緊張で溜め込んだ息を吐きだして、美鈴は体を弛緩させた。
会場の冷房は全体の人口密度に合わせられている。人ごみと様々な端末が熱を発する一般会場は暑いぐらいだが、閑散とした配信卓では肌寒いぐらいだ。
しかし美鈴の体は汗ばんでいた。
『いやぁ、クラスメイト同士の戦い、熱いですねぇ』
『お互いに使用するデッキは違うものの、プレイング、カードの引き、実力は伯仲していますね』
『一方でお二人のプレイを拝見していると、ドローの度に一喜一憂する凪咲選手とポーカーフェイスを崩さないWIZE選手、対象的ですね』
『そうですね。まるで月と太陽のような2人です』
『さて、蝙蝠ヴァンプ対ミッドレンジロイヤル。最終試合です!』
ロイヤル対ヴァンパイア。
先行は美鈴。
後攻は三和。
最初の手札交換。
ドローソースを重視したのか三和は『双石の悪魔』に『不穏なる闇の街』をキープ。
美鈴は『白翼の戦神・アイテール』をキープ。
1ターン目はお互いにパス。
先攻2ターン目、美鈴のターン。
『空の指揮官・セリア』をプレイ。
後攻2ターン目、三和のターン。
『双石の悪魔』をプレイ。『蒼炎の魔石』を手札に加える。
先行3ターン目、美鈴のターン。
『白翼の戦神・アイテール』をプレイする。
『空の指揮官・セリア』は三和への直接攻撃を選択。2点ダメージ。18点に削る。
後攻3ターン目、三和のターン。
『蒼炎の魔石』をプレイ。2枚ドローする。
そして1コストで『姦淫の信者』をプレイする。
『おっと先ほどの試合では見られなかった姦淫の信者。攻撃する度に自分のリーダーに1点ダメージ』
『双石の悪魔』は『空の指揮官・セリア』と当たり、相打ち。
先行4ターン目、美鈴のターン。
(姦淫の信者か……)
攻撃時効果で自分のリーダーに1点ダメージを与える効果を持つ。本来ならデメリット効果だが、蝙蝠ヴァンパイアの場合は『闇喰らいの蝙蝠』の打点が上がり、さらには『フラウロス』の直接召喚のトリガーともなる。
美鈴は『月の刃・リオード』と『レイピアマスター』をプレイ。『白翼の戦神・アイテール』は『姦淫の信者』を攻撃、破壊する。
『姦淫の信者』が持つもう一つの能力、ラストワードによって美鈴のライフが1点削れて19点になる。
後攻4ターン目、三和のターン。
進化権が解放される。
(ヴィーラで盤面を強くするか。それとも自傷を稼いでくるか……)
三和は『血の取引』をプレイ。2枚ドロー。
そして『姦淫の従者』、『不穏なる闇の街』を2枚プレイ。
直接召喚『フラウロス』。
『フラウロス』に進化権を切り、『白翼の戦神・アイテール』を破壊する。
三和の場には7/3『フラウロス』、4/2『姦淫の従者』。
美鈴の場には1/3潜伏『月の刃・リオード』と『レイピアマスター』。
ライフは三和が13点。
美鈴が19点。
先行5ターン目、美鈴のターン。
(どう動いたものかしら……)
美鈴の手には様々な手がある。
(……うん、こっちかな)
美鈴は『簒奪の絶傑・オクトリス』をプレイ。『フラウロス』のラストワードを奪う。
『レイピアマスター』で『姦淫の従者』を相打ちで破壊し、『月の刃・リオード』を進化。
まだ終わらない。『白刃の剣舞』で『フラウロス』を破壊し、三和に直接攻撃。3点。
『ああっと貴重な体力回復であるラストワードを奪われてしまう! 5ターン目にして早くもWIZE選手のライフは残り10!』
後攻5ターン目、三和のターン。
ターン開始時、前のターンに置いたアミュレット『蒼炎の魔石』が破壊されて2点ダメージ。
『三和選手、これでライフは残り8点』
三和もため息をつく。
(さて……どう動いたものか)
自傷回数は5回。
(……美鈴の手札は残り4枚。しかも二枚は陰潜天誅とリーシャで決まり。リソース勝負に持ち込めるといいが……)
三和は『邪眼の悪魔』をプレイ。
『憎しみが私を焦がす……』
自傷した回数だけ相手フォロワー全てにダメージ。自傷回数は5回。
美鈴のフォロワーを全処理する。
奪ったラストワードの効果で美鈴の体力が20点まで回復する。
先行6ターン目、美鈴のターン。
(三和君のライフを詰め切りたいけど……)
三和のライフを全力で削りに行くべきか。
(できればここで進化権は使いたくない……けど邪眼の悪魔放置は怖いな)
美鈴は『簒奪の従者』をプレイ。ファンファーレの一点は『邪眼の悪魔』を選択。
(小剣か靴)
手札に加わった財宝カードは『黄金の小剣』。
(やったー!)
『美鈴選手、思わずガッツポーズ』
『本当に表情豊かですね』
美鈴は『黄金の小剣』とランダム2点ダメージで『邪眼の悪魔』を処理する。
後攻6ターン目、三和のターン。
美鈴とは対照的に三和は思わず渋面を浮かべていた。
(うーん、そこを引くか。相変わらず持っているな……)
小剣で一方的に処理でき、靴を引いても相打ち。2分の1に賭けられた中で最悪なカードを引かれた。
(いや……最悪でもないか)
三和は『狂恋の華鎧・ヴィーラ』をプレイ。さらにエンハンス『姦淫の翼』をプレイ。
6/6ドレイン持ちで、『狂恋の華鎧・ヴィーラ』の進化時効果で次の自分のターンまでダメージを2点軽減する。
『ヴィーラ姦淫の翼! 6点ドレインで一気にライフを回復します!』
『ロイヤル側はこれをされるとつらい!』
『簒奪の従者』を2点の反撃を受けて破壊。
さらにドレイン効果でライフを6点回復し、三和のライフは14点。
先攻7ターン目、美鈴のターン。
(翼ヴィーラなんてされたらこうするしかないじゃん!)
『ドラゴンナイツ』をプレイ。『竜殺しの騎士・ジークフリート』をチョイス。
必殺効果で相打ちで破壊。
三和のライフは14点。
美鈴のライフは残り20点。
三和の自傷回数は6回。
手札は三和が7枚。
美鈴が4枚。
後攻7ターン目、三和のターン。
(さて、ここからあと20点、詰め切れるか)
三和はまず『悪夢の始まり』をプレイ。『フォレストバット』を2体出して2枚ドロー。
そして0コストスペル『眷属への贈り物』をプレイ。お互いのリーダーに1点ダメージを与えてそれぞれの場にフォレストバット一体を出す。
そして『姦淫の絶傑・ヴァーナレク』をプレイ。美鈴の場の『フォレストバット』を破壊しリーダーを直接攻撃。
美鈴のライフを17点にまで削る。
先攻8ターン目、美鈴のターン。
(まだまだ!)
エンハンス『ドラゴンナイツ』をプレイ。チョイスしたのは『竜殺しの騎士・ジークフリート』と『炎帝・パーシヴァル』。突進を持つ『炎帝パーシヴァル』で『姦淫の絶傑・ヴァーナレク』を破壊。
ターンエンド。
後攻8ターン目、三和のターン。
2枚目の『姦淫の絶傑・ヴァーナレク』を切って『竜殺しの騎士・ジークフリート』を破壊する。
そして『鋭利な一裂き』で2点自分のリーダーのライフを削り、美鈴のライフを3点削る。
さらにはアクセラレート『邪眼の悪魔』で『炎帝・パーシヴァル』を破壊。
2体のフォレストバットと疾走を持つ『姦淫の絶傑・ヴァーナレク』でリーダーを直接攻撃。
美鈴のライフが一気に10点まで削れる。
先攻9ターン目、美鈴のターン。
(三和君の自傷回数は……9回)
蝙蝠を握っていたら致死ラインだ。そして三和の手札の量からして、ないと期待するのは無理があるだろう。
美鈴は『簒奪の絶傑・オクトリス』をエンハンスでプレイ。
手札に加えたのは『黄金の杯』と『黄金の靴』。
『黄金の杯』をリーダーに使用してライフを12点にまで回復。
『簒奪の絶傑・オクトリス』は『フォレストバット』に攻撃して破壊。
そして『白刃の剣舞』。
6点ダメージで敵を全処理。
後攻9ターン目、三和のターン。
(白刃の剣舞を握っていたか……)
三和のライフは残り10点。『簒奪の絶傑・オクトリス』を残したくはない。
『闇喰らいの蝙蝠』をプレイして、『簒奪の絶傑・オクトリス』を破壊。
『姦淫の従者』をプレイしてライフを9点に削りつつ、自傷カウントを稼ぐ。
先行10ターン目、美鈴のターン。
(蝙蝠を除去に使うなんて……そろそろ三和君の除去札も切れてきたところかな?)
そしてドローを確認する。
(あれ? これもしかして……)
美鈴は『スカイセイバー・リーシャ』をプレイ。
《黄昏は闇夜を照らす勇気の光!》
そして『高潔なる騎士・レイサム』をアクセラレートでプレイ。2体の『ナイト』が場に出る。
進化した『スカイセイバー・リーシャ』は『姦淫の従者』を攻撃して破壊。場に『黄昏の刃・ナノ』が出て手札に『トワイライトソード』を手札に加える。
『おおっと凪咲選手、これは……!』
『陰伏天誅』からの『アサシン』で『スカイセイバー・リーシャ』を潜伏させる。
そして必殺を持つ『黄昏の刃・ナノ』に『黄金の靴』を使用して『闇喰らいの蝙蝠』を破壊。
『おおっと、温存してきたスカイセイバー・リーシャとアサシンをここで使用しました! 潜伏したリーシャをとる手段がなければ、次のターン2枚のトワイライトソードで合計15点ダメージ!』
『次がラストのターンになりますね』
後攻10ターン、三和のターン。
自傷回数は9回で、美鈴のライフは残り12点。
(鋭利な一裂きがあれば勝ち)
三和はドローを確認する。
引いたのは『血の取引』だ。
『次のターン15点ダメージが確定しているWIZE選手』
『まだあります。血の取引で眷属への贈り物を引けばWIZE選手の勝ちです』
三和は『血の取引』をプレイ。
引いたのは、『不穏なる闇の街』と『鋭利な一裂き』。
『おおっとここで鋭利な一裂き、一手遅い! 不穏なる闇の街でもダメですよね?』
『はい。エンハンスがあるので、0コストでプレイすることはできません』
三和はそっとターンエンドを押す。
先行11ターン目、美鈴のターン。
(ごめんね三和君)
三和はカードをタップする。
『リーシャで5点! そして……トワイライトソード!』
10点ダメージで三和のライフを吹き飛ばす。
『第四回戦凪咲理江選手対WIZE選手は凪咲理江選手の勝利でした』
『お見事でしたね』
美鈴はほうっと息を吐いた。しばらく茫然と端末をのぞき込んでいると、声がかけられた。
「すいません、解説席へと移動お願いします」
「あ、すいません」
(そうだった、勝利者インタビューがあるんだった)
勝った方は解説席で解説者たちからインタビューを受けることになっていた。
三和の方を確認すると、三和は黙って立ち去っていた。
美鈴はスタッフの案内に沿って解説席へと移動する。
黒帯とポッポロ、それとプロプレイヤーでもあるニサが迎えた。
美鈴が解説席へと近づくと、ポッポロが声をかけてきた。
「勝利した凪咲選手、おめでとうございます。いかがですか、対戦してみて」
マイクを手渡されたので声を張る。
「本当に綱渡りの勝負でした。いつライフが削られるとびくびくしながら戦いました」
「二戦目のリーシェナネメシス、3戦目のロイヤルも熾烈なライフトレードでしたね」
「かなりドローに救われました。思い切った選択をプレイしてみました」
「ニサ選手、どうですか?」
「ええっと、三戦目の邪眼の悪魔を簒奪の従者でとるシーン、あそこはどういう気持ちでプレイしましたか?」
「最悪進化権を使ってもとれますけど、できれば進化権を使わずにとりたいと思いました。どうせヴァーナレクにとられるターンなので、靴か小剣の50%であれば賭ける価値はあるだろうと思いました」
「相手のWIZE選手とはクラスメイトという話ですが、戦ってやりづらいというのはありましたか?」
「ありました。お互いに二日目に行ければいいねと応援しあっていたので……。でも試合なら全力で戦うのが礼儀だと思っていたので、お互いに全力を出したと思います」
「三戦目までもつれこみましたものね。最後の血の取引を見た時はどうでしたか?」
「あれは……もう負けたかなって思いました。それぐらいみ……蝙蝠ヴァンプは圧力があったので」
「肝を冷やされる戦いだったと。それではこれからの意気込みをお願いします」
「私はシャドウバースをはじめたのばかりなんですけど、みっちりと練習してきました。全力でプレイしますので、応援していただけると嬉しいです」
「始めたばかりでも熱意では負けないと! ありがとうございました!」
拍手で美鈴は送られる。
(三和君に勝ったんだぁ)
運に助けられた勝負。三和じゃないプレイヤーなら、選択しないカードの切り方もした。
しかし三和なら一つの甘えたプレイでも隙をついてくると思い、強気なプレイを心掛けた。
(……三和君と感想戦でもしたいけど、もういなくなっちゃったかな)
三和は人目を警戒している。おそらく素早く立ち去っただろう。
そう思いつつ退出口に出たところで、見慣れた姿があった。
「三和君……?」
待っていてくれたのだろうか。三和らしからぬ行動だった。
「よ、永瀬。お疲れ様」
「待っていてくれたの?」
「いや」
三和は苦笑を浮かべて、肩をすくめた。
「預けた私物のバッグが手違いで移動されたとかで、今探してもらっているんだ」
「あ、そうなんだ……」
てっきり待っていてくれたのだと思い、少しガッカリしてしまう。
三和は周囲を見渡す。
あたりは人気がなく、運営スタッフが時折通りすがる程度だ。
「よかったぞ。プレイング」
「え……」
「完敗だ。正直、負けるとは思わなかった」
「三和君……ごめんね。私は三和君に勝って欲しいって言ったのに」
「なーに。まだ1敗だから残り全勝すれば二日目の目はあるんだからな。それにお互い様だろ」
「……うん」
なぜかはわからないが、逆の立場だったら同じようなやりとりをしていたように思う。
三和は目ではやく立ち去れと合図をしてくるが、美鈴は離れがたかった。
立ち去らない美鈴に、三和は困ったような笑みを浮かべると嘆息する。
「配信卓映れてよかったな」
「うん。これ以上ない宣伝になるかも。それと三和君と一緒に映れてよかった」
「そうか?」
「うん、思い出になったもの。……あ、勝ったからとかじゃなくてね」
「思い出か……。結局、ろくに話せてないものな」
「うん。三和君ガード固いから」
「美鈴は油断しすぎ」
「え?」
「……っと」
三和は口を塞ぐ。
「今三和君、美鈴って」
「……」
三和は無言を貫く。三和は普段、美鈴のことを『永瀬』と苗字で読んでいたはずだ。
途端に可笑しさがこみあげて美鈴は腹を抱えた。
「あはは……油断しすぎって……あはは……」
当の三和が油断して下の名前で呼んだのだから世話はない。憮然とした表情の三和に意地悪心がくすぐられる。
「ふふふ……悠平君。ゆーくんかな?」
「俺はそんな可愛らしいキャラじゃない」
からかわれていると思ったのか、三和はつっけんどんに返してきた。
「ねぇ、咄嗟に下の名前が出たってことは、もしかして下の名前で呼ぶことがあったの?」
「………」
三和はしばし無言を貫くが、やがて観念したように漏らした。
「……独りで永瀬のことを考える時とかかな」
「そうなんだ。でも嬉しいなぁ」
ただ下の名前で呼ばれていただけだ。それだけの事実が嬉しかった。
それでも三和のスタンスは変わらなかった。表情を緩ませることなく、むしろ引き締めて諭すような声色で言ってきた。
「……我ながら軽率だった。あまり下の名前で呼び合うのは、よくない」
「……うん」
それが美鈴のためを思っての言葉だと理解できるので、美鈴は素直にうなずいた。
それからふと疑問が湧いた。意地悪な問い。むしろ美鈴が答えを出すべき問いだということはわかっていても、三和に聞かずにはおれなかった。
「ねぇ、私たちいつになったら下の名前で呼び合えると思う?」
言ってから後悔した。お互いの関係を秘密にしているのは全て美鈴の事情だ。
それなのに配慮しているのは三和の方だというのに。
しかし三和は嫌な顔をせず、わずかな逡巡の後、ぽつりと返した。
「わからない。こういうのは正解はないと思うから」
「そう……だよね」
「永瀬がきつくなった時でいいんじゃないかな」
「……三和君って、優しいね」
見た目は目つきが悪くて、物言いはつっけんどんで、表情も乏しい。
でもその実、怜悧な容貌の裏では常に真剣に相手のことを考えている。
美鈴にとっての日陰。
「残り3戦! がんばろうね!」
「ああ」
三和と美鈴を遠くから見つめている視線があった。
(許さない)
その視線の持ち主は、ギリギリと奥歯を噛んだ上で激情に頬をひきつらせていた。
(あいつは裏切った。この僕をコケにしたんだ)
怨嗟のような激情。
(報いを与えなければいけない)
(これは正当な報復だ)
二人を見つめる視線はもう一つあった。
(あいつは裏切った)
遠くから見つめているのも一緒なら、その内に秘めた激情も似ていた。
(あいつは俺をコケにした。これが許されてなる物か)
(報いを与えなければいけない)
(これは正当な罰だ)
使用デッキ
・美鈴ミッドレンジロイヤル(15話と同じ)
https://twitter.com/fet_light/status/1133393181675065345
・三和蝙蝠ヴァンプ(16話と同じ)
https://twitter.com/fet_light/status/1135176044963479554