Tick Tack シャドウバース   作:fet_light

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※誤字脱字やミスなど以外には返信を返さない方針にしていますが、感想は全て読ませていただいております。
大変励みになります。お礼申し上げます。


10.反響するミラーマッチ

「お~い……、お前ら、そろそろ時間だぞ~」

「えっもうそんな時間?」

「今日はこの辺だね」

 カラオケ店に入ったものの、ほとんど歌を歌わずに三和たちは対戦に時間を費やした。

「最後に楓子ちゃん一曲歌っていく?」

 美鈴はそういって楓子にマイクを挿し出した。マイクを受け取った楓子は、受け取ったマイクをじっと見つめると、やがてそっと美鈴に差し出した。

「永瀬せんぱいのうたがききたいです」

「え? 私?」

「あ、俺も聞きたい!」

 剛もそれにならう。

「そ、それじゃ……コホン」

 改まって歌を所望されると緊張する。

「なにかリクエストある?」

「せんぱいの歌ってあるんですか?」

「いや……実は私まだ一曲も書いてもらってないんだ」

 自分に作詞作曲の才能があればよかったのだが、美鈴は自分で曲を作ったりはできないし、事務所もまだ美鈴の曲を作るまではいたっていなかった。『歌ってみた』動画を幾つかネット上に上げているのみだ。

「じゃあとくいのきょくでおねがいします」

(うー、そういうオーダーが一番難しいんだよなぁ……)

 美鈴が選択したのはとあるアニメソングだった。美鈴は低音も出せるが本来は涼やかな高音だ。美鈴の声質を生かせるのは大衆曲よりもアニメソングに多く当てはまる。

 原作の命を焦がして戦う少年少女を思い浮かべながら熱唱する。カラオケなので控え目だが、手拍子もいれて視線に力を籠める。

 本気は出していないが、それでも美鈴の風格は剛や楓子に伝わっていた。固唾を飲んで曲に聞き入る。

 サビまで歌い切ると、楓子がぱちぱちと噛み合わない握手をした。

「初めてきくきょくですけど、すごくよかったです」

「だったらよかったです」

 気恥ずかしさを覚えながらも微笑む。美鈴が歌ったのは結構有名な曲でテレビCMでも流れていたはずだが、楓子はあまりテレビを見ないのかもしれない。

「うしろの人、永瀬せんぱいと似ていますね」

「え?」

 後ろにあるのはテレビのモニターだ。そこには栗色の髪の少女が映っていた。

「うん。そうだね。実はちょっと意識して寄せているんだ。髪の色が似ているから」

「ああ、似ているのは偶然じゃなかったんだ」

「そう。ほら、お母さんが仕立ててくれた衣装で歌ってみた動画とかもあるんだ」

「この服手作りなの?」

「へぇ~、ブックマークしとこ」

 同じクラスであっても、美鈴とは疎遠にしていたグループの集まりだ。交流で得られる物は多い。

 その一曲を最後に、カラオケ店を辞した。

「それじゃあな。気を付けて帰れよ」

「うん。ありがとう」

 三和が最後に声をかけてくる。その心遣いがありがたい。

 陽はかろうじて西の方に見えているが、美鈴の家は幾つか駅をまたぐ。家に帰る頃には暗くなっているだろう。

(でも大通りを通れば大丈夫)

 防犯ブザーなどの装備は持っている。美鈴も対処法は学んでいた。人気の無い路地に入り込まなければ、大声でも出せばなんとかなる。

「永瀬」

「……って三和君?」

「いや……やっぱこの時間に一人で帰らせるのは危険かなって……」

 語尾をごにょごにょとしぼませながら三和が言う。

「それとも、こういうのはやっぱり目立つからやめた方がいいか?」

「うん……。そうだね。でも今日は折角だから」

 指先でちょこんと三和の甲を叩く。ささやかなお礼だ。まだ腕を組んで街中を歩ける仲ではないが、やはり2人一緒でいると心が弾む。

「デッキは決まった?」

「俺の方は……まだかな。そっちは?」

「リーダーは決まったかな」

「ふーん。そうか。帰ったら配信つけるのか?」

「ううん。今日はグランドマスター付近まで上げて、明日昇格戦配信かな」

「そうか。しかしビギナーから一ヶ月で本当によく上げきったなぁ」

「今更何言っているの」

 思わず苦笑を上げる。初心者をここまで鍛え上げたのは三和だった。

「いやでも視聴者も最初の3倍ぐらいに増えていただろ。フォロワー数もだいぶ増えたんじゃないか?」

「うん。ありがたいことにね」

「今度の企画終わったら、シャドウバースはどうするんだ?」

「うん……。どうだろうね。お仕事があれば呼ばれるけど、私の番組はカードゲーム専門じゃないからね」

 まだ番組放映前だが、口コミで広がったのか、仕事の依頼が少し増えてきている。

 今はグランドマスターを目指すためにそれらを退けているが、多忙になればなるほど、シャドウバースに接することのできる時間は短くなるだろう。

「そういう三和君は? プロとかにならないの?」

「プロかぁ……。いやそこまでは考えていないな」

「三和君の夢ってないの?」

「夢かぁ……。うーん」

(サラリーマンとか公務員とか言いそうだなぁ)

 自分で問いかけつつ、夢の無い答えを予想してしまう。

「研究員……かな」

「研究員?」

「あくまで夢の話だけど、俺がシャドウバースをずっと続けているのはやっぱり検証することが大好きだからなんだ。あのデッキのカードをあれに変えてみたらどうだろう、あのコンセプトのデッキはどうだろうか。そんなことを模索するのが楽しいんだ」

「だから研究員?」

「ああ。ただ頭よくないとなぁ」

「三和君成績いいじゃない」

「ま、夢というか第一志望とかそんな感じ」

 三和はそんな風に誤魔化した。何も今から三和の選択肢を狭める必要は無いと思い、美鈴は何も言わない。

「じゃあ理系かな?」

「そうだな。文系は就職が大変って聞くし」

「私は文系だなぁ」

「アイドルとなるとそうだな。……大学決めているのか?」

「一緒の大学行く?」

 三和は一瞬逡巡するが、首を振った。

「いや、大事なことだからお互いの進路に合致した大学選ぶべきだ」

「手堅いなぁ」

「……ただ浮気するなよ。妬くぞ」

 三和の言葉に目をしばたたかせる。

「三和君でも妬くことあるんだ」

「……お前なぁ」

(アイドルの彼女を持って気が気じゃないんだが……)

 三和は内心思いつつ、悟られるとからかわれるような気がしてやめた。

 と、

「おい、お前らァッ!」

 強い語気に驚いて2人同時に振り返った。

 そこには両腕を腰に当てて、怒りに身を反らしている化学教諭の樫崎の姿があった。

「かっしー!?」

「こんな時間まで出歩いて……しかも二人っきりだと!?」

「あ、いや私たちこれから帰るところで……」

「ていうかお前ら……やっぱりそういう関係になったのか?」

「う」

 樫崎には機会を逸し、まだ報告していなかった。

「それはないだろお前ら。そういうのはまず真っ先にあたしに報告するのが筋ってものじゃないのか?」

 樫崎の怒りは、どちらかというと報告をしていなかったことにむいている気がしてならない。

「すいません、報告する機会なくて……」

「公表するつもりはないから秘密で頼むぜ、かっしー」

「ふーん。まあ、まだ陽も沈んでないし遊びで出歩いていたのは見逃してやるよ。でも見つけたのがあたしだからいいけど、他だったらどうするんだ?」

「さっきまで安原君とかも一緒だったんです。念のためで三和君が送ってくれただけです」

「ほぉ。意外に気配りできるじゃないか。あんたにそんな甲斐性があったとはね」

「相変わらず俺への評価低いっすね……」

 三和はそっぽをむきながら言う。

「多少迂闊だとは思うけど、まああんたらがそれでいいならいいよ。ただこの辺りのこの時間、教師たちが持ち回りで見回りにくるから注意しな。あたしらとしても手をわずらわされない方が助かるしな」

「はい」

 それで見逃してくれるらしい。樫崎は手をふって「しっしっ」と追い払ってきた。

「びっくりしたね」

「ああ……やっぱり迂闊だったかな」

「ううん、そんなことないよ。やっぱりちょっと心細かったから」

 実際、街中を一人で歩いていると声をかけられるのはしょっちゅうあることだ。路地にひきずりこまれそうになって大声で助けを呼んで事なきを得たこともある。

 駅についたところで三和にお別れを告げた。

「お母さんに最寄り駅に車に迎えに来てもらうからここまででいいよ」

「ああ。じゃあな」

「あ、そうだ、三和君」

「なんだ?」

「今日帰ったら最新の衣装見せるから、感想聞かせてね」

 母のマドカからお昼ごろに衣装ができた旨の連絡が着ていた。

「衣装? なんのことだ?」

「配信で着ているコスチュームのことよ」

「へー。また作ったのか。今度もお母さんの手作りか?」

「うん……今回のはちょっと……難ありなんだけど」

「どういうこと?」

「と、ともかく、放送前に三和君に見てもらいたいから、ちゃんと通知みてね!」

 小走りに駆けて、美鈴は立ち去った。

 

 

 

 

「お母さん、やっぱりこの衣装、攻めすぎじゃない……?」

「ううん………そうかしら?」

 マドカが作った衣装。

 それは『舞躍る刃・ディオネ』の衣装だった。

 美鈴のデッキには一枚も入っていないカードだが、美鈴の栗色の髪とよく似あうとマドカが入れ込んで作ったものだった。

 しかしスカートは下着を隠す丈があるかどうかもあやしいし、脇も含めて背面が大きく開いている。

 とにかく露出度が高い衣装だった。

「でも似合っているとは思うのよねぇ」

 マドカはそういう。しかし美鈴としては、似合っているかどうか以前の問題だった。

「まあとにかく彼氏に意見聞いてみなさい」

 そう言われ、携帯端末を取り上げられる。撮影は任せろいうことらしい。

 ポーズをせがまれ数枚写真を撮ると、目の前で送信させられた。

 返事はすぐ返ってきた。

『攻めすぎ』

「ほらぁ!」

「あらあら」

『彼氏の立場としてなら反対。男としては大賛成』

「あらあらあら」

 マドカが忍び笑いを漏らす。

「それ似合っているって事?」

『似合っているけど攻めすぎ』

「着ない方がいいかな」

『絶対浮気しないって約束できるならいいぞ』

「あらあらあらあら」

 それを見ていたマドカはもう腹を抱えて笑い出しそうだった。

「じゃあ三和君も浮気しちゃだめだからね」

『安心しろ、その心配は実質皆無に近い』

「OK、でたわね」

 マドカが微笑む。

「うー……着る方はすごく恥ずかしいんだからね」

「いやーでもすごく似合っているわ。がんばって作ったかいがあったわ」

 『舞躍る刃・ディオネ』はさらさらとしたブロンドヘアーを長く伸ばしている。美鈴の髪は栗色だが、光の当て方によっては金色にも見えるので、再現度は高いと言える。

 プロポーションも中々だ。胸はパッドで盛ることになったが。

「じゃ、明日の配信で初お披露目だね」

 

 

 

「なんちゅー服着るんだ……」

 一方、携帯端末を手に三和は頭を抱えていた。

 『舞い躍る刃・ディオネ』を模していた美鈴はとても似合っていた。

 ただ同時に、露出した脇や肩のラインなど、素肌を衆目にさらすのは気が気ではなかった。

(本当は止めたいけれど……。仕事のためだものな)

 狙いが露骨すぎて離れるファンもいるかもしれないが、それを差し引いても似合っていた。

 三和には止めるべくもない。

(アイドルと交際するのも大変だな……。いや大変なのは美鈴か)

 帰り際に美鈴に将来の夢をたずねられた時、三和は研究員と答えたが、あれはとっさの機転だった。

 アイドルという将来の夢をしっかり見据えている美鈴に比べて、三和は自分の将来について漠然としたイメージしか持っていなかった。

 その差に愕然とし、それでも美鈴に呆れられないようにとっさにそれっぽいことを言ったのだ。

 美鈴は一ヶ月という短期間で、他の興業を片付けながらシャドウバースのランクを駆け上がった。

 それに対して三和はというと……。

(俺ももうちょっとがんばらないとなぁ)

 手の平の携帯端末と机に置かれた教科書。

 どちらを手に取るか悩み、三和が先に手をとったのは教科書だった。

(とりあえず課題終わらせないとな。それから思う存分ランクマッチだ)

 

 

 

 

 歓声が湧いていた。

 それは音声ではなく文字の洪水。美鈴のプライベートストリームのコメント欄だ。

 グランドマスターの1万MPを稼ぎ、美鈴は昇格戦に入っていた。

 コスチュームは『舞い躍る刃・ディオネ』。

 こちらも観衆の反応を沸かせたが、それもいまほどではない。

 美鈴の一か月間を賭けたチャレンジが、もう目の前にまで迫っているのだ。

 現在昇格戦は一勝一敗。

 最終戦。

「おねがいしまーす!」

 間延びした声で『もう一戦』をタップする。

 相手はロイヤルだった。

 美鈴もロイヤル。

 先行は相手。後攻は美鈴。

 

 

 最初の手札交換。

 美鈴の手には『レイピアマスター』と『空の指揮官・セリア』、『スカイセイバー・リーシャ』があった。

(2コストの動きがキープできるけど……ここはハードマリガン!)

 ハードマリガン。序盤の安牌な手をキープせず、強いカードを求めて強気に手札交換することだ。美鈴は3枚とも交換。

(来た!)

 手札に来たのは『白人の剣舞』。後攻を切り返すための強カードだ。

 2コストのカードは『空の指揮官・セリア』を引いていた。エンハンス効果でフィニッシャーとして使いたいカードではあるが、ここは妥協して使うしかない。

 

 

 1ターン目はお互いにパス。

 

 

 2ターン目、相手は『レイピアマスター』を2PPエンハンスで使用。

 こちらはそれに『空の指揮官・セリア』を合わせる。

 

 

 先行3ターン目、相手は『白翼の戦神・アイテール』をプレイ。

 『レイピアマスター』はリーダーを直接攻撃。美鈴のライフを18点に削る。

 

 後攻3ターン目、美鈴も『白翼の戦神・アイテール』をプレイ。手札に『スカイセイバー・リーシャ』を加える。

 このままでは相手の3コストに上からとられるので『空の指揮官・セリア』は相手の『レイピアマスター』と相打ち。

 ターンエンド。

 

 

 先行4ターン目、相手のターン。

 相手は『白翼の戦神・アイテール』でリーダーを直接攻撃。ライフを16点に削る。

 ここまではロイヤルで後攻を取った場合の規定路線だ。

 相手は『月の刃・リオード』と『空の指揮官・セリア』をプレイ。

(来た、リオード)

 

 後攻4ターン目、美鈴のターン。

 進化権が解放される。

 プレイしたのは『月の刃・リオード』。

 進化をして0コストスペル『陰伏天誅』を手札に加える。

(相手の合計体力は7点。潜伏したリオードを放置すると『白刃の舞』を使われる)

 『白刃の剣舞』は劣勢の切り返しとしても強いが、同時に優勢時にはより格差を広げられるカードだ。

 相手が握っている可能性を考えると、できれば場にフォロワーを残したくはない。

 しかし『月の刃・リオード』のような潜伏フォロワーを倒すためには、AoEと呼ばれる範囲攻撃か、ランダム除去しかない。

 進化した『月の刃・リオード』で『白翼の戦神・アイテール』を攻撃して破壊。

 『白翼の戦神・アイテール』は『空の指揮官・セリア』を攻撃して破壊。

 そして『白刃の剣舞』でランダム3点ダメージ。

 相手を全処理する。

(怯えすぎかもしれないけれど……今の環境は一体でもフォロワーを残したくはない)

 

 

 

 先行5ターン目、相手のターン。

 相手の進化権も解放される。

 相手がプレイしたのは『スカイセイバー・リーシャ』と『クイックブレーダー』。

 兵士・フォロワーをプレイしたことによって『スカイセイバー・リーシャ』が進化する。

 『クイックブレーダー』は体力1残っていた『白翼の戦神・アイテール』を相打ちで破壊。

 『スカイセイバー・リーシャ』は進化した『月の刃・リオード』を攻撃して破壊。体力2点残る。

 美鈴のフォロワーは全て倒されたが、相手はそれでターンエンドせず、攻撃時効果で現れた『黄昏の刃・ナノ』に進化権を使用。

 こちらが握っている『陰伏天誅』対策の進化だ。

「うわぁ……厄介な盤面」

 

 

 後攻5ターン目、美鈴のターン。

 相手の盤面には5/2の『スカイセイバー・リーシャ』に3/3必殺の『黄昏の刃・ナノ』。

「これどうしよ。どうあがいても有利交換無理だよね……」

 5PPと今のハンドではどうしても有利交換は無理に思える。

「むむむ、ここはこーして、こう!」

 『スカイセイバー・リーシャ』と『レイピアマスター』をプレイ。

 『スカイセイバー・リーシャ』は相手の『スカイセイバー・リーシャ』と交戦し破壊。

 『レイピアマスター』は進化。相手の『黄昏の刃・ナノ』と相打ちして破壊。

 こうして美鈴の盤面には1/1必殺の『黄昏の刃・ナノ』のみ残った。

「きっつ……これまずいかもなぁ……」

 不利な盤面処理を強要された。

 コメント欄にも試合展開に不安を覚える声が漏れ出ている。

 

 

 先行6ターン目、相手のターン。

 相手は『月の刃・リオード』をプレイ。進化して『陰伏天誅』を加え、即プレイ。

 『陰伏天誅』の1点ダメージで美鈴の『黄昏の刃・ナノ』を破壊する。

 余ったPPで『簒奪の絶傑・オクトリス』をプレイ。

 ターンエンド。

 

 

 後攻6ターン目、美鈴のターン。

「うわーん、また潜伏……って『白刃の剣舞』?」

 ターン開始時のドローによって、美鈴の手には2枚目の『白刃の剣舞』が来ていた。

「いやでも4PPで攻撃力5点出せるのって……」

 唯一あるのは『スカイセイバー・リーシャ』。

 本来なら、兵士・フォロワーと一緒にプレイして能力で進化させたいカードだ。

 しかしPPの関係上、兵士・フォロワーと組み合わせて『白刃の剣舞』を撃つのは無理だ。

(どうする……?)

 美鈴はじっくりと時間をかけて悩んだ。コメント欄でも使うかどうかで意見はまとまらず二分されている。

 長考の末の美鈴の選択は、

「相手も進化権を使い切った! いっちゃえ!」

 『スカイセイバー・リーシャ』をプレイ。進化権を使って『簒奪の絶傑・オクトリス』を攻撃して2点の反撃を受けて破壊。

 そして『白刃の剣舞』。5点ダメージで潜伏状態の相手の『月の刃・リオード』を破壊する。

 美鈴の場には5/3『スカイセイバー・リーシャ』と1/1『黄昏の刃・ナノ』。

「相手の動きからして絶対剣舞握っているよなぁ。これも返されちゃいそう」

 予想としては2コストフォロワーとエンハンス『白刃の剣舞』、『簒奪の使徒』と『白刃の剣舞』。

 それをされてしまうとこちらは除去が難しく、相手の8ターン目『高潔なる騎士・レイサム』に合わせて動かれてしまう。

 そうなってしまっては受け手にまわるしかない。

 

 

 先行7ターン目、相手のターン。

 相手も若干の思考に入る。

 プレイしたのは『スカイセイバー・リーシャ』。

 そして『アサシン』をプレイ。進化した『スカイセイバー・リーシャ』を潜伏させる。

 ターンエンド。

「うっ、伏せリーシャか」

 次の8ターン目には『高潔なる騎士・レイサム』が着地できる。

 そうなれば必殺を持つ『黄昏の刃・ナノ』が疾走し、こちらが次のターン強力な盤面を作っても破壊される。

 

 

 

 後攻7ターン目、美鈴のターン。

「なはは……こんなの無理! 負けたー! ってあれ……?」

 ドローを確認して驚く。

 手札に来たのは3枚目の『白刃の剣舞』だ。

 コメント欄がざわついた。『不正』と揶揄する者もいるが、大一番の勝負のために祝福してくれる声の方が多い。

「あはは……。カードゲーマーはPrayingが大事ってね!」

 PlayではなくPrayだ。

 『白刃の剣舞』をエンハンスでプレイ。『スカイセイバー・リーシャ』の攻撃力を7点にあげ、潜伏した『スカイセイバー・リーシャ』もろとも相手の盤面を一掃。

 そして『黄昏の刃・ナノ』と合わせて敵リーダーを攻撃。8点削って相手のライフは12点。

「伏せリーシャ、いい手ですねぇ」

 使いどころの無かった0コストスペル『陰伏天誅』をプレイ。相手のリーダーを1点削って、手札に加えた『アサシン』をプレイして『スカイセイバー・リーシャ』を潜伏させる。

 美鈴の盤面は潜伏した7/5『スカイセイバー・リーシャ』、2/1『アサシン』、1/1必殺『黄昏の刃・ナノ』。

(これなら多少不利でも次のターン、レイサムを着地できる!)

 レイサムを先に着地できれば大きなアドバンテージだ。

 

 

 

 先行8ターン目、相手のターン。

 ……だが。

《負けたか……》

 相手はリタイアした。

「はぁー」

 ロイヤルミラーは『高潔なる騎士・レイサム』を先に置ける分先行有利になりがちだが、うまく『白刃の剣舞』を引き込むことで勝利することができた。

 これも最初のハードマリガンが引き寄せた……のだろうか。

「とにかくこれで、グランドマスター達成です!」

 カードの引きに助けられたが、勝利は勝利だ。

 そして美鈴はようやくグランドマスターに到達した。

「番宣させてくださいっ! 5月3日にアミダTVで私がビギナーからグランドマスターになるチャレンジが放送予定で……」

 

 

 

 グランドマスターという一つの到達点を迎え、美鈴の偉業も成し得た。

 今までの感謝をこめて、中々できなかったリスナー達とのルームマッチを数戦することになった。

「ちょっと皆色んな手で笑わせにくるじゃん!」

 美鈴は遊びデッキというものを持ってないが、リスナー達は『唯我の絶傑・マゼルベイン』や『天界の門』などのデッキをここぞとばかりに持ちこんでくる。

 ファンとの交流も、美鈴がアイドルをやる上でのモチベーションだった。

「みんな、応援ありがとうね!」

 心からのお礼を述べて、美鈴は配信を閉じた。

 

 

 

 

 

 携帯端末にはマネージャーの須賀から通知が来ていた。

『お疲れさま理江ちゃん。今、番組の人たちと飲んでいるんだけど、配信見ていたわよ』

「私なれましたよ! グランドマスター!」

『うん。いい画になるって先方さんも喜んでいた。RAGEの企画ももちろんGOサインよ』

「やっ……たっ……!」

 長い道のりを想い、感極まって涙が出そうになる。

『それでね、配信を見ていた横田さんが、衣装気に入っちゃって、その服でいこうってことになったの』

「え……これ、ですか?」

『そうそう。またカードの真似たんだって? ファンの心つかんでいるって喜んでいたわよ』

「えっ、こっ、これ部屋着用でっ」

『何か問題ある?』

「スッスカートの丈が短くって……」

『う~ん同じ女だから気持ちはわかるけど、ファンサービスと思って我慢して?』

 同じ女だから。同性だけが使える最強の封じ手だった。

 鈴木と言い方は違うものの、須賀もやはり業界人だ。

(お母さんに見られてもいいものを用意してもらおう……)

 それが精いっぱいの対抗策だった。

 

 

 

 次に三和に連絡を入れた。

「三和君見てた?」

『ああ。お疲れ様』

「おめでとうが先だよ」

『そうだな、おめでとう』

「でも疲れた~」

『そうだな。やっぱり、お疲れ様』

「うん。でもまだこれで終わりじゃないんだ」

『RAGEか?』

「うん。今日は寝るけど、明日から三和君には壁打ち手伝って欲しいの」

『配信はいいのか?』

「そっちもするよ。でも疲れたから……ちょっとペースは落すかな」

『ああ、わかった。俺もそろそろ、デッキを決めないとな』

「まだ決めてないんだ?」

『そうだな。強いデッキを握るか、自分の好みを優先するか、悩んでいるところだな』

 勝つことに意義を見出すか。

 それとも自分の好きなデッキで勝つことに意義を見出すか。

 三和の矜持が試されているところなのだろう。

(どっちが三和君らしいかな……)

 師匠としての三和の場合、やはり勝つ姿が見たいという思いもある。

 だがどんなデッキを握っていても、例え負けても三和は楽しそうにゲームをプレイしていた。

「どんなデッキを使ってもいいと思うよ。三和君はいつも楽しそうにシャドバしているから」

『そうか?』

「うん。私のために色んなデッキ握ってくれたじゃん」

 今日のファン交流戦でも実感したが、三和は様々なデッキを握ってくれた。

 カードを一つ一つ教えてくれて、その対抗策、予防策を教えてくれた。

 それらを語る時の三和は活き活きとしていた。

 三和もいつかの時に語っていたが、本来はファンデッカー気質なのだろう。

『勝てなくてもいいかな』

 三和のその問いには意表をつかれた。

 三和がそんな質問をしてくる意図が読めなかった。

 でも……。

「うん。悔いが残らなければ、いいんじゃないかな」

『そうか。ならデッキを決めてみる』

「うん。あともう少し、がんばろうね!」

『ああ。とりあえず、今日はおやすみ』

「うん。おやすみ」

 長い一ヶ月だった。カードゲームというものを知らないまま、とにかく三和が作ってくれたデッキを信じ、戦い続けてきた。

 美鈴には自分がどれぐらいすごいことをやってのけたのかはわからない。

 ただ、確かな手ごたえと、ファンや番組からの反響で、自分の過ごしてきた努力が無駄ではなかったと感じていた。

 達成感。そう呼べるものだろう。

「桔音に自慢しちゃおっ!」

 妹は自分以上にカードゲームのことはわからないだろうが、美鈴はお姉ちゃんパワーを発揮したくて仕方がなかった。

 妹の部屋へと駆け込んだ。

 

 

 

 

 




シャドバ用語
・ミラーマッチ
 同リーダー同士の対決のこと。ロイヤル対ロイヤル、ビショップ対ビショップなど。
・AoE
 Area of Effectの略。カードゲーム以外でも使われる。
 日本語に言い換えるといわゆる範囲攻撃。
 潜伏は対象にとれないだけなので、範囲攻撃に巻き込めば被害を与えることができる。



使用デッキ
・美鈴ミッドレンジロイヤルver2
https://twitter.com/fet_light/status/1129291720196218881
・相手ミッドレンジロイヤル
https://twitter.com/fet_light/status/1129293167637852160
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