「この度はうちの鈴木がご迷惑をおかけしました」
「はぁ……」
美鈴の新しいマネージャーは、須賀松子という名の朴訥とした印象の女性だった。
「鈴木君はやり手だけど強引なところがあって……理江さんのプライベートにまで干渉したのは、やりすぎだったと事務所から注意しておきました」
「そうなんですか……。それで、契約は……」
「厚かましいとは思いますが、事務所としては理江さんとの契約を続けたいと考えております。鈴木の言葉は、鈴木の独断であって事務所の方針とは違います」
「わ、わかりました。こちらこそ……お願いします」
丁寧な物腰で頭を下げる須賀に、美鈴はお辞儀で返す。
「ただその……三和君とは、お付き合いをすることになって……」
「男女関係を公表ですか?」
「い、いえ。三和君からは秘密の関係でいいと言われています」
「なるほど……。」
須賀は一瞬考え込んだ顔をする。
「……事務所としては理江さんのプライベートにまで干渉することはできません。お付き合いを止める権利はありません」
「いいんでしょうか……?」
「はい。何かでモメた場合は事務所も誠心誠意対応しますので、すぐに相談してください」
「あの……理江でいいです。それにそんな堅苦しい言葉じゃなくても……」
でなければ、マネージャーとして、これから緊密な連絡を取り合うのは難しいと思った。まだアイドルの卵にすぎない美鈴が、マネージャーと明確な上下関係があってはいけないと思った。
「そうね。じゃあ許してくれるかしら? 理江ちゃん」
「あ、はい」
須賀は砕けた調子で笑うと朗らかな印象を与える女性だった。
「それじゃ、鈴木君のことは一旦忘れて、企画のことをがんばりましょう」
「はい!」
「というわけで、ウエストホールであった興行はキャンセル。ゴールデンウィークはRAGE挑戦の密着取材ってわけね」
「はい」
「でもこれはあくまでグランドマスターを達成できたらという条件つき。どう? いけそう?」
「はい。いけると思います!」
三和との居残り練習はもう卒業した。
心が通じ合っていることが確認できたから、もうそんな時間は必要ないのだ。
美鈴は学校の授業が終わるとすぐに帰宅し、ストリームライブを開いてランクマッチに潜っていた。
1日に2000に迫るペースでMPを稼ぎ、この調子なら十分達成できるという目途が立っていた。
「そう。よく頑張っているのね」
須賀は鈴木とは全く違うタイプだった。鈴木はスケジュールも何もかも自分で管理したがるが、須賀は辛抱強く美鈴の言葉に耳を傾けてくれる。
「ところで突っ込んだことを聞くけど、三和君ってどういう子なの?」
「えっと……うーん。照り付ける太陽の下にできる日陰みたいな人ですね」
「へぇ、また変わった表現ね」
「自己主張っていうものをあまりしないんです。何をしたいって聞いても合わせるって言うし、何が好きって聞いても通り一辺倒の答えしか返さないし。でもそばにいると、熱い日差しを遮ってくれて、心が過ごしやすくなるんです」
「ふぅーん。だから理江ちゃんのアイドル業にも理解があるんだ?」
「本当に、助かっています」
美鈴は心の中からの笑みをこぼす。
「そういう子なら私も安心したわ。ただ、やっぱりアイドル業って色々ある職業だから、何かこじれることはあると思うの。そういう時は私や事務所を頼ってね」
「はい」
「あと……これ」
「? なんですか、これ」
渡されたのはドラッグケースに入った錠剤だった。
「しちゃった時に飲む奴よ」
一瞬その言葉の意味がわからなかったが、意味深に微笑む須賀の表情で理解して美鈴の顔が真っ赤に染まった。
「わ、私たちまだそんな間柄じゃ……」
「恥ずかしがらなくていいのよ。あなたたちぐらいの子だったら興味があって当たり前なんだから。気を付けていても、ほら、勢いでしちゃうことってあるでしょ? だからお守り替わりと思って持っておいて」
そう言って強引に渡される。どうやら断れないようだ。
須賀は話しやすいタイプだが、同時に抜け目ないタイプのようだ。ドラッグケースには特に刻印もなく、傍目にはなんの薬かはわからない。見つかっても風邪薬といえば誤魔化せるだろう。
鈴木とはあの日以来会っていない。どうやら事務所側からこっぴどく怒られたらしく、直接謝罪にむかわせようかとも提案されたが美鈴は断った。
鈴木とはもう顔を合わせるのも嫌だった。
代わりのマネージャーが須賀だ。いかにもなやり手という印象の鈴木と違って外見からは朴訥とした真面目さしか伝わらないが、話しはずっと通じそうだ。
放課後の隠れ練習もしなくなり、あくまで表向きはただのクラスメイトである三和と直接話す機会はほぼなくなっていた・
その代わり。家の空き時間にコミュニケーションアプリや通話で連絡を取り合うことが増えた。
特に美鈴は声が聞きたくなるので、通話が主だった。
須賀のことを話題にすると三和はいつもの調子で、「へぇ、よかったな」と相槌を打った。
「とりあえず前の鈴木って奴よりはマシなんだろ? それに同じ女だったら色々相談しやすいだろ」
「そ、そうね」
渡された薬のことが頭をよぎる。あんなものを男に渡されたらセクハラだ。
「それよりそっちはどう?」
「ああ。駅前のフルーツパフェ大盛りで手を打った」
「え?」
「洗衣を黙らせるのにそれぐらい必要だったんだ」
通話をしている以上、さすがに家族にまでは隠し立てはできない。直接顔合わせにまではいたってないが、それぞれ交際相手ができたことは家族にそれとなく伝えた。
しかし三和の妹の洗衣は口が軽く、兄貴にアイドルの彼女ができたと知ればそこらへんにいいふらしかねない。それを承知していた三和は説得に説得を重ね、1600円もする駅前のフルーツパフェで黙らせる確約を得た。
「そ、そう。大変なんだね」
「まあな。永瀬の写真見せたら親も舞い上がっちゃって……。毎日お前のネタで質問責めだよ」
「アハハハ……」
なんか私のハードルも上がっているなぁ……?
乾いた笑いが漏れる。
「あ、そうだ。三和君もRAGE出るの?」
「ああ、出るよ」
「ふーんそうなんだ。デッキは決まった?」
「うーん。蝙蝠を持っていくのは決めているんだけどな……。あとはロイヤルを握るか、聖獅子を握るか……それとも他か……決めかねているところだな」
「私もロイヤルは決まったんだけどもう一つのデッキをどうしようかと悩んでいて……」
「ふぅん。でも、カード資産的に組めそうなデッキあるのか?」
「それがね! そのことを話したら、番組から予算がおりたの!」
「おっ。本当か?」
「うん。デッキのもう一つや二つ、簡単につくれるぐらい!」
「なるほどなぁ。じゃあグランドマスターになったら、壁打ちするか?」
「壁打ち?」
「ああ、本格的な練習試合のことだよ。ミスプレイがあったらお互いに指摘し合うし、デッキの中身とかも意見交換する。ま、居残り練習でやっていたことと一緒だけどな」
「ふぅん。でも私なんかで三和君の練習相手つとまるのかな?」
「まあ永瀬もだいぶ腕を上げてきたしな。普段は安原に頼むんだけど」
三和はクラスでは4人グループで行動することが多い。
野球部のマネージャーの哲夫、現役シャドウバースプレイヤーの安原圭吾、それとシャドウバースのことは何もわからないのになぜか輪に加わった保縄剛。
「安原は口が堅いと思う。なんなら3人でやるか?」
「ううん。2人がいいなぁ」
甘い声色で言ってみる。三和が苦笑した。
「わかった。それじゃ2人でな」
闖入者は突然やってきた。
「あの、三和せんぱい」
陣内高校の制服身を包んだ、140センチぐらいの少女。小さいが、制服は確かに陣内高校のもので、1年C組の襟章をしている。髪は吸い込まれるような漆黒。紫色のバンドで止め、ポニーテールにしていた。
「ええっと……新入部員の戸尾だっけ?」
新入部員はあれからさらに増えたが、結局女子はこの戸尾楓子だけだった。
背も小さく目立つので、三和も名前を憶えていた。
「化学部の連絡か何かか?」
そう尋ねるが、楓子は中々話そうとせず、三和とも目を合わそうとしなかった。
(相変わらず人見知りだなぁ……)
他の新入部員ともこんな感じで、楓子は浮いていた。
柏崎を初めとした女子部員は決して逃すまいと積極的に話しかけていたが。
しばらくもじもじとしていた楓子だが、やがてポケットから携帯端末を取り出した。
「?」
頭に疑問符を浮かべて、三和は眺める。
「せんぱいも、シャドウバースやっているんですよね」
「ああ。そうだけど?」
「私のデッキ調整、てつだってくれませんか」
抑揚のない声で言う。言って恥ずかしくなったのか、携帯端末で顔を隠した。
(デッキ調整……壁打ちか)
途端に視線を感じ、三和は視点をずらした。
美鈴がこちらを見ていた。
(あー……)
え? これって浮気になるのか?
そこらへんの男女関係の機微がわからない。しかしせっかくの新入部員だ。無下に接するのも仁義にもとるような気がする。
「だめ……ですか」
楓子が目に見えてしゅんとなる。
「あ、いや……そうだ安原!」
「ん?」
哲夫と話し込んでいた安原圭吾に話しかける。
安原圭吾は哲夫の中学時代からの友人で、シャドウバースのプレイヤーでもある。三和の普段の壁打ち相手の一人だ。
欠点としては環境トップデッキを使わず、tier3ぐらいのデッキを握りたがることだが、それでもプレイングはうまかったりする。
「この安原も一緒にやるけどいいか?」
「なんの話?」
「シャドウバースのデッキ調整。ああ。化学部の新入部員の戸尾で、こっちは安原」
「とおふうこです」
「よろしく戸尾さん」
安原は楓子ほどではないが身長が160センチちょっとと小柄だ。服を着せ換えれば女子に間違われても不思議ではない華奢な体躯をしている。
(3人なら浮気にはならないだろ……)
と美鈴を見ると、またこちらをじっと見ていた。
「何なに? どったの」
次に声をかけてきたのは、保縄剛だった。
哲夫や安原と違い、シャドウバースもやってないし特に接点もなかったのだが、三和たちのグループに加わってきた生徒だ。知り合いと別々のクラスになってしまって、三和たちのグループを安住の地と見定めたのかもしれない。
「ああ。ちょっとシャドウバースの壁打ちをしようと」
「お! それならカラオケいこうぜ!」
「お前話聞いていたか?」
「カラオケならドリンクバーも飲み放題だしちょうどいいだろ? 気晴らしに歌も歌えるしさ」
「お前は自分で歌いたいだけだろ」
「からおけ……」
と、楓子が反応した。
「あの、よければいってみたいです。いってみたことないので」
「そうか。戸尾がそういうのならいいか」
「よし、決まりだな。哲夫、今日部活は?」
「ああ、監督がいないから今日は自主参加だなぁ」
「それじゃカラオケいこうぜ」
「そうだな……そうするか」
「ねぇ」
と、さらにさらに新たな声がかかった。
「それって壁打ちって奴でしょ?」
話しかけてきたのは美鈴だった。
「それに私も参加していいかな?」
気さくな笑顔で話しかけてくる。
「お!? おっ、おう。いいよなっ、なっ!?」
永瀬の不意打ちに剛が声を上ずらせる。哲夫や安原は戸惑った様子だが、拒否する反応は微塵もない。
「永瀬、いいのか?」
「うん。私も練習相手を探していたの」
三和の問いかけの意味を汲み取りつつ、美鈴がうなずいた。
「それじゃやるか。壁打ち」
放課後、カラオケ店に移動中。
隙を見つけて三和は美鈴に話しかけた。
「永瀬、よかったのか?」
「うん。2人っきりならともかく、この大人数ならぜんぜんおかしくないでしょ?」
「たしかに……」
壁打ちの相手を探すということなら、理由も通る。
「それに直接話せる機会なかったから。いい機会だなって思って」
笑顔をむけてくる美鈴に、どう返せばいいかわからず、「そうだな」と通り一片当の答えしか返せなかった。
「でもレートの方は大丈夫なのか?」
「へっへー! 昨日9000の大台に乗りましたっ」
「なんだ。順調だな」
三和でも少し驚くようなペースで美鈴はレートを上げていた。三和も一週間足らずでグランドマスターに駆け上がったが、それはカードパック追加がされたばかりの混沌とした時期、皆手探りで強いデッキを探していた時期だった。
ある程度環境が固まってきた今、美鈴が三和と同じぐらいのペースでレートを稼いでいるのは、他プレイヤーと比べてプレイングに秀でている証と言ってもいいだろう。
「ところであの子、三和君の知り合い?」
「戸尾のことか? いや……。単に化学部の後輩で話したこともほぼないが……」
「ふぅーん?」
美鈴は哲夫たちと離れたところでとぼとぼとひとり歩いている楓子に近寄っていった。
「ねえ楓子ちゃん。なんで壁打ちの相手に三和君を選んだの?」
「ちょっと前、金髪の人とのたいせんを見たからです」
「それって葛木君のやつ?」
「そんな名まえ、だったと思います」
「楓子ちゃんもRAGE参加するの?」
「親の許可がでないので、だめです」
「あら、そうなの?」
「別にRAGE出場に保護者の許可はいらないけど?」
三和が口を挟む。が、ふるふると楓子は首を振った。
「とめられているので、だめです」
「まぁ本人が納得しているのならいいけどな」
「楓子ちゃんはどんなデッキを使うの?」
「びしょっぷです」
「へー! ビショップなんだ!」
美鈴が顔を輝かせる。
「ちょっと珍しいよね。ビショップ使い!」
「ああ、そうだな。最近になって聖獅子が注目されてきたけど、元々ビショップ使いって少ないよな」
「でもまだデッキをうまくくめなくて……なかなか勝てません」
「なるほどー。それでデッキ調整ってことね!」
時期が時期なのでRAGEのための練習と思ったが、単に練習相手を求めていただけのようだ。
「大丈夫だよ! この三和君は教えるのがとても上手で……」
「おい永瀬」
「……上手であらせられるような気がするので、たぶん大丈夫だと思います! ね!」
必死に誤魔化す美鈴だが、その迂闊さに嘆息する三和であった。
部屋に案内されると、剛が張り切った様子で言った。
「それじゃ俺はドリンクとってくるけど何がいい?」
「ジンジャーエール」
「コーラ」
「コーラ2つ」
「紅茶お願いね」
「りょくちゃがいいです」
「おっけー!」
剛が威勢よくでドリンクバーへと向かう。美鈴が参加しているので張り切っている様子だ。
「哲夫、歌う?」
「うんにゃ。まずお前たちの観戦でもするわ」
安原の問いに哲夫が首を振った。
「それじゃえーとペアは……僕と永瀬さん、三和と戸尾さんでいいかな?」
「ああ」
「はい。よろしくね」
「……たいせんよろしくおねがいします」
三和と楓子の対戦。
(ビショップか……環境だと聖獅子かチェキババってところだが……)
「……あの、三和せんぱい」
「どうした?」
「あんりみてっどで、お願いします」
「あ? ああ、そっか悪いな」
いつもの調子で三和はローテーションの部屋を立てていたが、楓子はアンリミテッドを希望しているようだ。
「戸尾はアンリミテッドをメインでやっているのか?」
「……あんりみてっどのほうが、いろんなかーどがつかえておもしろいです」
膨大な数の存在するシャドウバースだが、二種類のレギュレーションが存在する。
発売された全てのカードが使用可能なアンリミテッドと、古いカードは使えなくなるローテーションだ。
大規模大会はほとんどローテーションで行われるので注目度はローテーションの方が上だが、プロシーンではアンリミテッドの試合も行われる。
またゲーム内イベントの『グランプリ』ではローテーションとアンリミテッドの両方が開催されるので、結局両方をプレイするユーザーは多い。
三和はローテーションだけでなくアンリミテッドのグランドマスターも達成している。グランドマスターに到達した後はほとんど触っていないので最近の環境には少し遅れているものの、一応デッキも用意してあった。
三和が建てた部屋に楓子が入室してきた。
一番に目についたのは、ランク表示に記された橙色の宝石だ。
「えっと、戸尾のランクって今いくつだ?」
「C2だったと、思います」
(思った以上に初心者だな……)
三和はデッキ選択に困る。三和が組んでいるアンリミテッドデッキは全て、環境最前線で戦うようなデッキだ。
(まあ壁打ちだし、手加減するほうが失礼か)
三和はロイヤルを選択。
楓子はビショップだ。
「よし、まずBO1な」
「はい。よろしくおねがいします」
先行は三和。楓子は後攻。
「へぇ、アルミラージスキンを持っているんだな」
楓子のリーダースキンは『ムーンアルミラージ・ラミナ』のスキンだ。
『ムーンアルミラージ・ラミナ』はウサギの耳に一角獣のような角を持つ『魔兎』と呼ばれる獣人の種族だ。今ではローテーション外、通称『スタン落ち』したため見られることは少ないが、人気スキンの一つだ。
「がんばって、とりました」
(狙ってとったってことかな。カード資産は結構潤沢か?)
『ムーンアルミラージ・ラミナ』のスキンの入手確率はかなり低い。
数千円の課金でぽんと出るような代物ではない。
初心者となめてかかっていたことを考え直す。
(アンリミテッドでビショップといえばホーリーメイジかセラフラピスだけど……)
お互いに1ターンはパス。
先行2ターン目、三和のターン。
三和は『赤ずきん・メイジー』をプレイ。
《パンとワインを届けに行くの》
後攻2ターン目、楓子のターン。
プレイしたのは『ユニコーンの踊り手・ユニコ』。
《ゆ、ユニコ、がんばりますっ!》
(ほぉ……ユニコか。ニュートラルビショップか天狐、エイラってところか)
先行3ターン目、三和のターン。
『純真の歌い手』をプレイ。『赤ずきん・メイジー』は『ユニコーンの踊り手・ユニコ』を攻撃し相打ちで破壊する。
《うぎゅぅ……》
後攻3ターン目、楓子のターン。
プレイしたのは『内気なアルミラージ』。
《月の光は浴びたいけど……》
(内気なアルミラージか……天狐かエイラってところか。いや待てよ。エイラはリーダー回復じゃないと効果がないんだっけ)
先行4ターン目、三和のターン。
『レジェンダリー・ファイター』をプレイ。
さらに『師の教え』を『純真の歌い手』にプレイ。攻撃力を1上げて1枚ドロー。
スペルをプレイしたので『レジェンダリー・ファイター』が必殺を手に入れる。
ドローを確認し、攻撃力の上がった『純心の歌い手』で楓子を直接攻撃。2点ダメージ。ライフを18点に削る。
後攻4ターン目、楓子のターン。
『漆黒の法典』で『レジェンダリー・ファイター』を消滅。
残った2PPで『ラビットヒーラー』をプレイ。
《そこぉ! また怪我しているじゃないの!》
ファンファーレでリーダーの体力を2点回復。
(うん、天狐だな)
『内気なアルミラージ』で『純真の歌い手』を破壊。進化権は温存する。
《月の光が!》
『内気なアルミラージ』はターン終了効果で体力を回復させる。
先行5ターン目、三和のターン。
まずは『ソードエンジェル・エフェメラ』をプレイ。場に他のフォロワーがいないので突進を得る。
《残酷な世界に光を!》
内気なアルミラージに攻撃。相打ち。
そして『ミニゴブリンメイジ』をプレイ。
(進化権は温存でいいか……)
後攻5ターン目、楓子のターン。
『天狐』をプレイ。
《友のためには力を惜しまぬ》
進化権は使用せず、『ラビットヒーラー』と『ミニゴブリンメイジ』を相打ちさせる。
《友の証じゃ!》
『天狐』の効果でリーダーのライフを1点回復するが、すでにライフは上限の20。
「『天狐の社』をひけないのか?」
「『天狐の社』……? そんなカードがあるんですか?」
「えっ……じゃあエイラか?」
「エイラ……?」
(……デッキ内容を明かさないようにとぼけているのか?)
戦略としては正しい。表情にも乏しく、虚か実か読めなかった。
先攻6ターン目。
三和は『スパルタクス』をプレイ。
(これでライブラリアウトが勝利条件となる)
通常、デッキを最後まで引ききると負けるのがシャドウバースのルールだが、『スパルタクス』はそのルールを改変、負けが逆に勝ちになる。
特殊勝利、エクストラウィンと呼ばれるものだ。
(天狐は実質守護みたいなものだから除去か)
『スパルタクス』を進化。『天狐』を破壊する。
『スパルタクス』の効果で兵士・フォロワーを二枚ドローする。
後攻6ターン目、楓子のターン。
「えっと……」
プレイしたのは『ムーンアルミラージ』。
《私は月に狂う獣……》
楓子は『ムーンアルミラージ』を進化させる。
《月の輝きが……私を狂わせるッ!》
『スパルタクス』を破壊する。
ターン終了効果により、『ムーンアルミラージ』は体力を全回復する。
(エイラはリーダー回復じゃないと発動しないはず。やっぱり天狐の社だな)
先行7ターン目、三和のターン。
プレイしたのは『マスターディーラー・アルヤスカ』。
《戦場のドラマ! 愛しい奇跡!》
手札から指定した1枚を残し、それ以外の全てを捨てる。そして捨てた分と同じだけドロー。
(デッキが読めないから不気味だけど、進化するか……)
『マスターディーラー・アルヤスカ』を進化。
『ムーンアルミラージ』を破壊。5点の反撃を受けて残り体力は6。
後攻7ターン目、楓子のターン。
「6点守護……」
確認するように呟くと、手札を見て、楓子はプレイするカードを選ぶ。
『煌角の戦士・サリッサ』。
「サリッサ!?」
《えらっそうに! 叩きのめしてやるわ!》
《煌角の戦士・サリッサ》
コスト7 攻撃力5 体力5
[突進]
このフォロワーへの4以上のダメージは3になる。
楓子は『煌角の戦士・サリッサ』を進化。
『マスターディーラー・アルヤスカ』にぶつける。
『マスターディーラー・アルヤスカ』は破壊される。『煌角の戦士・サリッサ』は能力で4以上のダメージは3になるので、体力4で残る。
(サリッサなんて久しぶりに見たぞ……ただでさえ環境入りしたことないのに……)
驚いたものの、実際に進化『マスターディーラー・アルヤスカ』を撃破して相打ちにならず場に残った。
(刺さっている……のか?)
楓子のデッキの得体の知れなさに困惑しつつ、自分のターンがまわってきたのでプレイをする。
先行8ターン目、三和のターン。
(とはいえここまで来たら、アンリミテッドなら自分の手をつくったものがちだ)
1PPスペル『大安売り』をプレイ。手札を1枚捨て、『歴戦の武具』を手札に加える。
そして再び『マスターディーラー・アルヤスカ』をプレイ。
手札を入れ替える。
後攻8ターン目、楓子のターン。
プレイしたのは『煌角の戦士・サリッサ』。
「2枚目!?」
『マスターディーラー・アルヤスカ』を攻撃。1体では倒せないが、先ほど進化していた『煌角の戦士・サリッサ』と共に攻撃して破壊。
能力によって両方とも場に残る。
先行9ターン目、三和のターン。
「これで終わり」
三和は『新たなる運命』をプレイ。手札を全て入れ替え、デッキの底にある天使のカードを引く。
『スパルタクス』の能力による特殊勝利達成だ。
「負けました……」
心なしか楓子の肩がしょんぼりして見える。
その小さな体に三和は声をかけた。
「なあ戸尾。デッキみせてもらっていいか?」
「はい」
戸尾は素直にうなずいた。
『ラビットヒーラー』3枚
『内気なアルミラージ』3枚
『イビルアルミラージ』3枚
『ムーンアルミラージ』3枚
『煌角の戦士・サリッサ』3枚
デッキ名《うさぎさんランド》
(う、ウサギ島……)
三和の脳裏に、二足歩行するウサギが一輪車に乗って綱渡りをする光景が浮かんだ。
「お、なんだそっちはもう終わったのか」
美鈴と安原の戦いを覗いていた哲夫が三和たちに気づく。
「ほぉ、それが戸尾のデッキか? ………うん? こいつは……」
男くさい顔に名状しがたい笑みを浮かべて、哲夫が感想を述べた。
「ずいぶんと可愛らしいデッキだな」
「はい。お気に入りのカードを集めてみました」
「ウサギ、好きなのかい?」
「はい。ウサギ年に生まれたかったです」
ほんわかとした空気が漂う。
そんな中、三和はじっと考え込んだ。
「負けた……永瀬さんうまいね」
美鈴と安原の方でも勝負が決したようだ。どうやら美鈴が勝ったようだ。
「どう? そっちは」
安原と美鈴が近づいてくる。そして戸尾のデッキを凝視する三和に気づく。
「あら、このデッキ……」
「へぇ……」
美鈴と安原も楓子のデッキを見て声を上げる。一方、楓子は自分のデッキを見られて自慢げだ。
「なあ、戸尾」
「なんですか、三和せんぱい」
「勝ちたいか?」
「はい」
「そうか……なあ安原」
「うん」
三和は安原に声をかける。何を言うでもなく、察した様子で安原はうなずいた。
「戸尾、ちょっとこのデッキコピーさせてもらっていいか?」
「はい」
三和は安原とともに、コピーしたデッキを前に何事か言い合いだした。
そっちで手が回らないようだ。
「えっと……」
残された美鈴は、楓子の顔を見返す。
「歌おっか?」
「はい。うた、すきです」
壁打ちのはずが、一戦でカラオケに突入した。
美鈴と楓子のコーラスを背景に、三和と安原の二人は、ああでもないこうでもないと言い合いながら楓子のデッキをいじっていた。
「内気なアルミラージとムーンアルミラージがエイラの効果を受け入れられないから、天狐一択だよな」
「うん。でも今の環境ははやいから、速さを追求しないと」
「天狐を入れといてそれは無理だろ。ここはいっそ早いデッキをメタって、守護と回復を水増ししよう」
「そうだね、OTKにも刺さるし守護マシマシはいいかもね」
「ウィッチは苦手だが………いやそうか、『いにしえの聖域』はウィッチにも刺さるから……」
美鈴と楓子がそれぞれ一曲ずつ歌ったあたりで三和たちの作業は完了した。
「戸尾。ちょっとデッキをいじってみたんだけどどうだ?」
「…………。イビルアルミラージちゃんがいません」
「うっ。やっぱりいるか?」
「いえ……あの子はうさぎさんだけどあまりかわいくないので、いいです」
それからカードの一枚をタップする。
「これが三和せんぱいがいっていた『天狐の社』……?」
《天狐の社》
コスト5 アミュレット
「自分のリーダーか自分のフォロワー(または両方)を回復させる」能力が働くたび、相手の場にフォロワーがいるならランダムな相手のフォロワー1体に、いないなら相手のリーダーに、2ダメージ。
「アルミラージたちの多くは回復系能力を持つ。その回復能力と天狐の社はマッチしているんだ」
「こんなカードがあったんですね……きづきませんでした」
「戸尾はいつからシャドウバースをはじめたんだ?」
「……三和せんぱいと金髪の人の戦いを見てからです」
「そっか、始めたてなんだな」
膨大なカード群から、手探りで組んだデッキなのだろう。
「これでかてるようになりますか?」
「うーん。どうだろうなぁ」
戸尾の問いに、三和は言葉を濁した。
「下位ランクなら通用するかもしれない。だけど上位ランクだときびしいかもなぁ」
「そうなのですか……」
戸尾の肩が落ちる。無情だが、シャドウバースの環境は流動的だ。
シャドウバースはデジタルが基盤なため、情報の交流が盛んで強いデッキはすぐにネットを通じて拡散される。そしてエーテルを使えばどんなカードもすぐに作れてしまうため、皆が環境トップのデッキをすぐに揃えられる。
その度合いは、ローテーションよりもアンリミテッドの方が過酷と言える。アンリミテッドは全てのカードが使用可能なため、ローテーションでは見られないような凶悪なコンボが存在し、よりはっきりとデッキの力の差が出る。
回復を軸とした『エイラの祈祷』と『天狐の社』は、かつて環境に登場していたこともあるデッキだが、今のアンリミテッドではやや時代遅れの感じがある。
例えば今回三和が使ったスパルタクスロイヤルとは相性が悪い。
エクストラウィンを目指すスパルタクスロイヤルは相手のライフを削る必要が無いため、攻撃にリソースを割く必要が無く、回復で巻き返すアルミラージ達とは根本の基盤が違う。
なによりも『天狐の社』は5コストで置いた分を、時間をかけて取り戻すカードだ。
しかし今のスパルタクスロイヤルは短い時間でデッキを掘り尽くしてしまう。
『天狐の社』では遅すぎるのだ。
「アルミラージを採用しないアンリミテッドのデッキならいくつか教えられるけど」
始めたてという割には楓子のカード資産はかなり豪勢で、最新のものから古いものまで美鈴に見せたら卒倒しそうなぐらい揃っていた。組めるデッキは色々ある。
「いえ、ちょっとこのデッキを使ってみます」
「そうだな、じゃあ回し方を教えようか。実はそのデッキ、天狐の社はサブプランで本当は早いデッキをメタったデッキで、『いにしえの聖域』が……」
(三和君、楓子ちゃんにかかりきりじゃない)
面倒見のいい三和の性格は知っているが、美鈴は少し不満げにその横顔を見ていた。
「永瀬さん、どうする? 僕たちも壁打ちを続ける?」
「あ、うん、お願いね」
「デッキ希望ある?」
安原はさっきほど土ウィッチを使っていた。6/6必殺には度肝を抜かれたが、うまく『白刃の剣舞』が刺さり巻き返すことができた。
(三和君が言っていたなぁ。安原君は三和君以上にファンデッカー気質だって)
大会に出るようになって環境トップのデッキを使わざるを得なくなった三和と違い、趣味でプレイする安原は自分のペースで使用デッキを選んでいた。そして、まだ誰も見たことのないデッキ開発に余念がないという。
「ちょっと見せてもらっていい?」
「どうぞ」
安原はたくさんのデッキを持っていた。それぞれに丁寧にデッキ名がつけられている。
「ネメシスのデッキ、対処法がわからないからお願いしていいかな?」
「うん。いいよ。アーティファクトと人形リーシェナどっちがいいかな?」
「リーシェナ……」
『破壊の絶傑・リーシェナ』。
カードパック『十禍絶傑』の顔を飾った10人の絶傑の一人だ。
その中でも異彩を放っており、モチーフとして『アイドル』が使われている。
それぞれの絶傑には信者、従者、使徒、狂信者といったフォロワーが用意されているのだが、リーシェナのそれらは全てリーシェナのファンというシャドウバースの中でも特異な設定を持つキャラクターだ。
「リーシェナでお願いできるかな。……強いの?」
「うん。相手の回り方次第だけど結構いけるよ。ただほぼリーシェナを引けないと詰みだから、引けなかった時のことを考えると大会に持ち込むのは怖いデッキだよね」
「ふぅん……それじゃお願いします」
安原圭吾(やすはら・けいご)
使用リーダー:環境で不遇とされるリーダー
160センチの華奢な体躯の少年。一人称は僕。
大会の成績や勝敗にはこだわらず、新デッキの開発に没頭するタイプ。
保縄剛(ほなわ・つよし)
使用リーダー:なし
一年生では友人をうまく作れずぼっちだった。二年生ではそんな自分を変えようと一念発起しなんとか三和たちのグループに潜り込む。
シャドウバースはプレイしていない。三和たちのプレイを見ているが理解しているかも怪しい。
戸尾楓子(とお・ふうこ)
使用リーダー・ビショップ
化学部員。1年生。
シャドウバースを知らなかったが、葛木と三和の対戦を経てシャドウバースを知り、イラストに惹かれてシャドウバースを始める。
獣人系のキャラクターが好きで特にウサギが好き。
シャドバ用語
・実質守護
守護を持っているわけではないが、厄介な能力を持っているため放置できず結局倒すことを迫られるフォロワーのこと。
・特殊勝利(エクストラウィン)
通常、シャドウバースは以下で勝敗が決まる。
①リーダーのライフが先に0になった方が負け
②デッキを全て掘り尽くし、追加の1ドロー以上をしてしまうと負け
しかしカードの効果によって、それ以外の勝利条件をつくるのが特殊勝利。
『鋼鉄の反逆者』(アディショナル追加前)が発売された現在、特殊勝利は『封じられし熾天使』、『スパルタクス』の二種類が存在する。
使用デッキ
・三和スパルタクスロイヤル
https://twitter.com/fet_light/status/1127389361836707842
・楓子うさぎさんランド(三和と安原の手によって改修後)
https://twitter.com/fet_light/status/1127389753471524864