玄関から物音がする。トヨカさんが帰って鍵は締めたし、湊が帰宅したな。ソファから立ち上がり様子を見に行く。
靴を脱ぐコートを着た女性の背中が見える。
「お帰り」
肩越しに目を向けてくる。
「ただいまぁ」
「バイト?」
顔を戻し、湊が此方に向き直って鞄を取り歩いてくる。
「うん、疲れた。ご飯…」
しまった。
「あー、作ってない。食べに行くか?」
「えー」
疲れてるか。
トヨカさんから聞いた事、外では話さないべきだろうし__
「今から私が作るよ。他人に聞かれるとと拙い事も出来たし、ここで食べよう」
湊が小首を傾げるが、立ち止まらない。
「先に着替えても?」
えー、うん。
「勿論」
振り返って彼女の背を見送る。
キッチンに向かう。両手を洗う。
どう湊に伝えよう。話の流れ通りで分かるかな。
キッチンで火にかけたフライパンにオリーブオイルを注ぎ、傾けて油を延ばす。
冷蔵庫から豚肉と、ほうれん草とトマト、ジャガイモを出し、包丁で大きさを整える。フライパンに左手を翳す。暖かい。素手で摘まんで豚肉を入れる。
ジャガイモも。菜箸を取り、肉をひっくり返す。調整器をスライドさせ火を弱め、コンロ下の棚を開けて蓋を出し、被せる。菜箸を置く。
食パンを4枚袋から出し、オーブンに入れて焼き始める。
フライパンの蓋を開け、蒸気が少し出る、まな板を持ち上げて傾け、残りの野菜を流し込む。まな板を置き、蓋をする。
食器は…箸でいいか。湊用にナイフも一応持って行くか。じゃあフォークも、でも洗い物…。
湊の部屋に行くか。
開いている入口を覗き込む。青っぽい長袖とジーンズを着た湊が床に座りベッドに凭れている。
「そろそろ、ご飯出来るよ。豚ロース、ナイフ使うか?」
「…うん。はなし、あるんでしょ。何?」
「今日さ、ある日本企業の役員が1人来た…」
前提を話すか。
「黒球の所の、戦いに関する話なんだ」
「…?」
湊の眉間に皺が寄っている。
「あれの、観戦者で、スポンサーの1つがそこの企業らしい」
驚くよなぁ__一拍置く。
「カタストロフィに向けて、色んなスポンサーをやっているトコが戦力を集めてて、私を誘いに来たんだそうだ。入社試験にいつの間にか通ってた、みたいな感じかもしれない」
睨んできてる?
「どういうこと…」
彼女が目線を落とし深呼吸する。
「君は、そっちに行くの?あそこの殺し合いを認める、ううん積極的に促進したいの?」
いや…違う…
「ちがっ」
「食べながら話そ」
湊が滑らかに立ち上がり、私の方へ歩いてくる__目線が合う。微笑みかけられる。
…。火、付けっ放しだしな、うん…。妙に気まずい…!