Tick Tack シャドウバース   作:fet_light

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5.予想できない盤外戦術

「また負けたぁ。三和君のヴァンプ本当にラスボスみたいに強いね」

「ストーリーでもヴァンパイアのユリアスは一人だけラスボスみたいな強さなんだよな」

「うん。ルピ欲しさにちょっと進めてみた。三和君はずっとヴァンプを使っているの?」

「いや。使っていない時期もあったな。ヴァンパイアは環境が激変したリーダーなんだ」

「そうなの?」

「ヴァンパイアのクラス特性って復讐だろ? だから最初期は復讐を使ったコントロールヴァンパイアが主流だったんだ。でもカードが追加されるにつれて強力な疾走フォロワーが増えて復讐状態を維持するのは危険になったんだ。そうなると今度はアグロヴァンパイアが流行り出したんだ」

「コントロールからアグロに?」

「そう。ひたすら敵リーダーを狙って6ターンぐらいには決着をつけるやつ。だけど優秀な除去が登場したり、実質守護のようなカードが増えたりして、アグロヴァンパイアも厳しくなった。俺はどちらかというとコントロールのヴァンパイアが好きだったから、アグロヴァンプが強かったころは使っていなかったな」

「そんな歴史があるんだね。あ、今ヴァンプのデッキって機械軸もあるよね。あっちは使わないの?」

「使ったよ。考えた人はよくこんなデッキを見つけたなってなって面白かった。だけど環境の最前線で使うには厳しくてね。俺が使うのは……」

 

 

「三和、お前が使うのは蝙蝠(こうもり)ヴァンプだろ?」

 葛木が目を細めて問いかけてきた。

 三和は一瞬葛木の視線を受け止め考える。

 BO3のルールでは、相手のデッキが何かは初めの手札交換に大きく影響する。

 本来は秘匿するべき情報だ。

 しかし。

「ああ。そうだよ」

「だと思った。お前好きだったものな。そういうギャンブルタイプ」

 三和は正直に答えた。葛木には隠しても無駄だと悟ったからだ。

 三和が葛木の人間性を知っているように、葛木は三和の嗜好を理解している。

 

 

 蝙蝠ヴァンプ。

 その命名の由来は8コストフォロワー『闇喰らいの蝙蝠(こうもり)』からだ。

 

 

《闇喰らいの蝙蝠》

コスト8 攻撃力5 体力5

[ファンファーレ]『相手のリーダーか相手のフォロワー1体に「このバトル中、自分のターン中に自分のリーダーがダメージを受けた回数」と同じダメージ。』

 

 

 ヴァンパイアカードには、自分のリーダーにダメージを与える自傷カードと呼ばれるカード群がある。

 『闇喰らいの蝙蝠』はその自傷効果を使った回数が多いほどファンファーレの威力が上がる。

 自傷カウントを増やしつつ相手の体力を削り、そして『闇喰らいの蝙蝠』のファンファーレで一気に相手のライフを削りきる。

 それが蝙蝠ヴァンプだ。

 

「さ、二試合目が長引いた。三戦目はさくっと終わらせよう」

 

 三本目。

 三和蝙蝠ヴァンプ。

 葛木サタンドラゴン。

 

 先行は三和だ。

 手札交換、三和は2枚キープ。

 葛木も2枚キープ。

 

 

 1ターン目はお互いにパス。

 

 

 2ターン目先行、三和のターン。

 プレイしたのは『双石の悪魔』。チョイス効果でドロー効果のある『蒼炎の魔石』を手札に加える。

 

 

 2ターン目後攻、葛木のターン。

 プレイしたのは『銀氷のドラゴニュート・フィルレイン』。

 三和の2/1の『双石の悪魔』に1/3を合わせた形だ。

 

 

 3ターン目先行、三和のターン。

 プレイしたのは『悪夢の始まり』。

 2体の『フォレストバット』を呼びだし、カードを2枚ドローする。

 『双石の悪魔』は葛木を直接攻撃。ライフを18に減らす。

 

 3ターン目後攻、葛木のターン。

 プレイしたのは『侮蔑の従者』と『侮蔑の信者』。

 『侮蔑の従者』に1点ダメージを与え、葛木は手札を2枚ドローする。

 『銀氷のドラゴニュート・フィルレイン』は『双石の悪魔』を攻撃し破壊する。

 お互いの場に残っているのは、

 三和が1/1『フォレストバット』が2体。

 葛木は1/1『銀氷のドラゴニュート・フィルレイン』と2/1『侮蔑の従者』、1/1『侮蔑の信者』。

 

 手札は三和が7枚、葛木が7枚ある。

「三和君も葛木君も手札を増やしてきた」

「さっきの試合、葛木は序盤PP通りに動けていなかったからな。反省したってところか」

 

 

 4ターン目先行、三和のターン。

 2PPで『血の取引』をプレイ。自分自身に2点ダメージを与え、カードを2枚ドローする。

 三和は2体の『フォレストバット』を使って『銀氷のドラゴニュート・フィルレイン』と『侮蔑の従者』を破壊。

 残った2PPで『姦淫の従者』をプレイし自分のリーダーに1点ダメージ。

 残るPPは0だが、0コストカード『眷属への贈り物』をプレイ。お互いのリーダーに1ダメージを与え、お互いの場に1/1の『フォレストバット』を一体召喚する。

 もう一枚。0コストアミュレット『不穏なる闇の街』をプレイ。

「フラウロスの直接召喚条件を満たした!」

 

 

《フラウロス》

コスト4 攻撃力5 体力3

[直接召喚]『3ターン目かそれ以降の自分のターン中、自分のリーダーがダメージを受けたとき、それがこのターン中に4回目なら、このカードを1枚、自分のデッキから場に出す。』

[ラストワード]『自分のリーダーを3回復。』

進化後

[ラストワード]『自分のリーダーを3でなく5回復。』

 

 

 自分の同一ターン中にリーダーが4回ダメージを受けた場合、デッキから『フラウロス』を直接召喚する。

 これによりノーコストで『フラウロス』を場に出すことができる。進化で取りにくい高い攻撃力な上に、自傷した分のライフを3点回復するラストワード持ちだ。

 三和の場には5/3『フラウロス』、4/2『姦淫の従者』、1/1『フォレストバット』。

 葛木の場には1/1『侮蔑の従者』、1/1『フォレストバット』。

 ライフは三和が15点。

 葛木が17点。

 

「攻撃力高い奴が2体いるし進化でも取りづらいえげつない盤面だぜ」

 哲夫の横で美鈴は指折り数える。

(この試合、三和君の自傷は4回)

 

 4ターン目後攻、葛木のターン。

 進化権が解禁される。

 プレイしたのは『アンネローゼ』。進化して最大PPを1増やす。1/1の『フォレストバット』を攻撃して破壊。

 余った1PPで『侮蔑の炎爪』。『アンネローゼ』の体力を1点削って『フラウロス』に3点ダメージ、破壊。

 『フラウロス』のラストワード効果により三和のライフが3点回復、18点となる。

 残った『侮蔑の信者』、『フォレストバット』は『姦淫の従者』を攻撃、破壊する。

 

 場に残ったのは4/3の『アンネローゼ』のみ。

 三和のライフは18。

 葛木のライフは17。

 

「うまく返したな」

「うん。次ヴィーラを使っても『銀氷の吐息』で破壊できる」

 

 

 5ターン目先行、三和のターン。

 アミュレット『不穏なる闇の街』のカウントダウンが終了し1枚ドロー。ターン開始時のドローと合わせて三和の手札は8枚。

 三和は『鋭利な一裂き』で葛木のライフを3点削って14点。

 そして『邪眼の悪魔』をアクセラレートで使用し『アンネローゼ』に3点ダメージ、破壊する。

 そしてアミュレット『不穏なる闇の街』を場に置く。

 これで三和は3回自傷し、ライフは14点。

(自傷回数は7回。いい調子)

 

 

 5ターン目後攻、葛木のターン。最大PPは6。

 盤面が空の状態。

 葛木は4PPで『白亜の竜騎士』をプレイした。

 そして残った2PPでチョイスしたばかりの『白亜の瞑想』をプレイ。ライフを6点回復して20点まで回復する。

 

「白亜の竜騎士、蝙蝠ヴァンプの対策カードね……」

 

 6ターン目先行、三和のターン。

 手札は7枚。

 三和のライフは14。

 葛木のライフは20。

 三和は『悪夢の始まり』をプレイ。『フォレストバット』を2体呼び出し2枚ドローする。

 そして『姦淫の絶傑・ヴァーナレク』をプレイ。

《愛はパトス、テーゼは消える》

 淫靡な囁きとともに、『白亜の竜騎士』が破壊される。

 

 『姦淫の絶傑・ヴァーナレク』は自傷回数が7回を超えることで強化されるフォロワーだ。

 ファンファーレの能力で敵フォロワーを1体破壊、さらに攻撃力と体力を+1し疾走を得る。

 三和は1回目の進化権を切る。『姦淫の絶傑・ヴァーナレク』を進化して葛木を攻撃。

 ライフを4点削って残り16点。

 

 三和の場には1/1/『フォレストバット、』1/1『フォレストバット』、4/6『姦淫の絶傑・ヴァーナレク』。

 

 

「今度はガルミーユ対策をちゃんとしてきたな」

「うん。さっきの試合ルリアを見せたからね。異界を統べる者はルリアのニュートラル・フォロワーのサーチにひっかかるからサタンを確定サーチできないの。それにヴァンパイアのベーシックカードはネクロほど厄介というわけじゃあないしね」

 

 

 6ターン目後攻、葛木のターン。最大PPは7。

 葛木がプレイしたのは6コストフォロワー『忌まわしき紫竜』。

 ダメージを受けて破壊されなかった時、カードを2枚ドローする能力を持つ。

 攻撃力は4、体力は4。進化して6/6。

 葛木は進化権を使用。『姦淫の絶傑・ヴァーナレク』を上からとる。

 4点の反撃を受けるも『忌まわしき紫竜』は残り、2枚ドロー。

 これで葛木は8枚まで手札を増やす。

 さらに余った1PPで『侮蔑の信者』をプレイ。

 新たに3枚のカードをドローし、あふれた1枚を墓地に送る。

 ターンエンド。

 

 三和の場には1/1の『フォレストバット』が2体。

 葛木の場には6/1の『忌まわしき紫竜』と1/1の『侮蔑の信者』。

 

 7ターン目先行、三和のターン。

 手札は8枚。

 三和の動きが止まる。

(ここからのヴァンパイアはつらい戦いになるはず……)

 蝙蝠ヴァンパイアはどちらかというと序盤に有利を築き、そしてデッキパワーが落ちるころに『闇喰らいの蝙蝠』をフィニッシャーとして試合を決めるデッキだ。

 一方葛木のサタンドラゴンは終盤に力を発揮する。

 先ほどの『白亜の瞑想』の回復により一撃で削ろうにもライフは遠いものとなっていた。

 三和が動く。

 まずは2PPで『狂恋の華鎧・ヴィーラ』をプレイ。

 残った5PPの内、4PPを使って『フォレストバット』の片方に『姦淫の翼』をエンハンスでプレイ。

 葛木を直接攻撃し、3点のダメージを与えてドレイン効果によりライフを3点回復する。

 1/1のままの『フォレストバット』は『忌まわしき紫竜』を攻撃し、相打ちし破壊。

 進化権は使用せず残したままターンエンド。

 『姦淫の翼』のターン終了時効果により『フォレストバット』は1ダメージを受け体力が2になる。

 三和自身も1点ダメージを受け、三和のライフは16。

(これで三和君の自傷回数は……ええっと……8回)

 

 

 三和の盤面には3/2の『フォレストバット』と2/2の『狂恋の華鎧・ヴィーラ』。

 葛木の盤面には1/1の『侮蔑の信者』。

 三和のライフは16。

 葛木のライフは13。

 

 

 7ターン目、後攻葛木のターン。最大PPは8。

 手札は上限の9枚。

「次は8ターン目か……ふむ、三和の自傷回数は……」

 葛木の目が泳ぐ。

 その視線が不意に、美鈴にむけられた。

(しまった!)

 視線の意図を悟り、慌てて指折り数えていた手を背中に隠すが、葛木に見られた後だった。

 葛木の目が細まる。

「ふぅん……8回か」

(私ったら、迂闊!)

 美鈴は自身を叱咤する。葛木は三和の自傷回数など数えていなかったのだ。

 だが美鈴が指で数えていたために教えることになってしまった。

 葛木のライフは13点。三和の自傷回数は8回。

 0コストスペル『眷属への贈り物』は既に1枚見せたから、万に一つも次のターンに決着がつくということはない。

「場にフォロワーを残したくないな。ならこっちか」

 葛木は『姦淫の信者』で三和を直接攻撃。ライフを16点に減らす。

 それからプレイしたのはエンハンス『侮蔑の絶傑・ガルミーユ』。

《世界は私の下にある》

《私の下で千切れ飛べ!》

 ファンファーレで全体に1ダメージを与え、進化権を与えることなく進化。

 『狂恋の華鎧・ヴィーラ』を攻撃し、ダメージを受けて倒されなったのでランダムな敵フォロワーに3点、敵リーダーに3点を飛ばす。

《愚かすぎる!》

 侮蔑の咆哮が3/2の『フォレストバット』を破壊し、三和に3点ダメージ。

 三和のライフが12点に削れる。

 

 

 

 8ターン目、先行三和のターン。

 プレイしたのは『フラウロス』と『姦淫の絶傑・ヴァーナレク』。

 『姦淫の絶傑・ヴァーナレク』の効果で『侮蔑の絶傑・ガルミーユ』を破壊し、疾走2点ダメージを葛木に叩き込む。

 まだ進化権は使わない。

 

 これで三和の盤面には5/3『フラウロス』、2/4『姦淫の絶傑・ヴァーナレク』。

 三和の盤面はなし。

 ライフは三和が12点。

 葛木が11点。

 全回復していた葛木のライフが地味に削れてきた。

 

 

 8ターン目、後攻葛木のターン。最大PPは9。

 『氷獄の王・サタン』の着地タイミングだが、三和は進化権を残しているし盤面を放置はできない。

 葛木がプレイしたのは『白亜の竜騎士』。

「2枚目!?」

 チョイスして加えたばかりの『白亜の瞑想』をプレイ。ライフを11点から17点にまで回復する。

 そして最後の進化権を使用。5/6となって『姦淫の絶傑・ヴァーナレク』を破壊。

 余ったPPで『侮蔑の炎爪』をプレイ。『白亜の竜騎士』の体力を1点削って『フラウロス』に3点ダメージ。『フラウロス』のラストワード効果で三和のライフが3点回復する。

 残った2PPで『銀氷のドラゴニュート・フィルレイン』をプレイ。

 ターンエンド。

 

 これで三和の盤面はなし。ライフは15点。

 葛木の盤面は5/3の『白亜の竜騎士』、1/3『銀氷のドラゴニュート・フィルレイン』。ライフは17点。

 進化権を残しているとはいえ、いつの間にか盤面もライフも上回られた。

 

 

 

 9ターン目、先行三和のターン。

 プレイしたのは0コストスペル『眷属への贈り物』。お互いのリーダーに1点ダメージを与え、それぞれの場に1/1の『フォレストバット』1体を出す。

 そして『闇喰らいの蝙蝠』をプレイ。

「なにっ!?」

 葛木が声を上げる。『闇喰らいの蝙蝠』は蝙蝠ヴァンプが持つ絶対のフィニッシャーだ。

 それをこの局面で使ってくるということは……。

「2枚目か」

「うん。三和君はドローを一杯したし、それに三和君のデッキには……」

 出かかった言葉を美鈴は危うく飲み込む。何も葛木に三和のデッキ内容を教える必要は無いと思ってのことだ。

 今のヴァンパイアはドローカードが豊富なため、『闇喰らいの蝙蝠』を2枚に抑えているデッキもある。だが三和は事故防止と長期戦のために『闇喰らいの蝙蝠』を3枚採用している。

 2枚目を手札に加えていても不思議はない。

 三和の自傷回数は9回なため、これで葛木のライフは一気に9点削れる。

 

 

 三和の盤面には5/5『闇喰らいの蝙蝠』、1/1『フォレストバット』。

 葛木の盤面には5/3『白亜の竜騎士』、1/3『銀氷のドラゴニュート・フィルレイン』、1/1『フォレストバット』。

 三和のライフは14点。

 葛木のライフは7点。

 

 

 9ターン目、後攻葛木のターン。最大PPは10。

「くっ」

 表情を苦悶に歪ませながらドローを確認する。

 一転してその表情が喜悦に変わった。

「ハハハハ、どうやら今日はついているようだ!」

 プレイしたのは3枚目の『白亜の竜騎士』。

 チョイスしたのは当然『白亜の瞑想』。ライフを6点回復し残り13点。

 これは三和も意外だったのか、眉間に皺が寄り眼鏡の位置を押し上げる。

「なんて悪運の強い野郎だ……!」

 哲夫がうなる。

「でも場には闇喰らいの蝙蝠とフォレストバットが……」

《独眼竜の咆哮に震えよ!》

「あっ……そうか葛木君はもう10PP……」

 葛木の最大PPが10に達しているので『暴竜・伊達政宗』の特殊効果が発動する。

 全てのドラゴン・フォロワーは突進と『このターン受けるダメージを0にする』を持つ。

 プレイされたばかりの『白亜の竜騎士』と必殺を持つ『暴竜・伊達政宗』が一気呵成に押し寄せ『闇喰らいの蝙蝠』と『フォレストバット』を破壊する。

 そしてすでに場に出ていた『白亜の竜騎士』と『フォレストバット』、『銀氷のドラゴニュート・フィルレイン』は三和を直接攻撃。ライフを7点削り、三和のライフは残り7点。

 

 三和の場にはフォローはなし。

 葛木の場には5/3『白亜の竜騎士』、3/4『白亜の竜騎士』、2/2必殺『暴竜・伊達政宗』、1/1『フォレストバット』。

 三和のライフは残り7点。

 葛木のライフは残り13点。

 

 

 10ターン目、先行三和のターン。

 三和の動きが止まる。

「まだリザインをしないのかい?」

 葛木が面倒臭そうに言った。

 美鈴はかたわらの哲夫に問いかける。

「リザインって何?」

「投了。負けを認めるってこと」

「そんな、進化権だって残しているしまだわからないのに……」

「遅延行為はやめてくれないか? さっさとリタイアを押せ」

 表情に嘲弄を浮かべて葛木が言う。三和はじっと手元の携帯端末を見つめている。

 と、

「ここまでか……」

 と小さく呟いた。葛木が表情を輝かせる。

「なんだ、リタイアするのかい?」

「いや、そっちはまだだ」

 答えを返すと、プレイしたのはアミュレット『蒼炎の魔石』。2枚ドロー。

「トップ解決は好きじゃないんだ」

 それから薄く微笑む。

「だがそれもまたカードゲームだ」

 そしてプレイしたのは5コストフォロワー、『邪眼の悪魔』。

「やはりそれを握っていたかい」

 葛木が猛々しい笑みを浮かべる。

「一枚で盤面を切り返せるカードだものな。だがそれがヴァンパイアの最後の抵抗だ」

 三和が、残しに残してきた進化権を切る。

 『邪眼の悪魔』は進化しても能力値の上昇が一切ない。

 その代わり、進化時能力として『相手のフォロワーすべてに「このバトル中、自分のターン中に自分のリーダーがダメージを受けた回数」と同じダメージを与える』効果がある。

 三和が自分のターン中にリーダーがダメージを受けた回数は9回。

《憎しみが私を焦がす……》

 怨嗟の炎が、葛木のドラゴン・フォロワー達を焼き払う。

 そして残った3PPで3枚目の『姦淫の絶傑・ヴァーナレク』をプレイする。

 疾走を得て攻撃力と体力を+1し、葛木を直接攻撃。

 葛木のライフを11点まで削る。

 

 

 三和の盤面には5/4『邪眼の悪魔』と2/4『姦淫の絶傑・ヴァーナレク』。

 葛木の盤面にはなし。

 三和のライフは7点。

 葛木のライフは11点。

 

 

 10ターン目、後攻葛木のターン。

(もし葛木君の手札にまだ回復カードがあったら……)

 そうなればほぼお手上げだ。

(邪眼の悪魔とヴァーナレクを処理できなければ、あるいは……)

 だが悩むことなく葛木はプレイ。

 『ポセイドン』そして『暴竜・伊達政宗』。

 付与された突進効果によって三和のフォロワーが駆逐される。

 

「ほらっ! この守護を突破できんのかよ! ポセイドンを除去して11点を削りきれるのか!? ああ!?」

 葛木が恫喝する。

 三和の指先が、すっと動いた。

 

 

「勝った」

「はぁ……?」

 先行11ターン目、三和のターン。

 プレイしたのは『鋭利な一裂き』。

 三和自身のライフを2点削り、葛木のライフを直接3点削る。

「おかしいだろっ!」

 ガタンッと椅子を蹴倒して葛木が罵った。

「最後の土壇場でそんな直接打点カードを引くか!? 運ゲーにもほどがあるだろ!」

 『白亜の竜騎士』を3枚ひいたことを棚に上げて、葛木がわめく。

 その間も三和は無言でプレイする。

 プレイしたのはもちろん『闇喰らいの蝙蝠』。

 このバトル中、自分のターン中にリーダーがダメージを受けた回数は10回。

 葛木のライフは残り8点。

 葛木のライフを消し飛ばす。

 

 

「あーもうッ運ゲー運ゲー運ゲー! 先行ゲーだよクソッ!」

 癇癪を起したかのように葛木はわめき散らした。

(それは一理あると思う……)

 少なからず葛木の想いに美鈴は共感した。

 欲しい手札がこない不運。

 相手ばかりが都合のいいカードを引き寄せる理不尽。

 それらは美鈴自身シャドウバースに触れた短い時間で何度も体験した。

「でもそれがカードゲームなんだ」

「永瀬……?」

 哲夫が当惑した顔をするが置き去りに、永瀬が一歩進み出た。

「凄い勝負でした。初めたての私では思いつかないような手の連続でした」

「永瀬、この試合は……」

 言い訳か何かを言いつのろうとする葛木の口を指一つで黙らせ、美鈴は続けた。

「カードゲームは運のゲーム。それは一理あると思います」

「………」

「ですが三和君は己の手札とむきあい、それに沿ったプレイングをしてきました。サタンを封じる盤面構築、『闇喰らいの蝙蝠』での回復強要、長期戦を予想してギリギリまで邪眼の悪魔のために進化権を残していたこと」

 三和が打つ手には、一手一手に意味があった。

「最後に欲しい札を引き寄せたのは運ですが、そこまで戦いを長引かせたのは紛れもない三和君の実力です」

「ぐっ……!」

 葛木自身も自覚していたはずだ。三和が最後の進化権を『邪眼の悪魔』に切った時、明らかに肩の荷が下りた顔をしていた。

 永瀬は宣告する。

「このBO3。2勝1敗で、勝者三和君です」

 永瀬が告げると、初めに哲夫が、小さくパチパチと拍手をし出した。

 それに引きずられるように、拍手の輪は広がっていった。

 膨れ上がる拍手と対照的に、その中心の一人、葛木は表情を徐々に憤怒に変えていった。

「やめろやめろっ、茶番だっ! こんなのっ!」

 耐えかねたように腕を振るう。拍手は周囲の当惑とともに徐々に引いていった。

 静かになった場にやっと溜飲が下がったのか、肩の力を抜くと葛木は三和の耳元に口を近づける。

「今回は負けを認めてやる。だけど勘違いするんじゃねぇぞ」

「はいはい」

 三和は葛木の捨て台詞を聞き流す。

 と、葛木が犬歯をむき出しに笑んだ。

「それとな。……永瀬のこと、精々鍛えてやんな」

「……なんのことだ?」

「しらばっくれるなよ。お前が自分から面倒ごとに首をつっこんだ時点で、裏側は透けて見えるっつぅの」

 葛木の表情は確信めいていた。たまらず三和は癖で自分の眼鏡の位置を直す。

 やはり葛木も三和の性格を知っている。

 三和が首を突っ込んできたことと、短期間で美鈴がシャドウバースの腕を上げたことで推察はついているのだろう。

(やっぱり腐れ縁だな……)

「いらなくなったら俺がひきとってやる。その時は教えろよ」

 それが捨てセリフだったらしい。

 葛木は荒んだ足取りで2-Bの教室を立ち去った。

 

 

 

 勝負が終わったことでギャラリー達は三々五々と散りだした。

「三和君が勝ったってことは三和君と付き合うのかな?」

「まっさかぁ。葛木君ならワンチャンあったかもだけどね」

「でも美鈴はアイドル一筋で彼氏はつくらないらしいよ」

 集まってきたのも勝手なら、立ち去り際のコメントも勝手だ。

 三和が内心舌を出していると、ドンッと背中を叩かれた。

「やるじゃねぇか、三和」

 背骨に走った痛みに顔をしかめていると、哲夫が男臭い顔に白い歯を光らせて笑んできた。

「ちょっとハラハラしたが、まあ順当な勝利だったな」

「ああ。相変わらずあいつはデッキ構築もプレイングも甘い」

 その場にはあと2人残っている人間がいた。

 美鈴と樫崎だ。

 樫崎が唇の端を歪めながら尋ねてくる。

「で、勝利者として三和は永瀬に交際を申し込むのかい?」

「まさか」

 三和は肩をすくめた。

「俺はあのハゲタカが永瀬にまとわりつくのを見逃せなかっただけですよ」

「葛木な。あいつの評価は教師の間でも二分されている」

 樫崎が苦々し気な顔で腕を組んでため息をついた。

「接点がない教師ほど葛木の評価は高い。でも担任は葛木には関わらないようにしているし、ソフ研の顧問の高橋先生は……あいつのせいでソフ研の空気が変わったと嘆いていた」

 教師としても複雑なのだろう。教師の目の届かないところで横暴を振りまく生徒は何も葛木だけではない。だが明確な証拠もないのに手を出したりはできないし、いちいち関わっていてはきりがない。

「ま、その調子でしばらくは永瀬のナイトをしていてくれよ。あたしとしてもあんな俗物に傷物にされるよりアイドルとして成功してもらった方が鼻が高いんでね」

「その発言もずいぶんと俗物ですよ」

 樫崎の歯に衣着せぬ物言いに苦笑しつつたしなめる。

「あ、あの三和君」

 隙間を見つけて美鈴が話しかけると、三和は努めて冷淡な視線をむけてきた。

「永瀬、変な騒動に巻き込んですまなかったな。まあ葛木は糞野郎だから気をつけておけ」

「う、うん……」

 美鈴は三和の視線に気圧されて言うはずだったお礼の言葉を失う。

(シャドウバースを教えてくれる時の普段の三和君じゃない。ただのクラスメイトとしての三和君の顔だ)

 美鈴と三和の関係をあくまで秘密にしようという三和の考えは美鈴にも伝わった。

「……ありがとね」

 だから美鈴はアイドルの永瀬美鈴として極上の笑顔で微笑んだ。

 

 

 

「ん?」

 三和の携帯端末に美鈴から着信が来ていた。

『放課後化学準備室で待っているから来て』

 

 

 

「あれ? かっしーはいないのか」

 話通りに化学準備室を訪れると、樫崎の姿はなく美鈴の姿だけがあった。

「あ、三和君……」

 美鈴の様子はどことなくおかしかった。伏し目がちで目を合わせようとしない。

「どうかしたのか?」

 三白眼を怪訝に細めて問いかけた。

 やっぱり今回の対応はまずかったのだろうか。

 美鈴の言葉を待っていると、やがて決心がついたのか、シャープな顔立ちをキリリと引き締めてこちらの目を見てくる。

「あのね、三和君。私にできることって、何かないかな?」

「あん……?」

 意味がわからず、呆けた顔で聞き返す。

 それが精一杯の勇気だったのか、美鈴は再び視線を伏せると、声をかすませながら言った。

「そのね。やっぱり今回の事で、三和君に凄く迷惑をかけたと思うんだ。だから何かお礼を……したいなって」

「ああ、なんだそんなことか」

 三和は苦笑した。

「いいよ、気にするな。俺は葛木を負かして気分がいい」

「でも……」

「じゃあ立派なアイドルになれよ。そうしたらクラスメイトとして鼻が高い」

 三和は邪気の無い笑みを浮かべる。

 美鈴の好きな、三白眼を糸のように細めた柔和な笑みだ。

 それに美鈴の胸がきゅっとなった。

「そ、それなら!」

「ん?」

「写真撮ろう!」

「写真?」

「そ、そう! 証拠! いつか私が大物になって、そして堂々と今の事を言えるようになったら、その証拠の写真! 私の先生が三和君だったという証!」

「あー……写真?」

「そう。撮ろうよ!」

 美鈴は自分のスマートフォンを操作して、カメラ機能を起動する。

 そして三和に体を寄せる。

「三和君! もっとくっついて!」

「い、いいのか……?」

 美鈴の体からは花の香りのような色香が漂っていた。美鈴は腕をからませ、柔らかい弾力が三和の肘に当る。

「ほら。笑って!」

「あ、ああ……」

 三和が精いっぱいの笑顔を浮かべる。

 美鈴の好きなあの糸のように目を細めた柔和な笑顔ではなく、ぎこちなかったが、美鈴はシャッターを切る。

「撮るよ! 3、2、1」

 パシャッ

「……えへへ」

 美鈴が頬を緩ませる。

 その光景を、三和は呆けたような非現実的なものを見るかのような顔で見つめていた。

「私、きっと今よりももっと有名なアイドルになるから」

 美鈴が笑う。

「だから三和君。……応援しててね」

「ああ……」

 それから。

 美鈴は三和君の頬にキスをした。

 時が一瞬止まる。

「えへへ……」

 美鈴が照れたようにはにかみながら笑う。

「ありがとうね、私のナイトさん」

 美鈴はそれだけ言うと、さっと身を翻して駆け出す。

 長い栗色の髪が弾み、小動物のように尾を引きながら化学準備室を飛び出していった。

(全く、心臓に悪い……)

 ドキドキと、三和の鼓動は高鳴っていた。

 

 

 

 

 美鈴の心臓は、三和以上に高鳴っていた。

「はぁっ、はぁっ、」

 全力で廊下を駆け抜ける美鈴に、放課後にもちらほらと残っていた生徒たちが驚いた顔をする。

 全力で走らなければ、頭の中がどうにかなってしまいそうだった。

 心臓がバクついている。頬がスモモのように紅潮していた。それは走っているせいだけじゃないはずだ。

(私っ、あんな大胆なことを……!)

 どんなに親密なファンとだって一度もしたことない。

 ましてや自分からキスをするなど、自分でもしたことが信じられない。

 心臓は激しく高鳴り、羞恥に立ち止まっていることができず、美鈴は全速力で校内を駆け抜ける。

 だがその激しい動悸は、むしろ心地よさと幸福感で美鈴の全身を満たし、気分を高揚させていた。

(桔音に話さないと)

 7歳年下の妹を思い浮かべる。

(お姉ちゃんにも好きな人ができたんだよって) 

 

 

 

 翌日、早朝。

「よう三和。……なんか今日はいつにもまして眠たそうだな」

「ちょっと寝不足でな……」

 あくびをしつつ、三和は窓際の席に座る。

「わり、ホームルームがあるまで仮眠するわ」

「おう」

 哲夫にそう声をかけた時だった。

 教室の扉が開き、美鈴が入ってきた。

「おはよー」

 美鈴は仲のいい数人の生徒と挨拶をかわす。

 三和はいつものように素知らぬ顔をし、目が会えば周囲にバレないように目だけで挨拶を返すつもりだった。

 しかし。

 カツコツカツコツ。

 美鈴の足取りがリズムを刻んで、わざわざ窓際の三和の席まで近づいてくる。

 学校指定のローファーから、徐々に視線を上げて三和は怪訝に美鈴の顔にピントを合わせた。

 照り付ける朝日を浴びて、美鈴の栗色の髪が煌めいている。

 美鈴は晴れやかな笑顔を浮かべていた。

「おはよう。三和君」

「お、おはよう……」

 

 

 チックタック。

 チックタック。

 

 

 時計の針は進む。

 

 

 

 




シャドバ用語
・盤外戦術
純粋なゲームプレイ以外で自分を有利にするための戦術。
デジタルカードゲームでは少ないが、例えばプレイできるカードが1つしか無いのに悩んだふりをして、手札に他のカードがあるように見せる遅延行為、エモーションを連打して相手の思考を妨害するハラス行為、今回のようにギャラリーがいる場合はギャラリー達のサインなどから相手の手札を盗み読む行為などなど。

・クラス特性
各リーダー(正確には各リーダーが使用できるカード達)が持つ特殊条件。
例えばドラゴンの場合は最大PPが7を超えるとなる『覚醒』。
ヴァンパイアはライフが10点以下になると『復讐』。
ドラゴンのカードの中には『覚醒状態』でのみ発動する能力を持つカード、ヴァンパイアは『復讐状態』でのみ発動するカードがある。
ちなみに厳密にはクラス特有のものではないため、例えば何らかの手段で別リーダーのカードを手札に加えると、他のリーダーでも最大PPが7を超えていたら『覚醒』効果は発動するしライフが10を下回っていたら『復讐』効果は発動する。

・ルピ
シャドバのゲーム内通貨。ミッションやストーリーを進める、ログインボーナスなどいくつかの入手手段がある。
カードパックやスキンの購入に使える。

・ストーリー
ソロプレイで進行できるストーリー。
全8人のリーダー分あり、全クリアしようとすると結構時間がかかる。
作者は少しづつ進めているがまだ途中。
報酬としてルピやスリーブ、エンブレムなどがもらえる。

・トップ解決
デッキの上(トップ)、つまりドローで加えた札で状況を打開すること。


使用デッキ
三和ヴァンパイア
https://twitter.com/fet_light/status/1123811226016993285
葛木ドラゴン
4話と同じ
https://twitter.com/fet_light/status/1122007462926643201
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