魔王軍から幹部待遇でスカウトが来たけど、丁重にお断りする話。 作:セカンドオピニオン
「お前また来たのか……って何だ、貢物でも持ってきたのか」
「……お生憎様ね。前は断られたけど、これを見たら首を縦に振らざるを得なくなるわよ」
勇者としての死を迎えたのちに、アンデッドジェネラルとなった俺の前に現れた、魔王の配下を名乗るヴァンパイアクイーン、カーミュラ。
絶対にこっち側に引き込んで見せるわ! なんて台詞とともに、彼女が去ってから数週間後。
適当に他の幹部候補の勧誘にでも向かうだろうなどと言う内心の期待とは裏腹に再び現れた彼女は、今度は何やら武具のようなものが入った袋を担いでいた。
そこはヴァンパイアクイーンなのか、あまり荷物の重さを感じさせずに羽ばたいているが。
「こりゃまた変なとこで生真面目だな……とでも言うべきなのか?」
……というか、このダンジョン。
大陸最大とも言われるくらいには、それなりの規模のはずなのだが。
いくら高位のヴァンパイアでも、攻略には一週間以上かかるはずなのだが?
そんなお使いを魔王から頼まれた彼女も彼女で律儀なものだ。
それとも今の魔王への忠誠心がそれだけ高いという証なのか?
俺ならそんな面倒な指令絶対に受けたくないし、というか四天王の彼女がそんなこき使われるなら尚更入りたくなくなってきた。
……と、開幕から俺の加入意欲が駄々下がりしている事など、彼女にとっては露知らぬことであろう。
「ま、貴方の予想通りってとこかしら。現魔王軍の力を証明することも兼ねてね、ささやかなプレゼントってワケ」
「……いいか、前にも言ったろう。魔王軍に協力する気は無いし、そうする理由も無いと……」
「まあまあ。地位や名誉に拘らないなら、実物でこっちの意思を示すまでよ」
ぼんやりそんな印象を抱く俺を他所に。
どっさりとした縦長の袋を地面に置いた彼女は、無造作にその中に手を突っ込むと──
「──見なさい! 魔王城にて収められし、魔剣よ!」
「魔剣……これがか?」
やたらゴテゴテした装飾のついた長剣を、おもむろに取り出して見せた。
「そうよ! 魔族でも人間でもそうだけど、戦士にとって、高級な武具は勲章と同じ。生前からの剣士の魂を受け継ぐアンデッドジェネラルである貴方なら、それに勝る宝はないでしょう?」
「……あー、成る程」
「貴方を説得するにあたり、魔王様からいくつか助言を頂いたわ。流石は聡明な魔王様、成る程と思いついたの。魔王城の武器庫から私自らの目で見繕ってきたこの剣なら、貴方のお眼鏡にかなうんじゃなくて?」
そうきたか、という感じだ。
……まあ確かに、この世界の貴族や戦士にとって、武器や鎧がそういう価値観なのは知っている。
実用性と品格の象徴とを兼ね備えた武具と言う名の貴金属は、この世界においては非常に価値を持つものなのだ。
物によっては権力や実力のシンボルともなりうる、一種の財産に近いとも言える。
日本でいえば、ソシャゲのイベント装備みたいなもんだ。
剣をとって、まじまじと見る。
刃渡りはそれなりに長く、束の部分には色々宝石がはめ込まれている上刀身にまで渡る上品な細工が施されている。
成る程見た目的には高級そうな剣だが……
「因みに銘は?」
「……なんですって?」
「銘だ。魔剣の名前」
「め、銘?」
「なんという名前の魔剣か分からなければ、俺も如何ともし難いのだが」
「えっ、……ええっと、ちょっと待って……」
ぎくり、と言った調子で。
自信満々の笑顔を崩した彼女は、焦ったような表情でそっぽを向いた。
「な、なんとかスレイヴとか、なんとかウィングとかいう名前だったような……」
「まさか忘れたんじゃないだろうな? それとも、元から無いとか?」
「うっ、うるさいわね!
仕方ないでしょ、そもそもこの手の剣ってやたらと名前長いのがいけないんじゃない!」
それは俺も同意する。
「とにかくっ、名前とか効果とかは知らないわ! でも噂によれば、重要な場で一国の王家がかつて扱ったとされるわよ。私から見ても、相当な効力を持つ剣なのは間違いは無いわね」
「本当かよ……」
腕組みする彼女を他所に、俺は剣に向き直ると密かに鑑定スキルを発動させ──
「……あーわかった。これあれだな、演武用の儀礼剣だ」
「えっ」
「魔王城の武器庫か……まあ、こんなものも紛れることはあるか」
「えっ……えっ!?」
「やけに装飾が派手だと思ったが……さっき自分で見繕ったって言ってたよな? 大方見た目で適当に選んだだけじゃないのか?」
「そ、そういうわけじゃ………。じゃ、じゃあ魔剣の効果とかは」
「特にないな。売れば高そうだが」
先ほどとは一転、冷や汗を浮かべた彼女はその言葉にガックリと肩を下ろした。
まあここまで派手な装飾の剣なら、何かしらの効果が伴っていない方が不自然と考えるのも無理ない事だったが。
「嘘でしょ……」
「まあそう気を落とすな。魔王軍に入るかはともかく、お土産としてもらっといてやるから」
「お土産とかそういう扱いじゃ困るのはこっちなのよ……わざわざこんなトコまで来た私が馬鹿みたいじゃない……」
「んなこと俺に言われても」
そもそも武具なんてもん普通に興味ないし。
ぶっちゃけ、勇者時代から引き継いだ最強装備をまだ持ってるワケだからな。
王家から貰ったなんとかカリバーもまだ持ってるし。
何より──今身につけているこの漆黒の鎧。
いかにも物々しいこの鎧は、勇者として前魔王を打ち破った際、戦利品として譲り受けた一級品だ。
皮肉にも、不死のアンデッドジェネラルと化してからの方が身の丈に合っているが、なんとかカリバーと合わせて、国を出る際に金品がわりにもちだして以来、今に至るまで装備している。
良くも悪くも馴染みのある品だし。
ぶっちゃけ今更変える必要性も見当たらない。
そんな俺を他所に。
ズーン……なんて音を立てそうなレベルで落ち込んでいた彼女は、しかし立ち直ったかのようにこちらをキッとにらめ付けるや否や。
「……いいえ、まだよ。見てなさい! すぐ魔王城に帰って、今度は魔王城の中で一番高価な武具を持ってきてやるんだから!!」
「いやそういう問題じゃなくてだな。そもそも」
「──────『テレポート』ッ!!」
──眩い光とともに、消え去った。
「……頼むからひとの話聞いてくれんかな」
■
「ふぅ……ふぅっ……! また来たわよ……今度こそは」
「またか。……っておいおいおい、今回は随分と大荷物じゃないか。アンデッドギガンテス、手伝ってやれ」
「ど、どうも……はあ……疲れた」
配下の巨人ゾンビに肩代わりさせた荷物には、前回とは違い、見るからに重そうな鉄の塊が入っているようだった。
流石にこれだけの重量を抱えたままここまでダンジョンを抜けるのは、さしもの彼女でも堪えたことだろう。
玉の汗を浮かべた彼女は、最深部に乗り込んで来るや否やへたりこんでしまった。
まあベテラン冒険者でもやっとの攻略を彼女一人で行ってしまうのだから、そこは素直に凄いと思う。
懲りずにまた来たようだが、彼女も彼女でご苦労なことだ。
「遥々お越しの所悪いが、前にも言っただろう。返事はノーだ」
「……フ、フン。そんな口が叩けるのも、これを見るまでよ……ふぅ……」
「まあ相当なもんを持ってきたもんだな。……水いるか?」
「も、貰うわ……」
ダンジョンの地底湖から汲んできた天然水を、コップに入れて渡してやると、疲れ切った様子でゴクゴクと飲み干す。
……。
やっぱり美人がモノを嚥下する図って色々絵になるな……なんて内心で密かに思いつつ。
その傍で何が彼女をここまでさせるのか──それとも単に今の魔王軍が相当な人手不足なのか。
そんな事を邪推しながら、玉座に頬杖をつく。
「ま、折角来たんだ。一応見てやるとしようか。見たところ、全身鎧かなんかのようだな?」
「んぐっ……と、察しがいいわね。その通り、約束通り魔王城で一番高価な武具を持ってきてやったわ!」
「お前もお前で立ち直りが早いな……」
水を飲み干すや否や持ち前らしい回復力を見せ、眼前に仁王立ちするカーミュラ。
約束ってなんだ、そんなもんそもそも約束してないと言うのは野暮だろう。
最早突っ込むのも面倒くさくなってきた。
「ジャーン!!」
そんな彼女の掛け声とともに取り去られた袋の下からは──!
「ん……お、おおおおおおっ!?」
──ま、眩しいッ!?
なんだこの鎧は。余りにも眩しすぎるぞ!
兜、胴鎧、手甲にレギンス。
全て一体となったフルフェイスアーマーは、その貴重性ゆえ一部の上級階層、王族や貴族か騎士にしか身につけることを許されぬ高級品だ。
極度に重量も増すその扱いの難しさゆえ、装備できる実力者も限られてくる。
床の上に置かれた全身鎧は、それもさることながら。
深く暗いダンジョンの最深部にあっても、まるで太陽のように輝く白銀の鎧。
反射とは違う。
鎧自体が輝きを発しているのか。
まるで日光に照らされたかのごとく、最深部の部屋全体が明るく浮かび上がる。
まるで神器か何かのごとき、神々しさすらまとうほどの金属表面。
──間違いない。
前回とは違う。
確かに宝と呼ぶに相応わしいレベルのアーマーなのに間違いはなかった。
間違いはないのだが──
「な、成る程確かに、相当な業物のようだ……だが」
「フフン、そうでしょう言ったでしょう? 魔王城で一番の鎧なんだから、当然よ!」
「あ、ああ……だがちょっと眩しすぎないか? 眩しすぎて、ちょっと目が痛くなってきた気が……」
思わず目を覆う俺を他所に、得意げに鎧の説明を始めるカーミュラ。
「聞いて驚きなさい。これはね、魔王城が所蔵する数々の鎧の中でも一番貴重とされている、かつて古の聖堂にて収められしセイントアダマンタイト製の聖鎧よ。その性質上、邪な力を撃ち払い──」
「──聖鎧ってお前、ダメじゃねえか!! さっさと袋に戻せえっ!!」
「えぅ、えええっ!?」
──道理で物理的に目に痛いと思ったよチクショウ!!
怒鳴った俺の剣幕に気圧されたのかいそいそと鎧を仕舞い込むカーミュラに、俺はゴシゴシと頰当の奥の両目を擦った。
「ち、ちょっと、幾ら何でも一級品の鎧にまでケチつけるなんて、いくらなんでも我儘が過ぎるんじゃ無いかしらっ!」
「我儘だと、お前にだけは言われたく無いわ! それに、聖属性鎧なんて対アンデッド装備の最たるものじゃないのか。あんなもん装備したら逆に弱体化どころか俺の目が潰れるわ」
「あっ」
気づかなかったとばかりに袋の口を急いで締めるカーミュラに、俺は若干投げやりになりつつも。
「……カーミュラよ。繰り返しに俺を説得しにくるその根気と心意気は確かに認めよう。だが前回言っておけば良かったが──俺にはそこまで武具に頓着するタチの戦士では無い。そういったもので俺を説得できると思っているなら、とっとと諦める事だ」
それでも断固たる意志を告げたが、彼女の反応は不満げだ。
「……というか、魔王城で一番の武具が聖鎧ってどういう事だ!? アンデッドどころか、悪魔族も装備不可だろこんなもん」
「どういうことも何も、実際これしかなかったんだから仕方ないじゃないの。言い伝えでは前魔王様の装備してた魔鎧が魔王一族の家宝としてあったみたいだけど、古の勇者との戦争で失われちゃったのよ!」
「………」
……そういえばそうだった。
というのは、今俺が身につけているのがまさにそれなわけで。
「……コ、コホン。とにかくだな」
俺は気まずさを気取られぬよう、咳払いをしたあと。
「武具やら宝やら、物で釣ろうとするのはやめろ。それに、前も言ったが俺は、お前の言う魔王様とやらに協力する気は依然としてない。幹部を擁立したいなら、それは勝手にすればいい。だが、俺なんかに構っておらずに他を説得しにいったらどうだ?」
「──残念だけれど、その手は無いわね」
「何?」
「何? って。生返事の前に、自分の立場を自覚する必要がまずあるんじゃないかしら」
強い口調で拒否したにも関わらず、彼女は不遜な態度を崩そうとしない。
説得できる自信があるというよりは、俺が魔王軍側につく以外の選択肢が、彼女自身の中に存在していないかの様な態度だ。
「貴方は大陸最大のダンジョンを統べるアンデッドの王。少なくとも人間界における知名度はトップクラス。新しく魔王軍を立ち上げるこちらからしてみれば、アンタを味方につけることが出来るかどうかは一種の分かれ目でもあるわけ。結構大きな問題なのよ」
「それは……魔王軍側にとって、か?」
「そうね。貴方の説得は魔王様直々に私に課せられた使命なの。それなりに責任もあるのよ」
「そう言われてもな。誰が味方か、誰が敵か、そんなことは俺様が勝手に決める事だ」
「ぐぬぬ……とにかく、せめてこの辛気臭いダンジョンから出てもらわないと話になんないのよね……」
腕組みしたまま、並びのいい歯で爪を噛みつつ、悩ましげにふよふよと中空を羽ばたくカーミュラ。
大陸最強のアンデッドとか、前のリッチの異名をそっくりそのまま受け継ぐ事になってしまった俺も俺でお笑いなものだが。
「おい。爪を噛むなよ。行儀悪いぞ」
「うっさいわね」
「ヴァンパイアは年を取りにくいと聞いたが……どうやら精神年齢も外見相応なのか? クイーンという格は確かな様だが」
俺は腰に手を当て、たった今気が付いた純粋な疑問を口にする。
「……そう言えば、だいたい何故貴様は聖鎧の効果を受けなかったんだ? あんなもん、ヴァンパイアでもマトモに抱えて持ち運べるシロモンでも無いようだが」
「アンタには関係ないでしょ。色々と事情があんの。……全く、こっちの気も知らないで。どうしてやろうかしら」
「諦めの悪い魔王軍四天王がいたもんだな」
「アンタがそれ言う? 頑固なのはそっちの方なくせに」
「そもそもなんで高位のヴァンパイアがこんな、押しかけ勧誘セールみたいな事やってるんだ。一般共通認識通り人間を襲って血吸っていれば良いものを……」
「悪かったわね。少なくともアンタみたいな歳こいてアンデッド化した奴の腐った体液よりマシですよーだ」
「なっ……お前いくらなんでも言って良いことと悪い事が有るだろうが!」
「へいへい」
仕方無さげに嘆息するカーミュラ。
地上に降り立った彼女は、頭一つ分背の高い俺を見上げたまま、
「ま、また来るわ。時間はたっぷりある訳だし。
アンタもチマチマダンジョン増築したいなら、畑でも育てたほうがよっぽどやり甲斐あるわよ。じゃあね」
そんな捨て台詞を吐いて、彼女はまたテレポートで消えた。
「全く……しかし、最後に地味に痛いとこを突かれたな」
去り際の最後の一言が、えもいわれぬ後味となって俺に刺さった。
……。
確かに。
ダンジョン運営の他に、やることを見つけるいい時期かもな。
「……畑。畑、か……」
魔王軍に関わるかどうかは、ひとまずさておき。
それは後で考えるとしよう。
まあ、取り敢えず────
「──このやたら眩しい鎧、持って帰ってくれたら良かったんだが」