美鈴の芸名は凪咲理江。有名な占い師に母親が依頼して画数などから考えてもらったものだという。
「それでは収録はいりまーす!」
アシスタントが声を張り上げる。今日はグランドマスターチャレンジ企画の2回目の収録の日だった。
初回はサプライズで番組側から企画の事を話され、チュートリアルを受けるだけで終わったが、今は三和のおかげで美鈴のランクはすでにビギナーからD1まで昇格していた。
収録といっても、小さなインターネット番組。
予算の都合がつくわけもなく、撮影場所は殺風景な会議室で、美鈴がシャドウバースをプレイしながら、カメラを構えたディレクターの質問に答える簡素な光景だ。
「あれ、凪咲ちゃんもうビギナーから卒業してるね」
開口一番ディレクターの野田が美鈴のランクに気づいた。
「はい。あれからちょっと自分でプレイして今D1です」
「シャドウバースのこと少しは勉強した?」
「はいっいっぱいしましたっ」
主に三和から教わったのだが、番組側にも三和のことは秘密ということになっている。
「構築済みデッキというのを買って、自分でデッキを組んだんです」
「リーダーは何を選んだの?」
「ネクロマンサーのルナちゃんです。ぬいぐるみを抱えた姿がかわいくって」
美鈴はカメラに映るようにルナのスキンを見せた。
これらのやりとりは、後で編集して必要な部分だけ切り抜いて番組に使われるはずだ。
単にシャドウバースをプレイするだけでは盛り上がらないので、野田は話を引き出そうとプレイの合間に質問を挟んでくる。
「お気に入りのカードってある?」
「えー、かわいい子が多いから難しいですね……うーん……これですかね」
《幽想の少女・フェリ》
コスト2 攻撃力2 防御力2
[ファンファーレ]『このターンが自分の10ターン目かそれ以降なら、2回葬送 する。2回葬送 したなら、ターン終了まで、自分の他のフォロワーすべては「1ターンに3回攻撃できる」を持つ。
(2回葬送 するには、幽想の少女・フェリが場に出たあと、自分の場に空きが2つ以上必要)』
「上品なところが素敵ですし何より効果が強いんです。いつも助けられています」
「このデッキはどこで勉強して組んだの?」
「ええっと、攻略サイトとかSNSとかで調べて……他の人のを参考に組みました」
実際は全て三和に言われたままなのだが、質問された場合はこう答えるように助言されていた。
「勝率いいね。もしかしてうまい?」
「デッキが強いんです。お小遣いを使ってカード集めて……」
「けっこうガチだね」
野田が苦笑をにじませながら言った。
美鈴も微笑んで、
「ガチですね」
と答えた。
それから、自分から言葉をつむぐ。
「私、e-sportsって言葉好きなんですよ」
野田は黙って美鈴の言葉を待つ。
「ゲームだけど、ネットを通じたむこうには対戦相手がいて、お互い競い合う。昔では考えられなかったことですけど、それって素敵なことだと思うんです」
そういったやりとりを数度繰り返し、時間が来たので収録終了。
「お疲れ様でしたー」
端役である美鈴の出番は終わりだ。別の収録のために素早く場を開けなければいけない。
美鈴は一礼すると席を立った。
と、チーフディレクターの横田喜助が歩いてきた。
「いやあ、理江ちゃん、予想以上に勉強してきたね。うちの若い奴が驚いていたよ」
「本当ですか? あ。もしかしてやりすぎちゃいました?」
「いやいやそんなことないよ。たしかに最初はアイドルの娘が四苦八苦する方向で編集していこうかと思ったけど、この調子ならアイドルがガチで挑戦する企画として売り込んだ方が盛り上がりそうだね。がんばってはやいところグランドマスターになっちゃってよ」
「はいっ」
元気よく返すと、横田は満足そうにうなずき手を振りながら立ち去った。
入れ替わりに美鈴に近づいてきたのはマネージャーの鈴木信成だ。
「理江ちゃん、お疲れ様」
「はい。今日みたいな感じでよかったですか?」
「そうだね……僕としてはアイドルの子はもうちょっとゲームを苦手にしている方がかわいいと思うけど……ま、横田さんは上機嫌だったしいいんじゃないかな」
そうは言うが鈴木の表情はかんばしくない。鈴木としては美鈴をゲーマーアイドルとして売り込もうという気はないのかもしれない。
「……ところで……」
「はい?」
突然声を潜めてきた鈴木に、美鈴は耳を寄せる。
「例の……シャドウバースを教わっている男の子は大丈夫かい?」
「あっはい大丈夫です。あまり話したことない人でしたけど、話してみると思いの外気さくっていうか」
今まで教室で見る三和は不愛想に三白眼を光らせ、近寄り難い印象を抱いていた。
今度の企画のことで三和を頼るのも美鈴は相当悩み、だからまずは樫崎に助言を仰いだのだ。
「そうかい……ただくれぐれも気をつけてね。アイドルは恋愛禁止だから」
「あっ……はい」
鈴木の言葉に美鈴は冷水を浴びせられた感覚に陥る。三和をそういう対象としてみているかというとそこまではないが、女の子なのに年相応の恋愛ができないというのは冷たい現実だった。
「相手に気をもたせるようなこともしちゃだめだよ。ほらゲームオタクって粘着質だからね」
「三和君は……そんなことないです」
思わず美鈴はふくれっつらをした。いくらなんでも鈴木の偏見はひどいと思った。
三和はがんばれと言ってくれたのだ。報酬も何もないのに、無償で自分を応援してくれている。
陽の元に出ないで欲しいという美鈴の自分勝手な願いに嫌な顔をせず、自分は日陰者でいいから美鈴にがんばれと言ってくれたのだ。
だから誰のためでもなく、鈴木の言葉を否定せずにはおられなかった。
「そ、そうかい」
美鈴の剣幕に、ひるむように鈴木は慌て無理やり会話を打ち切った。
「さ、それじゃ送るから車を回してくるよ。表で待ってて」
「はい」
鈴木に対する不機嫌さを隠そうともせず、美鈴はうなずいた。
番組側との取り決めで、美鈴のグランドマスターチャレンジ企画は、今回のような収録と美鈴のストリームライブの録画を切り出して編集し番組で流すことになっていた。
ビギナーからグランドマスターになると相当な時間がかかるらしく、いちいち収録に時間を割いてはいられないというのがその理由だ。
というわけで、実質サービス残業のようなものだが、家でも美鈴はシャドウバースをプレイしなければならない。
「よし、ばっちし」
鏡を前に美鈴は自身の姿を見て満足げにうなずく。
美鈴は紺と白を基調としたセーラー服を着こんでいた。制服ではなくコスプレ。モチーフはお気に入りカードとして挙げた『幽想の少女・フェリ』だ。
何かとお金がかかるアイドル家業だが、美鈴の母は裁縫が得意で、こういった衣装を自前で作ってくれる。美鈴が本気でシャドウバースを取り組んでいるとわかると、わざわざ衣装を作ってくれたのだ。
そしてパソコンとwebカメラをセットし、配信ソフトを起動する。
プライベートのストリームライブ。
別のアイドル仲間に勧められて始めた地道な営業活動だ。
たまにはファンからの投げ銭でお小遣い稼ぎもできる。
「それでは今日もシャドウバースはじめまーす!」
元気いっぱいに声を上げて自分に活を入れ、始める。
番組からは『配信で番組のこと、いっぱい宣伝しておいてよ』と事前に許可を受けている。
だから配信タイトルにははっきりと『一からグランドマスターを目指す』と書いている。
そのせいか、普段から美鈴の配信を覗きにくる常連以外に、シャドウバースプレイヤーと思しき人たちも見に来ているのか、いつもより少しだけ来場者が多かった。
(あ~でも三和君の言う通り、デッキパワーで押せちゃうなぁ)
三和の言っている通り、下位のレート帯はカードを揃えていない者たちが多く、特に悩むことなく美鈴は連勝を抱えていた。ちらほらと出てくる強いデッキ所持者には負けることもあったが、全体的に楽勝ムードだ。
(これじゃ視聴者がつまらなそうだな……そうだ!)
「やってやるワン! 怒ったワン!」
美鈴はカードたちの声真似をしだした。
途端にコメント欄がにぎわいだす。
「あなたの未来と死が見える~♪」
「現実って夢より素敵?」
「ちゃんとかまえろよ……飛ぶぞ」
「いっしょにがんばりましょー!」
『似てる』『似てない』『かわいい』『この声真似して』
コメント欄からは声真似のリクエストまできだした。
(ふふ、よかった。あ、フェリだ)
「調教の時間だな!」
いつもの調子で声を張り上げカードをプレイ。
「ご褒美だ!」
コメント欄では『感謝します』『もっとお願いします』『もっともっとお願いします』。
と謎の連帯感が生まれだしていた。
一方。
「また負けたぁぁぁぁぁぁ!」
時間を見つけて三和とやる練習戦では、ほとんど三和が勝っていた。
美鈴の使っているデッキは相変わらずネクロマンサーだが、三和はロイヤルだったり、ウィッチだったり、今は不遇というエルフだったりするが、ほとんど三和が勝っていた。
「はは、まだまだだな永瀬。今のレートでは楽勝かもしれないが、マスターになればこんなデッキと当たり続けるんだからな、覚悟しておけよ」
「うう……容赦ない。……でもなんでこんなに差が出るの」
「うーんとにかく相手の動きを予測して厄介な盤面構築をすることだな。あと相手によってアグロにプレイするかどうかも重要だ」
「アグロって何?」
「アグロはアグレッシブの略で、序盤に試合を畳むということだ。逆に長期戦がコントロールで真ん中がミッドレンジ。ほら。ネクロマンサーは10ターン目からフェリの効果で爆発的な打点を出すだろ? だからできれば10ターン前に終わらせるよう積極的に動くのが大事なんだ」
告げると、三和は携帯端末を操作した。
現在、お互いの携帯端末はシャドウバースを起動し、ルームマッチモードになっている。
三和はエルフのデッキを選択し準備完了を押した。
美鈴もネクロマンサーで準備完了を押した。
「今回俺はミッドレンジコルワエルフを使う」
「ミッドレンジコルワ?」
「《絢爛の紡ぎ手・コルワ》を軸としたデッキだ」
《絢爛の紡ぎ手・コルワ》
コスト5 攻撃力4 体力4
[ファンファーレ]『このバトル中、自分のリーダーは「自分のターン開始時、フィル1枚を手札に加える。直前の相手のターンに自分のリーダーが受けた合計ダメージが4以上なら、1枚ではなく2枚手札に加える」を持つ。リーダーはこの能力を重複して持たない。』
[エンハンス:8]『フィル3枚を手札に加え、自分のPPを3回復。』
《フィル》
1コストスペル。
自分のフォロワー1体を+0/+1する。
自分がこのバトル中にプレイしたフィルが(このカードを含めず)4枚以上なら、そのフォロワーは「1ターンに2回攻撃できる」を持つ。
「効果を簡単に説明すると、アーカスやレイサムと同じ、永続効果をリーダーに付与するんだ。効果はターン毎に1コストスペルの『フィル』を1枚手札に供給する」
「『フィル』はどういう効果なの?」
「4枚まではただフォロワーの体力を+1するだけの効果なんだけど、5枚目からはそれに加えて1ターンに2回攻撃できるという効果を追加する。特に疾走フォロワーと相性がいいんだ」
「ふーん」
聞きながら、エルフにはどんな疾走フォロワーがいたかなと思い出す。
一番に思い浮かべたのは『歴戦の鷹匠』が呼び出す『飛翔する狩鷹』だ。
あとは9コストで6点の攻撃力を持つ『天喰らう異形』。
それからニュートラルだが『至高の戦神・オーディン』か。
ともかく対戦開始。
「今回はそっちが先行、こっちが後攻だな」
「うん」
1ターン目。美鈴の手札は『グレモリー』と『グール』と『永遠の花嫁・セレス』。
(先行だし1ターン目にグレモリーをプレイして、2ターン目にグールを出してカードをドローする)
美鈴は『グレモリー』をプレイ。ターンエンド。
後攻1ターン目。三和のターン。
「こっちはゴブリンをプレイ」
『ゴブリン』は能力を持たない1コスト攻撃力1体力2のニュートラルフォロワーだ。
2ターン目、美鈴のターン。
美鈴は『グレモリー』で三和を攻撃し、ライフを19まで減らした後『グール』をプレイし『グレモリー』を破壊。代わりに2枚ドローする。
2ターン目後攻三和のターン。
まず『ゴブリン』で『グール』を攻撃、破壊。
そしてアミュレット『伝説の幕開け』をプレイ。
効果はターン終了時にフォロワーの体力を+1し必殺を付与する。
三和はターンエンド。『伝説の幕開け』の効果で『ゴブリン』が1/2必殺持ちのフォロワーになる。
3ターン目美鈴のターン。
「うわっ必殺は厄介」
美鈴の手札は『悪意の憑依』、『禁絶の腕・ニコラ』、『死の夢の少女』、『ビッグソウルハンター』、『永遠の花嫁・セレス』、『幽霊支配人・アーカス』。
(悪意の憑依でゴブリンを倒してもなぁ。かといって2コストフォロワーを出したら『森荒らしの報い』で厄介なことになるからビッグソウルハンターかな)
美鈴は『ビッグソウルハンター』をプレイ。
(1コストのゴブリンと相打ちは癪だけど、森荒らしの報いを考えたらやっぱりこうかな)
ターンエンド。三和にターンを渡す。
3ターン目後攻、三和のターン。
三和は必殺を持つ『ゴブリン』で『ビッグソウルハンター』と相打ちさせ、『森の女王・リザ』をプレイする。
女王というよりはお姫様のようなかわいらしい少女が場に現れた。
(あら? ラストワード持ち?)
場に出てきた『森の女王・リザ』にはラストワードを持っていることを示すドクロマークが点灯している。
(どんな効果だっけ……)
美鈴はカードをタップして効果を確認する。
《森の女王・リザ》
コスト3 攻撃力1 体力3
[ファンファーレ]『コスト最小のエルフ・フォロワーをランダムに1枚、自分のデッキから手札に加える。』
[ラストワード]『次の自分のターン開始時、コスト最大のエルフ・フォロワーをランダムに1枚、自分のデッキから手札に加える。』
(わあっサーチ能力)
「ねぇ三和君」
「うん? なんだ?」
「リザで呼び出すフォロワーって何?」
「うーん? それって俺のデッキの中身を聞いているのか?」
三和は渋い顔をした。
「いやネクロマンサーだったらルリアから持ってくるのはギルネリーゼ一択だよね? そういうのがリザにもあるのかなぁって」
「エルフのデッキタイプは色々だから特定は難しいな。ファンファーレで呼び出すフォロワーは1コストかもしれないし2コストかもしれない。ラストワードで呼び出すカードは『クインセイバー・シンシア』、『マシンランスエルフ』、『不殺の絶傑・エズディア』……などあるが、今回の俺のデッキはどれでもない。俺のデッキには6コストフォロワーが5枚入っている」
「へぇ、シンシアでもない6コストフォロワーが5枚? ということは確定サーチじゃないんだ」
『森の女王・リザ』や『蒼の少女・ルリア』が持つ『デッキからランダムならフォロワーを手札に加える』能力だが、デッキを組む時点で呼び出す条件にあったカードを1種類に絞ることで、手札に加えるカードを特定することができる。
それが確定サーチで、三和が組んでくれたネクロマンサーデッキには高コストのニュートラル・フォロワーが『飢餓の絶傑・ギルネリーゼ』しかいない。
しかし今回の三和のデッキは少なくとも2種類以上のフォロワーから抽選されることになる。
「一応、『雷鳴の軍神・フニカル』や『火焔の軍神ヤヴンハール』が複数枚でてきた場合は、エズディアを使ったOTKを警戒したほうがいい。機械系が多ければマシンランスエルフと予想を立てられるけど、今のエルフは色んな軸が存在するから先入観はやめた方がいいかな」
「なるほどね」
『伝説の幕開け』の効果で『森の女王・リザ』の体力が+1され必殺が付与される。
(1/4必殺持ちかぁ……)
美鈴の手札には『森の女王・リザ』を除去できる札が無い。
(できれば5ターン目にセレスを着地させたい……)
そのための手を考える。
4ターン目、美鈴のターン。
美鈴は『悪霊の憑依』をプレイ。『森の女王・リザ』に2点ダメージ。さらに場に出た『ゴースト』で『森の女王・リザ』を攻撃。
『森の女王・リザ』の体力を1点まで減らす。
残った2PPで『死の夢の少女』をプレイ。
(これでリザに上からとられるのだけは回避した)
「ふむ。ゴーストまでリザに当てるか。『白華の弓使い』のケアか?」
三和が眼鏡を押し上げる。
4ターン目、後攻三和のターン。このターンから進化権が使用可能となる。
三和は『森荒らしの報い』をプレイして『死の夢の少女』を破壊。手札に『フェアリー』を加える。
そして『歴戦の鷹匠』をプレイ。手札に『飛翔する狩鷹』を加える。
「……」
しばし三和の手が止まる。
「進化するなら……こっちか」
『歴戦の鷹匠』を進化。進化時効果で手札に存在する『飛翔する狩鷹』に必殺を付与する。
「ファフニールケアかぁ」
「白状すると、俺のデッキにはファフニールほどの大型フォロワーを除去する手段が他にない」
三和は『森の女王・リザ』で美鈴の体力を19点に削るとターンエンド。
『伝説の幕開け』の効果で、『森の女王・リザ』の体力を+1する。
「む。そっちにつくか」
「ラッキー♪」
5ターン目先行、美鈴のターン。
これ幸いにと『永遠の花嫁・セレス』をプレイ。
「進化してリザちゃんいただきます!」
『森の女王・リザ』は必殺を持つが、体力が3以下なので『永遠の花嫁・セレス』の交戦時効果で一方的に破壊される。
美鈴の場には3/6の『永遠の花嫁・セレス』。
三和の場には2/4の『歴戦の鷹匠』。
それぞれが無傷で残った。
タンエーンドし『永遠の花嫁・セレス』の効果で美鈴のライフが20まで回復する。
5ターン目後攻、三和のターン。
ターン開始時、『森の女王・リザ』のラストワード効果でコスト最大のフォロワーをランダムに手札に加える。
さらにアミュレット『伝説の幕開け』のカウントダウンが終了し破壊された。
(必殺持ちの狩鷹でもセレスの交戦時を突破できない。簡単には返せないでしょ)
内心ほくそ笑む。
そんな美鈴の表情をちら見して、三和がぼそりと呟く。
「対エルフの基本その一。相手の手札枚数に注意せよ」
「え?」
三和はカードをプレイ。
プレイしたカードは『天稟の射手・メーテラ』。
「メーテラは進化時効果で敵一体に手札の枚数分ダメージを与える。俺の手札は7枚。7点ダメージだ」
「ううっ」
強みである交戦時能力が働くことなく『永遠の花嫁・セレス』が落される。
「やっぱフランが怖いよな。使っておくか」
三和は余った1PPで『アーボリスト・ライラ』をプレイ。
ファンファーレ効果で『天稟の射手・メーテラ』の攻撃力と体力をそれぞれ+1する。
そして場に残った『歴戦の鷹匠』で直接攻撃。美鈴のライフを18まで削る。
PPを使い切りターンエンド。
場に残ったのは6/5の『天稟の射手・メーテラ』、2/4の『歴戦の鷹匠』、1/1の『アーボリスト・ライラ』。
6ターン目、美鈴のターン。
「うう……」
『永遠の誓い』をプレイしたいが、6/5の『天稟の射手・メーテラ』は無視しがたい。
悩んでいると、三和が台詞を挟んだ。
「ちなみに俺のデッキは、リザのファンファーレのサーチ先を『アーボリスト・ライラ』に絞っている」
「えっ。てことは……」
『アーボリスト・ライラ』にはエンハンス効果があり、4PPで使うと場のフォロワー全員の攻撃力と体力を+1する。
もう1枚『アーボリスト・ライラ』を握っていた場合、次のターンの盤面が一気に強化されることになる。
(やっぱり無視できない!)
美鈴は『ビッグソウルハンター』をプレイ。墓地6を消費して『天稟の射手・メーテラ』を破壊。
余った3PPでアミュレット『深淵の夢』をプレイ。
場に出た『ゴースト』は、『アーボリスト・ライラ』を攻撃し破壊する。
6ターン目後攻、三和のターン。
三和が一瞬迷ったのちプレイしたのは『翠嵐の斧使い』。
《翠嵐の斧使い》
コスト6 攻撃力6 体力5
突進
[ファンファーレ]『このバトル中、自分のリーダーは「自分のターン終了時、このターン中にカードを3枚以上プレイしていたなら、相手のリーダーに2ダメージ」を持つ。(翠嵐の斧使いの能力が複数働いた場合、リーダーは同じ能力を複数持つ)』
「そうね、翠嵐の斧使いか」
「翠嵐は突進持ちだからこのターンに攻撃できる」
三和は『翠嵐の斧使い』で『ビッグソウルハンター』を攻撃、破壊。
場に残っていた『歴戦の鷹匠』で美鈴を直接攻撃。美鈴のライフが2点削れて、18点から16点となる。
(リザのサーチ先の1枚は翠嵐の斧使いってことか。確かに突進能力もちで使いやすいし効果も重複するから強いもんね)
7ターン目美鈴のターン。
アミュレット『深淵の夢』の効果で『ゴースト』が1体生まれる。
『ゴースト』は三和を攻撃してライフを18点に削る。
7PP全てを消費しプレイしたのは『幽霊支配人・アーカス』。
最後の進化権を消費して『翠嵐の斧使い』を攻撃。6点の反撃を受けるも破壊する。
美鈴の盤面には8/2の『幽霊支配人・アーカス』。
三和の盤面には2/4の『歴戦の鷹匠』が残った。
「そっちの手札、随分と細いな」
三和が三白眼をむけながら言った。
美鈴の手札は残り5枚。その内一枚は『永遠の誓い』だ。
『幽霊支配人・アーカス』は低コストフォロワーを破壊させて打点を稼ぐのが主なため、効果を生かそうと思うと手札の消費が激しい。
しかし美鈴は慌てなかった。
(大丈夫よ。私にはニコラがあるから)
ラストワードの効果で破壊される度に手札に戻る『禁絶の腕・ニコラ』があれば、手札が尽きるということはない。これ一つで手札問題が解決する夢の一枚なのだ。
ターンエンドし、三和にターンを渡す。
お互いの体力は美鈴が16、三和が18。
盤面的には美鈴が負けているが、『幽霊支配人・アーカス』を採用したネクロマンサーデッキの力はここからだ。
7ターン目後攻、三和のターン。
「俺はコルワをプレイ」
宣言通り『絢爛の紡ぎ手・コルワ』をプレイ。
「最初に言っていたカードね」
「翠嵐の斧使いの効果を発動するためには毎ターン3枚のカードをプレイしないといけない。でも今のエルフはドローカードが乏しくて手札が枯れがちなんだ。でもコルワがあれば毎ターンフィルを供給してくれる」
「シナジーをちゃんと考えているんだね」
三和は残りの2PPで1コストスペル『フェアリーサークル』を使用。手札に2枚の『フェアリー』を加える。
そして余った1PPで『フェアリー』をプレイ。進化して『幽霊支配人・アーカス』を攻撃。相打ちする。
「残った『歴戦の鷹匠』はフェイス」
『フェイス』とは、リーダーへの直接攻撃を指す。
宣言通り『歴戦の鷹匠』は美鈴を直接攻撃、ライフを16から14まで減らす。
さらに、ターン終了時に追加で2点ダメージを受ける。
『翠嵐の斧使い』のリーダー付与効果だ。
これで美鈴の体力は12。
「コルワをプレイされたってことは、これから毎ターン2ダメージを覚悟しないといけないんだ」
「ま、そんなところだな」
眉間に皺を寄せつつ8ターン目、美鈴のターン。
何とか打開策を見つけたいが、手札が5枚しかない状況ではいかんともしがたい。
アミュレット『深淵の夢』で出た『ゴースト』で三和を攻撃しライフを18まで削ると、『グール』をプレイ。
『ゴースト』を破壊し2枚ドローする。
手札には『永遠の花嫁・セレス』が来た。
(でも使うなら次のターンかな)
『グール』から変化した2体の『ゴースト』に加え、『禁絶の腕・ニコラ』を3回プレイする。
「なるほど、手札にニコラを握っていたか」
三和がうなずく。
「一応言っておくとトップ解決じゃなくてさっきから持っていたからね」
苦戦を自覚しつつ唇をすぼめて言う。
8点分の『ゴースト』で『歴戦の鷹匠』と『絢爛の紡ぎ手・コルワ』を破壊。
除去に全力を使ったため、三和のライフを削ることかなわずまだ18点。
「ターンエンド。三和君の番」
8ターン目後攻、三和のターン。
三和の動きがしばし固まる。知る限りの知識で美鈴は三和の手を考える。
(三和君が言っていた5枚の6コストフォロワーの1枚は翠嵐の斧使いってことだよね。シンシアは入っていないって言っていたから、また翠嵐の斧使いかな?)
だとすると毎ターン4点を覚悟しないといけない。厳しい展開になりそうだ。
(さっきのグールのドローでセレスは引けたけど……)
進化権を使いきった三和が除去に苦労してくれればいいのだが。
そう思った矢先。三和が動く。
プレイしたのは予想通り『翠嵐の斧使い』。
「2枚もひくなんてずるい」
「1枚はリザからのサーチだぞ」
とがめた口調も正論でいなされる。
三和は『翠嵐の斧使い』に加えて2枚のフェアリーをプレイ。
ターンエンド。『翠嵐の斧使い』の効果は重複するので4点ダメージ、美鈴のライフは8点にまで削られる。
「いたたた。やばい、やばいって!」
焦りから普段使わないような素の言葉が美鈴の唇から漏れた。
三和はふっふっふと不敵に笑っている。
美鈴の9ターン目。ドローを確認してから何をプレイするか考える。
そして目をはっと見開く。
「ラッキー♪」
ターン開始時に『深淵の夢』から出た『ゴースト』で場に出た『フェアリー』を破壊。
そしてプレイしたのは『ビッグソウルハンター』。
『ビッグソウルハンター』のファンファーレ効果で『翠嵐の斧使い』は墓地6と引き換えに破壊される。
「お前それ……3枚目だろ」
「いやー、三和先生が組んだデッキって強いですわぁ」
左うちわを仰ぎながら、携帯端末をタップする。
3体の『ゴースト』の内1体を残った『フェアリー』に当て、残りは三和を直接攻撃。
三和のライフを16点まで削る。
(残った6PP……)
美鈴のライフは8点。
(どう考えてもセレスで回復しないとやばい!)
三和の手にはすでに1枚『飛翔する狩鳥』が加わっている。
もしもう一枚『歴戦の鷹匠』があれば、『翠嵐の斧使い』の効果で削りきられてしまう。
5PPを使って『永遠の花嫁・セレス』をプレイ。
(1PP余るけど……)
美鈴は自分の手札を確認する。
美鈴の手札には『グレモリー』が1枚あった。
(でも場に空きがないしエンハンス効果で使いたいよね)
美鈴はそのままターンエンド。
場に『永遠の花嫁・セレス』があるので美鈴のライフが3点回復して11点になる。
(進化権を使い切った三和君にセレスの除去は難しいんじゃないかな。そして次は10ターン。フェリの3回攻撃が使えるようになる)
美鈴の手札には『幽想の少女・フェリ』と『グレモリー』の両方が存在する。
『深淵の夢』も最後の『ゴースト』を出して破壊され、盤面をフルに使えるはずだ。
十分一発逆転を狙える。
「そのセレスはいいセレスだぞ」
と、珍しく三和が褒め称えた。
「でなければこのターンで終わっていた」
9ターン目、後攻三和のターン。
三和は『ホワイトヴァナラ』をプレイ。
《ウホウホウキャキャーッ!》
白猿のいななきが響き渡る。
「わっ、何そのお猿さん⁉」
「ホワイトヴァナラは能力が強化された時に進化して疾走持ちになる。コルワエルフの代表的なフィニッシャーだ」
三和は『ホワイトヴァナラ』に『フィル』を2枚プレイ。体力を2点増やし、『ホワイトヴァナラ』は進化。
5/7疾走守護持ちのフォロワーとなる。
美鈴のライフは現在11点。
『永遠の花嫁・セレス』の回復がなければ『翠嵐の斧使い』の効果と合わせてライフが0になっていた。
(疾走能力だけど盤面のセレスを無視してリーダーを攻撃してくる? それとも……)
三和は迷わずに『永遠の花嫁・セレス』を攻撃し、破壊した。
交戦時効果もあわせて4点の反撃を受け、『ホワイトヴァナラ』の体力は残り3。
(ま、見逃してくれないよね……)
三和はターンエンド。
『翠嵐の斧使い』の効果で4点の追加ダメージを受け、美鈴の体力は7点。
(でも10ターン目がきた!)
美鈴は手札を確認する。
『禁絶の腕・ニコラ』
『永遠の誓い』
『永遠の誓い』
『屍竜・ファフニール』
『幽想の少女・フェリ』
『心眼の双葬女・レディグレイ』
『グレモリー』
『冥界の番犬・ケルベロス』
場には『深淵の夢』の『ゴースト』が一体。
三和のライフは16。
(フェリで2PP使うとして残りは8PP? ってことはグレモリーを使うとして……9点と3点と3点と1点で16点?)
三和のライフはちょうど16点だが、盤面に残っている『ホワイトヴァナラ』は守護を持つ。
「対ネクロマンサーの基本。10ターン目に守護をおく」
(うー、もしグレモリーがルリアだったら……)
18点以上を叩き出して三和に勝っていたはずだ。しかし欲しいカードがこないのがカードゲームだ。
美鈴はこのターンに勝つことができないことがわかると、最善の一手を考えて打つ。
これまで使うことのできなかった『永遠の誓い』をプレイ。
手札のネクロマンサー・カード全てのコストを2さげる。
そして0コストとなった『禁絶の腕・ニコラ』と『心眼の双葬女・レディグレイ』をプレイ。
『深淵の夢』が最後に生み出したのも含めて場には5体のゴーストが並ぶ。
その内3体を『ホワイトヴァナラ』に当てて破壊。残りは三和を直接攻撃、三和のライフを14点まで減らす。
最後に3コストになった『冥界の番犬・ケルベロス』をプレイ。
(『禁絶の一撃』が手に入ったし最大打点を叩きこんだ方がよかったかな? でも回復されるかもしれないし、ケルベロスを除去しながらならそんなに大きな守護は立てられないはずだからこれでも……)
もやもやとした悩みを抱えつつターンをエンドする。
10ターン目、三和のターン。
このターンさえ乗り切れば……だが。
冷や汗を垂らしながら三和の顔を見て、にっこりと営業用のスマイルを浮かべて小首をかしげる。
「次のターン、ある?」
「ない」
三和に慈悲はなかった。
三和は3PPを使い『飛翔する狩鷹』をプレイ。2/1の疾走フォロワーだ。
続いて3PPを使い『森の女王・リザ』をプレイ。
「さっきも言ったが、俺のデッキはリザのファンファーレでライラを確定サーチする」
余った4PPで手札に加わった『アーボリスト・ライラ』のエンハンス効果を発動。
場の全てのフォロワーの攻撃力と体力を+1する。
そして攻撃力3点の『飛翔する狩鷹』が美鈴を直接攻撃。
ライフを7点から4点まで削り、ターンエンド。
『翠嵐の斧使い』の効果で追加の4点ダメージが入り美鈴のライフはちょうど0となった。
「というわけでまた俺の一勝だな。手札に無かったのはルリアか? フェリか?」
「ル、ルリアだよ」
三和は美鈴の手札すら予想できていたらしい。全く頭が上がらない。
『永遠の花嫁・セレス』や『幽霊支配人・アーカス』も手札にきていたし引いたカードが悪かったわけではない。プレイも悪くなかったはずだ。
それなのに上回られた。
「三和君、エルフが不遇っていうの嘘じゃん……」
「うーんまあ、確かに回った時のエルフは強い。ただ今回のミッドレンジコルワエルフは、キーカードとなるコルワを引けなかったらかなり苦しい展開になる。つまり事故りやすいんだ」
「そっか。翠嵐も白いお猿さんもコルワのフィル頼みだもんね」
「そう。あとロイヤルとかには普通にパワー負けしたりする。他にも苦手なデッキが多いんだ」
「ふーんそうなんだ。でも可愛い女の子多いし乗り換えようかなぁ」
「機械軸とか進化軸とか色々あって、手の内が読まれにくいのもエルフの強みだな。ただ……」
「ただ?」
「1つのデッキならともかく、色んなデッキに手を出そうとするとエーテルが高くつく」
「うっ」
美鈴のお財布事情はいまだ厳しい。
今でさえ、ネクロマンサー以外のデッキを作ってみたい誘惑に駆られているのに、一度エルフのデッキを作ろうものなら……。
あれもこれも試したくなって、課金してしまうだろう。
(も、もうちょっと考えようかな……)
「ちなみにこっちが一番警戒したのは誓いケアだな」
「誓いケア?」
「セレスが手札に加える『永遠の誓い』。あれを使われるとどんな手が飛んでくるか予想しづらくなる。だから常に強いフォロワーを置いて、使う暇を与えなかったんだ。ちなみに4ターン目にすでにメーテラは引いていたけど、セレスの返しに使いたかったから温存した」
「なるほど……そこまで考えているんだね……」
相槌を打ちながら、美鈴の中々でふつふつと疑問が沸き立った。
「三和君って、全部のカードを覚えているの?」
「いや」
三和は苦笑した。
「さすがにそこまでは覚えていないさ。環境の主流のカードを抑えているだけだよ」
「環境の……主流?」
「シャドウバースはもう千枚以上カードがあるけど、結局その内で強いカードってのは意外と限られている。夢がない話だけど、弱いファンデッキでは勝ち抜けないぐらいに環境が煮詰められているんだ。だから必要最低限を覚えてケアをするだけでだいぶ違うんだ」
「テストの出題範囲だけ暗記しているってことね」
「そうだな。時折予想外の問題を出されて点数を落とすのもそっくりだ」
苦笑を上げながら三和がうなずいた。
「今回はコルワと白いお猿さんにしてやられたわね。覚えておかないと」
「そうだな。今回使ったのはこのデッキだけど、他にも注意しないといけないカードが……」
「やっぱり三和君と戦うとタメになるなぁ」
湯船に浸かり体を休めつつ、美鈴はつぶやいた。
「お姉ちゃん、三和君ってだれ?」
声をかけてきたのは7歳年下の妹の桔音(きつね)だ。
永瀬家では桔音がまだ幼いこともあり、風呂代を節約するために一緒にお風呂が入るのが日常だった。
「三和君は、お姉ちゃんの同級生だよ」
「男の子?」
「そ。ゲームがうまいんだよー」
「お姉ちゃんとどっちがうまい?」
「三和君の方がうまいよ。あーでもFPSとかはどうかなぁ」
桔音はきょとんとしている。桔音はまだFPSというものがよくわかっていなかったりする。
「なんか楽しそうだね。お姉ちゃん」
「そう?」
「もしかして……ボーイフレンド?」
「そ、そんなんじゃないよー」
美鈴は慌てた。
確かにゲームはうまいし勉強もできる。見た目はとっつきにくいけど意外と世話焼きだし、何より目を細めた時の笑った顔がとても印象的だ。
(でも私……まだ男の人と付き合えないし……)
マネージャーの鈴木の言葉が蘇る。
彼氏をつくるなど、鈴木は絶対認めないだろう。
「あのね、お姉ちゃん……」
「うん? なに?」
普段物おじしない桔音が声のトーンを落としているのに、優しく聞き返す。
「私ね、告白されちゃった」
「ええ、すごいじゃん!」
「うん……それでね……返事をどうしようかなって」
「相手の男の子はどんな子なの?」
「たかくんはね、サッカーが得意で、勉強ができて……」
言いつのりつつ、桔音の頬が紅潮していくのがわかる。
(そっか、桔音もそのたかくんが好きなんだね……)
家族だ。それぐらいはわかる。
「それなら、OKしちゃいなよ」
「うん……いいのかな?」
「そうよ。何か悪いことある?」
「でも……お姉ちゃんは男の人と付き合っちゃいけないんでしょ?」
まだ小学生の桔音にそんな話をしたことはないが子どもは敏感だ。
どこかで知り、姉に遠慮しているのだろう。
「お姉ちゃんはね。でも桔音は大丈夫」
美鈴は桔音を抱き寄せ髪を撫でる。
桔音はくすぐったそうに顔を寄せた。
「でもお父さんにはまだ秘密にね。不機嫌になるから」
「わかった。お父さんには秘密にするー」
シャドバ用語
・ケア(英:care = 注意)
対策を講じること。特定のカードに対して対策となるカードを手札に握ったり盤面構築をすること。
・フェイス(顔面の意)
敵のリーダーを直接攻撃すること。
・リーサル
勝利条件を満たすこと、あるいはその手段。
・トップ解決
三和が嫌いなもの。
使用デック
美鈴
https://twitter.com/fet_light/status/1118876277341966336
三和
https://twitter.com/fet_light/status/1120235788522835968