仮面ライダーW「Yへの想い/届かない夢」   作:アジシオ太郎

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久しぶりの投稿になります。大変長らくお待たせしました!

それと、新しくタグを一つ追加しました。


第三話「退屈なY/全てを振り切れ!」

 仮面ライダーW! 今回の依頼は、

 

 想い人「だーれ?君、」

 

 依頼人「ウソダ! ウソダドンドコドーン!!」

 

 逃亡者「奴は、折神紫の姿をした…大荒魂だ!」

 

 刑事「俺は死なない。」

 

 謎の男「フフッ…さて、次は誰に売ろうか…」

 ──────────────────────

 

 ─照井竜が風都を出る数時間前─

 

 衝撃の事実を知り、可奈美と姫和を見送った舞衣は降りしきる雨の中、折神家から来たノロ回収班に作業を任せ、ある人物と連絡を取っていた。

 

「逃走中の十条姫和、衛藤可奈美を追跡中、渋谷区代々木神園町にて荒魂と遭遇。これを両名の協力を得て鎮圧。」

 

「しかし、確保には至らず。両名共、取り逃がしました。申し訳ございません…」

 

─[居場所を特定出来ただけでもお手柄よ…貴方は戻って来て。]─

 

 自身と親友である可奈美が刀使として学び、属している美濃関学院の学長、『羽島江麻(はしまえま)』に先の出来事を隠しつつ、発見はした物の確保に失敗したと報告し、その場を後にする。

 

 ─因みに翔太郎達にも、話を聞く前に逃げられてしまった。

 

 ─刀剣類管理局・作戦司令室─

 

「はぁ…」

 

 江麻は目を閉じ、軽く溜息をつく。

 

「わたくし達親衛隊に出撃許可さえ下りていましたら…」

 

「事件発生から30時間、現状この件に関しては緘口令を敷いています。」

 

 側で舞衣の報告を聞いていた折神紫親衛隊第二席、『此花寿々花(このはなすずか)』は不満を漏らし、隣に居る親衛隊第一席、獅童真希は折神家によって召集され捜査協力をしている美濃関学院と平城学館の両学長に事件の経過報告を話し始める。

 

「御前試合に参加した刀使達も調べましたが他に共謀者は無く、どうやら両名のみの犯行と思われます。」

 

「あの子らに…一体、幾つの罪状が付くのやろねぇ。」

 

 江麻の隣に居る平城学館学長、『五條(ごしょう)いろは』が心配そうにしていると

 

 

 バンッ! 

 

 

 ドアを強く開ける音が響き、一人の女性がもの凄い見幕で怒鳴りながら入って来た。

 

 

「何をやっている、親衛隊!」

 

 

「雪那…」「雪那ちゃん…」

 

 その女性は『高津雪那(たかつゆきな)』、鎌府女学院の学長である。雪那は親衛隊と内輪揉めを始めた。

 

 状況を理解した後、舌打ちをして勝手に指揮を取る。

 

「両名の消失点周辺の防犯カメラを解析させろ。」

 

「雪那…」

 

「紫様に御刀を向けるなど…逆賊を育てた罪は重いぞ、両学長!」

 

 江麻といろはを睨み、雪那は司令室を出て行く。

 

「昔は先輩、先輩言うて可愛かったのに…いつからタメ口になったんやろねぇ。」

 

 ─

 

「沙耶香、貴方は東京に向かい潜伏中の逆賊を打ち取るのよ。」

 

「…はい」

 

 雪那は廊下で待機していた沙耶香に可奈美達の討伐を命じる。

 

「試合で敗れはしたけれど私の評価は変わらないわ…」

 

「貴方こそ我が鎌府が誇る最高の刀使、親衛隊のような試作品とは違う。」雪那は沙耶香の頭を撫で、耳元で囁く。

 

 沙耶香は無表情でありながらも、雪那の言葉にどこか複雑な気持ちでいた。

 

 ─

 

「ここで合っているのか?」

 

「うん、電話でここでって…」

 

 可奈美と姫和は舞衣から貰ったクッキーの袋に同封されていたメモに書かれた誰かの電話番号に連絡を取り、駅の階段で待ち合わせをしていた。

 

 (荷物に入ってた手紙、舞衣ちゃんの字じゃない。けど…)

 

「罠だった場合、戦闘も有り得るぞ。」

 

「舞衣ちゃんが渡してくれた手紙だから、罠なんかじゃないと思う…」

 

「あっ!」スーツを着た眼鏡の女性が話しかけて来た。

 

 姫和は警戒心からか反射的に構える。

 

「いたいた、びしょ濡れじゃない。貴方が姫和ちゃんで、貴方が可奈美ちゃんね?」

 

「は、はい…」

 

「私、『恩田累(おんだるい)』よろしくね。」

 

 恩田累と名乗る女性は二人に対し気さくに接する。

 

 彼女はハンバーガーショップの袋を二人に持たせて自身の車まで連れて行き、車中で運転しながら話しをする。どうやら可奈美と同じ美濃関出身の元刀使で卒業後も何かと恩がある羽島江麻から二人の事を頼まれたらしい。

 

 彼女の話により、クッキーに同封された手紙は江麻が書いた物である事が判った。

 

 累の自宅に到着し、今日はここに泊めて貰う事となった。入浴や食事、着替え用の部屋着から制服の洗濯まで世話になる上に何も詮索しないと言う。

 

 姫和はまだ警戒しているが彼女からは何の悪意も感じず、罠に掛けようとする素振りもない。累は明日早いからもう寝ると言って自室へ行った。

 

「良いのかな…こんな色々してもらって…」

 

「可奈美、少し良いか?」

 

 姫和は可奈美に御前試合で見た折神紫の背後に現れた荒魂の特徴等を聞き、これからどうするか話し合い、二人は眠りに着く。

 

 ─翌日─

 

 取り調べを受けていた多数の刀使達が解放され、バスに乗りそれぞれの学校へ帰って行く。任務の為、一人残る事となった舞衣は彼女達を見送る。

 

「皆、帰るんだ…」

 

「? あの子、鎌府の…」舞衣が目を向けた先には車に乗り、送迎される沙耶香の姿があった。

 

「hey!milady柳瀬!」「長船の…」

 

 先の御前試合に出場していた長船女学園の刀使二人が話しをかけて来た。二人はまるでバカンスにでも行くかの様な格好をしている。

 

「古波蔵(こはぐら)エレンデース。こっちは薫~♪」

 

「…益子薫。」

 

「任務、ご苦労様デシタ!お友達の事、心配でしょうけど落ち込まないデー!」「は…はい。」

 

「ご挨拶出来て良かったデース。私の両親と貴方のパパは、お仕事のパートナーですので。」

 

「父と?」

 

「おい、エレン…早くしろ。」薫が急かす様に言う。

 

「えっと、どこかへ?」

 

「私達、やっと自由になりマシタ!これから湘南で「仮面ライダーを探しに行くぞ!!」「ねー…ねッ!?」

 

 薫の頭上に謎の生物が乗って来た。その生物は薫の発言に驚愕する。

 

「まだそんな事言ってるんデスか?」

 

「あ、荒魂!?それにか…仮面ライダーって?」

 

 薫とエレンは試合の前日にまだ駅前に居た時、突如現れた怪人とそれを倒した仮面の男の事を話す。特撮ヒーローに憧れていた薫はその男を仮面ライダーと呼び、探しに行くと言って聞かない。

 

「あ、その事件は聞いています。古波蔵さん達もその場に居たんですね。」

 

「yes!びっくりしましたが仮面ライダー、カッコよかったデース!」

 

「俺達のこの格好で悩殺すれば怪人が釣られて、そこに仮面ライダーもやって来るに違いない…」

 

「ハイハイ、来るといいデスねー」

 

「棒読みの様に言うな!因みにこいつは俺のペットだ。」

 

「ねねは薫の友達デース。」

 

 ねねと言う荒魂らしき生物は舞衣の胸を見てそこに飛び込もうとしていた。だが、薫に尻尾(?)を掴まれ阻止される。

 

「行くぞ。」

 

「ではまた会いマショー。see you! マイマイ!」

 

 エレンと舞衣はお互いに手を振って別れた。

 

「…マイマイ?」

 

 ─

 

 昇は再び鎌倉にやって来た。何がなんでも結芽を折神家から取り戻そうとしていた。

 

「結芽ちゃんはもしかしたら、荒魂に操られてるのかも知れない…だから記憶が無いんだ。」

 

「もう左さん達の力は借りない。あんなに冷たい人達だとは思わなかった…」

 

 話は昨日に遡る。鳴海探偵事務所で昇は二人にもう一度、協力して欲しいと依頼した。

 

「お願いします!大荒魂が支配しているならあんな所に居ちゃいけない…結芽ちゃんを連れ戻したいんです!」

 

「昇、気持ちは分かる。俺達もそうしたいが…」

 

「翔太郎、僕から言うよ。」

 

 フィリップが話を遮り、昇に話す。

 

「残念だけど、これ以上僕達に出来る事は無い…君からの依頼は受けられない。」

 

「! ど…どうしてなんですか!?」

 

「僕達は警察に知り合いが居て、彼のお陰で燕結芽に会う機会を設ける事が出来た。そしてあの騒動が起きた…今後、どんな手段を講じても彼女に会うのは困難だ。」

 

「そんな…」

 

「それにこの事は国家レベルの機密事項になっているだろう…だとしたら、そこに僕達が介入すれば大変な事件に巻き込まれる。」

 

「でも…あの時、逃げていたお姉さん達を匿おうとしてたじゃないですか!」

 

「昇…あれから考えたが、俺達は一介の探偵だ。それでありながら、仮面ライダーでもある。俺達の使命はガイアメモリとドーパントの脅威からこの街を守る事だ…」

 

「うっ、そんな…うぅ…うあああぁっ!」

 

 昇は事務所を飛び出して行った。

 

「…」翔太郎は窓の方を向き、深く帽子を被る。

 

「これで良いんだ。翔太郎…」

 

 ─その経緯があり、今に至る。

 

 来たは良い物の11歳の少年に何も出来る筈が無く、昇は当ても無いまま街を彷徨う事となった。

 

 ─

 

「裏に回れ」「はい」

 

「はい、どちら様で…「警察だ」

 

 鎌倉署に派遣されて来た照井は合同捜査に当たり、最近設立された新興のカルトが本拠としている建物の住人を尋ねた。その集団は闇の商人からガイアメモリを購入しているとの噂がある。それを確かめる為、話を聞こうとすると

 

「…! け、警察が来た!」

 

 その人物が叫びを上げると左の掌に刻まれたガイアメモリを差す為の生体コネクタを見せ、上着のポケットから例のメモリを取り出し

 

「ヤーニング!」ヤーニング・ドーパントに変身した。

 

 ドガァァン!!  ガシャーン!!

 

「ミンナァッ!!ニゲロォォッ!!」

 

「くっ、待て!」照井は急いで追いかける。

 

 ─刀剣類管理局─

 

「…以上です。」「時間の無駄でしたわね。」

 

「何故すぐに応援を要請しなかった!」

 

 舞衣は雪那達に捜査結果を報告した。

 

 寿々花は呆れ、雪那は舞衣に怒号を浴びせる。ノロの回収を優先したと話すが、雪那からノロなど放置しろというその立場では信じられない様な言葉が出て来た。

 

「あろう事か鎮圧など…貴様、まさか逃亡を幇助したのではあるまいな!」

 

「っ! いえ…」

 

「…まあ、良い。後は我々鎌府が処理する。」

 

「下がって良い。」真希が退室を命じ、

 

「…失礼します。」

 

 舞衣は司令室を出る。すると、

 

「柳瀬さん。」後から来た江麻が呼びかける。

 

「学長…」

 

 舞衣は江麻に勇気を出して言う。

 

「あの…事の重大さは理解しています!でも、それと同じ様に可奈美ちゃんを信じていて…」

 

 フフッ…「二人なら大丈夫よ。」「!?」

 

 江麻は何かを悟り、舞衣にこう話す。そして二人が歩き始めた。その時

 

 

 

「ねぇねぇ、折角見つけたのに逃げられちゃったて本当?」

 

 廊下の壁にもたれ掛かって居た結芽が煽る様に言う。

 

「! 親衛隊の…」

 

「にひっ、」

 

 結芽は抜刀し、舞衣の喉元すれすれに切っ先を突きつけた。

 

「あははっ!弱すぎ~。」

 

 

「おねーさんじゃ、そもそもあの人達には勝てないよ」

 

 結芽は氷の様な冷たい表情で薄ら笑いを浮かべながら、無慈悲に言う。舞衣は冷や汗をかく。

 

「燕さん、御刀を収めなさい。」

 

 江麻は冷静に注意し、

 

「はーい。」結芽はその場を後にする。

 

 ─

 

「あ~、退屈で死んじゃいそ~ …?」

 

「ねぇ、聞いた?」

 

「聞いた、聞いた。鎌倉市内で怪人が暴れ回ってるんでしょ?」

 

「しかも、荒魂じゃないんだって…」

 

「御前試合の前日にも刀使が襲われたって聞いたわ」

 

 管理局内の刀使達が市内で起きている怪事件の話をしていた。結芽はそれを影で聞いていた。

 

「じゃあ、その怪人を倒したら皆、驚くかも…」

 

 ─

 

 市内の公園に逃げたカルトの集団は少数で総勢8人、その中にドーパントが1体、そこに照井が追いつく。

 

「メモリを使って、一体何をするつもりだ!」

 

「…どうせこの世は力がなければ希望はないんだ!」

 

「だから俺達はこの力を使い、理想の世界を作る!」

 

 

「ヤーニング!」

 

 

 残りの7人もドーパントに変身した。

 

「そうはさせん!」スチャッ

 

 照井はバイクのハンドルとメーターが中心にあるベルトを腰に装着する。タコメーターを模した形状の『A』の文字が刻まれた深紅に輝くメモリを取り出し

 

「アクセル!」

 

「変……身っ!」

 

「アクセル!」ドルンッ!!

 

 そのメモリをベルト中央のスロットに差しハンドルをひねる。彼の前に燃え盛る炎の様な色をした光輪が現れ、エンジン音を轟かせて変身した。

 

 真っ赤な装甲を纏い、頭部にAの形をした鋭い銀色の角と複眼状の青いモノアイがあり、重量級の大剣を持ち、その戦士はこう言い放つ─

 

 

「さあ、振り切るぜ!」

 

 

 その戦士こそ、仮面ライダーアクセル。照井竜のもう一つの姿である。

 

 

 ~BGM:疾走のアクセル~

 

「はあっ!」 ガキィン!

 

「グワアッ!」

 

 アクセルはその手に持つ大剣、エンジンブレードでドーパント達を相手に応戦する。ブレードの刀身を押し下げ、メモリスロットが現れた。そこに別のメモリを差し込む。

 

「エンジン!」

 

 そして、ブレードのトリガーを引き

 

「エレクトリック!」

 

「はあああぁっ!」バシィン!

 

「グアアアッ!」

 

 アクセルの足の後ろにあるローラースケート状のホイールを駆動させて回転し、電撃を帯びたブレードを振り、囲んで来た複数の敵を斬りつける。

 

「お、俺達に希望を持つなと言うのか。俺達は力を持ってはいけないのか!」

 

「エンジン!マキシマムドライブ!」

 

「俺にくだらない質問をするなあっ!」

 

 4体のドーパントに斬撃を放ち、その周囲には横一閃に赤いAの文字が広がっていた。

 

「グワアアァッ!」

 

「そんな…俺達の希望が…」

 

「希望だと?…お前達が使って良い言葉ではない!」

 

 アクセルはベルト中央のスロットにあるアクセルメモリをエンジンメモリに交換する。

 

「エンジン!マキシマムドライブ!」

 

「全て…振り切るぜ!」

 

 すると、ベルトの中心部を取り外して自身がバイクに変形し、残り半数の敵に向かって炎を纏い突進する。

 

 ゴオオオオッ!

 

「絶望が、お前達のゴールだあっ!」

 

「ウアアアァッ!」その炎の衝撃で残りの敵を全滅させ、メモリブレイクに成功した。

 

「…終わったか。」アクセルは応援を要請する為、変身を解こうとした。

 

 ─その時、彼の背後に刀で襲いかかる影が

 

 

  ヒュッ

 

 

     ガキィン!  ドゴッ!

 

「ぐああっ!!」ドサッ!

 

 アクセルは間一髪で気付き、エンジンブレードで防いだが相手の足蹴りによる追撃を受け、吹っ飛ばされた。

 

「あーあ、私が怪人を倒して皆に凄い所見せたかったのになー…残念。」

 

「き、君は…刀使なのか?」

 

 彼の前には御刀を手に持ち、高貴な制服を着た刀使と思われる可憐で無垢な一人の少女が立って居た。

 

「ま、いっか…あの怪人達を一人でやっつけたって事はおにーさん、強いんでしょ?」

 

「な…何を言っているんだ…君は…」

 

「あ、自己紹介まだだったよね?『折神紫親衛隊第四席、燕結芽』まあ、四席って言っても私が一番強いんだけどね。」

 

 (燕結芽!?…左達の依頼人の…)

 

 少女は目つきが鋭くなり、彼にこう言い放つ─

 

「おにーさん、退屈しのぎに付き合ってよ」

 

 

  ガキィン! キィン!

 

 

 アクセルは結芽が繰り出す素早い斬撃に防戦一方である。倒すべき敵はドーパントであって、彼女と戦う理由は無い。

 

「ほらほら、どうしたの?反撃の一つでもして見せてよ。さっき戦ってたみたいにさぁ!」

 

 (成る程、フィリップが言っていたのはこういう事か…確かに彼女からは冷たく、ビリビリとした威圧を感じる。)

 

「…はっ、しまった!」

 

 突然、彼女の姿が目の前から消えた。アクセルは何かに気付き、後ろを振り向くが反応が遅れ…

 

 キィン! 「ぐあああっ!」

 

 繰り出される三段突きを受けきれず、重さ約30キロもあるエンジンブレードが打ち上げられ、彼の背後の地面に突き刺さる。

 

「くっ、何て力だ…」

 

 (これが刀使の…あの折神紫親衛隊の実力か…)

 

「もー、つまんない!何で本気を出さないの?」

 

「俺がこの状態で戦うのはドーパントを相手にする時だけだ。」

 

「君こそ、何故そんなに戦いたがるんだ…」

 

「皆に私の凄い所を見せたいの!私には」

 

 

「結芽ちゃん!」

 

 

 彼女の名前を呼ぶ声が聞こえる。

 

 ─その方向には昇の姿があった。

 

 昇は結芽の元へと向かう。

 

 

「…っ!」

 

「結芽ちゃん、やっと見つけた…」

 

「また君?いい加減しつこいなあ…」

 

「…本当に忘れちゃったの?」

 

 アクセルは確信を持ち、昇に話をかける。

 

「君が昇君か。左達から話は聞いている…君達の過去の事も…」

 

「えっ、仮面ライダー?左さん達とは違う…」

 

 彼が翔太郎達の仲間と分かった為か、昇は自然に話をする。その後、アクセルは結芽に問いかける。

 

「何故そこまで彼を拒絶するんだ…フィリップの話では君がこの少年の事を忘れるはずは無いと言っていた。」

 

 結芽は段々、表情を曇らせる。

 

「結芽ちゃん、僕は…」

 

「もうやめてよ!さっきから聞いてれば『結芽ちゃん、結芽ちゃん』って、お母さん離れ出来ない子供みたいに!」

 

「…!? うっ!」

 

「結芽ちゃん!?」

 

「大丈夫か!?」

 

 結芽は胸を押さえ、苦しみ出した。昇は急いで介抱しようとするが

 

「来ないで!」ドンッ! 

 

 彼女に突き飛ばされてしまう。

 

「うっ…くっ…」

 

「結芽ちゃん、まさか…」

 

「どうやら彼女の病気は完治した訳では無いらしい…」

 

 昇とアクセルはその様子から察する。

 

 それでも、結芽は

 

「おにーさん…早く決着つけようよ…」ヒュッ

 

「また迅移か!?」

 

 迅移を発動し、さらに素早さを増した。それは通常の物とは異なる、『二段階』へと加速させた迅移だった。

 

 ─「これで…決めるよ!」

 

 二人には見えない中、彼女はアクセルに向かって真っ直ぐに突きを放つ。対する彼は

 

「エンジン!」エンジンブレードにエンジンメモリを差し込む。

 

 そして、ブレードのトリガーを引き

 

「スチーム!」ブレードから蒸気が噴出し、それを目の前に撒く。周りにその煙が立ち込める。

 

「…? 目眩ましのつもり?無理だよ。もう避けきれない…!?」ヒュバッ!

 

 

       チッ  

                                   

           ─タンッ!

 

 

 

「おにーさん、何考えてるの!?死にたいの!?」

 

 結芽は何かに気付くと寸止めをして翻り、後方へ着地した。煙が晴れたその先を見ると

 

 

 ─変身を解いた照井が険しい顔をして立っていた。

 

 

 その額には彼女の御刀である『ニッカリ青江』の切っ先がかすった傷跡からたらりと少量の血が流れている。

 

 結芽は煙で視界を遮られた中で彼の顔が見えた。それに気付き、攻撃を中止した。

 

 照井は結芽の問いに答える。

 

「…余計な真似をしてすまない。君を冷静にさせる為、敢えてこの手段を取った。」

 

「そして、今の質問で分かった。君の心はまだ優しさを失っていない。」

 

「教えてくれ…君は一体、彼に何を隠しているんだ?」

 

「!?」

 

 照井が命を賭してまでこの行動に至ったのは、彼女から真意を聞く為だった。

 

「もう、良いよ…つまんない…」

 

 結芽は照井からの問いに答える事もなく後ろを向き、その場を去ろうとした。そこに昇が

 

「結芽ちゃん、覚えてる?」

 

「…」彼女は足を止める。

 

「結芽ちゃんが入院して、僕がお見舞いに行った時…」

 

 

 ─

 

「昇君…私、重い病気なんだって…」ハァ…ハァ…

 

「そんな…」

 

「パパも、ママも…あんまり来てくれなくて、寂しいよ…うっ、ぐすっ…」

 

「きっと、病気を直す方法を探してくれてるんだよ。大丈夫、結芽ちゃんの病気は絶対に直るよ。」

 

「そっかぁ…ごめんね、ちょっと不安だったから…」

 

「良いんだよ。」

 

「昇君…昔、大きくなったら青い鳥を探しに行こうって…約束したよね?…うっ」

 

「もう無理しないで、休んだ方が良いよ…」

 

「もし、昇君との約束…破っちゃう事になったら…」

 

「結芽ちゃん…あれからあの本を読み返したけど、幸せは自分の近くにあるのかも知れない…その意味が今になって分かった気がする。」

 

「あの時はただ、キラキラと輝く感じがしたからその鳥と重ねてたけど…」

 

「僕に取っての『青い鳥』は『結芽ちゃん』だったんだ…そう思ってる。」

 

「うっ…昇君…」

 

 ─数日後─

 

「…」結芽は憔悴しきっていた。

 

 昇は枯れていた赤い花を取り替える。

 

 (結芽ちゃんのお父さんとお母さん、まだ探してるのかな…)

 

「僕が付いてるから…」

 

 昇は不安になりながらも、彼女の手を握って励ます。

 

 ─

 

 

「あれからいきなり退院して…刀使として立派に活躍してた。最初は驚いたし、心配もしたけど…」

 

「でも、嬉しかった。」

 

「!?」

 

「やっと、結芽ちゃんの病気が直ったんだと思ってた…」

 

「だけど、違うんだよね?…本当の事を」

 

 

 ヒュッ ─結芽は迅移を使い、姿を消した。

 

 

「結芽ちゃん、どうして…」

 

 ─

 

「…あの刑事、仮面ライダーだったのか。…邪魔だな。」

 

 謎の男は少し遠い場所からその一部始終を見ていた。

 

 ─

 

 その後、病院にて昇は治療を終えた照井と話をする。先日の御前試合の件で手配の協力をしてくれた事を知り、昇は彼に感謝の意を伝える。

 

「じゃあ、あれは照井さんが…ありがとうございます。お陰でまた、結芽ちゃんに会う事が出来ました…」

 

「良いんだ。それより何故、君がここに…」

 

 昇は照井に再び鎌倉を訪れた経緯を話す。

 

「そうか…左達がその様な事を…」

 

「頼れる人も居なくて、僕にはもう何も出来ない…」

 

「子供とは元々、そういう者だ。」

 

「これからどうすれば…」

 

 落ち込んでいる昇に照井はこう告げる。

 

「君は良く頑張った。今は辛いだろうが君のその想いはいつか、きっと実を結ぶ。例え遠回りになるとしても…」

 

「その中で再び彼女と向き合い、救い出す方法を見つける事が出来るかも知れない…」

 

「まずは左達と、もう一度向き合ってみないか?」

 

「あいつらは、君の笑顔を失わせる様な事は絶対にしない…」

 

「左さん達と…向き合う…」

 

 ─

 

 バンッ!「左さんっ!」

 

「あっ、昇君…」

 

「改めて、お願いがあります!」

 

 昇は翔太郎達に今、自分の決意を伝えようとする。

 

「無理だと言うのは分かってます…でも、僕は結芽ちゃんにまた会いたい!あの娘と向き合いたいんです!」

 

「昇君、昨日も言った筈だ…僕達は」

 

 フィリップの前を翔太郎は手で遮り、話を止める。

 

「翔太郎…」

 

「今は無理でも…例え遠回りになっても、諦めたくない!それ位…僕に取って結芽ちゃんは掛け替えのない存在なんです!だからもう一度、力を貸してください!」

 

「お願いします!」昇は頭を下げる。

 

「昇…本気なんだな?」「はい…」

 

 亜樹子が固唾を呑んで見守る中、翔太郎は

 

「…フィリップ、二人の居場所は分かったか?」

 

「えっ?」

 

 翔太郎の言葉に昇はキョトンとし、何かを察した亜樹子は嬉しそうな顔をして

 

「翔太郎君…」

 

 そして、フィリップはやれやれと言う感じで呆れながら

 

「立川にあるタワーマンションの一室に潜伏中だ…」

 

「翔太郎、君が衛藤可奈美の靴に飛ばしたスパイダーショックの発信機はいつ気付かれるか分からない…そろそろ動いた方が良いんじゃないのかい?」

 

「いや、まだ様子を見た方が良いな…もう夕方だ。下手したら余計、警戒されるからな…」

 

「あの…」

 

 昇はまだ状況を理解出来ずにいた。

 

「昇、そこまでの覚悟があるならお前も一緒に来い。あの二人に協力して、折神紫の振りをした大荒魂を倒しに行くぞ!」

 

「!? …はいっ!」

 

「けど、翔太郎…事と次第によっては何日かかるか分からない。未成年者を長期間連れ回すのは犯罪だ…」

 

「あっ…そうだったな…」

 

「僕が両親に上手く言って置きます!」

 

 こうして昇は翔太郎達と共に折神家に対抗すべく、衛藤可奈美と十条姫和の足取りを追う事となった。

 

 ─俺達は前へと進み始めた。この時から運命の歯車が狂い、険しい道を昇る事も知らずに…

 

       ─翔太郎は後に、こう語る。

 

 ─

 

「…了解、これより任務を開始します。」 

 

           ─

『立ち向かう覚悟はいいね?』

 

『Yes/No』

 

         『Yes.』

 

『今日と言う日は完璧になった!』

 

『以下の場所へ。』

           ─

 

「…」「…はっ!」「!?」ガキィン! キィン!

 

 可奈美と姫和は累の誘いで、彼女のパソコンに表示されているチャットを閲覧していた。

 

 そこで姫和が何者かとチャットにて会話をしていたが突然、敵の刺客が家の窓ガラスを突き破り襲いかかって来た。それを姫和が受け止める。

 

「可奈美!千鳥を取って来い!」「うん!」

 

「貴方も奧へ!」累も急いで避難する。

 

「貴様、鎌府の…」

 

 姫和の前には鎌府女学院の刀使、糸見沙耶香が居た。

 

 沙耶香は目を赤く光らせ、まるで機械の様に無表情であった。

 

 ─キィン!

 

 (何だ?この速さ…)

 

 姫和はベランダから飛び降り、彼女もそれを追いかける。二人は落下している間も応酬し合っていた。

 

 (一瞬の加速では無く、持続的に迅移を使っている?そんな事が出来るとは…)

 

 着地をした二人は戦闘を再開する。

 

「まだだ…ならば、こちらも!」姫和も迅移を発動し、応戦した。

 

 (もっと…もっと深く!) 

 

「はあっ!」─ザンッ!

 

 姫和は迅移を加速させ、沙耶香を斬り伏せる。

 

 (技の影響か、もう写シは張れない様だな…!?)

 

 写シが張れない状態になっても彼女は表情を変えずに立ち上がり、姫和に再度襲いかかる。

 

「まさか、写シ無しで!?」

 

 (…斬るしか、無い。)覚悟を決めたその時、

 

「駄目!」可奈美が駆けつけて来た。

 

「どいて、姫和ちゃん。私が相手する!」

 

「お前に…こいつを斬る覚悟があるのか?」

 

「斬らない!」

 

「!?」姫和は可奈美の発言に驚く。

 

 可奈美と沙耶香は再び、刃を交える。

 

 (この子の剣、前はこんなじゃなかった…剣から何も伝わって来ない。)

 

「そんな魂の籠もって無い剣じゃ、何も斬れない!」

 

 可奈美は彼女の御刀の柄に手を伸ばし、それを取って投げ捨てた。沙耶香は戦意を失う。

 

「…?」「覚えてる?一回戦で戦った衛藤可奈美。」

 

「あの試合すっごく楽しかった…沙耶香ちゃんの技、ドキドキしっぱなしだったんだよ。」

 

「また私と試合してくれない?」

 

 可奈美は彼女の手を取り、笑顔で握手を交わす。

 

「約束!」「…!」

 

 沙耶香は彼女の笑顔に少し驚く様な反応をした。

 

 (私には斬るという選択しか思い浮かばなかった。だが、可奈美は…)

 

 姫和はそんな可奈美の行動に違和感を覚えた。

 

 ─

 

「ごめんね。こんな所で…」

 

「…ここで、解放?」「連れ回す訳にも行かないし…」

 

 沙耶香は二人と共に累の車に乗っていたが途中、どこかの路地で降ろされる。姫和からは御刀を返され、ここで三人と別れる事となった。

 

 その後、進む先に検問を見つけた累は二人に逃げる様、促した。

 

 ─翌朝・鳴海探偵事務所─

 

「じゃあ、気を付けてね…三人共。」

 

「ごめんね。亜樹ちゃん、また留守を任せてしまって…」

 

「良いの。どの道、私は残らなきゃいけないし。」

 

 亜樹子には娘である春奈が居る。そして、夫である照井の帰りを待つ為に風都に残る事になる。

 

「亜樹子…」

 

「皆…必ず、無事で帰って来てね。」

 

「ああ。」「もちろん。」「はい!」

 

 こうして、翔太郎、フィリップ、昇の三人は出発する。その方法とは─

 

「そういえば、これからどこへ…どの様な方法で行くんですか?」

 

「…成る程、二人はどうやら伊豆へ向かっている様だね。」

 

「昇、ついて来い。」「は…はい…お邪魔します。」

 

 翔太郎は帽子が掛けられている扉を開け、それに昇もついて行く。

 

 螺旋階段を降りた先には壁の一部にホワイトボードが複数設置されている場所とその下にバイクが置いてあるガレージがあった。

 

「ここは…」「僕達の秘密基地さ。」

 

 周りを見渡す昇にフィリップはこう答える。

 

「そういや昇、親御さん達には何て言って来たんだ?」

 

 昇は両親に幼なじみであった結芽と再会した事を話し、まだ病気が治っていない事を知り、翔太郎達と共に色んな病院を回って治療してくれる医師を探しに行くという名目で同行の許可を得たと言う。

 

「はぇ~…んじゃ、行くとするか」

 

 機転を効かせた昇に翔太郎が関心すると、三人がガレージ最深部の中央に辿り着き、両翼から機械音が鳴り始めた。

 

 ウィィィン ガシャン! 「えっ?」

 

 下から上がる両翼は翔太郎達のバイク、『ハードボイルダー』を中心に三人を包み、その外側はWの顔を模した黒い装甲が覆う。これこそ、翔太郎達と共に戦って来た特殊大型車両『リボルギャリー』である。

 

 リボルギャリーが発進し、ガレージからの通路を経て風都の公道に出た。それに昇は驚く。

 

「ええええええええっ!!?」

 

 ─

 

 一方、可奈美と姫和はヒッチハイクをしてトラックに乗せて貰い、道の駅で降ろして貰う。二人は運転手にお辞儀をした。

 

「ありがとうございました。」

 

「助かりました。」  ブロロ…

 

「~結構、疲れた…姫和ちゃんは?」

 

「…姫和ちゃん?」

 

「可奈美…」

 

「何?」

 

 姫和は可奈美に何かを伝えようとしていた。

 

 

 ギュィィィィン!(続く)

 ──────────────────────

 

 仮面ライダー W!!

 

「この二人、まるで二人で一人…」

 

「私は決めた…母さんのやり残した務めを私が果たすと…」

 

「さあ、山狩りだ」

 

「……許さないよ。」

 

  これで決まりだ!

   第四話「Yの獣道/山狩りに怒りの咆哮を」




スランプも含め色々あってちびちびと執筆していた為、更新が遅れてしまいました…(汗

とじみこの時系列がまさか2018年だとは思わなかったので「じゃあ、照井夫妻の娘が居ないとおかしいよなぁ…」と思い、作中にて春奈ちゃんの事について書きました。
第二話にも事務所で話している場面に付け加えてあります。
これからも時間がかかる作品になるかもしれませんが、どうか気長に待って読んで頂けると幸いです。

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