テストかゲームか戦争か   作:シューズ

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塹壕

 

 衣裳棚を両開きにして上着を搔き分け、大きい鍵付きの箱を持ち上げてカーペットの上に置く。上体を起こし、勉強机に歩み寄って右手で引き出しを開け、小箱の蓋を開けて鍵を取り出し、左手で引き出しを戻して床の箱の側に座り、鍵口に右手の鍵を差し込んで時計回りに回す。蓋を開け、空に見える中にそっと両腕を差し込んで、機器を探り当て透明化を解除する。

 先ずは黒地の白い小円が幾つも付いたスーツを取り出し、胸と手首と足首の小円を回して外し、立ち上がり、着ている長袖、Tシャツ、靴下とズボン、最後にパンツを脱いで強化スーツを着込む。

 

 今回の戦いで初参加の人達に久し振りに自分で説明しなければならない。__気乗りしない。

 

 バッグを腰に付けてベルトを調節し、バッグの部分を前に回す。覆面を拾い上げて被り、また屈んで重力銃を持ち上げる。左手に銃を持ち直す。これで全部__柄を拾い右太腿のベルトで留める。自室を見回す。ドアに鍵は掛けた、ベッドの掛け布団の上にはパンツと寝間着とタオル、帰ったら直ぐシャワーで幻の汗と返り血を流せる、窓の鍵も開けてある、雨が降ってたな…雨の中で戦うのは始めてだな、多分。

 スーツ以外はほぼ1ヶ月ぶりに使うな。リフレッシュすると決めたのが間違いだったとまでは思わないが…銃は記憶通りの重さだし多分大丈夫だろう__視界が切り替わる。前回、チカさんが消えた、いや解放された後に、床に置いてあった重力銃の様子がぼんやりと脳裏に浮かぶ。私が落とした湊さんの其れでどうやったらあの2人組みの仮面星人を倒せたのか。妙にハッキリとした発音で訳の分からない音の羅列だけでなく日本語さえも話し、取引を持ちかけてきたのだから口八丁で騙して殺したのではないだろうか__1人、私より先に来ている。

 紺に白い線の入った全身ジャージ姿で少し長い髪の人が、腰を曲げて黒球に触っている。

 

「はじめまして」

 勢いよく彼__彼女かも、どっちかな__が振り向く。予定通りの台詞だが黒球に触っている今はアドリブで注意するべきかな。

「だっ、だれっ!?なに!?」

「あー落ち着いて下さい、取り敢えずその黒球から少し離れて下さい。そのうち両脇が勢いよく開くので」

 顔はヒチに似ているな。声も高いし、化粧はしてない様に見えるけど女子か。同い年ぐらいだな。

「おっ次は…」

 私の右側の部屋中央にもう1人が坊主頭から出現し出している。2人目の初参加者は男か。

「あっコーキ君!?」

 同じジャージ?

「ツチダ先輩!無事だったんすか!よかったあ〜ってあれ、だ、だれ!?」

 2人が寄り添う様にして追加兵器の部屋の扉へと後退ってゆく。あの部屋未だ入れない筈なんだけどな、変な格好の奴から逃げるなら玄関に続く私の後ろ側のドアに向かった方がマシだろうに。外へは戦いから戻るまで出られないとは言え。

 2人は部活仲間かな。連携して戦える様になるまで生きて居られれば良いけど…

 

 __黒球が馴染みのフレーズを流し、誤字だらけの表示を浮かべ始める。2人には見てもらった方が良いな。

「黒球に説明が浮かんできたからこっちに来て読んでくれ」

 怖がられているなら__

「私は少し離れておくから」

 振り返ってドアの左側の壁まで歩み寄りそのまま湊さんの銃を置いて座る。

 

 どうせ転送開始までずっと説明しても納得は出来ないだろうし、黒球が開いてライフル型とハンドガン型の銃と強化スーツが取れる様になったらスーツを着る様に刀を伸ばしてみせて脅して、どうせ役に立たない星人の情報を一応流し読んでからさっさと追加兵器を持っていけるように端末を操作しないと。前回は壊されたガトリングガンも使った爆弾も出さずに直ぐに帰ったからな。コレの為の訓練もしないで強姦魔探しに集中しただけの成果はあったが、報復の件を終わらせてもこの戦いの問題は終わらせられない__

 

 短い駆動音が部屋に響く。

 銃を左手で掴んで立ち上がり、身体の向きを変えつつ腿から柄を外しトリガーを2つ同時に押して1m程に刀身を伸ばす。

「本物の兵器を使った戦いに強制的に参加する事になっている。見ての通りの伸縮自在のこういう刀みたいな近未来的な兵器が用意されている。特に、スーツケースの中の今私が着ている様なスーツは身体能力を強化するし一定の防御力もあるから、是非着替えてくれ」

 両脇が開いて銃が取り出せる様になった黒球から此方を振り向いた2人はポカンとしている。

「へっ、なんですか?」

 簡単に最重要な事を言うか。

「スーツケースの中の服に着替えろ、また死にたくなかったら」

「え、コレなんかの撮影ですか?」

「死んだと思う様な目に遭った覚えがあるなら、悪い事は言わないから強化スーツに着替えろ」

「え、じゃあ…」

「ちょ、しっかり説明しろよ!」

 悪いがまともに取り合う気は無い。時間も無いし。

「退いてくれ、私も星人の情報を見たい」

 

 黒球の正面に歩み寄る__眼を閉じた毛の無い顔、うらし星人、好きなものは、魚?強いとは書いてないし、まあ2人も生き残れるかな、スーツさえ着てくれれば。刀のトリガーから2指を離し腿に戻して帯で留めながら右に曲がって追加兵器の部屋に向かう。ドアノブに右手を掛け、捻ってから引く。

 振り向いて_

「スーツに着替えてくれ」

 

 早足で転がる柄や三角銃を踏みながら端末に歩み寄り、全ての兵器を選択する_視界が青い光の後に暗い屋外に変わる__ギリギリだったか_

 

 _左手を持ち上げつつゆっくりとその場で1回転する_足下が脆い_波打ち際に大きい異形_重力銃のトリガーを2つほぼ同時に2回引く。

 

 海岸に立っている人影は私1人。亀の巨大な甲羅の上から人の上半身がいくつも生えたヤツは最寄りの1体は全身を潰せたが奥に3体、内1体は砂浜ではないが浅瀬にいる。このまま撃ち続けても殺し切れそうだが_怪物達の反対側、私の直ぐ後ろに重力銃より強力な兵器がある_海に潜られたら殺し難いか_やや遠くの敵達に照準を合わせ2発ずつ撃つ。

 水音より大きい重低音が連続する。動き始めて少し効果範囲からズレたようだが、刀で斬った様な断面を晒して極一部が海に落ちた。左腕の機器の画面を操作すると、近くには青と赤が1つずつ_何処だ?雨だし明かりも無くて危険だ_防波堤の向こうか。銃の画面を見つつ腕を左に動かす。複雑な骨格が堤防を透かして映る__撃つ。少し待つ。もう1度、は必要ないみたいだな。重力銃1撃で充分か。

 

 残り時間は、58分。カウントが止まって無いな、未だいるのか?

 ”より強力な兵器”達を拾い上げていく。1度ロケットランチャーは砂の上に放り爆弾をジッパーを開けて腰のバックに入れる。ガトリングガンは片手で持ちながら飛行バイクを飛ばすとしても、重力銃の2挺目はどうしたもんか。脇に挟んでいる湊さんのは転送時に持っていないと喪失するしな…私本来のは置いて行くか?でも星人に使われると拙いな。

 初参加の2人に渡すか。

 

 飛行バイクの座席の両側に引っ掛けてある2つの大き目のバッグそれぞれにロケットランチャーと湊さんの方の重力銃を押し込み、座席に跨る。2つの大小のドーナッツを垂直に組み合わせた様な飛行バイクは内部から見ると複数の画面がありドーナッツにはとてもじゃないが見えず車に近く思えるのに、雨は普通に吹き込んでくる、何でこんな変な形何だ?腿の上に右手の重力銃を置いて画面に触り、飛行バイクを起動する。左手はガトリングガンを持ったまま片手でハンドルを握り浮かび上がる。

 

 海岸沿いに飛行を始める。透明化はしておいた方が安全だろうな__左腕を捻って右手に近付け、ボタンを押す。

 

 飛行バイクの画面の1つに骨格まで透かし見える人の図が出る__女性か、中性的な方の初参加者は女子だったのか、ふーん。近くに敵は居ないがもう1人も居ないな?あ、映った、けど、星人か__左腕をやや下向きに動かす。

 多量の光弾が海面に突き刺さり2mはありそうな魚の群をそのまま貫いていく。光弾から逃れる様に左右に別れて海面から10匹程飛び出すが、飛行バイクで新人の女子の数m上を旋回しながら砂浜に焦げ目を残しつつ撃ち抜いていく。女子に当てさえしなければ連射出来るガトリングは狙いを定め無くても簡単に星人を倒せるな、やっぱりコレでも碌に当たらない速すぎる星人は少数派なんだろうな。

 仕留め切ったし、声を掛けて飛行バイクを下ろすか。左腕を折り曲げて右親指をボタンに当て透明化を解除する。

「味方だ!降りるからその場で待ってくれ!」

 それなりに海も荒れているけど__

「わかりました!」

 大声が聞こえなくなる程じゃ無いしな。今回が初参加でラッキーなんじゃないだろうか。

 

 ビショビショのジャージ姿の彼女のすぐ横に、重力銃が落ちに様に姿勢を制御しながら下り、一時停止する。

「もう1人は何処?」

「わからないです……すいません」

 何故謝る?私に怯えているのか、それとも異常な状況に萎縮しているのか?

「そのジャージの下に強化スーツは着てるか?」

「靴は履いたんですけど、えっと、ケースと残りを落としちゃって、防波堤の向こう側で変なのに襲われた時に…」

 私とチラチラとしか目が合わないが、取り乱してはいないな。でも今回生き残れても強化スーツ一式揃ってないとやばいよな、戻ったら再支給されるのか?回収する方がいいだろうな、星人も近くに居るみたいだし。既に確実に100点に届いているしこの人にその星人を倒させてもいいかな?うん、自信をつけて今後戦力になって貰った方がいざ強い星人が出る時に良いだろう。

「一緒に乗ってくれるか?君の強化スーツを回収しに行く」

「あの、なんで戦うんですか?」

 はあ?

「どういう意味?」

「その機械で飛べるなら、かえれますよね?」

 変える?って何を?いいや”帰る”、だな。

「家に、ってこと?」

「助けてくれてありがとうございます、ついでに私と私の後輩も連れて安全なところまで送ってくれませんか?」

 彼女は突き出した輪を潜って座席の横まで来ると頭を下げる。銃は持っているとしてもハンドガン型だけだな、それを隠し持っているなら恐いけどもっと高評価だな…

「取り敢えず乗ってくれる?」

 彼女は頷いて座席の後ろに回る。

「掴まってくれ。…まず、星人を殺し切らないと、あー、ペナルティを受ける。次に、今、制限範囲内から出ると、死ぬ」

 飛行バイクを浮かす__透明化したらこの女子にも適応されるのか?透明化は今は辞めとくか。

 防波堤を越える。何処か全然分からないな。

「何処にスーツを置いてきたか分かる?」

「えっ、死ぬ理由を聞かせて!」

 面倒だな…いや、当然の疑問か。

「私達はあの黒球に生殺与奪を握られている。人の生死を操れるんだ…星人に殺される可能性も高いし。ああ、生き返る事を見込んで無謀な行動はやめたほうがいい…一応、念の為言っておくけど」

 高度を下げるか。機体内の画面を注視しながら肘で私の重力銃を押さえつつガトリングガンを水平に構える。

「…もう1回生き返ってここに送りこまれた…ってこと…?」

 ま、私は違うけども。

「そういう事らしいよ。で、未だ飲み込めて無いだろうけど、強化スーツを着ないと余計に危険だ。場所は_」

 引き金を引く_ガトリングガンが駆動し吐き出していく光を曳いた弾が、亀と人の合体したような化け物を引き裂く。カーブの先はよく見通せない__いや、物を持ち過ぎか。それに暗いし雨だし__顔に湿った冷たい布が貼り付いて気持ち悪い。

 

 飛行バイクから降りた方が腕の機器の地図を見易いし、だが兵器の大部分は置いていく事になるか…後ろに目をやる。背凭れにしがみつく年上の女性、近くで見るとチカとは然程似ていないな。

 私1人だと強い星人にその内殺されるだろうしなあ。

「1度着地する…」

 出来ればもう1人も生かしたいし、星人の残りを確認するにも地図はしっかり見るべきだろう。

「…へっ?」

「スーツに付属する機器で敵味方の位置が確認出来るから」

「えっああ、向こうだと思います私のスーツ!」

 腕が私の左側に突き出される_咄嗟に跳ね上げそうな銃身を押さえる。

「あっ、そう?じゃあ先ずそっちに行くか」

 

 コンクリートの直ぐ上をゆっくり飛んでいると、銀色のスーツケースが交差点に転がっているのが見える。

「見付けた」

「……あ、はい、あれだと思います」

 通りの奥でバイクが右に走り抜けるのが1瞬見える。多分星人ではないだろ…

「ふつうの、えーと、これをやらされてない人、です?」

「多分。星人は基本、透明になっていないと襲ってくる」

 飛行バイクを道路の上に下ろす。右手をハンドルから離し、顔の前にガトリングガンごと寄せた左腕に、くっついた機器を操作する。

「近くには居ないから、拾って着替えてくれ…ああ、後輩クンは生きてるな」

 この移動速度だとスーツを着てるのかもしれない。後ろから星人達に追われてるなこれ、助けに行くか。

 少し飛行バイクが揺れ、後ろから右側に彼女が移動する。

「私はもう1人の方に行く…ああ、武器を置いていくからもし星人が来たら撃ってみてもいい」

 右手で腿の上の重力銃__湊さんのがあるし、こっちは私のだから失っても回収できる__を道路に投げる。これで楽になった。

「うそっ信じらんない置いてくのっ_」

 ペダルに足をかけハンドルを片手で握る__声を張る。

「トリガーは2つとも引かないといけないから!効くまで僅かに時間がかかる!ああそれと、”これに参加させられてない人達”には私達は見えないから!」

 飛行バイクで浮かび上がり、右斜めへ飛び並ぶ低い建物を越える。左腕の地図を見る__こっちで合ってるな。速度を上げる。

 

 見つけた、防波堤へと跳躍している人影__青い光が点々と全身にある、強化が高まった状態だ、あっちだけスーツに着替えて来たって事か__左側、建物の陰から彼を追う様に細長い何かが飛_ガトリングガンを向け引き金を引く_外した、飛来物が彼に当てられたか__

 トリガーから指を浮かす。彼の方は生きている事を期待して、未だあの辺りにいる星人を先に殺す__

 

 

 減速する。複数の、甲羅の上に人の上体が無数に付いた怪物と地面をのたくる怪魚が、堤防と建物の間の10m程の道路に出る__中程まで来た_

 ほぼ真上から連射し始めながら宙で静止する。視界奥の一際大きい甲羅から2つだけ白い上体を生やした星人が横移動して建物の陰に隠れる_光弾なら壁ごと撃ち抜けるだろう。手前の星人達はもう沈黙した、このま_

 

 懸命に体を倒し_トリガーから指を離し銃身を脇に寄せる_回転しながら降下し、堤防を避けて砂浜に突っ込む_機体を持ち上げ砂をまき散らしつつまた浮かび上がる。何が飛んで来たんだ?何を飛ばして__画面に骨の無い人の上体が映る。

「下半身も無いのに動くなよ…」

 思わず呟きながら、堤防より低目に飛行バイクを維持しつつその場で回す。広い隙間から雨が目に入るが、上を見ると今は体の一部を飛ばして来てはいない。暗い海から波と共に星人の上半身だけが打ち上げられている。砂浜で別の上半身と黒いスーツ姿の1人がもみ合っている。スーツの強化が有って揉み合いになってる?意外に力があるのか、上半身だけのくせに。

 助けに入るのに刀以外だとやり難いだろうな。降ろすか。

 

 100点メニューの強力な兵器を全て置いて、刀を取って伸ばし、走る。

 あ、爆弾は腰のバッグに入れてるか。

 砂浜は湿っていて脚も沈むし気持ち悪い走り心地だが防波堤より高く跳躍して打ち落とされても困る。

 

 立ち止まり、切っ先を銀白色の頭部に突き刺し捻る。後輩くんが砂浜を転がって星人から離れる。__念の為_刀を引き抜き刃を回して脇から肩に斬りあげる。

「平気か?」

 2歩下がりながら左を向く。

「ああ、はあっ、はあっ、はい、どうも…」

 スーツから少し金属みたいな液体が垂れている。まだ完全に壊れた訳ではないが…あれ、他の上半身には攻撃して無い__移動速度は遅いな、ガトリングで一掃するか。

「立てる?」

「は、い」

 骨を折られたりはして無いみたいだ、まあ間に合ったと言っていいだろう。

「着いて来てくれ」

 振り返って小走りで飛行バイクのもとへと戻る。大きい星人が動き回っていないといいが。左腕の機器を操作する。さっきの女子は無事、星人は上半身を撃ってくる大きいのと、海岸に転がっているヤツラと、沖合に1体?残り37分20秒か。沖には飛行バイクに乗って爆弾を落としてくるか。100mぐらいの深さは届くだろ。もっと深くにいたら、飛行バイクで突っ込むしかないのか?諦めた方が安全だろうな、次が怖いが。

 

 輪を越えて、刀身を消して柄を腿にくくり、座席に掛けたバッグの手前の方を開けてロケットランチャーを取り出す。ドーナツバイク部分から少し離れ、堤防に弾頭を向ける。画面を覗き大きい星人を探す。重なった建物の透過に時間が掛かるな…見付けた。上トリガーを引き絞る。上トリガーが固定された。ロケットランチャーを上に向けて、下トリガーも引く。体が少し揺らされ、ロケットが堤防を越えて消える。

 音は水の音以外聴こえ無いが…機器を操作して地図を確認する。星人の残りは海側だけだ。

「おいっ!なにしたんだよ!」

 ああ、着いて来て貰わなくても良かったかな?__持ち手を離し使い終わったロケットランチャーを捨てる。後は私が残りの点を取って終わりだし。

「向こうの星人を倒しただけさ」

 座席に立て掛けたガトリングガンを右手で持ち上げる。銃口を青年の方に向ける。

「どいて」

 彼は後ずさって行く。おいおい、後ろの上体だけの星人が撃てないだろ。

「君の後ろの星人達を撃ちたいんだけど!私の横にまわってくれよ!」

 イラつくなあ。

「あ、ああ、分かったって」

 駆け寄ってきて飛行バイクの反対側に行く。私は踏み出してトリガーを絞りつつ銃身を左右に往復させる。トリガーから指を浮かし、左手を曲げて持ち上げる。赤い点が沖以外にまだ2つ、ああ、消えた。全部が即死とはいかなかったのか、別にいいけど。

 踵を返して座席に向かう、と、兵器に触るなよ!

「退け!!」

「すんません!」

 重力銃をチラ見しているな?別に使わないが置いていかないぞ。

 空いたバッグにガトリングガンを突っ込み、席に跨って両手でハンドルを握る。

「もうすぐ終わらせて、転送が始まる、ああ、黒球の転がる部屋に戻されるから、ここで待て」

 大きく移動されて制限範囲から出られたら折角助けたのに死なれるからな。

「詳しくは後で2人纏めて説明する」

「そうだッ、リコ先輩は_」

 飛行バイクで沖へ一気に移動する。減速しながら左手をハンドルから離して持ち上げ地図を見る。飛行バイクを操作し左に旋回する。この下だな。あっ海上だけが効果範囲になったら如何しようも無いじゃないか。ロケットランチャー残しておけば良かった。爆弾の方はターゲットをロックする機能が無いし…

 

 1度戻るか?でもなあ…全力で投げつけてみるか…

 

 ハンドルを握り直し高度を上げていく。

 頭に警告音__高さ制限まであるのかよ地図に表示も無いのに__飛行バイクを止める。うるさいな…右手で腰を探り、チャックを開けてバッグに手を入れ、あった、爆弾を取り出しチャックを閉める。横に右手を突き出し、駆体を下に向けて思い切り速度を出す__海面が迫り右手を高まった強化で全力でふりボタンを押し込みつつ投擲する_飛行バイクを制動し_っつ全身に重圧_斜め上へと進んでいる__上手くいった。振り返る。いや、ボタンをもうちょっと早く押すべきだったな。

 海面に巨大な穴が開く__飛行バイクをUターンさせる。既に一際泡立った箇所が見えるだけか。左手を離して顔に寄せる。赤い点が青い点とほぼ重なっている__まだ終わって無いのか__効果範囲に入っていなかったのか。次は如何すればいい?

 

 銃でターゲット画面に映るかもしれない。ライフル型がちゃんと遠距離に対応していると聞いた気が…重力銃かハンドガン型で捉えられるといいんだけど…

 

 海中が映っているかも分からない。う〜ん、重力銃だと駄目か?座席横のバッグに突っ込み、腰の方のからハンドガン型を取り出して下に向ける。くそっ全然見えない。

 

 海に入るか?ゴーグルも酸素ボンベも無いんだが…点数が0になるのは…どーする…

 

 

 __青い輝きで視界が塗り潰れる__

 __黒球が鎮座する白い部屋が見える。ハンドガン型の銃を握りしめて床の上で直立していた。

 

 最後の星人、爆弾で瀕死になってたんだな。セ〜フ!

 海中装備を次から持って来るべきか?懐中電灯、いやヘルメットに付いたやつを用意するべきかな…

 前の床に体育座りで座り込んだ状態で、スーツ姿の1人が転送されて来る。__全身が出揃ったし、声かけるか。

「お疲れ!」

 肩を揺らし右腕を床についてこちろを向き、見上げて来る。先輩の方か。

「これ、え?」

 彼女は立ち上がり、目を合わせる。

「説明、お願いできます、か?」

「後輩君が転送されて来たら説明する。二度手間になるし」

 余計な事を言ったか。

「あ」

 視線がズレる。後ろか?振り返ると、左側に両足をこっちに投げ出して座る後輩の方が転送されていた。慌てた様子で立とうとする彼にも声をかける。

「お疲れ」

 黒球が音を出す__首を前に戻す。採点だ。私は口を開く。

「黒球の前に行こう」

 

 無言で、私は右端で先輩が隣、後輩が奥の3人で横並びになる。

「顔の感じだとこのリコウちゃんが先輩さんだな。この点は止めを刺した星人の点数の合計だ。もう切り替わったけどついてた馬鹿にしたコメントは気にしなくていいから。2人とも0点だけど、あと100点って出てるように、ほらこうやって100点以上になると、100点メニューから1つ選べる」

 70点の持ち越しか__点を取れたのは久し振りだ。1人でガメたんだけど。

「オレたちを見捨ててくんスか?」

 ?ああ、1番か。

「いいや__今回も2番で」

「強力な、武器?あの、”も”って?」

 先輩の方が良さそうだな。

「空飛ぶバイクとか、リコウちゃんに渡した銃とか、エース括弧笑いの前で使ったロケットランチャーとか。両方とも光るエネルギー弾みたいなものを連射する銃に関しては威力の高さは見ただろう?」

「その呼び方やめてくれよ、オレはスギモトコウタロウだ」

「あ私は_」

 やめてくれよ__

「本名で名乗らないでくれ。私は名乗りたく無い。元々知り合いだと如何しようも無いが、こんな戦いに参加させられてる人の情報を詳しく知りたく無い」

 雰囲気を悪くしたけど、ま、しょうがないな。新人2人と黒球の前で向かい合う。

 

「…あの、これ一体なんなんですか?あなたは5回も解放されるチャンスをふいにしたんですよね。あなたは私たちと同じ被害者じゃなかったりするんですか?」

 心外だな。

「そもそも被害者達を復活させて戦いをさせてるのは黒球だろ。中身を覗いてみろよ、裸の男が入ってる」

 あいつが元凶に決まってる。

「私も含めてここに転送される人間の生死はその黒球に握られてる。例えば被害者以外にこの事を言うと殺される__試した事は無いけど、星人に殺された先達に教えられた」

「これ…どれだけつづいてんだ?」

「知らない」

 あっいい質問かも。

「気になるなら100点を取って3番で、メモリーの1番古い死者を蘇らせて聞いたらどうだ?」

 結構面白いアイデアじゃあないか?

「あなたは、なんで続けてるんですか?殺し合いたいなら、私たちを助けなくても良かったですよね?何がしたいんです?」

 調べた事をタダで教えたくないんだけど。

 

 不信感を与えたくもないし、仕方無いか。

「1番を選んだ知り合いは、解放はされたけど長期間の記憶を失ってる。なので1番を選ぶのは気が進まない。だけど、2番を選んだ戦える人達でも、強い星人とあたったら殺されてる。だから味方の数を揃えたい、で、君等を助けた。3番で今まで殺された腕の立つ人を復活させる方が効果的だろうけど、新人を見殺しにする程星人が強くも無かったし。少なくとも今回は。100点メニューを使うなら自分の装備の拡充を優先して、ま、したい事は生存だ」

 スグルが1年前に星人にやられてるし、防御装置が出てきたら3番を選ぶかもしれないけど。

 

 

 黙っちゃったな。

「何か他に質問は?」

「…オレらに使わないブキを貸してくれないか?」

 そういえばリコウちゃんは貸した重力銃を置いてきたみたいだな。

「状況によっては貸すけど、基本自分で使う」

「で、でもよ__」

「スーツと銃で頑張ってくれ。ああ、戦い以外で悪用すると殺されるらしいから気を付けて」

「うぇっ」

 賢い女子のイメージが揺らぐなあ。

「何をしようと思ったんだ?別に答えなくても良いけどさ」

「…た、体育で…」

「せ、先輩…」

「活躍しようって?多分それぐらいいいんじゃない」

 やったこと無いなそれ。大勢を叩きのめしても死んでないし其れ位許容範囲だろ。本当に悪用への制裁があるかも怪しいし。

「上着からはみ出さないように__」

 あ、リコウちゃんジャージ海に置いてきてるな__

「スーツは一部だけ着けて、あと強化は結構凄いから手抜きしないと__」

「い、もういいです!」

「あはは…大会で使ったらマズイっすかね」

「ちょっと!?」

 あ、もしかして。

「運動部のエースだったりするの?あ、いや知りたく無い。えー。基本、約1ヶ月ごとに、夜中にこの部屋に転送されるけど、期間はマチマチだから部活の時とかでも使わなくてもスーツは持ち運ぶようにな。転送の数分前に背筋に悪寒が走るから。採点後は玄関が開くから、今日はもう帰れる。近くに線路があるから、金が無くてもスーツの力で帰れる筈だ。左前腕に機器がついてるだろ、操作して周波数変更中って出れば透明になれているから、気付かれない。じゃあそういうことで。私は持ち出せない飛行バイクの練習してから帰るから」

 戸惑っている2人を横目に見て、無視して追加兵器の部屋に向かい、ドアを開ける。

 

 兵装選択の端末に近付く。新しい兵器はっと__これ、星人か?両腕が肥大した人型、ゴリラみたいな造形だ__いやそんなはずないな。一緒に戦ってくれるロボットか、まさか、それとも新しいスーツなのか?図に触り___アイコンに変わって右の他のアイコンに並ぶ___振り返り出て来るのを待つ。.......凄いなこれは、光沢のある硬そうな生地に通常の強化スーツより大きな丸い付属品が全身に散りばめられ、腕は大きく長く肘から長い刀身が天井に伸びていて、強そう。顔まで覆えるようになっているな、でも顔部分の縦に2列並んだ沢山の小さ目の丸い付属品、前が見えるのか?それに後ろのコードの束は何だ?

 触ると、顔の前部、フェイスガードか、が外せて、首部分も左右に開き、胸部分も左右から伸びて胸の中央で合流する計8本のベルトが左右に開く。生地が分厚い、いやパーツといった方が相応しいか…全裸でこのキグルミの中に入るのか?__スーツを着たまま装着出来るな…。

 腕の部分は着込んだパーツの内側に大きな隙間があるから、簡単に外に出せる。普通に重力銃やガトリング、ロケットランチャーを持てそうだ.......肘の後ろについた長い刀身は遣い難そうだが.......。足を覆う堅牢そうなブーツ部分も体に違和感が無い。胸部分を閉め、フェイスガードも着けて__おお!?まるで顔に覆いが無いみたいだ__両手を巨大な腕パーツに戻し少し動かし_っ!…なんだ、でかい腕だな…私の指に同期して巨大な腕のパーツの先端の太く長い指が自在に動く__掌に穴が空いてる…?

 

 …スーツによる強化の目的は、素早さ、いや、速度と怪力で、防御は自滅を防ぐ程度の意味しかなかったのではないか。自分の胸を叩いてみる。このしっかりと固い、より強いスーツは、分厚いのとごつい造形とで服とは認識し難いな、下にスーツを着ているのに強化を強める様に集中してもそれほど素早くは動けない、では代わりに怪力、攻撃力と防御力が十中八九大幅に底上げされているのだろう…スーツみたいに分解出来ないかな。持ち出せれば、いつもの山に持って行きそこで攻撃手段を検証したい、この部屋は破壊できないし__透明化して運ぶか?

…防御力は確認し難いが、そろそろスグルを復活させても大丈夫なのかもしれない……キョウにも堂々と逢えるな。

 

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