「では、こちらが、今回提督の麾下となった艦艇のデータとなります」
「うん、ありがとう」
「既に運用に必要な物資や警備人員等は、先行してタウイタウイ泊地に向かっていますので、現地で合流する事になります」
「分かった、ありがとう」
大淀から手渡されたタブレットには、現在俺の麾下となっている艦艇の詳細なデータや、人事、それに今後の根拠地となるタウイタウイ泊地の情報等が細かく表示されていた。
明石を引き連れ艦橋を後にする大淀を他所に、俺は、現在の戦力たる艦艇のデータに目を通してゆく。
現在乗艦している神風の他には、BAC-CAS-J728を始めとするM-21701式村雨改級宇宙巡洋艦の無人艦が四隻、M-21881式磯風改級突撃宇宙駆逐艦の無人艦、BAC-TB-J353からJ358までの六隻、合計十一隻が、現在俺の麾下となった戦力の全てだ。
全て基本設計はガミラス戦争以前のものではあるものの、全てタキオン式次元波動エンジンの搭載に伴う近代化改修を施された型であり。
その性能は、近代化改修以前の型を凌駕している。
これならば、とりあえずは小規模程度の部隊や宇宙海賊位なら、自己解決は可能だろう。
次いで操作し目にしたのは、タウイタウイ泊地の情報。
どうやら、拠点防衛用に惑星の静止軌道上には戦闘衛星が配置されているようだ。
他にも、防衛用に一通りの各種戦闘設備が配備されている。
次に目にしたのは、惑星タウイタウイの歴史であった。
どうやら、ガミラス統治時代に同惑星は犯罪者などを収容する為に用いられた、所謂流刑の星であったようだ。
地球側権利が譲渡される前に、同惑星に収容されていた犯罪者は全員他の収容惑星に移送させられ、今は、元収容施設を再利用してタウイタウイ泊地となったようだ。
「司令官、間もなくワープ開始よ」
「あ、分かった」
「各艦ノワープ座標確認、異常アリマセン」
「エンジン、出力上昇中」
「艦内各員へ、本艦は間もなく冥王星沖へのワープを開始します。ワープに備え、各員、所定の位置へ」
神風の艦内アナウンスが響いた後、遂に、ワープの開始を告げるカウントダウンが始まる。
「カウント開始、10、9、8、7……」
俺も、シートベルトを着用し、ワープに備える。
「3、2、1……」
「全艦、ワープ開始!」
刹那、部隊の進行方向上に空間の歪み、ワームホールが形成され、全艦が、吸い込まれるようにワープを開始した。
「ワープアウト、確認」
「艦内各部、確認、異常アリマセン」
「エンジンモ異常ナシ」
「随伴艦ノワープアウトモ確認。座標誤差、許容範囲内」
「随伴艦各艦ノ異常モ確認デキマセン」
無事に最初のワープを終え、特に問題も確認されず。
船体に張り付いていた氷が尾を引きながら、部隊は、次のワープ開始宙域を目指し艦首を進めた。
地球から目的地である惑星タウイタウイまでの移動工程は以下の通り。
先ずは地球沖から冥王星沖へ最初のワープを実行し、次に、冥王星沖から太陽系外へと二度目のワープを実行。
更にそこから、ガミラスから権利を譲渡された亜空間ゲート、所謂ゲシュタムゲートを使用し、一気にスールー星系外縁へと飛び、最後に、惑星タウイタウイ沖へのワープを実行して到着となる。
タキオン式次元波動エンジンが実用される以前なら、一体どれ程の年月をかけて移動していた事か。
現在では、タキオン式次元波動エンジンの実用によるワープ航法の確立や、亜空間ゲートの使用により、移動日程は数日、亜空間ゲートを使用しない場合でも、二週間程度で移動可能となった。
「提督、ガミラスの定期船カラ入電、貴隊ノ無事ノ航海ヲ祈ル、以上」
「司令官、返信はどうする?」
「こちらも、貴船の航海の無事を祈る、と」
「了解」
途中、ガミラスの定期船とすれ違うなどした後、無事に第二ワープ宙域へと到着すると、二度目のワープを実行した。
「管理局ヨリ返信、ゲートヘノ進入許可、出マシタ」
「では、全艦、ゲート進入!」
亜空間ゲートへと進入した神風以下十一隻は、暫し、宇宙空間とも異なる幻想的な空間を進む事となった。
「それじゃ司令官、そろそろ食堂に行きましょうか」
「ん、そうだな」
操艦を妖精さんたちによるオートパイロットに切り替えた神風と共に、艦橋を後にすると、神風の食堂に足を運ぶ。
食堂には、既に立花一尉達や大淀と明石等の補佐スタッフの面々が集まっていた。
「和泉二佐、二佐も食事ですか」
「うん、まぁね」
「じゃ、提督、食事前に私と"上下運動"してひと汗かきますか? 空腹は最高の調味料って言いますし」
「はい明石、これ食べて黙ってようね」
「うごご、うご、うご」
あぁ、余計な事を言った明石が、お仕置きとばかりに大淀から口にコロッケを突っ込まれている姿が見えるが、今は見えないふりをしておこう。
「さ、神風、目の毒だからなるべく見ないようにしよう」
「そうね」
こうして神風と共に目の毒を避けながら、食堂の壁に架けられているメニュー表を眺めて、どれを食べようかと悩み始める。
本来、無人艦には食堂なんて設備は必要ないのだが、一部の無人艦には、このように食堂が設けられている。
特に、艦娘運用艦には常設している事が多く、これは、軍という組織の中で数少ない娯楽の一つである食事を通じて、艦娘とのコミュニケーションを促進させる為だ。
因みに、食堂の人員は妖精さんながら、調理はヤマトで試験的に導入され、現在防衛軍艦艇の標準装備となった
「神風は、食べたいもの決まった?」
「私は、土星キノコと金星チーズの遠赤外線パスタを頼むわ」
「じゃ俺は、月見卵と木星豚の
注文が決まれば、カウンターの妖精さんに注文を伝え、暫く待てば出来立ての料理が目の前に姿を現す。
料理が乗せられたトレーを持って席に着くと、料理が冷めないうちに、口に運ぶだけだ。
「いただきます」
神風と重なるように挨拶を終えると、箸を手に、
「ふふ、司令官、リスみたいね」
「本当ですね」
と、隣でその様子を見ていた神風の言葉と、そんな彼女の言葉に同意する立花一尉の言葉に、膨らんだ頬が赤くなる気がした。
「赤くなったら、何だかたまぶ……」
「はいはい、黙ってようね、明石さん」
因みに、立花一尉の肩越しに、先ほど以上のコロッケを突っ込まれている明石の姿が見えたような気がしたが、絶対気のせいだろう。
こうして、移動日程を消化する間、これから共に任に当たる皆との交流を行いながら、順調に目的地への移動を進め。
やがて、部隊はスールー星系外縁宙域へと到達した。
「司令官、あと一時間程で最後のワープ実行宙域に到着するわ」
「了解、ふぅ……もうすぐやっと、地に足を付けられるな」
艦橋で神風からの報告を聞きながら、俺は出港して以来、久々に大地に足を付けられる喜びを漏らす。
英雄勤務の時以来、久しぶりに文字通り、艦に缶詰となった生活は、思っていた以上に精神的な疲労を蓄積させたようだ。
やはり一度
等と、年配のような衰えを内心愚痴っていると、不意に、レーダー員を務める妖精さんが声を挙げた。
「艦長、長距離レーダーニ感」
「え? 何? 敵?」
「
「数は?」
「六ツデス」
「直ぐに確認を急いで!」
「了解」
慌ただしくなる艦橋内、と同時に、今まで漂わなかった緊張感が漂ってくる。
そしてそれは、俺の脳裏にも漂い始めた。
正体不明の六つの光点、
宇宙海賊、ガトランティス、それとも地球や現政府を敵視するガミラス旧体制派、或いは、深海棲艦。
それら何れかと遭遇したとなると、砲火を交えずにはいられない。
しかし、何らかの事故で機器が故障し漂う、航路から外れた民間の艦船、或いはガミラス艦、という可能性も完全に排除はできない。
が、次いで告げられた報告の内容を聞き、そんな楽観的な可能性が微塵もない事は決定された。
「エネルギー波形、形状解析、完了。識別確認、アンノウン、深海棲艦ト確認」
「艦種識別完了、六ツトモ、駆逐イ級デス」
が、詳細な相手の正体が告げられるや、少なからず、肩の荷が下りてゆく。
深海棲艦と一言で言っても、ゲーム同様、駆逐艦から戦艦まで、様々な艦種が存在している。
そんな中にあって、駆逐イ級は、深海棲艦の艦級の中でもピラミッドの最下層に位置する、ゲーム同様雑魚敵だ。
「駆逐イ級はノーマルか? それともエリート、或いはフラグシップ?」
「強化型ノ特徴ハ確認デキマセン。ノーマルト思ワレマス」
だが、そんな雑魚と侮っていては、痛い目を見る事もある。
艦娘にも、その練度を数値化し可視化する事で運用効率を向上させたように、深海棲艦にも、ゲーム同様、エリートやフラグシップと呼ばれる性能強化型が存在している。
しかし、幸いな事に、どうやら今回遭遇したのは皆ノーマル型のようだ。
モニターに映し出されたのは、宇宙空間を航行するにはあまりに不釣り合いな、そして古臭い水上艦艇の外見を有した六隻の駆逐イ級。
二十世紀、英国海軍が建造・配備した、個艦名が全て頭文字"E"から始まるので"E級駆逐艦"とも呼ばれた、エクリプス級駆逐艦。
中身は全くの別物なれど、E級駆逐艦と瓜二つの外観を有した駆逐イ級は、単縦陣の陣形で俺達の部隊へと接近してくる。
「四時ノ方向、敵艦隊トノ距離、九万宇宙キロ。敵艦、速度二七宇宙ノットデ接近中」
「司令官、どうするの?」
相手は六隻、対してこちらは十一隻。しかも、こちらには巡洋艦や戦艦もいる。
数でも性能でも、こちらが有利。ならば、後顧の憂いを断つ意味でも、ここは一戦交えるのみ。
「神風、本艦はじめ僚艦全艦、実弾は十分量搭載してる?」
「えぇ、勿論よ」
「よし、なら! 着任前にひと暴れするか!」
「あら、司令官って、意外と肉食系だったのね」
「え?」
「肉食系と聞いてやって来ました! さぁ提督、戦で高ぶったその感情を、この私の身体に思う存分……ぐふっ!!」
「申し訳ありません。直ぐお邪魔にならないよう、所定に位置に急ぎます」
一体どれ程の地獄耳なのかと疑いたくなる明石と、プロも顔負けなんじゃないかと思う程豪快なリバーブローを炸裂させた大淀の、二人の艦橋乱入の件は脇に置いておいて。
二人が去ったのを確認すると、俺は指示を飛ばす。
「総員戦闘配備! 全艦、戦闘配置! 接近中の深海棲艦艦隊を迎撃する!」
「司令官、戦術はどうするの?」
「正面からでもいいが、ここは、指向可能な砲火力を生かす為に同航戦を仕掛ける。面舵三十! 全艦、砲撃戦用意! 右舷波動防壁展開!」
「さぁ、皆、第一種戦闘配備! 合戦用意よ! ついてきて!」
「オモォォカァジ!」
神風始め、十一隻が一糸乱れぬ艦隊運動を行う。
神風の後に続くのはM-21701式村雨改級宇宙巡洋艦の無人艦四隻、全艦、右舷方向に主砲を向け照準を合わせる。
M-21881式磯風改級突撃宇宙駆逐艦の無人艦六隻は、本体とも呼べる神風先頭の陣を守るように、上下に展開している。
一方、敵駆逐イ級の六隻も、こちらの誘いに乗るように、こちらと同じ方向のまま進路を変更する気配はない。
「敵艦隊、間モナク射程圏内二捉エマス」
敵艦からの砲撃はまだない、射程は、こちらの方が勝っている。
やがて、モニターに補足の文字が表示される。
「照準、ヨロシ」
「全艦、全砲門開け! 撃てぇ!」
「やります、撃ち方、はじめ!!」
俺の射撃命令と共に、神風はじめ、十一隻の主砲が火を噴いた。
幾つもの青白く輝く光線が六隻の駆逐イ級目掛けて宇宙をかける。
刹那、二番手を務めていた駆逐イ級が火を噴いた。だがそれは、反撃の炎ではない。
その証拠に、二番艦は戦線を離脱するも、その直後、大爆発を起こし宇宙の塵となった。
「敵二番艦、撃沈」
「よし、敵がこちらを射程内に捉える前に、この調子で可能な限り叩く!」
「追い込むわよ、てぇ!!」
第一斉射により味方を一隻失うも、駆逐イ級は回避行動をとりつつ距離を詰めてくる。
刹那、第二斉射が行われるも、回避行動が功を奏したのか、落伍した艦は一隻も出なかった。
見敵必殺、理想はまさにそうなのだが、やはり現実はうまくいかないもの。
最大有効射程距離に近いという事もあるのだろうが、やはり練度も問題か。
まぐれ当たりで敵を一隻を仕留めたが、その後は、なかなか敵艦の船体を捉える事は出来ない。
だが、どれだけ下手な腕前でも、対象との距離が縮まれば縮まるほど、命中する確率は高くなっていく。
互いの距離が縮まるにつれ、敵艦の船体を青白く輝く光線がかすめる回数が増えてゆく。
「敵四番艦、命中、航行不能ニ陥ッタ模様デス」
そして、遂に二隻目の落伍艦を出す事に成功する。
一方で、敵からの反撃はまだない。
まさに、アウトレンジによる一方的な展開、それはまるで射撃訓練のようにも思える。
──メ号作戦に参加したガミラス軍の軍人たちも、今の俺と同じように、この一方的な展開に、何処か空虚なものを感じていたのだろうか。
モニターに映し出された戦況を眺めつつ、そんな思いをはせていると。
「敵艦、発砲ヲ開始!」
遂に、敵が俺達を射程内に捕らえたようだ。
「きゃっ!?」
「っと!」
「状況は!?」
「展開シタ波動防壁ニヨリ被害アリマセン、外殻装甲モ損傷見ラレズ」
刹那、神風の船体に衝撃が走り、小刻みに揺る。
直ぐに神風が状況報告を促すと、報告された内容を聞き安堵する。
どうやら、展開している波動防壁は正常に機能しているようだ。
「BAC-CAS-J728、被弾確認。ナレド、損傷ナシ」
そして、それは僚艦も同様のようだ。
「神風、波動防壁だって無敵の盾じゃない、波動防壁が貫通される前に決着をつける!」
「分かってる、さぁ、畳みかけるわよ! てぇ!!」
号令と共に火を噴く神風の主砲。
それに続けと、残りの艦からも青白い火線が伸びる。
刹那、大宇宙に一つの輝きが生まれ、やがて散っていく。
「敵五番艦、反応消失」
「敵残存艦ヨリ高速物体射出ヲ確認、空間魚雷ト思ワレマス!」
「全艦迎撃開始!」
俺の号令と共に、神風の対空パルスレーザー砲塔やM-21701式村雨改級宇宙巡洋艦の艦尾二連装対空パルスレーザー砲塔が火を噴き始める。
細長く青白い光が宙域を舞い、やがて、幾つもの爆炎が生まれる。
「敵空間魚雷、迎撃ヲ確認」
「敵残存艦、速度上昇! 本艦隊目掛ケテ突撃シテキマス!!」
「死なばもろともか!? 激突される前に沈めるぞ!! 神風と巡洋艦部隊は砲撃継続、駆逐艦部隊は雷撃開始!!」
「撃てぇ!」
モニターには、残存する駆逐イ級の三隻が、艦首をこちらに向けて向かってくるのが映し出されていた。
指向可能な火力を落としてでも、被弾面積を減らすべく艦首を向けたという事は、ゼロ距離射撃か刺し違えてでも俺達を沈めたいとの覚悟だろう。
が、生憎と、こちらも昇進したばかりなのに更に二階級特進する予定など毛頭ない。
「BAC-TB-J354、空間魚雷発射」
「BAC-TB-J353、空間魚雷発射」
「敵六番艦、艦尾大破、航行不能……、ア、今、轟沈確認」
「敵三番艦、爆沈」
「敵一番艦、爆沈。反応消失ヲ確認」
そして、報告される内容を聞き、最後に今一度、問う。
「状況報告! 敵艦は全滅か?」
「敵艦、六隻トモ反応消失デス」
「本艦隊の被害は?」
「BAC-CAS-J728ガ敵空間魚雷ノ至近爆破ニヨリ損傷スルモ、被害軽微、航行ニ支障ハアリマセン」
「神風、本艦の被害は?」
「被害なしよ!」
「よし、では警戒態勢を維持しつつ、本艦隊は当初の予定通り最後のワープ実行宙域に向かう!」
「了解!」
初勝利に笑みを浮かべる神風を他所に、俺は、座っている椅子に再度深く腰掛ける。
無事に初戦闘を切り抜けた喜びを静かに噛みしめつつ、肩にのしかかっていた負担を解放させるのであった。