Tick Tack シャドウバース   作:fet_light

3 / 20
3.BO3はランチの後で

「悠平にぃ、お風呂あがったよー」

 3つ年下の中学生の妹、洗衣(みより)が髪をタオルで拭きながら声をかけてくる。「ああ」と簡素に声をかけて三和は席を立った。

「お風呂場までそれもっていくの?」

 洗衣は三和が手に持った携帯端末に目ざとく気づいたようだ。

「ああ、ミッションやらないといけないからな」

「ゲーム好きだねぇ」

 妹の洗衣は特別ゲーム好きということはなく、中学では卓球部に所属している。特に興味を持ったそぶりを見せずソファへとむかい、テレビのリモコンを取ってチャンネルを操作しだした。

 その後ろ姿に舌を出しつつ、三和は風呂場へとむかう。

 三和の携帯端末は防水加工をしているので、湯船に落すなどしなければまず問題はない。

 もっとも本当はゲームのために持ってきたのではない。

 美鈴のストリームライブを見るためだ。

 三和は美鈴との約束を守り、家族にもシャドウバースのコーチングのことを秘密にしている。美鈴のストリームライブを見るのもこういう一人の時だ。

 美鈴はあれから順調にランクを上げていた。短期間のうちにB3まで駆け上がり、今日でA0への昇格戦だったはずだ。

 見るとちょうど1勝1敗の最終試合だった。

(見たところ相手は安上がりで作った聖獅子ビショップというところか……)

 聖獅子ビショップは『聖獅子の結晶』と『聖獅子の神殿』をキーカードとしたデックだ。レジェンドカードを採用しなくてもある程度のデッキパワーを持ち、デッキがうまくまわった時の爆発力は上位のデッキをも上回る。

 実際、序盤に『聖獅子の神殿』をおかれて美鈴は苦戦していた。

 聖獅子ビショップの対処法。それはそもそも『聖獅子の結晶』を使わせないこと、そしてライフを12点以上に保っておくことだ。

 『聖獅子の結晶』はフォロワーを呼び出すスペルなのだが、3回つかうごとに呼び出すフォロワーが強くなっていくという性質を持つ。

 そして最終形態の『聖なる王の獅子』は4/4疾走フォロワーだ。

 『聖獅子の神殿』が1つ置かれている場合、『聖獅子の結晶』が1枚あればエンハンス効果を利用することで10ターン目に12点の疾走ダメージを出せる。

 それに耐えられるライフを確保していくのが肝だ。

「お、プレミしたぞ」

 プレミとはプレイミスの略。最良の選択肢があるのに、間違った手を打ってしまうことだ。

 プレイミスをしたのは美鈴の方だ。

 盤面ロックが可能で墓地20が次のターンに達成でき『禁絶の一撃』で勝利がほぼ確定しているのに、『ビッグソウルハンター』で墓地を消費してしまったのだ。

 三和が口出しするまでもなく、配信のコメント欄から指摘があった。ここ数日美鈴のストリームライブを時折見ているが、日に日に来場者は増え、コメントは活発になっていた。

(本当にがんばっているな)

 美鈴に聞いたところ、美鈴が抱えている仕事は何もこのグランドマスター企画だけではないらしい。他の地道な営業、行楽地や商業施設での興業、ダンスやボイストレーニングの稽古……。

 それらの合間を縫ってシャドウバースのランクを上げていっているのだ。

 プレイミスがあったものの、相手の10ターン目を凌ぎ、後攻10ターン目に『幽霊支配人・アーカス』と『幽想の少女・フェリ』の効果で美鈴は勝利した。

 コメント欄が昇格戦を祝う声で溢れ帰る。

「とりあえず、昇格戦おめでとう」

 約束通りコメント欄には決して書かずに、三和は一人で美鈴の勝利を祝った。

 

 

 

 翌日、三和が登校すると、教室に入るなり大柄な男子生徒が声をかけてきた。よくつるむ内の一人の尺本哲夫だ。

「よう、三和。相変わらず眠そうだな」

「おう。お前は早いな。朝練か?」

「ああ」

 哲夫は野球部のマネージャーをしている。

 恵まれた体格をしているが中学のころに部活中の事故で足を怪我してしまい、選手としての道を諦めたそうだ。

「なあ三和、悪いけど宿題写させくれねぇか」

「またかよ」

「昼飯奢るからよ」

「しょうがないな」

 褒められるべきことはでないかもしれないが、どちらにしろ苦労するのは哲夫だ。

 それに三和も特別裕福というわけではない。こういった臨時収入でカードを買うお金を蓄えているのだった。

「おはよー」

 わずか遅れて美鈴が教室に入ってきた。数人が挨拶を返す。三和は目だけで挨拶を送り、美鈴は他のクラスメイトにバレないように微笑んだ。

「そういや知っているか?」

「うん?」

 ノートを写させている哲夫が不意に話しかけてきた。

「永瀬もシャドウバースを始めたんだってよ」

「ほう。それは初耳だ」

 いけしゃあしゃあと三和は白々しく言う。

「なんでも番組の企画とかでな、生放送でシャドウバースのプレイ画面を配信しているんだぜ」

「ふぅん」

 三和はいかにも興味なさそうに相槌を打つ。

「なんだ? せっかくだからコーチングでもしてやればいいじゃねぇか」

「必要あるのか?」

「うん……? そういえば見ていた限り連勝していたな……」

 三和の返しに哲夫が首を傾げる。「それなら俺の出番はないよ」とそっけなく三和は返した。

 と……

「ん? あれ葛木じゃないか」

 教室に入ってきたのは隣のクラスの葛木宗次郎だ。上背のあるモデル体型をしており、特にスポーツもしていないのに肩幅が広い。見事な金髪だが染めているのではなく地毛だ。母親がカナダ人なのだそうだ。

 三和も哲夫も葛木とは一年の時に同じクラスだったので面識がある。

「永瀬、おはよう」

「お、おはよう」

 葛木はナチュラルに美鈴に話しかけていた。自然と三和は耳をそばだててしまう。

「君、シャドウバース始めたんだって? 俺が教えてあげるよ」

「ありがとう……でも悪いから」

 葛木はシャドウバースをネタに美鈴に近づこうとしているようだ。美鈴は困った顔でガードを固める。

 そう。葛木もシャドウバースをやっている。

 それで一時期は三和や哲夫とも絡んできたのだ。

 だが葛木は自尊心の強いプレイヤーだった。

 居丈高に他人のデッキを批判し、仮に負けると「運負け」と運のせいにして自分の非を認めなかった。

 近づいてきたのは葛木の方なのに、三和がはっきりと目にわかるほど勝率に差をつけると葛木の方から自然と離れていった。

「あいつも懲りねぇな」

 哲夫も葛木の人間性については快く思っていないようだ。顔をしかめている。

 葛木の下心は見え見えだ。美鈴も困った顔をしながら心を許そうとはしない。しかしそんな曖昧な態度で引き下がるほど葛木は殊勝な性格をしていなかった。

「グランドマスターを目指しているんでしょ? まかせてよ。俺もうローテーションもアンリミテッドもグランドマスターになったからさ」

 葛木の性質が悪い所はハーフ故の見た目の良さだ。

 背も高く普通に笑った姿はさわやかであり、はた目には悪意など感じられない。

 有象無象の男子が近寄ろうものなら普段は追い払う美鈴の友達も、葛木に関しては「いい機会じゃん」「一回教わるだけ教わってみたら?」と後押ししていた。

 だが本人の美鈴は乗り気じゃなかった。

「大丈夫。足りているから」

「足りている? もしかして誰かに教わっているの?」

「そういうわけじゃ……ないけど」

「ならいいじゃん。俺この学校で一番うまい自信あるよ」

「……ったく」

「おい、三和?」

 突然席を立った三和に哲夫が驚く。

「これも腐れ縁だな」

「……なんだ三和じゃん。元気しているか?」

 葛木は口の端を歪めている。その姿勢に臆したところはない。はっきりとした勝率で負けたことも、葛木の中では単に運が悪かっただけと片付けられているのだろう。

「葛木、この学校で一番うまいっていうのは聞き捨てならないな」

「なに? 自分の方が一番うまいっていいたいわけ?」

「とりあえず。他人のクラスであーだこーだとちょっかいかけられるのは迷惑だ」

 言い捨てると、「ふーん?」と葛木が顎に手を添えた。

「どういう訳?」

「とりあえずお前が一番シャドバが上手いってのは撤回させてやる。久しぶりに一戦やろうぜ」

「三和の方から挑んでくるなんて珍しいじゃん。いいぜ、やろう」

 葛木の目が猛禽のように細められる。

「ルールはどうする?」

「1本先取だと運負けだって言うんだろ。BO3でやろうぜ」

「了解。となると時間かかるな。昼休みにやろうぜ」

「ああ」

「おい、三和、本気か?」

 哲夫が怪訝に問いかけてくる。三和自身も自分のキャラじゃないなと思った。自分には関係ないことに三和は普段は傍観者だ。

 だが美鈴の頑張りと葛木の人間性は知っている。もし三和が傍観し、場の空気に美鈴が流されてしまったら……きっと三和は後悔するだろう。

 そんな恐れに似た予感があった。

「哲夫、よかったな」

「何が?」

「今日の昼飯は購買のパンで済ます。安くつくぞ」

 にらみ合う三和と葛木、その中心でぽかんとした顔で美鈴はつぶやいた。

「びーおーすりーって、なに?」

 

 

 

 

 三和と葛木の決闘は一つのクラスで起こった小さないざこざだったが、狭い校舎に数百人の生徒が密集した学び舎という特殊空間、さらにはその渦中にあるのが学校のアイドル永瀬美鈴。

 噂は尾ひれに背びれがついて、永瀬美鈴をとりあっての決闘ということになっていた。

『三和君困るよ~。大事にされちゃ~』

「あぁ悪い……ちょっと軽率だった」

 三和と美鈴はそれぞれ男子トイレと女子トイレにこもり、携帯アプリを使って連絡をとりあっていた。

「とりあえず俺が勝っても負けてもどちらとも付き合わない。そこははっきりさせておけ」

『うん。……でも葛木君がそんな曲者なんだってね』

「女子には優しいからな、あいつは」

 葛木という男は、相手によって顔を使い分けるのだ。だから人によっては一生葛木の本性には気づかない。

 だが立場の弱い者にはハゲタカのように群がり、相手の自尊心を傷つけることに愉悦を抱くタイプなのだ。葛木という男は。

『もう……でもこれじゃ勝ってもらわないと、葛木君がおさまらないよ。絶対勝ってよね?』

「ああ」

『でもね、ありがとう』

「なにがだ?」

『私のために面倒事に首つっこんでくれたんでしょ? それはお礼言わないといけないなと思って』

「かえって大事にしてしまった。すまない」

『勝ってくれれば、マイナスは帳消しで収支プラスだよ』

(プラスになって何がもらえるんだか……)

 三和は苦笑した。

(とにかく勝つにしろ負けるにしろ……何がしかの話の持っていきかたは考えておかないとな)

 シャドウバースはプレイングが全てではない。カードの引きという運の要素が大きく作用する。

 それに懸念が二つあった。一つは去年同じクラスだったころより葛木が腕を上げている可能性、もう一つは環境の違いだ。

 シャドウバースはシリーズごとに新しいカードパックが発売され、それによって環境が大きく変わる。葛木も三和も、お互いが知っているころとは異なるデッキを使っているのだ。

 勝つ自信はあるが、100%ではない。

『ところでさ、三和君』

「なんだ?」

『びーおーすりーって何?』

「Best of 3の略でBO3。簡単に言うと三本中二本先取した方が勝ち。加えてシャドウバースだと、異なる2つのリーダーのデッキを持ち込んで、一度勝ったデッキは使えなくなる。両方のデッキで勝たないといけないんだ」

 シャドウバースの大会フォーマットはこのBO3が主流で、最短で2戦、最長で3戦。

 所要時間は15分から20分前後といったところだろう。よほどの長期戦にならなければ昼休み中に決着がつく。

 

 

 昼休み、対戦場所は三和たちのクラスとなった。

 噂を聞きつけたギャラリーたちがちらほらといる。個人用の携帯端末の小さな画面では観戦も何もあったものじゃないと思っていたら、なんと葛木が大型のタブレット型端末を持ち込んできた。

「お前それ、没収されないのかよ」

 思わず呆れが口をついてでた。

「何を言っているんだ。これは備品だよ。ソフ研のね」

「あぁ……そっか。お前副部長になったんだっけ」

 ソフトウェア研究部、略してソフ研。

 噂でしか知らないが、学校の備品のパソコンや携帯端末を使ってゲーム三昧をしているという話だ。

 それとこれも本当かは知らないが、葛木が先輩も後輩も嫌いな人間を追い出し実質的な王になったと聞いている。

 と、教室の横開きの戸が大きく音を立てて開かれた。そして教室中がざわつく。

 入ってきたのは化学担当の樫崎美和子だった。

 教師の介入にはさしもの葛木も浮足だつ。担任の菅原は面倒事を避けて見て見ぬふりをするだろうが、樫崎は別だった。

 人垣が二つに割れる。その間を樫崎が闊歩してきた。

「お前ら何をしているのかわかっているのか?」

 樫崎の口からドスの効いた声色が吐かれる。たまらず、葛木がいつもの猫かぶり顔をして言った。

「何を言っているんですか。ただのゲームですよ。なぁ?」

「……ああ」

「私が問題にしているのはね、当の本人の永瀬を置いてけぼりにしていることだ」

 名指しされた永瀬は居心地悪そうに体を縮こませる。

「女の子の心を勝手に景品にしなさんな。男同士で馬鹿なプライドを賭けるのはいいけどな、この子はアイドルっていう立派な職業を目指しているんだ。つまらんことでその道を閉ざすな」

(ナイスだ、かっしー)

 三和は心の内で喝采を上げた。

 三和としてはようは葛木が美鈴につきまとわなければいいのだ。

 樫崎の介入でうやむやになるのならそれもいい。

「というわけであたしが立ち会わせてもらう。勝ったからといって彼氏面ずるのはお角違いだよ」

 葛木が舌打ちめいた顔をする。ここまで大事にしたのは、葛木としては勝ちの流れに乗って美鈴に交際を申し込む三段だったのかもしれない。

「俺はたた、こいつよりシャドバがうまいってことを証明できればいいだけですよ」

 三和が言う。と、葛木が皮肉めいた顔をして言った。

「いい性格をしているな、お前」

(お互い様だ)

 視線で火花を散らす。

「というわけでBO3? だったか? ようわからんが、イカサマのないようにな。永瀬、あんたが審判な」

「え? 私?」

「適役だろう。あたしにはわからんし」

「ええっと……それじゃ、始めてください」

 美鈴は初心者だろうが、三和も葛木も共に大会経験者だ。勝手はわかっているので自分たちだけで進行できる。

 二人はまずそれぞれ使用する2つのデッキを選択する。

 三和はネクロマンサーとヴァンパイア。

 葛木はロイヤルとドラゴン。

 使用リーダーが別れた。

 そして1本目で使うデッキをそれぞれ選択。

 試合が始まるまで相手がどのデッキを選択したかはわからない。

 この読み合いもBO3の勝負所だ。

 

 1本目。

 三和はネクロマンサー。

 葛木はロイヤル。

 先行は葛木だった。

 

 最初の手札の引き直しは、葛木は3枚キープ。三和は2枚交換。

「げ、先行3枚キープかよ」

 うめきを上げたのは、シャドウバースを多少かじった哲夫だった。

 横で見ていた美鈴も哲夫のうめきに共感し思わず拳を握る。

 先行は後攻に比べると最初に配られる手札が一枚少ない、進化権が一つ少ないというデメリットがあるものの、先に動けるという大きなメリットを抱えている。

 そしてこの先に動けるというメリットは序盤戦で大きく作用し、先に強い盤面を構築されれば後攻は後手にまわるしかない。

 先行3枚キープは怖い予兆なのだ。

 

 

 1ターン目は三和も葛木も共にパス。

 

 

 先行2ターン目、葛木のターン。

「ま、小手調べだ」

 プレイしたのは『簒奪の従者』。

 プレイした時は攻撃力1、体力1だが、交戦時能力を持つ。

 交戦時に攻撃力と体力をそれぞれ+1し、財宝カードを手札に加えるという実質2/2/2のフォロワーだ。

 

 後攻2ターン目、三和のターン。

 プレイしたのは『死の夢の少女』。

 それを見た瞬間葛木の目が細まる。

 

 

 先行3ターン目、葛木のターン。

「そいつでいいか。もらっておこう」

 プレイしたのは『簒奪の絶傑・オクトリス』。ファンファーレで三和の『死の夢の少女』のラストワードを奪う。

 『簒奪の従者』は三和を直接攻撃。三和のライフを19点に減らす。

 

 後攻3ターン目、三和のターン。

 三和はラストワードを失った『死の夢の少女』と『簒奪の従者』を交戦。交戦時能力で『簒奪の従者』の攻撃力と体力が+1され相打ちとなる。

 そしてランダムな財宝カードが葛木の手札に加わる。加わったのは『黄金の靴』。

「ふむ、悪くないな」

 葛木が顎に手を添えて言う。三和は無言。

 三和は3PPを消費して『怪物の少女・フラン』をプレイ。

チョイス効果で加えた3/2の『フランの従僕』をそのままプレイする。

「ふむ……」

 葛木が考え込む顔をする。

 

 

 先行4ターン目、葛木のターン。

「『フランの呪い』じゃなくて従僕か。グールでドローするつもりかい? いや……」

 葛木は考え直す。

「悪意の憑依か?」

 『簒奪の絶傑・オクトリス』は『フランの従僕』と相打ち。奪ったラストワード効果で手札に『深淵の夢』を加える。

 4PPは『月の刃・リオード』と『レイピアマスター』を2PPエンハンスで使用。

 ターンエンド。三和に手番を渡す。

 

 

 後攻4ターン目、三和のターン。

「なら俺はこれだ」

 まずプレイしたのは『グール』。『怪物の少女・フラン』を破壊し2ドローする。

 ドローを確認し、プレイしたのは『心眼の双葬女・レディグレイ』。進化権を発動する。

 『心眼の双葬女・レディグレイ』の進化時効果でこのバトル中に破壊された2コストフォロワーを呼び出す。該当するのは『死の夢の少女』だ。

「レディグレイでレイピアマスターを攻撃、ターンエンド」

 『心眼の双葬女・レディグレイ』のドレイン効果により三和の体力は20まで回復する。

 葛木の場には潜伏状態の1/3の『月の刃・リオード』。

 三和の場には1/1の『グール』、3/3の『心眼の双葬女・レディグレイ』、2/2の『死の夢の少女』。

 お互いのライフは両方20。

 

 

 先行5ターン目、葛木のターン。

「ふふ、でもこれで僕の勝ちさ」

 葛木は『月の刃・リオード』を進化させ、進化時効果で0コストスペルの『陰伏天誅』を手札に加える。

 即座に『陰伏天誅』をプレイし、『グール』を破壊。手札に『アサシン』を加える。

 そして5PPを使ってエンハンス効果の『白刃の剣舞』をプレイ。

 

 

《白刃の剣舞》

コスト2 スペル

ランダムな相手のフォロワー1体に1ダメージ。これを「自分のフォロワーの最大攻撃力の値」と同じだけ行う。上限は10回。

[エンハンス:5]『ダメージを与える前に、自分のフォロワー1体を+2/+2する。』

 

 

 『月の刃・リオード』の能力値が、5/7にまで上がる。

 そして三和のフォロワーに5点ダメージ。三和の場のフォロワーを全滅させる。

「くそっ先行5ターン剣舞かよ。上振れじゃないか」

「あれをされると……」

「ターンエンドだ」

 葛木は『月の刃・リオード』の潜伏状態を維持。三和に手番を渡す。

 

 後攻5ターン目、三和のターン。

「葛木、お前とはデッキの枚数調整で何度も議論したよな。『フラウロス』の枚数とか」

「議論? ああ、そうだったな」

「お前はネクロマンサーを組むときグールを何枚入れる?」

「グール? あんなのを入れたらデッキパワーを落とすだけじゃないか。断然僕は『スパルトイサージェント』だよ」

「なるほどな。フランは?」

「アーカスの要だよ? 3枚入れるさ」

「そうか、俺はフランを2枚にしてビッグソウルハンターを3枚入れている。なぜかわかるか?」

 葛木の顔が引きつる。

「お前みたいな潜伏剣舞に対抗するためだよ」

 三和は宣言通り『ビッグソウルハンター』をプレイ。

 ちょうど6溜まっていた墓地を消費して『月の刃・リオード』を破壊。

 残った2PPで『幽想の少女・フェリ』をプレイする。 

「お前の手札、『スカイセイバー・リーシャ』がいるな。それと『アサシン』で、次のターンもリオードを隠すつもりだったんだろう」

 ピキリと葛木の頬のひきつりが強くなる。彼の大型タブレット端末を見ている人間は、彼の手札に『スカイセイバー・リーシャ』が存在することがありありとわかる。

「ふん。ロイヤルの力はここからさ」

 葛木は『簒奪の使途』をプレイ。ファンファーレで1点ダメージを『ビッグソウルハンター』に与え、手札に『黄金の首飾り』を加える。

 そして先に手札に加えていた『黄金の靴』をプレイ。財宝カードを使ったので2点ダメージを盤面に残っていた『ビッグソウルハンター』に与え破壊する。

 『黄金の靴』の効果で突進を得ているので、『簒奪の使途』は『幽想の少女・フェリ』を攻撃して破壊、2点の反撃を受け残り体力は3。

「ほら、そっちのターンだ」

 

 

 後攻6ターン目、三和のターン。

 三和は初めから決まっていたようにカードをプレイする。

 『永遠の花嫁・セレス』。

「あ、そっか……」

 美鈴が思わずつぶやいた。

「次は7ターン。『ドラゴンナイツ』のエンハンス効果も発動しない。『スカイセイバー・リーシャ』じゃ上からとれない。普通のミッドレンジロイヤルだと適性PPで破壊できるカードがないんだ」

 三和は『永遠の花嫁・セレス』を進化。『簒奪の使途』を攻撃。

 交戦時能力で3点のダメージを与え、『永遠の花嫁・セレス』は無傷で残る。

「すごい……! 最初に『簒奪の従者』から『黄金の靴』が出たことでこの展開を読んでいたんだ!」

「ぐぅ……!」

 なまじ『黄金の靴』があるから、葛木は確定でとれる『簒奪の使途』で安易にとってしまったのだろう。だが体力3で残すことはネクロマンサー相手には悪手だった。

「そっちの番だ」

 三和は悠々と手番を返す。

 

 

 先行7ターン目、葛木のターン。

 『スカイセイバー・リーシャ』ではセレスを上からとれない。

 葛木のデッキで『永遠の花嫁・セレス』を唯一上からとれるのは『簒奪の使途』だが今使ったばかりで手札にはない。

「くそっ!」

 葛木は舌打ちまじりに『ドラゴンナイツ』をプレイ。

 『炎帝・パーシヴァル』をチョイスし、『アサシン』で潜伏を付与する。

「セレスを無視して伏せパーシヴァル……そんな手が……」

 次の8ターン目であれば進化権もあわせて『永遠の花嫁・セレス』を対処できる。

 三和のライフは最大値の20だし、『永遠の花嫁・セレス』の回復効果もこのターンは無視してもかまわない。

 

 

 7ターン目後攻、三和のターン。

 樫崎が美鈴に問いかけてきた。

「あたしにはよくわからないけど、三和が優勢かい?」

「えっと………まだわかりませんけど、たぶん………」

 三和はまたもノータイムでプレイ。

 6/6の『幽霊支配人・アーカス』が場に置かれ、最後の進化権を使用。

 『アサシン』を攻撃、破壊する。『永遠の花嫁・セレス』は葛木を直接攻撃、3点のダメージを与え17点まで削る。

 盤面には8/6の『幽霊支配人・アーカス』、3/6の『永遠の花嫁・セレス』。

 

 

 8ターン目。葛木のターン。

(パーシヴァルは味方のフォロワーが多いほど攻撃力が上がる。爆発的な打点を出せるフォロワーだけど、この盤面、どう動く……?)

 せっかくのダメージも盤面に『永遠の花嫁・セレス』が存在する限り回復され続ける。

 8/6の『幽霊支配人・アーカス』も無視するには高すぎる攻撃力だ。

 葛木は長考に入る。

 長い沈黙の末にプレイしたのは、『高潔なる騎士・レイサム』。最後の進化権を使用する。

 攻撃したのは『永遠なる花嫁・セレス』。

 6点の反撃を受けるも『高潔なる騎士・レイサム』は耐え、『永遠なる花嫁・セレス』を破壊。

 同時にリーダー付与効果で『ナイト』を疾走状態で場に呼び出す。

 『ナイト』はまず『幽霊支配人・アーカス』を攻撃。体力を5まで減らす。

 そして潜伏状態だった『炎帝・パーシヴァル』は三和を直接攻撃。

「顔面の殴り合いに持ち込むつもりか!」

 見守っていた哲夫がうなった。

 『ナイト』を呼び出し、『炎帝・パーシヴァル』の攻撃力は7点。

 呼び出した『ナイト』と合わせて三和のライフを8点削る。

 これで三和のライフは残り12点。場には8/5の『幽霊支配人・アーカス』。

 葛木のライフは17点、場には10/3の『高潔なる英雄・レイサム』、7/4の『炎帝・パーシヴァル』、1/1の『ナイト』。

 

 

 

 後攻8ターン目、三和のターン。

 三和はドローを確認してからしばし固まる。悩む手がきているということだろうか。

 三和は『禁絶の腕・ニコラ』を3回プレイ。手札が『禁絶の一撃』で埋まるのを嫌ったのか、最後の2PPで『悪意の憑依』を使う。

 7体の『ゴースト』の内6体は葛木のフォロワーを除去するのに使い、『ゴースト』1体と『幽霊支配人・アーカス』で葛木を直接攻撃。

 ライフを17点から8点にまで削る。

「すごい殴り合いだ……。でも次葛木君はアーカスを除去しないと……」

 今の三和であれば『ゴースト』を生み出す能力により、生半可な守護などたやすく貫通する。

 『幽霊支配人・アーカス』はまず残せないはず。

 葛木がどんな手を打ってくるか。

 

 

 先行9ターン目、葛木のターン。

 プレイしたのは『白と黒の決闘』。

 エンハンス効果で『白の王・イメラ』と『黒の女王・マグナス』を手札に加える。

 『白の王・イメラ』は突進能力を持ち、攻撃時に『ナイト』を呼び出す。『高潔なる騎士・レイサム』のリーダー付与効果と合わせて2体の『ナイト』が出現する。

 その2体の『ナイト』と合わせて5点で『幽霊支配人・アーカス』を破壊。

 残り5PP、葛木がプレイしたのは『簒奪の絶傑・オクトリス』で奪った『深淵の夢』。

(とことんまでライフを詰める気……!)

 『ゴースト』の攻撃でも『ナイト』は出現する。

 呼び出された『ナイト』と合わせて2点のダメージを叩きこみ、三和のライフを10点まで削る。

(次のターン2点は確定。葛木君の手札は……)

 葛木の手札を確認して、美鈴は戦慄する。

(まずい、三和君、セレスを引かないと!)

 

 

 後攻9ターン目、三和のターン。

 三和の手札は8枚。

 もし前のターンにあと1枚。

 『グレモリー』かいずれかの2コストネクロマンサーカードの内1枚あれば、このターンにリーサルだった。

 葛木の場には1/1のナイトのみ。

 三和は『禁絶の腕・ニコラ』を3回プレイ。6体の『ゴースト』が生成されるが盤面は5枚までなので1体の『ゴースト』があふれて消滅する。

 『ゴースト』の1体は『ナイト』を攻撃し、破壊。

 そうしてこじ開けた盤面に4度目の『禁絶の腕・ニコラ』をプレイ。

 5点分の『ゴースト』で葛木を直接攻撃してライフを3点まで削り、『禁絶の一撃』を手札に加える。

 墓地20にはほど遠いが、墓地が足りていなくても『禁絶の一撃』は4点出る。

 どんな守護を立てても、次のターンにはリーダーに直接4点のダメージを与えることができる。

 三和が考えられる限り最善の手だ。

 

 

 先行10ターン目、葛木のターン。

 ドロー。引いたのは……。

「悪いなぁ三和ァ」

 それまで眉根を寄せていた葛木が、途端に愉快そうに顔を歪める。

「俺のターン開始時ィッ! アミュレット『深淵の夢』の効果で場に1体のゴーストが生成されるぅ!」

 いきなり口調を変え、テンポよく葛木がしゃべりだす。

「そしてリーダーを直接攻撃ィ、レイサムの効果により場にナイトが一体生成されるぅ!」

 盤面には『ゴースト』と『ナイト』が2体並ぶ。

「ナイトでリーダーを直接攻撃ィ! これで2点! そして俺は『絶望の使者・セリア』をプレイするゥ!」

 『空の指揮官・セリア』のチョイス効果『絶望の使者・セリア』。

「場の味方フォロワーを全て手札に回収し、セリアの攻撃力を+2するゥ! これで6点! そしてレイサムの効果で再びナイトが召喚、これで7点!」

 連続して叩き込む葛木。そこで動きが止まる。

「三和。俺は残り5PP。なんのカードをプレイすると思う?」

「レイピアマスター、ランスロット、セリア、レイサムのアクセラレートと首飾り」

 三和はつらつらと述べる。

「ははは、お前何度でも死んでるんだよ! 俺はレイピアマスターをエンハンス効果でプレイ! これによりレイピアマスターの攻撃力を+2する!」

 レイピアマスターの攻撃力は3点。三和の体力は残り3点。

「レイピアマスターの元コストは1! 高潔なる騎士・レイサムの『1コストフォロワーに疾走を付与する』能力により、疾走を得るッ! これで10点。リーサルだ!」

 

 

 場がどよめいた。肉を断たせて骨を断つとでも言うべき、貪欲なアグレッシブさが生んだリーサルだった。

(7ターン目の伏せパーシヴァルの判断といい、葛木君も決して下手なわけじゃない)

 もし三和が先行であれば。あるいはセレスをひけていたら。

 展開は違っていたはずだ。三和の手には『禁絶の一撃』が手札に加わっていたから、葛木が強力な守護を立てても三和の勝ちだった。

 しかしこのわずかな差、引きの運。

 それが勝敗を決するのがカードゲームだ。

(三和君……)

「おい審判」

「えっ?」

 葛木が酷薄な笑みを浮かべながら美鈴に声をかけてきた。

「勝者はどちらだ?」

「………勝者、葛木君、です」

「おっしゃー!」

 葛木が勝ち鬨を上げる。こういった場の空気を作る力は葛木の方が三和の何倍もうまかった。

(……でもいやだ)

 勝者の名前として葛木の名を呼ぶ時、美鈴の心はざっくりと斬り裂かれるような痛みを覚えた。

 丁寧にシャドウバースを教えてくれた三和の姿と、三和と過ごした時間が脳裏に浮かんだ。

 その三和が笑い物にされているのが堪えられない。

(負けないで三和君)

 三和は表情を動かさず、沈黙を貫いている。

 眼鏡の位置を正す。と、その拍子に美鈴と目が合った。

 三和は小さく、かすかにうなずいた。

 任せろと。




シャドバ用語
・上振れ
運がいい方向に偏ること。転じて調子が上向くこと。
対義語は下振れ。

葛木宗次郎
使用リーダー:ロイヤル、ドラゴン
金髪で体格の良いハーフ。見た目は爽やかで明るい雰囲気を持つものの、反面、他人を虐げることに快楽を見出すタイプ。
自分がゲーム好きな一方で似たオタク趣味を持つ者を同属嫌悪し排斥したがる自己中心的性質を持つ。

尺本哲夫
使用リーダー:なし
三和とは一年生のころに同じクラスになって知り合った。
シャドウバースもブームにのっかり一度触れるが、今は引退している。
それでも三和のプレイを見て今の環境もある程度のことは知っている。
一応ドラゴン使いだった。

使用デッキ
葛木
https://twitter.com/fet_light/status/1121920916101844992
三和
https://twitter.com/fet_light/status/1118876277341966336
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