第2話
「バカ太、離せ!」
「そっちこそ話せ!」
怪しいノッポ、若しくは滝田 スグル、を抑えこむ。こいつは何故か焦った様子で這ってでも壁際のクローゼットを開けようとしているが、何か聞き出すには丁度いい。
「そういう意味じゃねえ!」
「解っている。話すまで離さん!」
私は今、スグルの家に押し掛けて、無論滝田家の人々には歓迎されて、奴の部屋で最近の奇行の訳を問いただしている所だ。この3日間ほど毎日来ているが、スグルが急にハッと首筋を触りそれから慌てて私を追い出そうとしたのは初めてだったから、訳を吐かせるチャンスと飛び掛かった次第だ。今はスグルの背中側から腰に抱き付いていてやや気分が悪い。
スグル君が喚くのを聞き流しながら、彼の家族が家にいる以上大怪我を負わせられないだろう今こそが実力行使の好機と、奴の妙な行動を振り返っていると__
頭が消え始める。
は?
「消えてるぞ」
存外冷静な声が出たな。青白い光がスグルの黒い髪の断面に浮かび滑り落ちていく。
「あっ、ケッ、ケースのなー」
口も消えたらしいな。
私は素早く立ち上がってスグルの消えつつある腕が開けたクローゼットを覗き込み、服を掻き分けて底にあった銀色のケースを引っ掴んで、逆の手で消えつつある足に掴みかかる。
これ、明らかにやばい事態だよな_
足と共にそれを掴む私の左手も消え始め、感覚の残るスグルの足から手を離し飛び退こうとする体を押さえ付ける。ジェラルミンケースと思しき銀色のスーツを胸の辺りまで引摺りつつ、
「どういうことか説明し…せつ…説明して貰うぞ、スグル?」
後半の台詞は、白い壁、茶色の板張りの床に座り込み目と口を開けてこちらを見る友人(仮)、黒いラバー状の生地に小さい白い丸いものが所々ついた格好良い服を着た人々、普通の格好の人々を見上げながら、口がここに現れてから言った。
人を見つめながら口をパクパクと開閉させる間抜けの足を離して立ち上がる。
今いる部屋を見渡す。
背後と右手の壁にドアがある。正面奥の壁近くに黒いバランスボールらしきものがある。
音を立てて黒いバランスボールらしきものが開き、音楽が流れ出す。
目を閉じて深呼吸を二度する。
目を開け、立っているスグルを睨みつけ、口を閉じさせる。音楽は止まっていた。
「何をすればいいんだ?」
出来るだけ柔らかい声を意識した。平坦な声だった。右手のケースを差し出す。
スグルは慌ててケースを受け取って開き、ほっと息を吐いた。私はケースに『優(笑)』と記されていることに気付く。
「あっちの黒い球の後ろにある太二のケースを探して、中のスーツを着てくれ」
「…」
スグルの背後の方へ、壁に寄りかかったり座ったりしている人たちを避けつつ歩き、彼等の話し声も動きも無視しつつ、存在感のある黒い球の後ろに回ると銀色のケースが幾つも積んである。スグルが後ろから覗き込む。
「左側の『ラッキー』って書いてあるやつじゃないか?だってお前の名字って雷木だっ__」
私は『ラッキー』と記されたケースをとって開き、中の白い丸いものが幾つか付いた黒い生地を広げて頭から被ろうと__
「ちょ、待てって。服脱いでから着ろ」
「分かった…」
私は一旦生地を床に置き、服をまとめて__
「おい、待て」
確かに。人前で服を脱ぐのは公然わいせつ罪に問われてしまうかも知れない。だがこの状況で警察は無力なのでは?人間を青い光で移動させるなんて一般的技術な訳ない!SFかよ!
「いやだから待てよ!」
よく見れば女性も居るな。
「急げよ、スグルかっこ笑。お前も着替えろ。転送始まるぞ」
何人かカッコイイスーツを着た人々が黒い球体の開いた部分に入っている銃__銃!?__を取り出してから左側の扉を開けて入って行く。
「っち、はいっ!よし、着替えながら説明してやるよ、太二。他の人もできれば着替えて下さい!」