の剣士の物語   作:すぴかさん

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《圏内事件編》2話目です。たぶん次で終わります。

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そんなことより、おなかすいた。


~幻の復讐者~

─第50層 アルゲード─

 

『また頼むぜ、兄ちゃん。』

 アインクラッド第50層、アルゲードの一角にある雑貨屋。

 その店の前まで行くと、項垂れた鎧を着たプレイヤーが退店し、店の中からはそんな声が聞こえてきた。

 俺とユイはその店に入る。

 

「よう、エギル」

「こんにちは。エギルさん」

「おう。ゼロにユイちゃんか。」

「相変わらず、阿漕な商売してるようだな」

「安く仕入れて、安く提供するのがウチのモットーなんでね」

「後半は疑わしいものだけどな」

 

 毎度お馴染みのやり取りをすると、エギルは疑問を感じたかのように顔を歪め、俺に問うた。

 

「お前がユウキやランと一緒にいないなんて珍しいじゃないか。一体どうしたんだ。」

 

「ちょっとな。んでさ、今日は鑑定してもらいたいものがあるんだが…」

 

 俺達は店の2階、居室に移動すると、事のあらましを話した。

 

「圏内でHPが全損?」

 

「ああ。といっても、性格には防具の耐久値が無くなるのと同時に何処かに転移した、だろうけどな。で、俺達がこれ以上深入りする理由はないんだが、オレンジの関与の可能性も捨てきれないし…。と、そこでこれだ。」

 

 俺はストレージから槍を出すと、エギルに手渡す。

 

「どれどれ。……これは、プレイヤーメイドだ。作成者は、《Grimlock(グリムロック)》となっているな。少なくとも、一線級の刀匠じゃない」

 

「そうか。一応、固有名も聞いて良いか?」

 

「《Guilty thorns(ギルティ・ソーン)》、罪の(イバラ)ってとこか。」

 

「罪の茨…ですか。」

 

 偶然もあったものだ。基本的にSAOでのプレイヤーメイド武器の銘はランダムだ。

 だからこんなピッタリの名前になるのは天文学的確率になる筈なのだが…。

 

 取り敢えずヨルコさんにメッセージを送ってみる。

 

《グリムロックという人は黄金林檎の元メンバーなのか?》

 

 1分ほどして返事が返ってきた。

 

《はい。グリムロックさんはリーダーのグリセルダさんの旦那さんです。とても仲が良くてお似合いの夫婦でした》

 

 ──やはりレアアイテム狙いの睡眠PKなのか?だがオレンジがどこでそれを知ったのか。……そう言えばグリセルダさんとグリムロックさんは結婚していたんだよな。ということは彼女が亡くなった時点でレアアイテムの指輪は……

 

「──なんでだよ」

 

 思わずそう呟いてしまった。余りにも残酷すぎるこの事件の犯人に。

 

「エギル、ありがとう。今日は帰る。ユイ、行くぞ」

 

「はい」

 

「じゃあな。気を付けて帰れよ」

 

 エギルの店から出ると、メッセージが届いた。ヨルコさんからだ。

 

《明日シュミットを呼び出して作戦を決行することとなりました。》

 

 対して俺は、

 

《オレンジにだけは気を付けてくれ》

 

 と返信し、22層の我が家へと向かった。

 

 

─22層 ログハウス─

 

「「ただいま~」」

「お邪魔しま~す」

「お帰りなさいです!」

「お帰り…ってアスナもいるのか」

 俺とユイが帰ってきてから15分ほどすると、ユウキとラン、そしてアスナが帰ってきた。

「なによ。私がいたらまずいことでもあるの?心配しないで。夜には帰るから」

「よっ、夜って!別に俺はユウキたちとはそんな…」

「あら?まだ手を出してなかったの?」

「うっ、うるさいなぁ…」

 アスナが俺をからかうと、ユウキとランは顔を赤くし、ユイの頭上にはクエスチョンマークが見えた気がした。

 

「こ、こほん!そんなことより、ゼロとユイちゃんは何か分かったことがあるの?」

 

 ユウキが話を変えた。ナイスだ。

 

「俺とユイはほとんど分かってる。」 

 3人は「そりゃそうか」という顔をした。そりゃ、訳もなく事件の解決から手を引くわけがないし、そこまで白状な人間を演じてきたつもりもない。

 

「犯人はどんなトリックを使ってあの事件を起こしたんですか?」

 

「んー、じゃあヒントその1。耐久値とエフェクト」

 

「耐久値とエフェクト?うーん……あっ!まさか……カインズさんは死んでない?」

 

「「えっ?」」

 

 アスナがどうやら答えを導きだしたようだ。ユウキとランはまだ分かっていないようで、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

 

「圏内ではHPは減らないけど防具の耐久値は減る。だからあの槍が削っていたのはHPじゃなくて鎧の耐久値だったのよ。それで鎧がポリゴンの欠片となるのと同時に転移結晶で何処かに転移した…。《幻の復讐者》ってことね」

 

「正解です!アスナさん!」

 

 ユイは笑顔でその推理が正しいことを告げた。その顔を見たアスナは左手で顔の下半分を押さえ悶えている。やはりユイは可愛いのだ。

 

「ということはヨルコさんもグル?」

 

「そうだな。恐らくヨルコさんとカインズさんはグリセルダさん殺害にシュミットが関与していると睨んで圏内事件を起こしたんだろう。だからこれ以上踏み込む必要はない……って思ってたんだけど」

 

「けど?」

 

「結婚システムの事について思い出したんだ。双方の同意で離婚した場合はアイテムが自分50、相手50で自動分配されるんだけど、一方的に離婚しようと思ったらアイテムは自分0、相手100の分配になる。でも1つだけ自分100、相手0になる離婚方法がある」

 

「それは?」

 

「死別です。結婚相手が死ぬと、共通ストレージのアイテムは全て自分のものになり、ストレージに入りきらなかったアイテムは足下にオブジェクト化されます。」

 

「ということはまさか犯人は…」

 

「「「グリムロック!?」」」




次回、《愛≠殺意》
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