Tick Tack シャドウバース   作:fet_light

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1.はじまりは盤面ロック

 陣内高校2年B組。

 授業と授業の合間の15分休み。

 教室では携帯端末をいじる生徒、グループで集まって談笑する生徒たち、ファッション誌を囲んではしゃぐ女子生徒たちと、それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。

 その一角。

 スマートフォンを持った眼鏡の三白眼の男子生徒を中心に、4人ほどのグループがあった。

 三白眼の男子生徒は黙々と携帯端末を操作する。それらにまわりの生徒たちがどよめくような歓声を上げた。

「すげぇ、これで10連勝!」

「先行潜伏ロイヤルをあそこからひっくり返すなんてすげぇよ!」

 周囲の賛辞に対して、一方の三白眼の生徒は目元ひとつ緩めはしない。そして携帯端末を畳んだ。

「あれ? もう終わりか?」

「馬鹿、もう休み時間終わりだろうが」

 周囲を囲む生徒の内、一人が怪訝に問いかけるも、別の一人がツッコミを入れる。入れられた方の男子生徒が愛想笑いをする。

「ハハ……でもすごいよ三和は。この前のJ……JUC?って大会にも勝ったんだろ?」

「JCGな」

 三和と呼ばれた三白眼の生徒が短く訂正を入れた。それから短く告げた。

「トップ運に救われた。あれは本当ラッキーだったよ」

「でも前も準優勝までいったって話じゃないか。これなら手に入るんじゃないか? 1億」

「1億?」

 怪訝な声を上げたのは、先ほどツッコミを入れられた男子生徒だ。

「1億ってなんだよ?」

「1億円だよ。なんでもそのシャドウバースっていうゲーム、世界大会に優勝すれば1億円らしいじゃないか」

「え!? まじかよ⁉ ゲームの大会だろ⁉」

 先ほどまで三白眼の生徒が携帯端末でプレイしていたのは、シャドウバースというデジタルカードゲーム。

 8種類のリーダーから1人を選択し40枚のデッキを組み、相手と戦うカードバトルゲームだ。

 その世界大会の優勝賞金は1億円を超える。俗にe-sportsと呼ばれるゲームの大会の中で異例の高額賞金が支払われたことでニュースにもなったゲームだ。

「えええ……? じゃあ三和ってその一億目当てにゲームしてるの?」

 ツッコミを入れられた男子生徒の言葉に、三和と呼ばれた生徒は唇の端を歪めた。

「このシャドウバース、ジャンケンって呼ばれているの知ってるか?」

「ジャンケン?」

「どんなうまいプロだって運が悪ければ素人に負ける。世界大会で優勝するにはそのジャンケンに勝ち続けなければいけないんだ。宝くじを買うのと変わらないどころか、買えばそれで終わりの宝くじの方がコスパがいいよ」

「んと……まあ……そらそう簡単に1億は手に入らないよな……」

「ま、もし何かの手違いで優勝したら焼肉……いや高級寿司ぐらいおごってやるよ」

「ははっ、期待して待ってるよ」

 三白眼の少年の言葉に別の男子生徒が景気よく笑う。

 と。

「三和君、次の化学の授業の手伝いにきてほしいって樫崎先生が呼んでいるわよ」

 そこに声がかかった。甲高い透き通るようなソプラノ。立っているのは三和と並んでも遜色ないような長身の女子生徒だった。だからといって体格がいい印象はなく、均整のとれたスレンダーなプロポーションをしている。染めているわけでもないのに陽の光を反射させる栗色の髪を背中まで伸ばしているのが見事だ。

 永瀬美鈴。アイドルの卵をしており彼女の容貌見たさに他校から人が押し寄せるほどだ。同じクラスでも生粋のゲーマーである三和は話したことなど数えるほどだ。もちろんその全てが今回のような業務連絡で雑談は一度もない。

「ああ永瀬、わかった」

 化学部教諭の樫崎美和子は、化学部に籍をおいている三和に授業の手伝いを時折させていた。今回もその呼び出しだろう。

(にしても今から呼び出しじゃ授業に間に合わねぇじゃん)

 今回に限らず樫崎は時間にルーズだ。5分や10分の遅刻はざらだ。授業はテキパキと進行して時間通りにきっちり終わらせるので生徒からの評判はよかったが、客観的に見ればあまり勤勉とは言えないだろう。

(ま、いっか)

「……って」

 他の生徒たちが教室の中に戻る中、逆に廊下へと出た三和は数歩歩いて背後を振り返った。

「永瀬も手伝えってか?」

 永瀬美鈴が後ろをついてきていた。声をかけられた美鈴はハッと一瞬硬直すると、少しぎこちなくうなずいた。

「う、うん……。その、重たい物だから二人で運べって……」

「ああそういうことか。わかった」

 三和は一瞬美鈴の反応に違和感を覚えたものの、特につっこまずに流した。そのまま前をむき、振り返った際に少しずれた眼鏡の位置を右手の人差し指でなおすと直進した。

 背後では美鈴がきょろきょろと挙動不審に視線をさまよわせていたのだが、それには気づかなかった。

 樫崎は職員室以外に、化学準備室という事実上の根城を持っている。おそらくいるのはそこだろうと当たりをつけ、背後の美鈴にたずねることなく三和は進んだ。

 世間話の一つでもしようかと思ったが、アイドルの卵と生粋のゲーマーではおよそ共通項が見いだせる話題が思い浮かばなかった。

 美鈴はインターネット番組などにはぽちぽちと出ているそうだが、生憎と三和は一度もそれらを見たことが無く、何を言ってもうわっつらのお世辞にしか聞こえないだろうと思った。

 美鈴の方からも話かけてくることはなく、沈黙のまま二人の靴底が廊下の床を叩き続ける。

 渡り廊下を抜けて階段を上がった二階。

 三和が先頭となって化学室の隣にある化学準備室の扉を開いた。

「お、きたか」

 鍵のかかった薬品棚が並ぶ室内の最奥、小さなデスクの椅子に腰かけた樫崎美和子が顔を上げた。

 デニムのセーターの上に白衣を羽織っている。たれ目の童顔だが真っ赤なぽってり唇に、ゆったりとした白衣をはっきりと押し上げる豊満なバストとアンバランスに色香のある女性教諭だった。

「永瀬、一応戸を締めな」

「はい」

「え?」

 戸惑う三和の背後で、ガラガラと音を立てて美鈴が横開きの戸を閉めた。さらにはパチリと鍵まで閉める。

「……どういうことです?」

 訝しみに三白眼を細めながら三和が問うと、樫崎は一瞬薄く笑むと、視線を三和から美鈴へと移した。

「あたしから説明するかい?」

「いえ、私からします」

「………?」

 三和は美鈴を振り返った。美鈴は緊張に引き締まった顔をしており、心なしか頬が紅潮しているようだった。

(いったい何が……)

 思わぬ展開に珍しく三和が焦っていると、胸に手を当てながら、美鈴が声を張り上げた。

「あの、三和君。私にシャドウバースを教えてください!」

「……はい?」

 

 

 

 美鈴の口から説明されたことを要約すると、ことの顛末はこうだ。

 永瀬はとあるインターネット番組に出演することが決まり、番組の企画でシャドウバースの称号の一つ、グランドマスターを目指すことになったという。

 三和は知らなかったことだが、美鈴はFPS型のバトルロワイヤル系統はやりこんでいてそこそこの腕なのだが、事がカードゲームになると一切触ったことが無いという。

 そこでシャドウバースのプレイヤーとして校内でも有名な三和に指南役としての白羽が立ったそうだ。

「それぐらいなら別に教えてもかまわないけど。……なんでわざわざ樫崎先生が噛んでいるんです?」

 わざわざ密室を作ったのもそうだが事が大仰すぎるのが解せず、三和は顔をしかめた。

 三和の疑問をくみ取ったらしく、樫崎は背もたれに背中をあずけ椅子をぎしりと軋ませながら言った。

「事務所の方針とやらでな。誰かに師事はともかく、特定の男子に教わっていることがばれるとまずいそうだ。そこらへんのアイドルの苦労は想像できるんじゃないか?」

「まあ……色々な噂は聞きますがね」

 人気商売のアイドルは恋人問題一つで人気が大きく低迷するという。

 美鈴のような駆け出しの新人アイドルとなればそれが致命的なのだろう。

「そういうわけで、今回のことはあたしらだけの秘密だ。口の堅いあんたなら大丈夫だと思うがね。あと、練習の場所に困ったならこの準備室を使いな。他の教師たちにも基本内緒ってことにしておけ。まあいざというときはあたしがケツを持つがね」

 話の筋としては担任の菅原智一あたりに頼むのが自然に思えるかもしれないが、菅原の評判は悪く女子生徒への軽いセクハラなどの苦情があいついでいた。

 美鈴が菅原ではなく樫崎に頼ったのはそこらへんの信頼の差だろう。

「その……引き受けてくれる?」

「あー……教えると言ってもなぁ」

 独学で学んできた三和にとって他人に教えるという経験はないものだ。心構えができておらず、わずかにひるんだ。

 しかし……眼鏡の位置を直しながら美鈴を見ると、彼女の表情は真剣そのものだった。アイドル業というのがどういうものかわからないが、自分がプレイしているシャドウバースというゲームに真摯に取り組もうという姿勢は好感が持てた。

「……わかった。俺で力になれることなら手を貸すよ」

 わずかな逡巡の後、三和はうなずいた。「本当⁉」と美鈴は弾けた笑顔をむけた。

「話がまとまったようで何よりだ」

 樫崎が最初からこの展開がわかっていたかのように薄く笑む。

「それじゃ、今日の放課後二人とも別々にこの準備室に来な。一応、周囲の目に気を付けておけよ」

 

 

 

 

 陣内高校の化学部の活動はあまり盛んではなく、週に一度あればいい方だ。

 今日は特に活動がなく、化学準備室がある階も特殊教室ばかりで放課後はほとんど人気が無い。

 秘密の会合として悪くない場所だった。

 三和と美鈴の二人が時間をずらして化学準備室に行くと、デスクでテストの採点をしている樫崎が出迎えた。マイペースな樫崎は2人にほとんど視線を送らず、自分の業務であるテストの採点に没頭しているので三和は無視することにした。

「それで、永瀬はどれぐらいシャドウバースを知っているんだ?」

「えっと……チュートリアルをちょこっとやったぐらい」

「ふむ」

 

 シャドウバースは8種類のリーダーから一人のリーダーを選び、そのリーダーが使用可能な膨大な数のカードから40枚のデッキを選んで相手と戦うデジタルカードゲームだ。

 カードには場に出すことで直接戦わせる『フォロワー』、使った瞬間効果が発動する『スペル』、場に置かれている限り効果を発動する『アミュレット』の三種類がある。

 それらのカードを使い、先に相手のリーダーのライフ20点を削った方が勝ちというのが基本ルールだ。

 

「じゃあグランドマスターを目指すという話だけど、アンリミテッドとローテーションのどっちで目指すんだ?」

「アンリミテッドにローテーション……って何?」

「今のシャドウバースには二つのレギュレーション、つまり対戦ルールがあるんだ。今まで発売されたすべてのカードが使用可能なアンリミテッドと、使用できるカードパックが限定されたローテーションの二つだ」

「ええっと企画側からは特に決められていなかったと思うけど……どっちがオススメ?」

「そうだな、あくまで番組のプロモーションと考えるとローテーションの方が世間の注目度が高いからいいんじゃないか。世界大会もローテーションで行われるし」

「そう。じゃあローテーションにする」

「じゃあメインのリーダーは何する?」

「え?」

「エルフ、ドラゴン、ロイヤル、ヴァンプ、ウィッチ、ネクロ、ビショップ、それからネメシス。シャドウバースはこの8種類から一人のリーダーを選択するんだ」

「ああ……そうだったね。私は最初エルフのアリサって娘で進めたけど……」

「アリサか。ふむ……」

「どうかした?」

「いや……エルフは今の環境ではちょっとだけ不遇でな。簡単に言うと難しい」

「そうなの?」

「ああ。まあだからといってグランドマスターを無理というわけじゃないから止めはしないけど」

「三和君は誰を使っているの?」

「俺? 一通り使えるけど、ヴァンプとネクロマンサーかな」

 大会では二種類のデッキを持ち込み、両方のデッキで勝った方が勝ち抜けるBO3形式というルールが基本なため、三和はメインデッキを二つ持っていた。

「ただこれは俺のこだわりみたいなもので、今はロイヤルも強いしオススメだぞ」

「ふぅん……」

「ま、最初はスキンの見た目で決めていいと思うぞ」

 三和は自分の携帯画面を見せていく。性能に違いはないが、同じリーダーでも複数人のキャラクターが存在し、それらをスキンと呼ぶのだ。例えばロイヤルクラスであれば、エリカ、レイサム、アルベール等々。スキンはお金を出せば必ず手に入るものもあるが、極低確率でしか入手できないレアスキンが存在し、さすがの三和でも全網羅まではできていないが大半は入手していた。

「ふぅん……かわいい女の子が多いね」

「ま、最近の流行りって奴だな」

 軽く咳ばらいをしつつ三和が言った。

「この子……ルナって言うの? 最初から使えるんだよね。ストーリーで見た気がする」

 美鈴が興味を示したのは、ぬいぐるみを抱えた10歳ぐらいの金髪の少女だ。

「そうだな。リーダーはネクロマンサー。今強いぞ」

「じゃあ私この子にしようかな」

「ネクロなら俺も使っているからとりあえず俺のデッキをコピーしようか。デッキコードを教えるから」

「デッキコード?」

「やり方を教える」

 三和は美鈴の携帯端末を受け取り操作した。

 しかしすぐに顔をしかめる。

「エーテルが足らないな。圧倒的に」

「エーテル?」

「シャドウバースのいいところでな、どんな強いカードでもエーテルさえ消費すれば作れることなんだ。これで比較的誰でも強いデッキを作りやすい」

「でもエーテルが足らない……エーテルはどうやればたまるの?」

「主な入手方法はカードの分解だ。つまり課金してカードを買うことだな」

「ふーん。どれぐらいかかるの?」

「……わからないけど……2万ぐらいじゃないか?」

「2万……」

 茫然としたような口調で美鈴が漏らした。

「ん? アイドルならそれぐらい簡単に出せるんじゃないか?」

「ちょ、ちょっと待ってね。マネージャーに掛け合ってみる」

 ひきつった顔で美鈴は電話をかけだした。何事かやり取りするものも、話が漏れ聞こえる限りあまり芳しくない。

「……もしかして、アイドルって儲からないの?」

「……弱小プロダクションでインターネットの裏番組しか出れないにぎやかしだからね……洋服とか化粧品とかで精一杯よ」

「ん……たしかにそっちにお金とられそうだな」

「無理してもらった企画だから番組側には請求できないし、自腹切るしかないわ。事務所も5000円までなら出せるって」

「ごせんえん……」

 まるで子どものお小遣いのような額に三和は反応に困る。

 恥ずかしながら、三和は高校生の身分で数万単位の課金をすでにしていた。

 世知辛いアイドル業界を垣間見つつ、自分の課金額は明かさない方がお互いのためだと思った。

「ま、まあ、課金できるのなら構築済みデッキを買うのがオススメだぞ」

「構築済みデック?」

「そう。普通はカードパックというのを一つずつ買うんだけど、その場合何が出るかはランダムなんだ。一方で構築済みデックは決まったカード40枚がセットでもらえる。それさえ買えばすぐに戦えるってわけ」

「へー、そうなんだ。じゃあそれさえ買えばいいのね」

「いや。低ランク帯ならともかく、グランドマスターを目指すなら構築済みデックだけじゃ無理だ。弱いカードを強いカードに入れ替えないと勝ち抜くのは難しいだろう。ただ構築済みデックのもう一ついい所があって、普通にパックを買うよりエーテル還元率がいいんだ」

「エーテル還元率?」

「さっきも言った通りカードはエーテルを消費することでも手に入れることができるんだけど、カードを分解した時に得られるエーテルはレアリティによるんだ。そして構築済みデッキは高レアリティのカードがたくさん入っているから、同じ金額を出してパックを買うよりも、よほどのことがない限り多くのエーテルがもらえる」

「ふーん。ようするにお得ってことよね」

「そういうこと。あ、ただ注意点が一つ」

「何?」

「お金に困っているのなら、一日に3回受けられるミッションをこなすといいんだけど、ミッションの中には『特定のリーダーを使って勝利する』というものがあるんだ。だから使わないリーダーだと思ってカードを全て分解してしまうと、そのミッションをこなせなくなる」

「ということは……全リーダーのデッキを持っていた方がいいって事?」

「そうだな。まあ始めたては低ランク同士で当たるんだけど、構築済みデックさえ買っておけば楽勝だよ。ランクが上がる頃にはカードがたまっていると思う」

「う、うん……」

 三和の言葉にも美鈴の表情は硬い。お金には相当に苦労している様子だ。

(なんか意外だな……永瀬がこんなにお金に困っているなんて)

 アイドルの卵だけあって普段の美鈴は立ち居振る舞いも華やかで会話もセレブに富んでいる。

 それがまさか数万の課金に躊躇するとは。

(カードゲームはお金かかるからなぁ……。シャドバはまだ優しい方だと思うけど)

 シャドウバース以外のカードゲームの中には一枚のカードに数十万の値段がつけられるものもある。

 それらに比べればシャドウバースの敷居はかなり低い。

 実際、SNS上での知り合いの中にはこまめにミッションをこなすことで、ほぼ無課金で全リーダーの環境トップデッキを揃えている知り合いもいる。

「将来への投資と割り切って払うしかないわ」

「課金するならコンビニでプリペイドカード買ってくるか」

「大丈夫。クレジットカードがあるから」

 この辺りは普通の高校生よりもこなれている。

 美鈴はその場でクレジットカード決済を利用し、ゲーム内通貨のクリスタルを購入した。

 このクリスタルを使ってカードパックを購入ないし構築済みデックが買えるのだが……。

「なあ、ちょっと俺に任せてくれるか?」

「何を?」

「いらないカードを分解して必要なカードを生成するんだけど、数が膨大だから一つ一つ指示するよりも俺がやった方が手っ取り早い」

「うん。任せる」

 美鈴は三和を信用してくれているようだ。シンプルなデザインのピンク色の彼女の携帯端末を手渡され、三和はしばし操作に没頭した。

 中々に苦労する作業である。

 カードゲームには『環境』という言葉がある。

 簡単に言えば『流行り』だ。

 ある強いデッキが存在したとする。強いのだから当然そのデッキは流行る。すると、他のデッキには弱いけどその流行っているデッキには強いというメタデッキが流行り出したりする。そしてその特定のデッキには強いデッキが流行り出すとまたそれに強いデッキが流行り出す……とカードゲームの環境は短い時間で変動していくのだ。

 ふつうはその環境の変化は緩やかなものだが、時に激変することがある。

 新しいカードパックが出てきた時だ。新しいカードが追加されることで、それまで見向きもされなかったカードが日の目を浴びることは珍しくない。

 カードを生成するのに消費するエーテルは、同じカードを分解して得られるエーテルの数倍する。無駄にカードを分解して、いざそのカードが必要になった時に生成するのでは、大きなロスが生まれるため、分解するカードは吟味しておきたい。

 苦労してやりくりしながら、なんとか三和はネクロマンサーデッキを完成させた。

「とりあえずこれが俺が使っているネクロマンサー。細かい部分はいじってもいいと思うけど一つの基本だと思ってくれ」

「ありがとう」

 両手を合わせて美鈴は喜んで見せた。

「女の子が多いのね……あれでもドラゴンとかもいる」

「そうだな、ネクロマンサーの低コスト帯には強い女キャラクターが多いんだ。でも鍵となるのは『幽霊支配人・アーカス』だ」

 

 

《幽霊支配人・アーカス》

コスト7 攻撃力6 体力6

[ファンファーレ ]『このバトル中、自分のリーダーは「自分が元のコスト3以下のフォロワーをプレイしたとき、それを破壊する。その後、ゴーストX体を出す。Xは「そのフォロワーの元のコストの値」である」を持つ。リーダーはこの能力を重複して持たない。』

 

 

「幽霊支配人・アーカス?……ええっと……ようするにゴーストを生み出す? そのゴーストっていうのが強いの?」

「強い。なぜなら『疾走』を持つからな」

「『疾走』?」

「カードの特殊効果に『疾走』というものがあるんだ。普通、場に出たフォロワーはそのターンには行動できない。だけど『疾走』を持ったフォロワーはプレイした瞬間に動くことができる。さらには『怪物の少女・フラン』などによって、アーカスの効果が発動した後は相手が展開した強力なフォロワーを除去するのも難しくないんだ」

 

 

《怪物の少女・フラン》

コスト3 攻撃力0 体力1

[ファンファーレ]

『・フランの従僕

 ・フランの呪い

チョイス したカード1枚を手札に加える。』

[エンハンス:7]『 チョイス ではなく、フランの従僕1枚とフランの呪い1枚を手札に加える。』

 

 

「怪物の少女・フランって、これ……? あ、これ3コストだから、アーカスの効果でゴーストになっちゃうんだね」

「そう。さらに『フランの呪い』を『チョイス』することで3コストで7点のパワーが出る。シャドウバースではほとんどのカードはコストと同じぐらいの打点しか出せないから、二倍以上出せるアーカス後のフランは滅茶苦茶強い」

「滅茶苦茶……かぁ」

「アーカスの基本プランは7ターン目にアーカスを着地させ、8ターン目9ターン目に敵の盤面を除去し、10ターン目に『幽想の少女・フェリ』の特殊効果で3回攻撃して決着をつけることだ……って言ってもまあ、いきなり理解しろなんて無茶は言わないよ」

「はは……ごめん、ちょっと話が左の耳から右の耳に流れているかも……」

「習うより慣れろだな。一回やってみよう」

 三和は自分の携帯端末を取り出した。美鈴にやらせるべきかと思ったが、美鈴はまだ始めたてでランクが低く、当たるのは同じような低レート帯だ。

 低レート帯はまだカードを揃えていない人たちが多く、このデッキの強みを実感する以前に蹂躙するだけになるので、お手本として三和がすることにした。

 三和のランクは最高位のマスターで、シーズン開始から一週間を待たずにグランドマスターに到達している。このレート帯であれば、基本的に環境トップのデッキとしかマッチしない。

「ゲーム用語を説明していこうか。最初に3枚の手札の内、いらないカードを選んでシャッフルできる。これをマリガンというんだ」

「マリガン? 何語?」

「シャドウバースとは別のカードゲームから流れてきた言葉だけど、何か前調べたらゴルフプレイヤーが語源らしいな」

「へー」

「このマリガンは超大事だ。基本としてはまず相手のリーダーを確認しておくこと」

「相手のリーダーは誰?」

 画面には剣先を鋭く構えた黒髪のボブカットの少女が映っている。

「エリカだな。ロイヤルだ。ロイヤルで特に気を付けないといけないのは、『簒奪の絶傑・オクトリス』だ」

「ふーん? そんなに強いの?」

「強いというか、一種のメタカードだな。相手の『ラストワード』を奪うという能力を持つ」

「『ラストワード』?」

「そのフォロワーが倒された時に発動するタイプの能力のことだ。ほら、こいつ」

 三和は『禁絶の腕・ニコラ』というカードを見せた。

「このニコラは死んだ場合、同じニコラを強化した上で手札に帰ってくる。アーカスを使う上で重要なカードなんだけど、その効果をオクトリスはまるまる奪う。できれば奪われたくはない」

「ふーん。そうなんだ」

 三和は『禁絶の腕・ニコラ』と『ソウルコンバーション』をキープ。後は返した。

「先行は先に行動できるという有利がある分、進化権と最初に配られる手札が一枚少ない。だからこの『ソウルコンバーション』のようなドローカードを先に握っておきたい」

「ふーん、なるほどね」

 マリガンが終了し、1ターン目はお互いに何もせずに終了した。

「さっき言ったオクトリスは3コストだ。だから先行2ターン目にニコラを出しても問題はない」

 三和は『禁絶の腕・ニコラ』をプレイ。

 それに対して相手は『メカゴブリン』をプレイしてきた。

「ほお、珍しい。機械ロイヤルか」

「機械ロイヤル?」

「今ロイヤルの主流はリーシャを採用したミッドレンジロイヤルと言われるものなんだ。それに対して機械タイプのフォロワーを多く採用したのが機械ロイヤル」

「ふーん。メカゴブリンを出しただけでそれがわかっちゃうんだ」

「ああ。こういう相手のアーキタイプを読むのは大事だぞ」

 3ターン目。三和は場に出した『禁絶の腕・ニコラ』で敵のリーダーを攻撃してライフを19まで減らすと、『ソウルコンバーション』で『禁絶の腕・ニコラ』を自らの手で破壊。代わりに2枚ドローする。

「俺のネクロマンサーは2コストがかなり多く採用されている。だからドローすれば2コストを引く確率は高い。仮に引けなくてもラストワードの効果で手元に戻ってきたニコラを出せる」

 三和は『ソウルコンバーション』の効果で引いた『幽葬の少女・フェリ』をプレイ。

 3ターン目の相手は、『メカゴブリン』で三和を直接攻撃。これで三和の体力は18まで減る。

 そして『魔弾の狙撃手・ワルツ』をプレイ。

「ワルツはファンファーレ……手札からプレイした時に発動する特殊効果で、除去スペルを入手できる。1コストスペルの『必殺の魔弾』か、5コストスペルの『浄化の魔弾』か」

「どっちが入手したかわからないの?」

「ワルツのファンファーレは『チョイス』という効果でどちらかを選ぶんだが、『チョイス』を確認する方法はない。状況から考えると使いやすい魔弾を選択するのがベターだけど、こっちの5ターンセレスへの対策に聖弾を選んだ可能性もある」

「ふーん?」

 4ターン目。三和は場に出た『幽想の少女・フェリ』で『魔弾の射手・ワルツ』を攻撃。相打ちさせる。

そして攻撃力2に強化された『禁絶の腕・ニコラ』と、新たにひいた『禁絶の腕・ニコラ』の2枚をプレイ。

 4ターン目相手のターン。

 相手はまず『簒奪の絶傑・オクトリス』をプレイ。攻撃力2に強化された『禁絶の腕・ニコラ』のラストワードが奪われてしまう。

「あ、ラストワード奪われちゃったよ!」

「ニコラはもう一枚あるから問題ない。それとオクトリスにいつか奪われるのはわかっていた。3コストとPPを外したタイミングで使わせた分、アドバンテージをとったとも言える」

 相手は『簒奪の絶傑・オクトリス』を進化。

三和は即座に画面左上をタップしプレイログを見た。

(『靴』と『聖杯』か……)

 相手の動きが一瞬止まる。どうプレイするか悩んでいるようだ。

 そして、場に存在する『メカゴブリン』で攻撃力1の『禁絶の腕・ニコラ』を攻撃して破壊。

 進化した『簒奪の絶傑・オクトリス』は攻撃力2の『禁絶の腕・ニコラ』を攻撃して破壊。2点の反撃を受け、体力5の『簒奪の絶傑・オクトリス』は体力3点まで減らす。

 しかし残った1PPで、手に入れたばかりの『黄金の聖杯』を『簒奪の絶傑・オクトリス』に使用。体力を2回復させる。

 場には2/1の『メカゴブリン』と4/5の『簒奪の絶傑・オクトリス』が残った。

「ち、体力5で残ってしまったか」

「まずいの?」

「ちょっとな……セレスの能力を生かせない」

「セレス?」

「『永遠の花嫁・セレス』。アーカスと並んで、ネクロを環境トップに押し上げているパワーカードだよ」

 

 

《永遠の花嫁・セレス》

コスト5 攻撃力1 体力4

自分のターン終了時、自分のリーダーを3回復。

[交戦時]『交戦する相手のフォロワーに3ダメージ』

[ファンファーレ]『 永遠の誓い 1枚を手札に加える。』

 

 

「その理由の一つが交戦時能力。交戦時能力は、フォロワー同士が攻撃し合う前に発動するんだ。つまりもしオクトリスの体力が3以下だった場合、殴り合ったとしてもセレスは無傷で残るんだ」

「ふーん。じゃあ別のカードをプレイする?」

「いや……」

 呟きつつ、三和は手札を見た。

「セレスは強いカードだ。このままプレイする」

 宣言通り『永遠の花嫁・セレス』を三和はプレイ。

進化して『簒奪の絶傑・オクトリス』と交戦。交戦時効果が働くも、セレスは4点の反撃を受け体力を2まで減らす。

「セレスが強い理由のもう一つはターン終了効果だ。場に存在するだけでリーダーの体力を3点回復する」

 先ほど『メカゴブリン』の攻撃で18点まで減った三和の体力が3点回復する。ただしリーダーの最大体力は20なので、現在の三和の体力は20。

「次に相手に出されて厄介なのは『ドラゴンナイツ』のヴェインか」

 独白しつつ三和はターンを終了する。

 相手の5ターン目。

 相手は『トランプルフォートレス』をプレイ。

 さらに『トランプルフォートレス』を進化。進化時効果で場に3体の『プロダクトマシーン』が出現する。

「わっ、一杯でてきたよ」

「この横展開が機械ロイヤルの特徴だ。そして直接召喚される『炎獅子の大将軍』が厄介なんだ」

「大将軍……?」

 三和が説明しようとした矢先。

 相手は、『必殺の魔弾』をプレイ。体力が2残っていた『永遠の花嫁・セレス』は破壊される。

 場に2/1で残っていた『メカゴブリン』は三和を直接攻撃。これで三和のライフは18に再度減らされる。

 盤面には2/1の『メカコブリン』、6/5の『トランプルフォートレス』さらに1/1の『プロダクトマシーン』が3体と並び、五つある盤面が全て埋まっていた。

「ちょ、ちょっと。これ不味いんじゃない?」

 圧倒された盤面に美鈴が慌てる。だが、むしろ三和は薄く笑んでいた。

「いや。勝ち筋が見えたところだよ」

 6ターン目。

 三和は『永遠の花嫁・セレス』のファンファーレ効果で入手した『永遠の誓い』をプレイすると、即座にターンを終了する。

「永瀬、覚えとけ。これがシャドウバース特有の『盤面ロック』だ」

「盤面ロック…‥?」

「シャドウバースでは一度に5枚までのカードしか盤面に出すことができない。そして場が5枚のカードで埋まっている場合、新たにフォロワーをプレイすることはできない」

 6ターン目。相手は時間をかけたものの、やはり盤面ロックのせいでカードをプレイできないようだ。

 6ppを一切使うことなく場に出ていた『プロダクトマシーン』を進化。

 場に出ていたフォロワー全員で三和を直接攻撃。三和の体力が18から13点削られて残り体力は5。

「かなり痛いダメージをもらったけど、相手は6PPも無駄にした。このアドバンテージは大きい。そして6ターン目にプレイした『永遠の誓い』で俺の手札のネクロマンスカードは全て2コストダウンした」

 三和の7ターン目。

 まず三和は失った体力を回復させるために『心眼の双葬女・レディグレイ』を0コストでプレイ。進化させて『トランプルフォートレス』を攻撃。3点ドレインの効果で三和の体力は8点まで回復する。進化時効果で呼ばれたのは『禁絶の腕・ニコラ』だった。

「お、ラッキーかもな」

 呟いてから、三和は7コストになった『屍竜・ファフニール』をプレイ。

《我が吐息、天地を焦がす……》

 屍竜が咆哮を上げ無数の火球が降り注いだ。たなびく黒煙が晴れた後には屍竜以外の姿はなかった。

「ファフニールのファンファーレ効果は、墓地の数を消費して場の全てのフォロワーにダメージを与える」

 『屍竜・ファフニール』の攻撃は三和がプレイした『心眼の双葬女・レディグレイ』が呼び出した『禁絶の腕・ニコラ』まで巻き込んで、自身以外を全て灰燼へと帰した。

 相手の場を埋め尽くしていたフォロワーも、ドラゴンの吐息の前には一片たりとも残っていない。

「倒した機械フォロワーの数は5体か」

 わずか迷った末、三和は0コストになった『死の夢の少女』をプレイ。

 相手のライフは19、三和のライフは8。リーダーの体力では大きくビハインドを背負ったものの、盤面には8/10という凶悪な存在が鎮座しており、さらには2/2の『死の夢の少女』が存在している。

「さて、返せるか」

 『屍竜・ファフニール』の存在は圧倒的なものの、三和のライフは残り8と心もとない。

 最悪の想定としては次の7ターン目、『クイックブレーダー』2枚と『絶望の指揮官・セリア』が存在した場合進化権を使ってトドメを刺される。

(だが機械ロイヤルであればクイックブレーダーを採用することは少ない。その3枚が揃っている可能性は限りなく低いはずだ)

 しかしもしかしたらという緊張が自然と指先に力がこもり、意図せずに三和は眼鏡の位置を押し上げた。

 そして返した相手の7ターン目。

 これまでの中でもひときわ長い長考に入る。

(ここまで悩むとなればこのターン死ぬことはなさそうだな……)

 おそらく『屍竜・ファフニール』をどう処理するか悩んでいるのだろう。

 そして時間いっぱい悩んでから相手は動き出す。

《英雄ヨハンは裏切らない!》

 鋼鉄の斧を構えた鈍色のロボットが飛び出てくる。『純鉄の英雄・ヨハン』だ。

 

 

《純鉄の英雄・ヨハン》

コスト7 攻撃力3 体力5

自分の機械・フォロワーが破壊されるたび、自分の手札のこのカードのコストを-1する。

[突進]

自分の場に他の機械・フォロワーが出るたび、それは突進 を持つ。

 

 

 

 『純鉄の英雄・ヨハン』は7コストフォロワーだが、手札にある時に自身の機械・フォロワーが破壊されるとコストが下がる。先ほど『屍竜・ファフニール』に5体の機械・フォロワーが倒されたのでコストは2コストまで下がっていた。

 さらに相手は、『簒奪の絶傑・オクトリス』で奪った『禁絶の腕・ニコラ』をプレイした。

 『禁絶の腕・ニコラ』は機械・フォロワーに分類されており、『純鉄の英雄・ヨハン』の効果で突進能力が付与される。

 一度目は攻撃力3。『死の夢の少女』にぶつけ相打ち、手札に戻り攻撃力4に強化された『禁絶の腕・ニコラ』を再度プレイ。

 『ファンファーレ』効果により、『禁絶の腕・ニコラ』は攻撃力1に戻り、それと引き換えに『禁絶の一撃』を手札に加える。

 そして『純鉄の英雄・ヨハン』と『禁絶の腕・ニコラ』は『屍竜・ファフニール』に攻撃。『屍竜・ファフニール』の体力を4点減らす。余った1PPで『リペアモード』を使い、相手はリーダーのライフを20まで回復させた。

「ちっ、盤面にフォロワーを残さないか。わかっているじゃないか」

「勝てそう?」

「まだわからないがいけそうだな。ネクロマンサーはアーカスが基本だけど、一応三つの勝ちパターンが用意されているんだ。それがこの『屍竜・ファフニール』で盤面をひっくり返すパターン。そして、セレスの『永遠の誓い』でコストを下げたフォロワーを、『グレモリー』で一気に展開して盤面勝ちをするパターン」

 8ターン目。

 三和は流れるようにプレイする。

『永遠の誓い』の効果でコストの下がった『心眼の双葬女・レディグレイ』と『禁絶の腕・ニコラ』、『ビッグソウルハンター』をプレイ。そして『グレモリー』のエンハンス効果を発動する。

 『グレモリー』のエンハンス効果は『自分の場のフォロワーを全て進化させる。』それは言ってしまえば、全てのフォロワーの攻撃力と体力を+2するという意味だ。

 10/8、3/5 4/5、4/3、1/1。

 場に並ぶ合計スタッツ、22/22。

 三和は『グレモリー』のエンハンス効果で進化した『屍竜・ファフニール』で敵のリーダーを攻撃。10点のダメージを与えライフを20から10まで減らす。

 相手の8ターン目。

 相当な苦境であるはずだ。長い長考に入る。

(厄介なのは相手の手札に『禁絶の一撃』が入ったことか……。墓地は13だけど機械ロイヤルは一気に膨れ上がるから……)

 悩んだ末に相手がプレイしたのは、0コストまで下がった『純鉄の英雄・ヨハン』。

 そして『トランプルフォートレス』をプレイ。最後の進化権を使用。

 場に大量に『プロダクトマシーン』が出現し、それらは『純鉄の英雄・ヨハン』の効果により全て突進が付与される。

 6/5の『トランプルフォートレス』は4/5の『ビッグソウルハンター』を攻撃し、体力を1残して破壊。

 3体の『プロダクトマシーン』は全て『屍竜・ファフニール』を攻撃し、『屍竜・ファフニール』の体力は残り5。

 そして『鈍鉄の英雄・ヨハン』は『心眼の双葬女・レディグレイ』に攻撃。『心眼の双葬女・レディグレイ』の体力を残り2まで減らす。

 相手は残り4PP。

 三和は思わず舌打ちした。

「機械神か」

 相手がプレイしたカードは、三和の想定通り『機械神』のアクセラレート。

 効果はこのバトルで倒された機械・フォロワーの数だけ、1点ダメージを敵のランダムなフォロワーに与える。

 このバトルで倒された機械フォロワーの数は11体。場に残された『屍竜・ファフニール』、『心眼の双葬女・レディグレイ』、『禁絶の腕・ニコラ』、『グレモリー』の合計体力はちょうど11。

 降り注ぐ光芒が、正確に全てのフォロワーを射抜き、22/22を誇った三和の盤面が全て更地にされた。

 それどころか相手には3/2の『純鉄の英雄・ヨハン』に6/1の『トランプルフォートレス』が残っていた。

「あれを返すか……」

 正直あれを返されるとは思わなかった。機械ロイヤルのキーカード、『純鉄の英雄・ヨハン』と『トランプルフォートレス』を2枚ずつ抱えていた相手の豪運といっていいだろう。

「かなり不味いな」

「三和君のライフは8しかないもんね。この2体を残すと負けだよね?」

「それだけじゃない。相手の手にはニコラの効果で手に入れた『禁絶の一撃』がある」

「『禁絶の一撃』?」

 

 

《禁絶の腕・ニコラ》

コスト2 攻撃力1 体力1

[ファンファーレ]『このフォロワーの攻撃力が4以上なら、禁絶の一撃1枚を手札に加え、このフォロワーの攻撃力を1にする。』

[ラストワード]『禁絶の腕・ニコラ1枚を手札に加え、+X/+0する。Xは「破壊される直前の攻撃力の値」である。』

 

 

 

《禁絶の一撃》

コスト5 スペル

相手のリーダーか相手のフォロワー1体に4ダメージ。

[ネクロマンス:20]『4ダメージではなく10ダメージ。』

 

 

「ニコラは倒される度に強化されて手札に戻ってくるけど、攻撃力4を超えるとまた1に戻って代わりに5コストのスペル『禁絶の一撃』が手札に入るんだ。墓地が20ある状態で『禁絶の一撃』を使うと、相手のリーダーに直接10ダメージを与える」

「ええっと、相手の墓地は16……?」

「今場に出ているヨハンとトランプルフォートレスを倒して18。相手のハンドには1コストスペルの『黄金の靴』が確定であるから、適当な低コストフォロワーに『黄金の靴』を使い自殺させれば墓地は20になって条件を満たす」

「三和君ライフ8しかないよね? 負けちゃうの?」

「いや」

 三和は小さく笑んだ。

「まだわからないかな」

 今のターンに倒された『グレモリー』は、場に残った進化済みフォロワーに、ターン終了ごとに『カードを一枚ドローする』能力を付与する。

 これにより、三和は4枚のドローを得ていた。

 9ターン目。

 三和は『死の夢の少女』のラストワード効果で手に入れていた『深淵の夢』をプレイ。場に出たゴーストで敵のリーダーを攻撃。相手の体力は9点に減る。

 残った6PPで、スペル『悪霊の憑依』をプレイ。

 体力2残っていた『純鉄の英雄・ヨハン』を破壊し、スペルの効果で新たに場に出た『ゴースト』で『トランプルフォートレス』を攻撃、破壊。

 最後の4PPで『永遠の花嫁・セレス』を場においた。

 そしてターンエンド。『永遠の花嫁・セレス』の効果で3点回復し、三和のライフは11点。

「これで『禁絶の一撃』の即死圏内から逃れたが……『炎獅子の大将軍』の召喚条件を満たしたか」

「炎獅子の大将軍?」

 三和が説明するよりも先に、ターンエンドしたことによって相手のターンが始まる。

 そして、流星のような煌めきと共に相手の盤上にフォロワーが飛来してきた。

《いざ出陣! 焦土を行け!》

「わっ、何かでてきた!」

「直接召喚。一定の条件を満たすことで、デッキからカードを直接呼び出す特殊効果だ。炎獅子の大将軍の召喚条件はバトル中に15体を倒すこと。さっきヨハンとトランプルフォートレスを倒したことで召喚条件を満たしたんだ」

「そこまで数えていたの?」

「まあね。機械フォロワーは横並びの多いアーキタイプで『炎獅子の大将軍』と相性がいい。デッキにはまず入ってるから、警戒していたんだ」

「まずそう?」

「ああ……やはりアーカスを発動できなかったのが痛かった」

 先ほどの『グレモリー』のドロー効果により手札には『幽霊支配人・アーカス』がきているが、相手の墓地カウントが20を目前にしている以上『永遠の花嫁・セレス』でライフを回復しないと万に一つも勝ち目はない。『幽霊支配人・アーカス』をプレイする隙がなかった。

 9ターン目。

 相手は『高潔なる騎士・レイサム』をプレイ。そして余った1PPで『黄金の靴』を使用。

 『黄金の靴』の効果は使用したフォロワーに突進を付与できる。突進を得た『高潔なる騎士レイサム』は三和の『永遠の花嫁・セレス』に攻撃、破壊。

 同時に場には『高潔なる騎士・レイサム』の効果で1/1の『ナイト』が疾走状態で出現する。

「レイサムは、ロイヤルにとってのアーカスのようなカードなんだ。発動すると永続効果で、攻撃する度にナイトを呼び出し疾走を付与するんだ」

 1/1の『ナイト』は疾走効果により、このターンにリーダーへの直接攻撃が可能だ。

 当然三和を直接攻撃。三和のライフは10になる。

 相手の場には8/3の『高潔なる英雄・レイサム』、4/4の『炎獅子の大将軍』、1/1の『ナイト』。

 墓地数は19。『禁絶の一撃』の条件を満たしていないものの、目の前の『高潔なる騎士・レイサム』を無視してターンは渡せない。

 しかし……三和は笑んだ。それまでの笑みとは種類の異なる笑みだ。目つきが悪いと言われる三白眼を糸のように細め、普段の彼からは想像がつかないような柔和な顔をしている。

「細い勝ち筋だったけど、諦めずに進んだから打てた。この勝負、俺の勝ちだ」

「……!」

 美鈴は息を飲んで見つめているしかできない。

 三和の指先が動く。プレイしたのは『幽想の少女・フェリ』。

 不要となった『幽霊支配人・アーカス』と『禁絶の腕・ニコラ』を葬送し、『深淵の夢』から生まれた『ゴースト』に3回攻撃する効果を付与する。

 そしてデッキに2枚入っている『蒼の少女・ルリア』をプレイ。エンハンス効果でコスト7以上のランダムなニュートラル・フォロワーをデッキから手札に加える。

 該当するニュートラルカードは、三和のデッキには1枚しかない。

 『飢餓の絶傑・ギルネリーゼ』。

 

 

《飢餓の絶傑・ギルネリーゼ》

コスト7 攻撃力3 体力5

[潜伏]

[ドレイン]

自分のターン開始時、このターンが自分の10ターン目かそれ以降なら、自分と相手はカードを5枚引く。

[ファンファーレ]『自分の他のフォロワーすべてを+2/+0する。』

 

 

 ドレインや潜伏、ドロー効果など多種多様な能力を持つが、最大の強みはファンファーレで『他のフォロワーの攻撃力を+2する』。

 場に出たゴーストの攻撃力を2点上げて攻撃力は3点。そして先ほどの『幽想の少女・フェリ』の効果で3回攻撃が可能となっている。

 相手の体力は、ちょうど9。

「守護を置いておくべきだったな。それだと俺はほぼ詰みだった」

 言いつつ、ゴーストを3回タップする。3点を3回で9点。

《お見事です……》

 相手のライフを全損させ、画面上のエリカは白い光の粒子となって霧散した。

「ふぅ~~~~。……軽く見せるつもりが神経使う試合だったよ」

 苦笑を浮かべつつ、美鈴を見る。

「始めたてに見せるには、ちょっと何が起こっているかわかりづらい試合だったかな」

「ううん。……いや、わかってないかもしれないけど、ちょっとコツとかわかった。盤面ロックとか、相手の出すカードを予想してプレイするとか」

「カードゲームは手札に何が配られるか運だけど、配られたカードにあわせて柔軟に対応できれば勝率につながる。本音を言えば、7ターン目にアーカスをプレイしたかったけどな」

「うん。結局アーカスさんでなかったね」

 美鈴がくすりと笑む。

 お手本というよりは邪流の勝ち方になってしまったが、それがデッキを使いこなすということだ。レアな今回のケースを体験できたのはある意味よかったのかもしれない。

 問題点としては、初心者に今の試合が理解できたかどうかだが、美鈴は優等生で呑み込みが早いので案外身になったかもしれない。

「じゃあ次は永瀬がプレイしようか。一応言っておくとな、グランドマスターになるためにはまず最初のビギナーから初めて、D、B、A、AA、マスターの5段階を上がってから1万ポイント貯めないといけない。結構気の長い企画だぞ、これ」

「お仕事だもの。それにちょうどいい配信の材料だし」

「配信?」

「私ローカルライブやってるんだ」

「ああ、個人配信か」

「そう。普段はバトルロワイヤル系のFPSをするんだけど、今回の企画でシャドウバースをすることに決めたんだ」

「ふーん。チャンネルを教えてもらってもいいか?」

「うん、いいよ。あ、でも……」

 美鈴は言いにくそうに歯切れ悪く言う。

「ごめん。事務所側の方針で男の子に教わっているってのは隠す方針だから、コメントとかは気をつけてもらわないと……」

「心得ているよ」

 すまなそうに言う美鈴に、安心させるように三和は言った。

「コメントは一切しない。反省点があれば、ラインか何かで教えるよ」

「うん……。三和君。本当にありがとうね」

 美鈴がはにかむ。華のある笑顔だ。それを今独占できていると思うと、悪い気はしない。

「がんばれよ。アイドル」

 普段斜に構える三和だが、応援の言葉は素直に出た。真摯に、ひたむきに、自分のプレイするシャドウバースに向き合う彼女を応援したい。心からの言葉だった。

「うん」

 弾むような笑顔とは、このような顔を言うのだろうかと思った。

 

 

 

 

 

「それじゃ、三和君」

「ああ、お疲れ様」

 美鈴は数戦ランクマッチをして、ダンスのレッスンがあるからと化学準備室を後にした。

 美鈴は全勝した。低ランクではまだカードが揃っていないプレイヤーがほとんどで、一度だけしっかりとしたデッキの相手と当たったが、横で三和が教えたこともあって勝利した。

 彼女がどれぐらいのペースでランクを駆け上がるか知らないが、しばらくはその状況が続くだろう。

「ふ~む」

 と三和の背後で声が上がった。

 振り返ると椅子に腰かけた樫崎が大きな伸びをしていた。

「どうかしましたか、先生」

「肩がこった」

 つぶやくと腕をまわす。樫崎はずっとテストの採点をしていたらしい。

「なぁ三和。お前永瀬とお近づきになったわけだが……そういう気は起きんのか」

「また不躾な質問ですね」

 思わず眉根を寄せ、癖で眼鏡の位置を直した。

「まあ……魅力的だと思いますよ。でも、住む世界が違うでしょう」

「そう諦めちゃ、何もはじまらんぞ」

「いいんですか、教師が不純異性交遊を勧めて」

「馬鹿め。少子化問題のために異性交遊は進めるところまで進めた方がいいんだよ。ようは不純にまでいたらなければいいんだ」

 開き直った様子の樫崎に三和は肩をすくめた。

「カードゲームと一緒ですよ」

「ん?」

「カードゲームはアドの取り合いです。細かなアドを積み重ねて勝利するんです」

「ふーん? 今は好感度を稼ごうって腹積もりか?」

「いや……彼女に嫌われて女子生徒の反感を買うのがディスアドってことですよ」

「ふん。横文字を使って煙に巻くのはお前さんの悪い癖だ」

(我ながら面倒な性格だとは思っているけど……)

 三和だって男の子だ。魅力的な女子生徒を見れば下心の一つぐらい持つ。

 だが永瀬美鈴は同時にひたむきにアイドルを目指していた。それを邪魔することなく、応援したい気持ちが三和にはあるのだ。

(だから今は……)

「ま、一人前のカードゲーマーとして育てる。それだけですよ」

「ふん。少々面白くはないが、まあお前はそういう奴だったな。精々鍛えることだ」

 

 時計の針が、ちょうど17時を刻んだ。

 




三和悠平(みわ・ゆうへい)
使用リーダー:全リーダー(しいて言うならネクロマンサーとヴァンパイア)
眼鏡をかけた三白眼の持ち主。驚いたり焦ったりと自分の想定外のことが起こると眼鏡の位置を直すのが癖。
学業の傍らシャドウバースをたしなんでいる。


永瀬美鈴(ながせ・みすず)
使用リーダー:ネクロマンサー(暫定)
腰まで伸ばした見事な栗色の髪の持ち主。
アイドルの卵。
華やかな外見とは裏腹に、弱小プロダクションの所属で給料は雀の涙。洋服代や化粧品代、ダンスのレッスン代などで出費がかさみお金には苦労している模様。
営業活動の一環と小遣い稼ぎに個人配信を行っている。


使用デック
三和ネクロマンサー
https://twitter.com/fet_light/status/1118876277341966336
相手機械ロイヤル
https://twitter.com/fet_light/status/1118888990403223554
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