提督としての初陣を白星で飾り、その後、特に敵性戦力とも遭遇せず、無事に最後のワープを実行した部隊は。
遂に、目的地である惑星タウイタウイの沖合宙域に到着した。
モニターに映し出されたのは、地球同様、青く輝く星であった。
ただし、やはり表面の約九割が水で覆われている為、大陸部分は地球と比べると少ない。
「司令官、間もなく大気圏突入を開始するわ」
「うん、分かった」
「艦内各員へ、本艦は間もなく大気圏突入を行います。大気圏突入に備え、各員は所定の位置へ」
それから暫くした後、神風の艦内アナウンスが響いた後、艦橋内のランプが赤へと切り替わり。
大気圏突入のカウントダウンが開始される。
俺も、速やかにシートベルトを装着し、その時を待った。
「大気圏突入、開始します!」
そして、暫く身動きの取れない状態を経て、ランプが青へと切り替わる頃には。
艦橋の分厚いガラス窓の向こうには、地平線の彼方まで広がる大海原が眼下に広がっているのであった。
「随伴艦各艦、無事、大気圏突入ヲ確認」
「随伴艦各艦、異常、確認デキズ」
無事に全艦大気圏突入を果たし、部隊は、一路タウイタウイ泊地を目指しながら、眼下の大海原を眺めつつ航行を続ける。
「綺麗な海ね、司令官」
「そうだな」
「あ、今クジラが潮を吹いてたわよ!」
「え? どこどこ?」
このように、暫く大海原を観察して時間をつぶしていると、やがて、目的地近辺を告げる報告が飛んでくる。
「提督、間モナクタウイタウイ泊地ニ到着シマス」
「分かった。では、着水指定空域に到着次第、全艦着水開始、その後入港を開始する」
「了解よ!」
指示を飛ばして暫くした後、目印となる離着水標識を通過するや。
神風を先頭に、全艦、その船体を大海原へと着水させてゆく。
波しぶきを上げ、その船体を大海原へと預けた艦隊は、ウェーキを描きながら、タウイタウイ泊地を目指し航行を続ける。
「司令官、タウイタウイ泊地を確認したわ。これより、誘導に従い入港を開始します」
「ヨーソロー」
分厚いガラス窓の向こうに現れたのは、陸地と、沿岸部に広がる港湾施設。
そして、その奥に広がる司令部施設などの建造物であった。
建造物の中でも一際目立つ背の高い建物、おそらくあれがタウイタウイ泊地の司令部だろう。
そして、今後、俺の居城となる建物だ。
「司令官、間もなく接岸が完了するわ」
「あ、うん、分かった」
と、自分の職場の外観を眺めていると、いつの間にかタグボートの力を借りて、神風以下艦隊全艦は、指定されたバースへの接岸を開始していた。
そして、最終確認を終え、遂に接岸が完了する。
「よし、それじゃ、必要な荷物と立花一尉達と共に、俺達の新しい職場への第一歩を踏み出すか」
「なら、他の荷物の積み下ろしは妖精さんに頼んでおくわね」
艦橋を後に、一路移動中の私室としていた司令室へと足を運ぶと、必要最低限の物を入れたアタッシュケースを手に、立花一尉達のもとへと赴く。
そして、彼らを引き連れ、俺は、妖精さん達に見送られながら、タラップを下りてタウイタウイ泊地への第一歩を踏み出すのであった。
「すーっ、はぁー。ここが、俺達の新しい職場の空気か」
「澄んでいていいわね」
「確かに、まさに自然豊かって感じです」
「まさしく開放的な環境! さぞこんな環境で全てをさらけ出して大いにが──」
「はい、お静かに」
神風と立花一尉の私見の後に、何やらピンクの戯言が聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。
さ、気を取り直して、司令部へと向かうとしよう。
「あら? 司令官、誰かがこっちに向かってくるわよ?」
「ん? 本当だ」
と思った矢先、俺達のもとに誰かが向かってきているのに気がつく。
方向からして、俺達が向かう司令部からやって来たのようだ。
「よぉー、待ちくたびれたぞ」
やがて俺達のもとまでやって来たその人物は、開口一番、そんな言葉を述べるのであった。
その方は俺と同じ地球連邦防衛軍の士官用制服を着用している事から、少なくとも敵ではない事は確かだ。
焼いたのか、それとも地肌か、褐色の肌に端正な顔立ち。そして、すらりと高い背丈。
その顔つきから、少なくとも日本人を含めたアジア系でない事は確かだ。ヒスパニック系だろうか。
外見から推測するに、歳はさほど変わらないように思える。
「あの、貴方は?」
「ん? あぁ、そういや自己紹介がまだだったな。俺はダニエーレ・トッティ、階級は中佐。出身はイタリアで、所属は、あんたと同じ、空間護衛総隊のワルキューレだ」
「という事は、同じ提督、しかも先輩ですか!?」
「まぁ、そうなる」
「はじめまして! トッティ中佐! 和泉 弓弦二等宙佐、空間護衛総隊ワルキューレの一員として、タウイタウイ泊地に只今着任いたしました!!」
「……あぁ、おう」
先方が自己紹介を終え、先輩提督であると分かると、俺は、直立不動で敬礼し、着任の挨拶を告げる。
だが、返礼するトッティ中佐の表情は、どこか呆れていた。
「なぁ、イズミ、中佐」
「はい?」
「もうちょっとこう、肩の力抜いてさ、リラックスしていこうぜ」
「リラックス、ですか?」
「そう、司令長官の大澤大将みたいにさ、もっと明るく楽しくサークル活動みたいにさ!」
流石に軍の活動をサークル活動と同等にするのは如何なものか、と思いつつ。
トッティ中佐の伝えたい事を何となく理解するのであった。
「えっと、はい、もう少し砕けられるよう頑張ります」
「お、分かってくれたか! んじゃ、今後ともよろしくな。あ、そうそう、和泉って何歳だ?」
「ニ七ですけど」
「なんだよ、俺と歳そんなに変わらねぇじゃん! なら尚更、もっと気さくに喋ろうぜ。階級だって同じなんだしさ、な?」
「了解、じゃなかった、おう! って感じ?」
「ま、出来る範囲でいいけどな」
こうして握手を交わし、トッティ中佐とも多少親しくなれた所で、話題は、何故トッティ中佐がタウイタウイ泊地にいるのか、との事に。
「あぁ、司令部から頼まれてたからな、和泉達が到着するまで
「成程」
「あぁ、そうだ。物資とか警備の連中を乗せた船はもう到着してるから、後で顔合わせとくといいぞ、司令部にいるから」
「ありがとう」
「んじゃ、俺は任務完了って事で、自分の泊地に戻るわ。和泉達の星系外縁部での活躍も見れた事だしな」
「えぇ!? まさか、あの遭遇戦を見てた!?」
「ま、一応星系外縁部だったしな。……あ、まさかどうして応援に駆け付けなかったのか、なんて言わないよな。別に苦戦もしてなかっただろ?」
「ま、まぁ……」
「んじゃ、またいつか、縁があったらそん時はよろしくな」
「ありがとう、トッティ中佐」
再び握手を交わし、埠頭内の俺達のいるバースとは別のバースに向かっていくトッティ中佐を見送りながら。
俺達は、止めていた足を再び踏み出し、司令部施設へと赴くのであった。
元収容施設の再利用しているだけあって、司令部施設として用いられている建物内は、地球のものとなんら遜色ない内装であった。
そんな司令部施設のエントランスホールで、俺は、俺達の到着を心待ちにしていた人物と出会う。
「お待ちしておりました、和泉二佐。自分は、ここタウイタウイ泊地の警備を担当します部隊の指揮官を務めております、空間騎兵隊から派遣されました
艦艇勤務の制服とは異なる、オリーブドラブの戦闘服に身を包んだ目の前の男性は、綺麗でしかし豪快な敬礼と共に自身の紹介を告げた。
戦闘服のサイズが合っていないのではと思う程、筋骨隆々のその体型。
しかしながら、彼からあまり恐怖心というものを感じないのは、彼の顔のお陰だろうか。
単発に揃えられた髪形に糸目、そして、物腰の柔らかそうな喋り方が、荒くれ者を連想させる空間騎兵隊の一員とは結びつかせなくしているのだろう。
「和泉 弓弦二等宙佐です、今後とも、どうかよろしく」
返礼しつつ、挨拶を述べると、次いで、今後共に働く立花一尉達の紹介が始まる。
こうして一通りの簡単な顔合わせが終わると、不意に、舟坂一尉から俺に質問が飛ぶ。
「所で、こちらの振袖が似合う方は何方ですか?」
「彼女は神風、今のところ、指揮下にある唯一の艦娘です」
「はじめまして、舟坂一尉。神風です!」
「かか、神風……。なんて可憐で美しい名前だ」
と、神風が自己紹介を行うその様子を、何故な舟坂一尉は頬を若干赤らめて見入っている。
「神風さん! 初対面でこんなことを聞くのは失礼とは思いますが! お好きな食べ物などは御座いますか!?」
「え? ん~、そうね……」
顎に指を当て考える神風の姿を、舟坂一尉は愛おしそうに眺めているのであった。
「はいはい!! 私は汗でむれた男の身体と下半身さんが大好物です!!」
「あ、貴女の好みは聞いてませんので、黙っててもらえます」
「私は、
「成程! 答えてくださりありがとうございます!」
途中で出しゃばってきた明石には、かなり冷たくあしらったのに、神風には一言一句を感謝する。
何だろう、舟坂一尉のこの露骨な態度の違いは。
最初は艦娘の容姿に一目ぼれでもしたのかと思っていたが、明石への態度を鑑みるに、どうやら別の要因があるようだ。
まぁ、何となく想像がついているのだが、それを質問すると今後仕事に影響が出そうな気がしなくもないので、触れないでおこう。
その後、大淀のアドバイスを受け、それから数時間はタウイタウイ泊地の主要な施設の見学に費やす事となった。
流石に自前で戦力を揃えられないので造船所は無かったものの、修理などを行う乾ドックや、弾薬などを製造・貯蔵する工廠など。
航宙艦を維持・運用していくに必要な設備は設備は、規模こそ違えど、地球など主要な防衛軍拠点のものとあまり遜色はない。
また、艦のみならず、それらを動かす為の"人"を維持していく為の施設。
官舎や食堂など、必要最低限の日常生活を送る為の施設の他。
それらの施設を守るための施設もまた、併設されていた。
泊地周辺には、迎撃用のミサイル施設と数基の対空砲、そして、かつて収容者の移送に利用されていた飛行場も確認できた。
静止軌道上の戦闘衛星と相まって、航宙艦がいなくとも、ある程度の自衛能力は保有している。
ただし、大澤宙将が言っていたように。
航宙艦関連の施設以外は必要最低限が揃っているだけで、やはり、今後拡張整備などを行っていく必要がありそうだ。
そんな施設の数々を見学し終えた俺は、大小様々なモニターが設けられ、個々のオペレーター用の机が所狭しと置かれた巨大な部屋。
タウイタウイ泊地の中枢たる司令室で、地球への交信を行っていた。
交信先は横須賀基地司令部、用件は、勿論大澤宙将に到着した旨を報告する為だ。
「到着したか、和泉」
「はい、何とか無事に。それから、移動途中に発生した深海棲艦小規模艦隊との遭遇戦の戦果報告を追ってお送りします」
「ははは! 流石は俺が目をかけただけはあるな! 早速戦果を上げたか」
「偶然です」
「いや、偶然でもなんでも、戦果を上げた事に変わりはないだろ。という事で、そんな和泉の初戦果をお祝いして、俺からプレゼントだ」
「プレゼント、ですか?」
「新しい艦娘と航宙艦だ。……と言っても、型落ちだけどな。次世代型はもうしばらくかかりそうだから、それまで我慢してくれ」
「いえ、ありがとうございます!」
「到着は三日後の予定だ。それじゃ和泉、今後の活躍も期待してるぞ!」
「はっ!」
大型モニターに映し出された大澤宙将の映像が切れるや、俺は踵を返し司令室を後にすると、自身のデスクが置かれている執務室へと足を運び。
適当な場所にアタッシュケースを置くと、執務机の上に無造作に置かれた書類の束を手に取る。
「夕食までまだ少し時間もあるし、明日からの本格始動を前に、少し片づけておくか」
本当は、執務室にも置かれたダンボールの山の荷解きをするのがいいのだろうが。
本格始動すると、処理する書類の数も増えてくるので、例え提出期限までに余裕があろうとも、たまった書類は早めに片付けていった方がいい。
という訳で、椅子に腰を下ろすと、早速書類にペンを走らせる。
「あら? 提督、先ほどの遭遇戦の戦果報告書ですか?」
「うん。それもあるけど、片付けられる書類は早いうちに片づけようと思ってね」
「え!? 今ですか! まだ、提出期限まで余裕はありますけど……」
「今後時間が取れるか分からないし、時間が取れてるうちに片付けておいた方が、いざという時に楽でしょ?」
「それは、確かにそうですね」
暫くペンを走らせていると、不意に大淀が入室してきて、俺の行動に目を丸くする。
しかし、俺の説明に納得すると、暫く俺の行動を眺め続けるのであった。
「あの、大淀」
「はい?」
「あまり仕事してるところをじっと見つめられると、少し、恥ずかしいんだけど……」
「あ! す、すいません! ご迷惑でしたよね! 気が付かずにすいませんでした!」
「そんなに謝らなくてもいいよ。……所で、大淀」
「はい?」
「何か、俺に用があったの?」
「……あぁ! そうでした!」
思い出したように声をあげる大淀。
そして彼女は、自らの用件を伝えだした。
「食事会のご用意ができたので、提督をお呼びに来たんです!」
「あ、もうそんな時間だったのか。分かった、直ぐに準備するよ」
丁度区切りもついてたい所だったので、直ぐに準備を整えると、大淀に連れられ執務室を後に、一路食堂へと向かう。
食堂に足を踏み入れると、既に俺以外の全員が食堂に集まっていた。
「司令官、遅かったじゃない。さ、これを持って」
「あ、ありがとう」
「さ、提督、ステージ上に」
「え? えっと、これは一体?」
「今回の食事会、折角ですので決起集会も兼ねようと思いまして。ですので、提督にはそのスピーチをお願いします」
神風からグラスを受け取り、大淀の誘導に従い食堂に設けられた特設ステージの上へと立った俺は、暫くスピーチ内容を考えた後に、マイクの前に立つと考えたスピーチの内容を話し始める。
「今日ここに、明日からのタウイタウイ泊地本格始動に向けて各分野のプロフェッショナルの方々が集まってくださりました。本当に、ありがとうございます。そして、俺は泊地の最高責任者として、皆様からご教示を賜りながら、このタウイタウイ泊地を……」
「ていとく~! スピーチの内容が長しいガチガチに固すぎますよぉ~! そんなに長くて硬いのは、提督のしゅ──」
「貴女は黙ってなさい!」
不意に、明石と大淀の掛け合いが起こり、そして、食堂内に笑いが起こる。
明石の例えはあれだが、確かに、少し堅苦しくて長かったかもしれない。
ここは、簡潔に終わらせるとしよう。
「では、改めて。──明日からのタウイタウイ泊地本格始動、皆さんと心を一つにして、数々の任務を成功させましょう! それでは、乾杯!!」
──乾杯!!
そして、溢れた出す笑顔と笑い声。
明日以降も、この笑顔と笑い声を絶やすことなく頑張ろう。
勿論、地球の人々の笑顔と明るい未来の為にも。
そう、一人心に誓いながら、俺は手にしたグラスの中身をいただくのであった。