その割には3000文字近く……
─2024年4月12日─
──ガシャガシャガシャ
と、とある宿屋の一室に音が響く。
音の元はディアベルたち率いるギルド・聖竜連合のタンクであるシュミットの貧乏ゆすり。
軽く恐怖を感じているのだろうか。
「本当なのか、ヨルコ。カインズが殺されたと言うのは。」
「ええ、本当よ。」
「ッ!!なんで今更カインズが殺されるんだ!あいつが指輪を奪ったのか!グリセルダを殺したのはあいつだったのか!グリムロックは指輪売却に反対した3人全員を殺す気なのか!?俺やお前も狙われているのか!」
「グリムロックさんに槍を作ってもらった他のメンバーの仕業かもしれないし、もしかしたらグリセルダさん自身の復讐なのかもしれない」
「え?」
「だって圏内で殺人をするだなんて、幽霊でもない限り不可能だわ」
「なっ…」
シュミットはその言葉に反応して口をパクパクと開閉させている。
「私…昨夜、寝ないで考えた。結局のところ!グリセルダさんを殺したのはメンバー全員でもあるのよ!!指輪がドロップした時、投票なんかしないで、グリセルダさんの指示に従えば良かったんだわ!!!」
ヨルコさんが立ち上がり狂ったように叫ぶ。だがこれもシュミットを引っ掛けるための罠。凄まじい演技力だ。
「ただ1人、グリムロックさんだけは、グリセルダさんに任せると言った。だからあの人には私たち全員に復讐する権利があるんだわ…」
「お前はそれでいいのかヨルコ!こんな訳の分からない方法で殺されて!それでいいのか!?」
シュミットが叫び、ヨルコさんがそれに反応しようとした瞬間、
──ドシュッ
と、刃物が何かに突き刺さるような音。
それと同時にヨルコさんは後ろを向き……その背中には短剣が刺さっていた。
そしてヨルコさんはそのまま窓から下に落ちていった。
「ヨルコさん!」
叫び、窓に駆け寄って下を覗くとポリゴンが散るのが見えた。
転移したのを確認すると部屋に向き直る。
すると椅子でシュミットが震えていた。
「あのローブはグリセルダのものだ。あれはグリセルダの幽霊だ。俺たち全員に復讐に来たんだ!幽霊なら圏内でPKするなんて楽勝だよな…あはははは」
「…………………。」
─数時間後─
「そろそろ、シュミットさんが19層に行った頃かしら?」
「そうだな。俺達も向かうか。一応対毒POTと回復結晶は持って行ってくれ」
「「「了解!」」」
─第19層 十字の丘─
俺はユウキと馬に乗ってヨルコさん達がいる場所へ向かっていた。
そこはヨルコさんによるとグリセルダさんの墓だそうだ。
「あれはっ!?」
到着する寸前、3人の人影が見えた。関係者の誰でもない、あれは…
「PoH…!!」
奴らも俺達がこちらに向かっているのに気が付いたのかこちらに注意を向けた。
──まさかあいつが来るなんて…ッ!!
目の前まで来て、馬を止めようとするが、操作を誤って頭を上げさせてしまった。
「おわぁ!」
「うわわわわわっと!」
俺は盛大に馬から振り落とされ、ユウキは綺麗に着地した。
「よく今ので着地できたな…。」
「ふふん。まあ、間に合ったみたいだね。」
「そうだな。どうする?この後来る攻略組30人と一戦交えるか?」
「チッ。お前ら、行くぞ。」
PoHたちは剣をしまい、どこかへ行ってしまった。
「また会えて嬉しいよ、ヨルコさん。そして初めましてかな?カインズさん。」
「いや、あの時一瞬目が合いました。この人には見破られるかなって予感はしてたんですよ」
「ゼロ。助けてくれたことには感謝しているが、なぜ奴らがここに来ることが分かったんだ?」
「そんな気がしたんだ。元々予感はしてたんだ。この事件の裏にはレッドが関わってるんじゃないかって。何故ならこの指輪事件の裏で手を引いていたのはグリムロックだから」
「「「えっ?」」」
俺が告げた事実に黄金林檎のメンバーが唖然としていると後ろから声をかけられた。
「見つけたわよ。」
「「「グリムロック!?」」」
「久しぶりだね、皆」
「なんで……なんでグリセルダさんを殺してまで指輪をお金にする必要があったの!?」
最もだ。だが、彼がそんな理由で奥さんを殺すとも思えない。その理由を聞くために俺はここまで来た。
「金…?金だって…?──これは売った指輪で得た金額の半分だ。1コルたりとも使っちゃいない。」
「なら、なんで奥さんを!」
「グリセルダは、現実でも私の妻だった。可愛らしく、従順で、一度も夫婦喧嘩をしたこともない理想的な妻だった。だが、この世界がデスゲームとなって彼女は変わってしまった……。死に怯え、怯んだのは私だけだった。彼女は逞しく、立ち向かって行った。私の愛した彼女は……ユウコはいなくなってしまった。なら!ならユウコが私のものであるうちに永遠に思い出の中に封じ込めてしまおうと思った私を誰が責められるだろうか?」
グリムロックは早口で捲し立てる。しかし俺に浮かんだのは同情でも、なんでもなく──『憤怒』。
「そんな理由で……奥さんを殺したのか?」
「十分すぎる理由だよ探偵くん。君にも分かる時が来るさ。」
「分かるわけないだろう!愛が殺意に変わるなんてことは絶対に有り得ない!お前が抱いていたのは愛でもなんでもなく、所有欲だ!愛があるならパートナーの新しい一面を見つけてもそれを受け入れて《新しい一面を見つけた。ラッキーだった。》、それでいいじゃないか!今でもグリセルダさんを愛しているならその左手の手袋を外してみろよ!どうせ結婚指輪も棄ててしまったんだろ!?どうなんだよ!!おい!!!」
15年半生きてきてここまで激昴したことは無いかもしれない。
グリムロックはその言葉に反応し、左手の手袋を外そうとするがその手は空中で震えてまた地面へと戻っていった。
「この男の処遇は俺達に任せてくれるか?」
「……ああ。分かった。」
シュミットとヨルコさん、そしてカインズさんはグリムロックを連れてこの場を去っていった。
ふうっ、とため息をつくとアスナが話しかけて来た。
「ねえ、どうして君はユウキとランさんを好きになったの?」
「……そうだな。なんて言うか…ユウキはパーティを組んでるうちにいつの間にか。ランは俺が独りでやってる時もなんだかんだ言って声をかけてくれたし、あとユウキと違うところはないかって観察しているうちに……って感じかな?」
「「うぅ……」」
「あっ…」
本人たちの目の前で……。めちゃくちゃ恥ずかしい。
「まっ!早く街へ戻りましょう!お腹空いちゃったわ」
「ああ、ん?」
「「あぁ……」」
墓の前にはローブを着た半透明に透けた女性が立っていた。この人が恐らくグリセルダさんなんだろう。
その女性はにこりと優しい微笑みを浮かべると、消えてしまった。
「……じゃあ、行こうか」
次回、《雪山へ》