「木綿季…か。俺の事は和人でいいよ。」
「わかった。」
「それより、君はなんでダイブしてるんだ?」
俺は気になっていることを率直に聞いてみた。俺だけダイブしている理由を話して、向こうが話さないのは少し不公平だからな。
「…ボクはAIDSなんだ。」
「AIDS…後天性免疫不全症候群って奴か。メディキュボイドにいるってことは…薬剤耐性型なのか…。」
「その通りだよ。それにしても、よく知ってたね。記憶がないのに」
「確かに。最近学んだ知識とかは覚えてるっぽいんだよな。」
本当に何故だか分からない。最近学校の授業みたいな所で学んだ知識は覚えてるのにこの身で見て、感じて聴いたものは覚えていないのか。
「そうだ和人、聞きたいんだけど」
「なんだ?」
「どうして君は左目だけ赤いの?」
──左目だけ赤い?
俺のきょとんとした顔を見てなのか、木綿季はなにか操作をし始めた。
すると、幾つかあるモニターの1つが鏡のようになった。
それを覗き込むとそこには、左目の瞳だけ赤くなっている、オッドアイの俺がいた。
「な、なんでだろうな…」
『それには僕がお答えしますよ』
声はメディキュボイドの外から、マイクで聞こえてきた。話しかけてきたのは白衣の男性。木綿季の主治医だろうか?
「えっと、あなたは?」
『僕は倉橋と言います。木綿季君の主治医で、今日から君の主治医にもなります。』
俺の主治医は別の先生だったはずだ。じゃあ何故…
『前の君の主治医の先生は機械の操作があまり得意ではなくてね。ということで、君の主治医になることになった。』
聞く前に答えやがった…心読めるのか?
『まあ、それは良いとして、桐ヶ谷くん。君に伝えたいことがあってね。』
「伝えたいこと?」
『まず、さっきも君が言っていた目の事だ。君の左目は事故で頭を強く打ったことによって遺伝子になんらかの異常が発生したようだ。』
確かにそれなら納得だし、一番妥当な理由だろう。
「そう、なんですね。」
『ああ。二つ目は、君には明日からあるVRMMOゲームに入ってもらうと言うことだ。』
「ゲーム?」
『名を、《ソードアート・オンライン》。通称《SAO》。』
「SAO…」
『ええ。そして、貴方はβテスターだったとの事ですので、その時のIDとパスワードを教えておきます。IDは……』
倉橋先生がIDとパスワードを教えてくれた。IDこそ使うが、当時のアバターを使うつもりは更々ない。何故なら今の俺はその時の俺ではないから。
「ありがとうございます。倉橋先生」
『はい。ではまた。』
そういって倉橋先生は出ていった。そういえば…
「倉橋先生、俺が木綿季のところにいること何も疑問に感じてなかったみたいなんだが…」
「確かに。分かってたんじゃないかな?」
「さあな」
俺達は一通り話して、その日を終えた。
記憶を無くしても、楽しく話せる仲間ができて俺は正直嬉しかった。
─2022年11月6日 PM.0:59─
──あと一分。あと一分で始まる。
目の前にあるSAOのアイコンをタップして、『ログインしますか?』という画面を表示させてその時を待つ。
そして午後1時になった。その瞬間、俺は『YES』のボタンを押す。
キャリブレーションはメディキュボイドに入ったときに済ませてあるからスルー。
脳波や五感等のチェックもクリア。そして、IDとパスワードを入力すると『βテスト時のデータを使用しますか?《Kirito(M)》』との表示。
これはNOだ。ただ、この(Kirito)というプレイヤー名は忘れないようにしよう。
そして、アバターの設定をする。アバターは俺自身に限りなく近くした。ただ、左目を赤から黒にはしたが。
最後にプレイヤー名の設定。これはもうSAOにダイブするとなったときから決めていた。
表示されたキーボードを叩き、《Zero》と入力する。
大半の記憶を失くし、ゼロから始める俺には丁度良い。
そして俺は《ソードアート・オンライン》にログインした。
──Welcome to Sword Art Online!!!──