現状99点
『隣のこちらに顔を向け、湊が少しだけ高い目線から優しく微笑んでくる。化粧のお陰だろうが、綺麗な素肌に見える__青い静脈が浮かぶようで、顔立ちは美人だ。黒い強化服を着て体の線が出て居なくとも、この私服で魅力的だ。制服を着ていれば、うーん、流石にコスプレイヤーじゃ無いが、でも強化服と同じく恥ずかしがらずに薄く笑って着こなせそうな気もする。彼女が唇を開いて、だがその少しかすれた声は聞こえない__もう声が色褪せてしまったんだ__黒球が敷くルールを知りたいのに』
『フワッと何度か跳ねながら単独で剣をもった貴族の狩衣を着た男が来る。眼の前の丘から、だがそこにはまだ何人も見物客が並んでいる、下に来た直剣を持った男の動きは師範を連想させる。斬り殺す。突きから片手で引きながら右手の平を上に向けるように、肘を伸ばしながら真横に、切り返して右へ振り切る__3連撃、この後練習したんだ、1対1ならこれで決められる。最後の一刀で頭の上を斬り飛ばされた死体が黒い血を曳きながら膝をつく。力を込めて死体の胸を蹴り飛ばし、丘の上へ戻してやる。続くように低く跳躍し、銃が無いんだ文字通り死体蹴りだってしてやる、膝を曲げ前傾で着地、走り寄って女性に見えるのも含め少将星人たちを斬る。刀で受け止める。スーツごと浅く斬られる。痛みに耐えつつ斬り付け続ける。何体か逃げていく。仲間ごと射貫いて来る。何とかその場の敵を殺し切る。時間までレーダーを見ながらその場で痛みに耐える』
肩を抉る矢の痛みも背中を斬られた驚きも、もうあまり思い出せない。夢で見るのは色、明るさ、風の感触、音がぼやけていて、それでいて行動が事実に即した物になってる…痛みが無いのに蹲っていると変な気分、莫迦アホ間抜けみたいだ。早くこの夢から醒めたい、まさか黒球の採点まで見ないだろうな?
音が唸るように大きくなったり小さくなったり__
目覚まし時計が鳴り響いてる。
…こんなの3コもかけないと起きれない人が居るなんて信じ難い。毛布をどけて起き上がり、ベッド脇の小テーブルの上にある時計のスイッチを切る。
は。ベッドから足を下ろす。
廊下に出る。足裏が冷たい、気持ち良い。顔は、鼻を触れるとべたついて不快だが。
洗面所に入る。
化粧水を掌に取って顔に浴びる。少し3、4分ボーっとして、乳液のボトルの蓋を回して手の甲に少量取り、蓋を戻して、顔に広げる。
面倒くさいなあ~。
学校休みになんないかな。
自室に戻り寝間着のTシャツとスポーツ用の短パンを脱いで、伸びをし肩と首を回す、箪笥を開ける。膝下まであるズボンを履き、インナーを被りその上に大き目のTシャツを着る。短めのの靴下も身に付ける。
木刀を携えて1階まで階段を降り、途中でハルに出くわす。
「おはよ、ハル」
「おはよ兄さん、朝ご飯は姉さんが作ってるよ。素振り、今日は止めないぜ」
「いつも引き留められてる覚えはない」
朝食作れと遠回しに、嫌味と共に言われる事は多いが。
「ま、いいや、じゃ」
頷いてすれ違う。
棚から靴を出し、履いて中庭に回る。足を開き、木刀を正眼に構える。夢で見たやつ含む連撃をやるか。足裏に力を入れつつも全身を可能な限り脱力させ、特に肩から指先まで腕はしなる様に__
一人暮らしならスーツを着て透明な状態で刀を伸ばし、より実践的に出来るのに。もっと強力な兵器を使った練習は景色だって変えられると思うと楽しめるが、刀は強いヤツにも通じたし、最後に頼る取り回しのいい携帯兵器だ。…爆弾も取り回しは良いよな…
リビングに顔を出す。
「朝ご飯出来たー?」
「まだー」
「だってさ」
「それじゃあ制服着てくる」
「木刀ちゃんとおいてきなねぇー」
当たり前だ。
階段、廊下、自室、箪笥。
学校の黒っぽい制服を着る。夏服に着替えると、朝は少し寒いな。まあ、今は涼しいカンジだが、一応長袖も持って行くかな、クーラーで風邪ひくのはばかばかしいし。
鞄を持って一階のダイニングに戻って、席に着く。
「なんで煮物なんだよぉ」
ババくさいって言いたいのか?そこまで口にせず正解だな。
「全部食べなよ?」
冷たい声だな。
「私は南瓜の煮物が食べたい」
「あら、太二ごめんなさい、かぼちゃ入ってないわ」
「あるならよそってきていい?」
配膳ぐらいやろうかな。
「いただきます」「いただき__」「___」
さっさと食べ終えて歯磨いて出掛けよう。掻き込む。
咀嚼して、嚥下する。コップに口をつけ、置いてまた食べ進める。
「がっつくなんてそんなにわたしって料理上手かしら~」
普通かな。嚥下して返答する。
「美味しいよ、普通に。だよな」
「あ、うん」
「おもしろーい反応できないの?」
「カノジョに振られんなよ?それとももう振られた?」
睨み付ける。ぶっとばすぞハル。
「姉さん、どういう返事が女子的には嬉しいの?」
姉さんもカワイイ女子だろ。
「ええと、食レポとか?」
「うざくないか?」
うざくないか?
「ご馳走様ー、あ、テレビつけていい?」
「あ、つけてなかったっけ」
どうみてもついて無いだろ。
歯を磨きながらニュースを見る。
前回から4週間、そろそろ家に早く帰って部屋に籠るかな。貴奈美を部屋に呼ぼうかな、でも見送りたくないし…あれ、ボーっとしながら行動してたか。
「__」
「ん、なに?」
「太二君、デートしない~って」
荷物持ちか?彼氏いないんだ、へー。
「ハルも来るのか?」
ハルと目を合わせる。断った方が無難だしどうことわ__爆弾の運用のために投球練習でもしようかなぁ。
「パスしたいから兄さんお願い…」
姉さんに顔を向け直す。
「スポーツ用品もみていっていい、姉さん?」
「うんいいわよ」
「いつ?」
「明々後日とか?カノジョさんはいいの?」
うーん。
「ほぼ毎日会ってるし、大丈夫だと思っている」
「ふーん」
なんだよ?
鞄を持ち上げて部屋を出る。
「いってきまーす」
「__」「_」
玄関で靴を履き、ドアを開けて、道路まで出る。
よし、軽いランニング、汗だくにはならないようにしよう。
__手を振る事と呼吸を意識する__踏切、犬を散歩させる人達、信号、階段、歩く生徒、塀の上を闊歩する三毛猫。眩しい空、流れる景色と風はスッとする__汗は気持ち悪いし暑いけど。
鞄から袋に入れたタオルケットを出して汗を拭きながら教室に入る。
野球部はどいつだ?朝練あるのかな。
貴奈美だ、もういる。近付いて、挨拶する。
「おはよう」
「おはよう彼氏ぃ~」
「あっ、おはよう!もう、からかわないで」
「話遮って悪かった、また後で」
自分の席に向かう。
近くにたむろする男子生徒達に話し掛けてみる。
「なあ、ちょっといいか?」
「…なんだよ」