道場の床板を摺り足でこする。面金を見ながら滑らかな突きをその下に繰り出す。師範が揺れた。突きが来る__避け、ぎゃっ!
苦しい。声がまともに出ない。剣道ならこれで終わりだ。振るいそうになる手を抑える。あのスーツを着て伸びる刀を振るえば__いや、やめよう。師範に自然に向き直っていた。刀、違う竹刀を下げて礼を__師範の踏み込み__緑と赤の筋を幻視する__横にずれながら横一閃、防がれる、素早く下がりながら刀を伸ばして__竹刀にトリガーは無い。竹刀を振り上げて面を打つ、鍔迫り合い、押し斬れる__師範はフワッと下がった。
師範はさっさと座り礼をして面を外す。
「…師範、ちょっと、酷い、ですよ」
というかズルい。
「何を言う。一本もうとった。首に穴を開けられたモンが喋るな」
おい!
「死体、に、斬りかか、るん、で、すか!ごほっ」
「残心じゃ。続けたがったのは太二の方だろう」
鋭いな!?流石だ…
「太二、私ともやるかい?」
師範代、私に初めて2本続けて取られたの根に持ってやがる。
「いや、今日はもうお開きにしよう」
師範の声で皆が、というか私が真っ先に大声で礼をする。解散!!もう汗だくで気持ち悪い。くさいし。剣道から離れてた理由として正当なものだろう。
小学生、中学生、高校生、大学生が何人も寄って来る。
「太二君強くなったよねー」「やるなー中1に本気でやって負けるとは」「太二ダサーい」
全部は聞き取れない。
「前より真剣にやってます」
わいわい話していると、師範代が来た。
「太二、師範が呼んでるから来てくれる?小学生はもう遅いし帰りなさーい」
今の時間帯、というか木曜日は本来居ない筈だよな、私からすれば驚くべき熱意だ。ああ、今の私も参加までして居るから客観的には剣道に打ち込んでいるのか。
やっぱり私は上達してるよな。前からごり押しで年上にも勝ててたけど、本気の師範代からはとれなかったし。今日の2本目の師範代、結構本気だったよな。
「太二、久し振りにくるようになって強くはなったがアライぞ」
師範の言葉に集中する。
「喧嘩か?かなり本気のを何度もやっただろう。近所では聞かんが…」
「......」
「私も聞いてませんね」
「スグルも荒れとったが、喧嘩の為に剣道を使うな、と一応言っておく」
「…疚しいことはありません」
多分。
「ふむ、信じてやろう。幾つかの打ち込みは研ぎ澄まされとったからな。ギンタからも取ってたろう」
「お恥ずかしい。太二、次来た時にでも扱いてやろう。綺麗な剣筋をのばしてあげるよ。上達したいんだろう?」
「はあ、まあ、お手柔らかにお願いします」
剣道はいいとして...武道には感心頻りだが....そろそろ前回から1ヶ月。殺し合いの覚悟はある、筈。楽しみでもある。足技は隙が大きいかな、摺り足は高く跳ばないという意味で役に立つよな、銃と刀は組み合わせ上手く出来るかな、とか剣道の稽古中にも考えていた…私には殺し合いの才能があるのかもしれない、とこの2ヶ月くらいよく思う。必要なもの、とても役立つものかも知れないが、そんな才能があるとしたら、なんだかなー…。