魔王軍から幹部待遇でスカウトが来たけど、丁重にお断りする話。   作:セカンドオピニオン

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最近ランキングが好調でちょっと嬉しいです。


第4話

「──リリア、この道もだ。やっぱり崩落で塞がってる」

「またなの? 前来たときと色々違ってない?」

「ああ。……マップに印をつけておいてくれ」

「アックスー、どういうことなのー」

 

 ──剣士の若者の持つ淡い光を放つ松明が、仄暗い地下道の奥を照らし出す。

 ここは、大陸最大とも言われる不死王のダンジョン。

 

 長い道のりの果てに、あともう少しで最奥というところまで辿り着いた三人組の冒険者パーティーが、あっちの道、こっちの道と順にたどってダンジョン内を彷徨う。

 幸い彼らも彼らで、脱出の際の安全弁としてテレポートの魔法を会得した魔道士を一人具備している。

 遭難したっきり戻れない可能性はかなり低いのではあるが、彼らを悩ませているのは、別の種で。

 

「数週間ほど前に、ダンジョン近辺で激しい揺れがあったらしいんだけどね。その影響か、ダンジョンの地形や既存のマッピングルートが大幅に変わっちゃって、地元の冒険者たちも皆悩んでるよ」

「迷惑な話よねえ……いわゆるなに、地殻変動とか?」

 

 若手ながら、実のところ彼らは冒険者仲間の中ではちょっと名の通る程度には知られた、エリート冒険者達である。

 

 眉目秀麗な容姿も評判な剣士の若者に、戦闘経験豊富な女戦士。

 のほほんとした雰囲気、最年少ではあるが魔法の扱いと頭の回転は随一な女魔道士。

 

 三人の中では比較的年長の女戦士が、マップを握っているもう片方の手を頬に当て首を傾げた。

 ここも世界最大規模のダンジョンということもあり、今日まで地震の影響を調べるため、冒険者ギルドが総力を挙げたマッピングを行っている。

 だが地上に近い階層はほぼほぼ被害が少なかったのに対し、奥へ奥へと向かうほど崩落、地形改変による行き止まりが増えていくようだった。

 

「ギルドの調べではそうらしいんだけどね。噂ではどっかの誰かが爆破魔法でも使ったんじゃないかって」

「爆破魔法ー?」

「あら、ユメは知ってるの?」

「まあねー。でもさ、流石にこんな狭いダンジョンで爆破魔法なんか使うお馬鹿さんなんていないよー」

「ははは、まあそれもそうか。ユメはお利口さんだなー?」

「えへへー」

 

 にこやかな表情の剣士に撫でられ、伸びやりとした口調ながら、まんざらでもなさそうな顔の女魔道士。

 仲睦まじい二人の様子を、仕方がないわねえとでも言いたげな表情で女戦士が見やったとき。

 

「……あら?」

「ん? どうしたリリア、敵か?」

「いいえ、ちょうど向こうの角の方に人影が見えた気がするのよね。見間違いかしら」

「んー。私達とおんなじ冒険者じゃないのー?」

 

 確かに、二人から離れた暗がりの向こうには人形の影が。

 道に迷ったのだろうか。

 同じところをぐるぐる回るように、一箇所を行ったり来たりしているのが、辛うじて見て取れた。

 女魔道士の意見に同調するように、剣士が明るい声色で。

 

「同業の冒険者なら僥倖だ。この先には大陸最強の不死王とも言われるダンジョンマスターが待ち構えている。ちょうど僕らも攻略に行き詰まってたところだし。挑むつもりなら力になれるかもしれない。それじゃなくてもここまで最奥まで来たなら、先に進むにあたって人数は大いに越したことはないよ」

「でもあの人、見たところソロみたいよ? こんなダンジョンの奥で、大丈夫かしら」

「言いたいことは分かってるよリリア。ここは不死王のダンジョンだ。どんなモンスターが出ても不思議じゃない……」

 

 怪訝そうな顔の女戦士に向かって頷くと、剣士は暗がりの奥に向かって視線を向ける。

 

 三人との距離はかなりあり、こちらから大声で呼びかけても声は届かないだろう。

 恐らく逆も然りだ。

 剣の柄に手を当て、剣士は二人に向き直ると。

 

「君たち二人はここで待機しててくれ。僕は向こうに回って、様子を見てくる」

「ん。了解ー」

 

 そう言い残し。

 二人から離れ、警戒を怠ることなく歩を進めた。

 潜伏のスキルを使い、しばらく暗がりの向こうへと進み……人影の輪郭がはっきりと分かる位置まで近づくと。

 素早い身のこなしで、角を曲がった先の岩陰に隠れる。

 

 懸念があるとすれば、この位置ではパーティーメンバーの二人もこちらの様子を窺えまいことだ。

 が、彼自身よほどの相手でなければ、単騎である程度は渡り合える実力はあるつもりである。

 岩陰から顔をのぞかせ、剣士は闇に向かって目を凝らす。

 

 果たして暗がりの中に浮かび上がったのは───

 

 

「……でも、そもそもアイツもアイツだわ! 向こうからアレだけ言っておいて謝らなきゃいけないのはこっちだなんて腹が立つ! ……いいえ。落ち着きましょう、ここは落ち着くのよカーミュラ、やはり間接的にでも魔王様の顔を立てるべきよ。謝らなかったら謝らなかったでまた魔王様に……ああもうどうしよう」

「……こ、これは」

 

 ──見るも可憐。

 

 ──高潔にして鮮麗。

 

 剣士をして思わずそんな印象を抱くほどの美少女が、悩まし気な様子でその場を右往左往していた。

 

「……いいえ、そうよね。やっぱりここは謝るべきよね。うん。

 ……うん、謝ろう。謝って、アイツの器が小さいとかの主張が単なる言いがかりって事を証明してやるのよカーミュラ。そうすればアイツも勧誘集団なんてフザケたこと抜かすまでもなく自分から……いいえ、そもそも人の事好き勝手な名前で呼んで、器が小さい方はアイツの方よ。……んもう、また何か腹立ってきたじゃない」

 

 女性の魅力にあふれた肢体を強調するような、華美なドレス。

 神経質そうに爪を噛む動作すらどこか艶かしく。

 

 そんな彼女の姿に目を奪われた剣士は、思わず本来の目的すら忘れ。

 

「セリフはこうね。『まさかこんなことになるなんてあの時は思わなかったんだから、許してくれたっていいじゃない』

 ──ダメね。まだ下手に出てる感じがしてイヤだわ。もっとこう、私らしく行かないと」

「……綺麗だ」

 

 いつしか警戒心すら勝手に解き、彼女の姿に見とれてしまう。

 

 

 

 そんな剣士の存在などいざ知らず。

 少女───魔王軍現四天王が一人にして迷宮崩落の主犯。

 ヴァンパイアクイーンのカーミュラは、一人せっせとセリフの練習に打ち込む。

 

「そもそも私の非をカミングアウトするみたいな出だしがまず要改良ね。そうね……。『テレポートで脱出する流れまで含めて私の実力のうちって事を見せようと思ったんだけど、とはいえやりすぎたのは悪かったわね』……うんうん、いい感じ」

 

 魔王軍幹部として招き入れるはずの相手のダンジョンを、口論の末盛大に爆破して帰った彼女。

 彼女自身はテレポートで即座に離脱したため無傷だったのだが、魔王城に帰還してからというもの依頼主の魔王に大目玉をくらい。

 思わずしゅんとなってしまっていた数週間前の自分から立ち直りかけている今、数日前に下された、先のダンジョンマスターに謝ってこいとの魔王の命令と自分のプライドとの間に板挟みにされるという、新手の屈辱に直面していた。

 

「言い方も予行練習しておかないとね。まあ、仮にも謝りに行くわけだし。……ええ、魔王軍どうこうは別として、こういうところはキチンとしておかないとダメ。ビシッて決めないと、後々また更にナメられるのよ」

 

 ……本当お前、よくわかんないところで真面目だよな。

 

 迷宮の主たるアンデッドが側に居たなら、呆れ口調でそう言うだろう。

 ……とはいえ。

 

「でもよくよく考えたら後半もイマイチな気がするのよね。ううん、自分から許しを乞うなんてのがそもそも負けよ。そうね、こんな感じどうかしら。『──私は別に構わないけどお互いどうしてもって言うなら、私の謝罪を受け入れることを許すことを許してあげても構わなくってよ』……ん。なんかこんがらがってきたわね」

 

 現在彼女の中で繰り広げられているのは、自尊心と、魔王軍及び君主でもある魔王の面子を天秤にかけた内なる駆け引き。

 絶対に譲れない一線の見極めだ。

 

 自分で自分と意地の張り合いとか、あまりにも不毛だし下らなさ過ぎるからやめろ、と。

 かのアンデッドなら更にそう畳み掛けるだろうが、実際問題彼女は至って真剣なのだ。

 魔王からの命令といえども、誇り高きヴァンパイア一族の出である彼女にとって、曲がりなりにも自分から他人に頭を下げるなど本来あってはならないこと。

 それもこの前さんざん自分をおちょくった、いけ好かない輩ならなおさら。

 

「魔王様を矢面に立たせるのは流石に気が引けるし。……そもそもアイツまだこのダンジョンにいるのかしら?」

 

 本人がダメージを受けたかどうかとは別に、そもそもあの一件でもう住めなくなって出ていったとしたら。

 

 これだけの末に目的地にたどり着いて、もしも誰も居なかったとしたら?

 

 一瞬脳内をよぎった、そんな後味の悪い考えに。

 

「……まさか引っ越してたりなんかしてないわよね?」

 

 一瞬表情を曇らせる彼女だったが、しかし。

 それを振り払うかのように、いやいやと首を横に振る。

 

「い、いいえ。ダンジョンに引き篭もるしか取り柄のないアイツに限って、そんなこと絶対にありえないわ。それに居なくなってたら居なくなってたで、アイツにとっちゃいい気味よ。謝る手間も省けるしっ」

 

 そんな形で無理やり自分を納得させた彼女は、ブツブツとセリフの暗唱を再開する。

 

 ベストなセリフの決め方の試行試作に夢中な彼女は───だが。

 

 

「……やあ、お嬢さん」

 

 彼女に声をかけるべく、ついさっきまで隠れていた岩陰から身を晒した男の気配に気が付かない。

 

 背後から数歩のところまで近づいてくる、先程まで彼女に見とれていた剣士は──

 

 

「───独りのようだけれど、もしかして君もダンジョン探索に──」

 

「ひゃうぅっ!? なななななな、いきなり何よ変態! 『コキュートス・フローズン』ッッッ!!!」

「ちょ、ああああああああ”あ”っ!!??」

 

 ───無残。

 瞬間的に氷漬けにされた。

 

「何アンタ、こ、コソコソ盗み聞きしてたワケ!? バカ、最低! 信じらんないっ! 罰としてそのままになってなさい!!」

「」

「ほんっとうにもう、びっくりしたんだから! ああもうムカつく! なんか急に色々馬鹿らしくなってきたわ」

 

 一気に不機嫌モードへと突入した彼女は、哀れ氷柱となった彼の前で腕組みし、苛立ちと不遜さを全開にした声色で。

 

「フン! やっぱり謝るセリフとかいちいち考えるだけバカバカしいわね! そうよ、謝ろうが謝らまいが、要は結果的にアイツに幹部に加わることに同意させれば魔王様にとってはおんなじ事よ! 逆にまだ居たなら居たで、もういっそのこと力づくで叩き出してやるわ!」

 

「待ってなさい!!」と怒鳴るやいなや、勢いよくヴァンパイア族特有の翼を広げた彼女の姿はまたたく間にダンジョンの奥の方へと消える。

 行き止まりになった箇所は容赦なく魔法でふっとばし。

 少しばかりのしおらしさすら滲ませていた、先程の姿はどこへやら。

 一転、破竹の気負いで進行を始める。

 

 

「」

 

 ──後に残された、剣士だったものの氷塊。

 異変を察知して駆けつけてきた残りの二人に彼が救出されるのはしばらく後である。

 

 

 ■

 

 

「『インフェルニティ・ファイアーボール』ッ!!」

 

 あの一件以来、冒険者は挑戦に訪れていないのか。

 崩落により塞がっていたままの最深部への扉が、呪文と共に盛大に吹き飛ぶ。

 もうここに至るまでの道筋を記憶するほど通っている彼女は、その威力をもって、己が魔王軍四天王が一角に数えられるほどの実力者であることを、世界に知らしめる。

 そして間髪入れず、派手なエントランスを最深部全体に響き渡るほどの大声で高々と宣言し───!

 

 

「さあ来たわよ観念しなさい! ──って、どえええええええええええええええっ!!??」

 

 

 

 ───もっとも、その最深部が、しばらく見ぬ間に。

 

 見渡す限りの巨大な温泉風呂に変わっていなければ、の話だったが。

 

 

 

「……は? は? ……えっ、ええっ!? ちょっ、待って! どういうことなのこれ」

 

 いろいろと飲み込めないままに、唖然とした表情でほとりにポカンと立ち尽くすカーミュラ。

 巨大な洞窟の大部分を占めるのは、まるでちょっとした湖ほどの規模の巨大温泉。

 なみなみと溜まった湯水はほんのりと白濁しており、入ればなかなかに気持ち良さそうだ。

 

 気持ち良さそうなのだが。

 

「前までここら一面、畑だったはずじゃ……。いや、ダンジョンの奥に畑も大概だけれど! なんでしばらく見ないうちに温泉なんかになってるのよ〜っ!!」

「ククク……流石に驚いたか、四天王カーミュラよ」

「っ!? その声は……!」

 

 立ち込める湯気の中。

 まるで様変わりしたダンジョン内の様子に驚きを隠せない彼女の、立っている向こうの岩陰から。

 

「クハッハッハっ!! 現れたな、勧誘魔改め爆破系吸血少女! 我がダンジョン最奥の間改め、地下大浴場へようこそ!!」

 

 彼女に負けず劣らず唯我独尊にして傲慢。

 洞穴内によく響く声。

 ゴーイングマイウェイを地で行く、変わり者のダンジョンマスターこと不死の鎧戦士が、高笑いしながら現れた。

 

 

 

 

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