く真紅の瞳しか見えない。ただ、男と比べるとかなり小柄であることははっきりと分かる。
「ひどいなぁ」
鈴を転がすような声が響く。
「元々、私を襲ってきたのはお兄さんでしょ?ヴィランならヴィランらしくちゃんと戦いなよ」
「ひぃっ!?」
一歩ずつ男へと近づいてくる声がライトの下へと姿を現した。
十人が見れば十人が美少女というであろうその少女は白銀の長髪を靡かせながら微笑みをたたえて男の傍へとしゃがみ込む。
「ほら、世界って弱肉強食でしょ?私が弱ければお兄さんはどうしたの?私は襲われても抵抗できないと思ったんでしょ?……ふふ、人を見かけで判断しちゃダメだよ?私のパパってすっごく怖がられてるけど、すっごく優しいんだよ?」
子供に諭すように少女は言う。
「お、俺が悪かった!俺が悪かったからい、命だけはっ!!」
「ねぇお兄さん、お肉食べたことある?」
「何を……」
「私ね、ごはんとは別に摂取しないとダメなものがあるの。それはね、『血』」
そう言って、男の腕を掴むと滴る血をチロッと小さな舌で舐めとる。
「私の個性はね、パパとドクター曰くハイブリットなんだって。まぁ、いろいろ実験で強くしてもらったんだけど」
ふふ、と笑う少女に対して男は身動きが取れなくなってしまっていた。
「『吸血鬼』って知ってる?むかーしのヨーロッパにいたって言われてるらしいんだけど。私はきっとソレなの。だからね」
男の耳元に顔を寄せる。
「お兄さんの血、ぜーんぶ私のモノにしちゃうね?ちゃんとお兄さんの個性も使えそうなら有効活用してア・ゲ・ル」
カプリ。首元にかみついた少女に対して男は痙攣するだけで声を出すことはできない。数分経っただろうか。少女が口を放すと男はそのまま崩れ落ちる。
「けぷ。ごちそうさまでした。うーん……筋力増強系かな?これはいらないかなぁ。パパは好きそうだから一応とっておこっと」
少女は携帯を取り出すと何処かへ連絡を始める。
「~♪」
倒れて動かない男の背中に座ると鼻歌を歌いながら電話がつながるのを待つ。
『もしもし、どうしたんだい?』
「パパ!えっとね、さっき『食事』したら筋力増強系だったんだけど、パパ使うかなぁって」
『ほう?なら一度戻っておいで。ドクター』
電話を切ると同時に少女の姿は掻き消えた。
「よく帰ってきたね。ユエ」
「ただいまっ!パパ!!」
ユエと呼ばれた少女はスーツ姿のパパへと抱き着く。
「おいおい、気を付けとくれよ。嬢ちゃんはいつも勢いが良すぎるんじゃ」
「はぁい。ドクターもいいおヒゲだね」
「ふん。今回は先生に個性を持ってきたんじゃろ」
「うん。筋力増強系!でもコレ可愛くないからパパがいるなら上げようかなって」
抱き着いたまま離れることなく言うユエの頭をパパは撫でる。
「本当に君は親孝行者だねぇ。ドクターとちょうど研究しているものに使いたかった個性だからね。有効活用させてもらうよ」
「うん!」
「で、だ。ユエにもそろそろ
「えっ!弔くんに会いに行っていいの!」
目を輝かせるユエ。
「あぁ。
「うん!弔くん元気かなぁ」
「ははは、弔はいずれは僕を継ぐものだ。そして僕の娘の君もね。君たちは君たちの好きなように世界を変えていくといい」
「うん!それで、いつ弔くんと会っていいの?」
「もうすぐだよ。いつものように好きにしているといい。黒霧から連絡が来るだろう」
ユエが去ったあと、ドクターはパパと呼ばれていた男に視線を向ける。
「あの悪の支配者と呼ばれている先生もあの子にかかればただの父親か」
「ふふ、戯れで育てたと公言しているにも関わらず本当にあそこまで懐いてくれたのは彼女くらいさ」
深く椅子に腰かけなおす。
「しかし彼女の個性。よく奪わなかったのぅ」
「アレは彼女が使うからこそ輝く個性だ。僕が持っている必要はないからね」
「『吸血鬼』。血を吸うことで身体能力の強化を行い、かつ血の持ち主の能力を身に宿す。……先生が使っても十分強いと思うがね」
「ははは。だが、彼女の強さはそれだけじゃないだろう?」
ぺらっと資料をめくるドクター。
「……先生の使う個性と同じく個性をストックする個性。ただし数は二つ、と。彼女の両親の個性は分かっているんじゃったな」
「あぁ。血を操る個性と力を溜める個性だったよ。彼女の個性は複合型というよりは突然変異のような部分もあるね。力を溜めるというのも、どちらかというと筋力増強系に近かったようだし」
「劣化版の先生かの」
「いや、決してそういうわけではないだろう。彼女の個性の本当に強いところはそこではないからね。……何れは見せてくれるだろう。弔と二人で、僕を超えて世界を混沌とする姿をね」
オールフォーワン。ユエが父と慕う男はそう呼ばれている。個性黎明期より生き続ける闇の象徴、悪の支配者として裏の世界の頂点に君臨し続けている男だ。五年前にNo.1ヒーローオールマイトとの激闘の末に再起不能なまでのダメージを負うが捕縛は逃れ闇に潜んでいた。
その悪意は彼の後継者である二人の若者に継がれていく。
一人は死柄木弔。オールフォーワンが後継として育てている青年。これからの時代に大きな荒波をもたらす存在。
そしてもう一人。
世界は動き出す。
ヒーローとヴィラン。
長きに渡る激闘に一つの決着がつくときは近い。
主人公の能力は強いですが、もちろんデメリットも存在します。
そのあたりは後々……。