大宇宙これくしょん   作:ダルマ

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第一話 そして彼は提督となった

 ガミラス戦争以前、国連時代に"管区"と呼ばれる括りで管理されていた国家群は、戦後の地球連邦政府発足に伴い、"州"という新たな括りに再編される事となる。

 そんな州の一つに"極東州"と呼ばれる州が存在する。

 同州は、ガミラス戦争において最も多大な貢献、もとい中心的役割を担った、前世も含め出身国である日本。

 そしてヨーロッパ州のロシアから戦後買い取り編入した、樺太や北方領土、そして台湾により形成された州である。

 

 州の規模としては小さいものの、やはりガミラス戦争の立役者にして、地球連邦樹立やガミラスとの和平締結の功労者たる日本を中心とするだけあり。

 地球連邦内における影響力は、その規模に比例ならない程強力である。

 というよりも、ガミラス戦争によって国連時代に船頭の座を担っていた大国が次々にその座から降ろされた為、戦争当時あまり矢面に出ていなかった為被害の少なかった日本が、戦後その功績も相まって主導権を振るわざるを得なかったという側面があるのも事実。

 

 実際、戦後に州への再編が行われた際、虎視眈々と復活を狙う大国達からは、日本がライバル国と手を組むことを警戒し、互いに表裏問わずけん制しあった結果、極東州に落ち着いたなんて経緯がある程だ。

 因みにその代表格が、現在地球連邦内において主要な役割を担っている七つの国家、通称"アース7(セブン)"と呼ばれている内の三国家。

 北アメリカ州のアメリカ、ヨーロッパ州のロシア、そしてアジア州の中国である。

 

 

 そんな経緯などもあり誕生した極東州には、地球連邦の首都が置かれている。

 場所は、日本。かつて、二十二世紀中期に行われた巨大土木事業、通称"バビロンプロジェクト"により埋め立てられた東京湾に誕生した巨大都市、"メガロポリス"である。

 ガミラス戦争当時、戦前の不夜城たる華やかなビル群は、人々の巨大な墓標と化していたが。戦後の復興、及び地球連邦首都という新たな役割を与えられた事により、その姿は、戦前以上の華やかさを有するに至った。

 

 まさに日本の、いや地球連邦の中心地であるメガロポリス。

 そのメガロポリス内の一角に、周囲のビル群とは一線を画す雰囲気の建物が存在している。

 漢字の山を連想させるその建物こそ、地球人類の生命や財産、そして平和と独立を守る為の一大組織、地球連邦防衛軍の総本山たる統括本部なのだ。

 

 そんな統括本部の建物内には、地球連邦防衛軍の各部門が設けられており。

 その内の一つに、地球連邦防衛軍の中核たる宇宙軍、同軍の管理等を担当する宇宙軍幕僚本部がある。

 

 同組織の長は宇宙幕僚長と呼ばれ、即ち宇宙戦士たちの最高位となる。

 

 そんな名誉ある職に現在就いている者こそ、今、目の前にある自身のデスクに置かれた書類に文句を垂れ流しながらサインしている人物。

 国連宇宙軍時代よりガミラス戦争を経て、今や地球連邦防衛軍の重要ポストにまで上り詰めた、近藤 智流(こんどう さとる)宙将(大将)である。

 

「全く、沖田や土方の我儘にも困ったものだよ。任官してからはそんな機会なんてもう巡ってこないと思っていたが、まさかこの歳になって、こうしてまたあの二人の我儘に振り回されるとは、思ってもいなかった」

 

 日本を代表する宇宙戦士、ガミラス戦争においてイスカンダル航海の司令官を務めた沖田 十三宙将や、沖田宙将と宇宙防衛大学の同期であり親友でもある、"鬼竜"の異名を持つ土方 竜宙将。

 そんな二人の宇宙戦士と宇宙防衛大学の同期であり、かつ同年代の卒業生の中でも近藤宙将を含めた三人は際立っていた事から、"三二期生の三羽ガラス"と呼ばれていた。

 

「沖田の我儘はまだ理解できる。遊星爆弾症候群の療養の為に予備役になったのだから、致し方あるまい。……しかし、土方の奴は我儘だとは思わんか? 沖田や自らが育てた宇宙戦士を見守りたいからと、宇宙連合艦隊司令官に任命してもらうべく嘆願書まで出していた。しかも、私を宇宙幕僚長に推薦する推薦状までセットにしてだ」

 

「それは、土方宙将が近藤宙将の能力を買われたからでは?」

 

「いや、土方の奴は在学中からこうした細々した事務作業は苦手だったし、それに文官ともあまりそりが合わんかったからな」

 

 因みに、そんな近藤宙将は、沖田宙将や土方宙将に比べると、両宙将が纏っている覇気というものがあまり感じられない。

 だからであろうか、寄る年波には勝てず白髪交じりの髪に刻まれたしわ、それらを備えた素朴な顔は、宇宙戦士たちの最高位に就く人物とは思えず。

 どこか、近所の優しいおじいちゃん、のような雰囲気を感じさせる。

 

 故に、その物腰柔らかな性格なども相まって、近藤宙将は"仏の近藤"の異名を持つに至る。

 

 なお、これとは別に、かつて近藤宙将は、一時軍からの退官を考えていた時期があったそうだ。

 その際、退官した後は、実家のパン屋を継ぐと周囲に話していたが。その直後、第二次内惑星戦争が勃発し、結局近藤宙将は退官する事なく現在までも現役の宇宙戦士として職務に精進している。

 この時の逸話が元で、一部から"パン屋の二代目"とのあだ名で呼ばれるに至ったそうな。

 

「ま、しかし。今更愚痴を言った所で、仕方があるまいな」

 

 さて、そんな近藤宙将の愚痴も終わった所で。

 先ほどから近藤宙将の愚痴を聞かされていた俺の自己紹介を遅ればせながら行いたいと思う。

 

「所で、和泉三佐」

 

 と思った矢先、近藤宙将の口から俺の官姓名が飛び出した。

 

 詳しく紹介すると、俺の名前は和泉 弓弦(いずみ ゆずる)、階級は三等宙佐(少佐)、年齢は二七歳。性別は言わずもがな、男性。

 容姿は、宇宙防衛大学の在学時に先輩から言われた通りなら、ギリギリ上の下、らしい。

 現在の肩書は、宇宙軍幕僚本部作戦部第一課、である。

 

「君は、作戦一課に異動する前は"英雄"勤務だったそうだね」

 

「はい」

 

 近藤宙将の口から出た俺の前職、それは、沖田宙将の名を一躍知らしめる事となる、ヤマト就役以前、ガミラス戦争で当時の国連軍が大勝利した力2号作戦の際の艦隊旗艦。

 それが、M-21741式金剛級宇宙戦艦九番艦、BBS-559 英雄、である。

 

 同艦は二一六十年代に国連で推進された、共有の基本設計を採用し、相互運用能力を向上、また建造にかかるコストの削減を目論んだ、共同計画。

 提唱国のイギリスが建造した一番艦の名をとって"マジェスティック計画"と呼ばれる計画において、日本が独自の設計などを加えた上で採用し建造した金剛級宇宙戦艦の最終九番艦である。

 二一八十年代に勃発した第二次内惑星戦争の直前に就役した同艦は、第二次内惑星戦争において活躍して以降、近代化改修を受けつつ、ガミラス戦争を戦い抜き。

 戦後の現在は、退役した後、記念艦として第二の人生を歩んでいる。

 

 因みに、同型艦の中には"霧島"も存在しており。

 オリジナルとリメイクで同じ役割を担った艦が両立しているという事実は、この世界が純粋な宇宙戦艦ヤマトの世界ではないと、俺に気付かせてくれた要因の一つともなっている。

 

 また、前世の命名感覚を持っている身としては、金剛級の同型艦に"英雄"とか鳥海に代わって"三笠"とか名付けられているのは、違和感しか覚えないが。

 どうやらこの世界では、この命名感覚が当たり前のようだ。

 

「という事は、君は私達三二期生の三羽ガラスのもとで育った、数少ない宇宙戦士という訳だ」

 

「そうなります」

 

 宇宙防衛大学在学時代、土方宙将は俺の教官であった。英雄勤務時には沖田宙将のもとで働いた。

 そして現在、近藤宙将のもとで働いている。

 

 直接ご指導ご鞭撻されたのは、厳密に言えば土方宙将だけのような気がしないでもないが。

 ま、ここは近藤宙将の言われた通りにしておこう。

 

「そうかそうか、それは珍しいな。……では、珍しいついでに、珍しい役職というものに興味はないかね?」

 

 そう言うと、近藤宙将は徐にデスクの上に置かれていた書類を俺に差し出す。

 受け取った書類の表紙には、人事異動、の文字が大きく書かれている。

 

 恐る恐る表紙をめくって中身を確かめてみると、そこには、間違いなく俺の名前と共に、俺の異動通知が書かれていた。

 

 その内容とは、宇宙軍の根幹たる宇宙連合艦隊或いはナンバーズ・フリートとは別の実働部門。

 華々しいナンバーズ・フリートと比べると華やかさに欠け、地味との印象さえ持たれている組織。

 

 その名を、空間護衛総隊。

 

 そんな空間護衛総隊内に、最近新設された部隊がある。

 その名を、"ワルキューレ"。由来となったのは、もちろん北欧神話に登場する女性のみの軍団である。

 

 この部隊、一体どんな部隊なのかと言えば。所謂、艦娘運用部隊だ。

 この世界における艦娘とは、ガミラスとの和平締結に伴うガミラス側からの技術供与により誕生した、ヒューマノイド型ドロイドAI運用戦闘艦を差し。

 その中核たるドロイドは、ガミラス型人工頭脳搭載自律機械、所謂ガミロイドをもとに、地球型の人工頭脳及び、地球人の女性体の外見を有している。

 

 因みに、何故ドロイドの外見が女性体だけなのか。

 一説では、参考としたガミロイドが女性体であったからとも、或いは、防衛軍のお歴々が浪漫を分かっていらっしゃる方々だったから、とも言われている。

 なお、俺としては個人的に後者の説を推したいと思う。

 

 なお、部隊にワルキューレの名称が用いられたのは、戦乙女たる艦娘の運用部隊だからに他ならない。

 

「君も知っての通り、ワルキューレは艦娘と呼ばれるヒューマノイド型ドロイドによって運用される戦闘艦を中核とする部隊だ。だがその特殊性故に、ナンバーズ・フリートには組み込まれず、独自の部隊として集中的に運用されている」

 

 元々艦娘は、対深海棲艦用に開発・配備されたものではない。

 元々のプロトタイプたる存在は、ガミラス戦争当時、ガミラスとの戦闘で減少の一途を辿っていた優秀な宇宙戦士の代行として戦闘艦を運用する、無人艦隊化構想をもとに開発されたものである。

 しかし、結局ガミラス戦争当時の国連軍は、この無人艦隊構想を実現する事はなかった。

 

 理由としては、当時国連軍内に蔓延していた艦隊保全主義に伴う使い捨て用途の無人艦運用への拒絶反応などだ。

 当時、地球の輸送網は散々たる状況で、太陽系内から地球への輸送網は、ヤマトが太陽系内のガミラス戦力をほぼ撃退するまで常にガミラスの目が光っていた状況であった。

 そんな中で、人員の問題を解決した所で、送り出しても物資が枯渇し新造艦等作れず、結局後が続かず、また勝てるとも限らない戦力を整備して何になるか。と、結局この構想は頓挫する事となった。

 

 だが、この時の経験は、後に役に立つこととなる。

 

 それが、ヤマトがイスカンダルからの帰路の途中、接触し砲火を交える事となった新たなる外宇宙勢力。

 平和の世の訪れを喜ぶ暇もなく、地球人類に新たなる戦乱の嵐が迫る事を否応なく示し、昨日の敵、ガミラスとの和平締結にも大いにその切っ掛けを作ったといってもよい存在。

 その名を、白色彗星帝国ガトランティス。

 デスラー独裁体制時代のガミラスと勢力圏をかけて争っていた、強大な星間国家の存在であった。

 

 この白色彗星帝国の存在に、地球連邦防衛軍は同国に対抗し得る戦力の整備計画を進める事となる。

 それは、所謂ハイローミックス構想に基づく計画で、ガミラス戦争により整備し得る人的資源が限られる中にあって、省力化や無人化を組み合わせての早期の戦力化を目的とした構想計画である。

 具体的には、従来通りの人間中心の有人艦をハイと位置づけ、AIにより運用される無人艦をローと位置づけた、融通の利きにくい命というものの重さを価格としたものである。

 即ち、無人艦は艦隊としての矛でありながら、貴重な人的資源の宝庫たる有人艦の盾としての役割も担う。という位置づけだ。

 

 現在、この構想計画に基づき、地球連邦防衛軍では有人艦四、無人艦六の割合で戦力化を進めている。

 だが今後、整備し得る人的資源の向上が見込める中・長期的には、その割合を逆転させる方針であるとも伝えられている。

 やはり、有人艦が持つ独特の器用さや利便性を無人艦で再現するには、限界があるという事なのだろう。

 

 そして、この計画構想を実現させる為の要、ともいうべき無人艦の中枢ユニットとして、再び日の目を見るようになったのが、艦娘である。

 

 ガミラス側からの技術供与により、国連軍時代よりその性能を向上させ、より完成度を高められた艦娘は、まさに新たなる地球連邦防衛軍の顔になる、筈であった。

 だが、その矢先、艦娘達にとって最大の敵が現れる事となる。そう、"コスト"だ。

 艦娘はその性能の高さゆえに、製造コストもガミロイドや、ナンバーズ・フリート等地球連邦防衛軍の部隊で大々的に採用されたアナライザー型AIユニットに比べ割高で。

 結果、数百隻単位で調達される整備計画の要たる無人艦の中枢ユニットとして採用されたのは、性能は艦娘に劣るものの、前記のようにコスト面で優位にあったアナライザー型AIユニットであった。

 

 なお、余談ながらこの採用競争、艦娘では部隊や艦隊内の風紀が乱れるなどの意見が多数上がったから艦娘が不採用となった、との噂話がながれている。

 

 噂話の真相は兎も角。結局、日の目を見れるようになったと思ったら、また日陰者になってしまう。

 そう思われた矢先、捨てる神あれば拾う神あり。救世主が現れる。

 それが、現空間護衛総隊司令長官の大澤 喜三郎(おざわ きさぶろう)宙将(大将)だ。

 

 その仕事量に比例して、ナンバーズ・フリートと比べると人員も予算も潤沢とは言えない同組織。

 そんな組織の長が何故、艦娘に目を付けて自らが長を務める組織で大々的に採用する事となったのか。

 

 大澤宙将曰く、女神(艦娘)達の加護が付いてると拍が付けば、若い宇宙戦士達の異動願いがわんさか来るだろう。

 

 と、あまり実用面を考慮したとは思えないお茶目な理由が挙げられるが、結局のところ、真相は本人が語らない以上闇の中だろう。

 

 そんな経緯で、ワルキューレは誕生し。

 現在、太陽系内外に広がる航路の安全などを、日夜守り。

 宇宙海賊や反地ガ同盟を掲げるガミラス内の旧デスラー政権支持派、更には白色彗星帝国。

 そして、成り行き的に戦う事を余儀なくされた深海棲艦と、様々な敵対勢力と激しい生存競争を繰り広げているのである。

 

「君も知っての通り、現在ワルキューレは規模の拡大に伴い指揮官人員を多く募集している。……そこで、大澤君から是非とも君に来て欲しいと、私に直接連絡があってね」

 

 そんな訳で、現在地球連邦防衛軍内で一番多忙ではないかと思われるワルキューレは、対応能力を強化すべくその規模を拡大しているのだが。

 操艦に人員は必要ないとはいえ、やはりそれらの(ふね)を指揮し、任務を成功へと導く指揮官、即ち"提督"は必要不可欠である。

 だが、ガミラス戦争により減少した人員、特に指揮官という重責を担える人員の不足は地球連邦防衛軍全体が抱える問題の一つであり。

 各部門ごとに、多少基準に満たなくとも、能力的に多少疑問が残るとも、人材登用しているという事例は珍しい事ではない。

 

 しかし、俺の場合は少々事情が異なるようだ。

 

 というも、実は大澤宙将、所謂三二期生の一つ後輩、三三期生であり、先輩にあたる近藤宙将達とは気心の知れた仲である。

 その一方で、大澤宙将は俺の宇宙防衛大学在学時代の教官で、教官の中でも仲が良かった人物でもあった。

 そして、教官時代の大澤宙将は、俺にこんな言葉をかけていた。

 

 ──俺がもし、将来重要ポストの座に就けたら、お前を部下として引っこ抜いてやるからな。

 

 あれは冗談だと、思っていたのだが。

 

「という訳で、和泉"二佐"。新天地でも、頑張ってくれたまえ」

 

 どうやら、あの時の言葉は、本気であったようだ。

 でなければ、直属の上官である一課長からではなく、近藤宙将から辞令を直々に伝えるなんて事もないし。

 異動に伴い、俺の階級が三等宙佐(少佐)から二等宙佐(中佐)に昇進する筈もない。

 

「ん? どうしたのかね?」

 

「……は、はい! 謹んで、拝命いたします!!」

 

 そして、ふと我に返り、慌てて復唱を唱えると。

 その瞬間から、俺は宇宙戦艦ヤマトの世界で、艦娘を指揮する提督の肩書を手に入れる事となった。

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