魔王軍から幹部待遇でスカウトが来たけど、丁重にお断りする話。   作:セカンドオピニオン

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日間ランキング透明7位、ルーキー日間入りも果たさせていただき、ありがとうございます。
色付きに昇華できるよう、頑張らせていただきます。




第3話

「……ちょっと待って。前来たときと色々違ってない?」

 

 何度目かになる訪問。

 最深部に踏み入った彼女がそんな素っ頓狂な声を上げたのは、あの一件から更に数週間経っての事である。

 

 彼女の去り際のセリフに、ある事を思いついた俺は、あの一件からさらに、再び良く分からない武器を手に押しかけてきた彼女を言いくるめ。

 

 麦、米など──作物の苗を多分に持って来いと魔王に言えば、次は顔パスで通してやる、魔王軍に加わる事も考えてやらん事もないと持ちかけていたのだ。

 

 何処か疑心暗鬼な様子で彼女が持ってきたそれらを元に、俺は早速、ダンジョン最深部の畑の開墾に取り掛かった。

 

 とは言ってもそこは折角死んでまで得たアンデッドの力だ。

 活用しない手はない。

 疲れ知らずなアンデッドの配下たちの無尽蔵な体力と労働力にモノを言わせ、数週間ほどの突貫工事の末に、ダンジョンの地下深くに中堅の農家程の規模の耕作地を整える事に俺は成功していた。

 

 アンデッドに労働基準法など無い。

 ブラック労働万歳である。

 

 今もあっちこっちでは何十体かのスケルトンやらアンデッドグールやらが、手に手に鍬や鋤などの農具を取り、せっせと振るっている。

 奥の方ではアンデッドギガンテスと並び、全身骸骨と骨で組み上がった特殊なモンスター、スケルトンゴーレムが、敷地面積を広げる為掘削工事に勤しんでいる。

 階層内で中ボスを任せていたのをわざわざ呼び出してきたのだ。

 

 掘り出した残土を耕地に沿って整備する係のスケルトン達が、バケツを手に行儀よく列を作る。

 そのそばに待機する、シャベルやスコップを手に持つゾンビ軍。

 側から見ればアンデッドの百鬼夜行の如き有様だが、その実は至って健康的な共同作業である。

 

「……どうだ、見事なもんだろう」

「いやいやいや──ていうか、アレは何なのよ!? どうして私が持ってきた聖鎧があんな事に……」

 

 カーミュラがそう叫びつつ指差すのは、アンデッド達が働いているのとは別方向、既に畑として完成しているエリアの洞窟の天井。

 正しくは、そこに吊るし人形か何かのように無造作に天井からぶら下がっている、例のピカピカ眩しいあの聖鎧だ。

 

「ああ、あれな」

 

 日光対策に兜の上から麦わら帽子を被り、全身鎧を着込んだ俺は鍔に手を当て天上を見上げる。

 腰には作業用のエプロンを巻き付けたその姿は、ダンジョンマスターにしてラスボスのアンデッドジェネラルとしては非常にシュールな格好に違いない。

 ヴァンパイアとしてのプライド故か、きちんと美麗な身嗜みを整えたカーミュラとは皮肉にも対照的だ。

 

 ──鎧にかけられた加護の強さ故か。

 それ自体が眩く発光するその鎧は、今や人工太陽代わりとなって、光の差さないダンジョンの最深部であっても、畑の農作物達に惜しげも無く恵みの光を注ぎ続けている。

 

 土そのものは肥料代わりにダンジョンの最深部に溜まった濃い魔力を吸収している為に、作物の生育環境としても申し分ない。

 ダンジョン内の地底湖から引いた水を水路として整備すれば、簡単な畑の出来上がりだ。

 

「あんなもんどうせ装備出来んし、そもそもアレ着た奴がパーティメンバーに居たら眩しくて鬱陶しいだろう。ダンジョンでも光目掛けてモンスターが集まってくるだろうし、戦場なら良い的だ。どっかの聖堂に御本尊みたいに後生大事に祀られておくか、魔王城の宝物庫で埃被ってるくらいなら、こうして役立てた方が鎧も本望だろう」

「アンタ正気? 確かに武器や武具に頓着しないとは言ってたけど、ここまでとは……」

「ほれ、農産物だって光をたっぷり浴び、伸び伸びと育っているじゃないか。見るがいい、鎧の光は野菜の生育に良いと見えるぞ」

「ちょっと待って……いや、本当、ちょっと待って……」

 

 苦労して持ってきた貢物が、あまりにも予想だにしない使われ方をされているのに、斜め方向からショックを受けたのか。

 信じられないとでもいった風に片手で顔を覆ったカーミュラは、腰にもう片方の手を当て。

 

「まさかとは思ったけど……どこにダンジョンの奥で畑耕してるダンジョンマスターがいるってのよ」

「ここにいるぞー。更に言うが、引きこもってるくらいなら畑でも作れと提案したのはそっちなんだが」

「アンタ言葉のアヤってフレーズ知ってる?」

 

 呆れた半分、感心半分と言った目つきで目の前の光景を疲れ気味に眺めるカーミュラ。

 格の高いヴァンパイアな彼女にとっては、人間由来のこんな牧歌的な風景がそもそも珍しいのかもしれないが。

「……まあいいわ」と若干諦めのこもった言葉とともに、こちらに向き直った。

 

「そんなことより。前に言ったわよね。これ持って来させることと引き換えに魔王軍に加わる事も考えるって言ったの、忘れてないわよ」

「うむ、たしかにそう言ったな」

 

 規則正しく植えられた米の苗を指差しながら怒鳴る彼女に、量産した簡単な作りの鍬を手で玩びながら、俺は努めて飄々と。

 

「──だが加わるとは一言も言ってないぞ」

「は、はぁ!? ちょっと、騙したワケ?」

「騙すなど人聞きの悪い。確かに考えるとは言ったぞ? 考えるとは言ったがな」

 

 憤慨するカーミュラをあしらうように、ヒラヒラと手を振るい言った。

 

「……俺なりに今の自分を顧み、真剣に加入について考えた結果は……そんくらいなら他にやる事見つけた方がマシだという事だ。前回のお前の言については、素直に全く同意だな。ダンジョン運営の片手間に畑でも耕した方が、どこぞの勧誘集団であくせく働くよりよっぽどやり甲斐はあるだろう」

「か、勧誘集団……!? アンタそれで真剣に考えたなんてよく言えるわね!」

「俺はな、お前の言葉をきっかけに気づき、そして悟ったのだ。───最下層で冒険者を迎え撃つ日々を送るより、他に打ち込むべきことを見つけるべきなんだ、とな。感謝しているぞ。おかげで新しい趣味を開拓できた。程なくしたらもう一階層下に、稲作専用の階層でも設けるとしよう」

「そういう意味で言ったんじゃないし、ただの屁理屈と変わんないじゃないのそんなの!」

 

 失敬な。

 俺は更に挑発するようにちょいちょいと指をふりつつ、

 

「……まあ、今度はあれだな、更に肥やしとか集めてきてくれれば肥料になるし、軽くパシってきてくれれば作業が捗るんだが」

「アンタ馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ……!」

 

 悔しそうに歯噛みする彼女に、俺は手に持った鍬をそっと手渡す。

 

「ほれ、やる事ないならせめて耕作を手伝ったらどうだ? 土弄りもたまには良いもんだぞ?」

「イヤよ! なんで私がこんな事しなくちゃいけないのよっ。農業労働なんて、仮にも四天王たるこの私がやるとでも思ってるの!? そんなの下級悪魔にやらせるものよ」

「魔王のお使いも俺の手伝いも、結局は同じ事だろう」

「魔王様とは話が別! 大体、さっきから一々私の事を使いっ走り呼ばわりするのはやめて!」

 

 が、激しい反発の声と共にはたき落とされてしまった。

 つれないもんだ。

 ヴァンパイアクイーンの威厳とか風格とか、ちょっとはそういうものを見せていただきたい。

 なんて思っていると、胸を張ったカーミュラが側にきて。

 

「言っておきますけど、私だって魔王城に帰ればそれなりの数の配下がいるのよ! 城に待機させてる、眷属のヴァンパイアだけでも十人はいるわ。仮にもそれなりの立場の相手と会話してる自覚、ある?」

「無い」

「なっ!?」

「配下の数なら俺も負けないぞ? 今周りで働いてるゴーレム、アンデッドだけでも数百体居るが……この広大なダンジョン、その全階層内の全モンスターを、ダンジョンマスターである俺の配下とした場合……」

「話をそらさないで! どっちの配下の数が多いかとか関係ないし、そういう話じゃないでしょう今は」

「……お、見ろ! あそこの辺りなんかもう芽が出でいるぞ。やはり環境によっては、季節にかかわらず作物の成長速度が速くなる様だな。新発見だ」

「ねえ人の話聞いてる!? あと、なんならこっちだって、四天王として魔王様から大陸の四方の一角の守護を任されてるのよ! 私が直轄してる領地にだって、魔族の臣民が山ほどいるんですからね! 具体的な数は知らないけど……今度調べてきてやるんだから!」

「はいはい……」

 

 ──言う割にやたら数字に拘りますやん、魔王軍四天王さん。

 配下の数とか、それに関しては適当に言っただけなのに。

 謎に張り合ってくる彼女を見ると、苛立ちMAXと言った様子で、こっちを睨み返してきた。

 

「……アンタその目は、さては馬鹿にしてるわね?」

「いいや? まさか」

「馬鹿にしてる」

「してない」

「してる!」

「してない」

「いーや、その目は馬鹿にしてる目よ」

「言い掛かりはよすものだ。それとも何か? 馬鹿にされる様な事でもした自覚でもあるのか?」

「そうじゃなくて! 本気で言ってんのよ、さっきから黙ってれば人の事勧誘集団だのパシリだの」

「割と事実に近いぞ」

「〜〜っ!! 本っ当にナメくさった態度ね! 全くいけ好かないわ!」

 

 お〜怒ってる怒ってる怒ってる。

 放っておいたら地団駄でも踏みそうな勢いだ。

 だが、こっちが引き下がれないのもまた事実なのだから、仕方がない。

 俺は彼女に追い討ちをかけるような口調で、

 

「魔王軍なら魔王軍で、魔王軍らしい活動したらいいじゃないか。お前らもしかしてアレか、暇なのか? それとも魔王軍立ち上げたばっかだし、幹部もみんなも仲良く現場主義で行きましょう的なアレか?」

「ねえ、そこまでにしてもらえる? 私はアンタとは違って、魔王軍の幹部と言う立場にそれなりの誇りをもってるのよ。そこんとこ、忘れないでもらえるかしら」

 

 彼女のプライドが傷つくのか、それともやはり魔王とやらに対して、相当に思い入れがあるのか。

 俺の言が相当勘に障ったらしく、一段低い声のトーンでカーミュラが。

 

「百歩譲って、百歩譲って私に対するその態度は見過ごしてやるとしてもよ。魔王様と魔王軍を侮辱するのは幾ら何でも許さないわ!」

「ほほう? ならどうだと言うんだ? 大体貴様らの上司の魔王も魔王だ。言っとくが現時点での俺のお前らへの評価な、現状苗を除けば役に立たん武器やら防具やら、やたら押し付けてくる胡散臭い勧誘止まりだぞ。なんなら迷惑なレベルで」

「だ・か・ら・!! 勧誘集団言うな! 次おんなじ言葉で魔王様を侮辱するなら、今度こそタダじゃおかないわよ!!」

 

 感情の昂ぶりの現れなのか。

 深紅の瞳を燃えんばかりに輝かせ、顎をつんと上に向かせてこちらを凝視する彼女。

 それに伴い、彼女を取り巻くかのように魔力が勢いよく渦を描き始めたのがわかる。

 轟々という空気のうねりと共に、物理的な火花すら周辺にバチバチと散り始めた。

 まるでこちらを威嚇せんばかりだが、俺も俺で、ここで口をつぐむと負けた気がするので依然として煽るのをやめない。

 

「そういうアンタだって、軍に参加するガッツがある訳でもない、ダンジョンの他に行く所も無い陰気臭いアンデッドのクセに!」

「まあいいんじゃないか? それならそれで別に。

 ……もっとも、ダンジョン運営の副業で畑耕すくらいしかやる事のない奴にまでわざわざ声かけねばならん程、今の魔王軍が切羽詰まっているというなら話は別だが?」

「うるさいうるさいうるさい! ──も〜うアッタマ来たッッ!!」

 

 ついにキレたのか、バッと勢いよく右手を天上に高々と掲げるカーミュラ。

 その片手に膨大な魔力が収束していく。

 

「こうなったら強行手段よ!! 栄えある魔王軍と魔王様、そしてヴァンパイアクイーンたる私を愚弄した事、後悔させてやるわ!」

「ほーう、ちょっと煽られただけで実力行使か。魔王軍幹部にしては少々器が小さいのではないか?」

 

 無論それを目の当たりしてもなお俺がこうして悠長にしていられるのは、当然魔王の持っていた件の魔鎧を今も着ているためだ。

 凍結魔法だろうが雷魔法だろうが、それに加えてもともと勇者としての特典で魔法耐性も備えている俺には恐れるものではない。

 やれるものならやってみるがいいとばかりに余裕こいた、そんな俺の態度がなおのこと気に食わないのか、一層血が登った様子のカーミュラ。

 

「言っときなさい! 魔王様からは、

 

『現時点で幹部の中でもキレたらトップクラスに厄介』

『説得するのは良いけど、実力行使だけは絶対にやめて』

 

 ……とも言われ、恐れられた私の実力! 見せてあげるわ!」

 

 

 ……。

 ──それ普通に問題児扱いされてるだけだろ。

 などと俺が突っ込む暇もなく。

 カーミュラの手に集まった魔力は、またたく間に太陽の如き膨大な火球を形成し──

 

 

 

「……って、うおおおおおいおいおいちょい待て!! お前、まさかこんなダンジョンの中で爆破魔法を使う気か!? バカお前、そんなことしたら階層全体が崩落し──」

「喰らいなさいッ!! 『インフェルニティ・エクスプロード』ッッッッ!!」

「無茶苦茶だっ!! 退避ーッッ!! 退避ーッッッ!! うおおおおおおお───!?」

 

 

 放たれるやいなや、大爆発がダンジョン全体を揺らした──!

 

 

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