仮面ライダーW「Yへの想い/届かない夢」   作:アジシオ太郎

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薫「この連載は悪魔の化身、真庭紗南の提供でお送りします。」


第四話「Yの獣道/山狩りに怒りの咆哮を」

 

 仮面ライダーW! 今回の依頼は

 

 想い人「折神紫親衛隊第四席、燕結芽。まあ、四席って言っても私が一番強いんだけどね。」

 

 刑事「教えてくれ…一体、彼に何を隠しているんだ?」

 

 依頼人「例え遠回りになっても、僕は諦めたくない!」

 

 逃亡者A「斬らない!…また私と試合してくれない?約束!」

 

 逃亡者B「私には斬るという選択しか思い浮かばなかった。だが、可奈美は…」

 ──────────────────────

 

 翔太郎達は、風都を後にして伊豆方面へと向かう。衛藤可奈美に付けた発信機の反応はまだ途絶えておらず、それを追って進んでいる。

 

 車内では色々な話をした。昇は自ら再び鎌倉へ行き、結芽と再会したがそこで彼女と戦っていた照井と出会い、またもや彼女に逃げられた。その後、彼の言葉に勇気付けられた事を二人に話す。

 

「そんな事が…しっかし、あいつもとんでもねぇ目に遭ったな。」

 

「けど額のかすり傷だけで済んだ…照井竜の強運には毎回驚かされるよ。それはそうと、」

 

 フィリップは持参していたクーラーボックスからスポーツドリンクを取り出し、二人に渡した。

 

「まだ夏場ではないが暫く窓の無いリボルギャリーの中に居る事になる…結構蒸すだろう。」

 

「水分補給は大事だ。必要な時に飲みたまえ。」

 

「はい…ありがとうございます。」

 

 昇が受け取る。

 

「どうしたフィリップ、やけに気が利くな…」

 

「何を言っているんだ、備えあれば憂い無しと言うじゃないか。」

 

「今日は雪でも降るんじゃ」

 

 

 キイィッ! 

 

 

 翔太郎が皮肉を言う途中でリボルギャリーは突然、急停止した。

 

「ってぇ…何だ、いきなり!」

 

「翔太郎、あそこに人だかりが!」

 

 フィリップが前方を確認すると少し先にある道の駅の方に多くの人々が集まっていた。

 

 三人は外に出て様子を見に道の駅へと向かう。そこで目にした物は幾つもの大きな直線状の傷跡がめり込んでいる駐車場の光景だった。既に警察によって警戒線が貼られており、現場検証が行われている。

 

「あれは…ドーパントの仕業か!?」

 

「あの傷跡は…」

 

 フィリップはある事を思い出す。

 

「翔太郎、御前試合で見た巨大な御刀を使用した刀使を覚えているかい?」

 

「ああ…あの小っこい少女か、ねね…何とかっつうでっけぇ御刀を持ってたよな?」

 

「祢々切丸さ…あれによる攻撃なら傷跡の形状と一致する筈だ。」

 

「確か彼女は長船女学園の代表だった。その実績を見込んで、折神家があの二人への刺客として送り込んだのかもしれない…」

 

「だとすりゃ、もう戦ってるって事か…こうしちゃいられねぇ。急いで探すぞ!」

 

「そうだね…戦闘中に発信機が壊されたら捜索が困難になる。行こう!」

 

 三人はリボルギャリーに戻り、急ぎ彼女達を追う事となった。

 

 

 

 ─数時間前─

 

 可奈美達は道の駅に降り、乗せてくれたトラックの運転手に感謝を伝えた。トラックが去った後、姫和は可奈美に話を切り出す。

 

「可奈美…」 「何?」

 

「お前には色々と助けられた…礼を言う。」

 

「だが、やはりここで別れよう。」

 

「…だから、私も姫和ちゃんと一緒に行くって…」

 

「この先は…無理だ、一緒には行けない。」

 

「どうして?」可奈美は納得が行かず、姫和に問う。

 

「昨夜の事で分かった」

 

「お前の剣と私の剣は別物だ。私は『斬る剣』、対してお前は『護る剣』だ。この先は斬る剣しか必要ない…」

 

「そんなの…勝手に決めないで、姫和ちゃんがそう思ってるだけだよ。」

 

 可奈美は少し声を荒げ反論する。そして、姫和の口から衝撃の言葉が出て来る。

 

 

 

 

「可奈美、お前は実際に人を斬った事があるか?」

 

 

 

 

「え…?」可奈美は姫和の問いに戸惑う。

 

 

 

 

「写シ…じゃなくて?」「ああ、もしくは荒魂化した人を…」

 

 

 

 

「ない…けど…」

 

 

 姫和は更に話を続ける。近年、人が荒魂化する事象は殆ど無いが姫和の母が刀使であった時代では珍しくはなかったと言う。

 

 荒魂化すれば最早人間ではなく、稀に記憶を残し言葉を話す個体もいるがそれでも荒魂と変わらず、斬らなくてはならなかった。斬って祓う事でしか救う手段が無いからである。

 

「私達刀使は…人々の代わりに祖先の業を背負い、鎮め続ける巫女なんだ。」

 

「…分かってるよ」

 

 冷静に話す姫和と辛い現実に打ち拉がれる可奈美、ここでそれぞれの覚悟の違いが明確になる。

 

「これから私がやろうとしてる事は荒魂退治だ。だが、限りなく人斬りに近い…私は折神紫を斬る。」

 

「それを阻む者も、それも極めて私怨と変わらない動機でだ…」

 

「…お前には斬れない、だからここで別れるんだ。」

 

 姫和の決意はその凛とした表情と共に揺るがず、再び歩みを始めた。可奈美は彼女を引き止めようとして手を伸ばす。

 

「待って…」 

           キィン!

「緩いな」 

 

 姫和は自身の御刀『小烏丸(こがらすまる)』を可奈美に対して振り下ろした。彼女もそれを自身の御刀『千鳥(ちどり)』で受け止める。姫和の顔は先程までとは違い、鬼気迫る表情となっていた。

 

「お前は戻れ…戻って荒魂から人々を護れ。」

 

 姫和はこう言い残して去って行った。

 

 可奈美はただ呆然と立ち尽くすだけだった。

 

 

 ─刀剣類管理局─

 

「鎌府学長…」 「は…はい!」

 

「追撃を許可した覚えは無いが?」

 

「は、反逆者の所在を特定しましたので…お手を煩わせるまでも無いかと独自の判断で」

 

「勝手な真似は許さん」

 

 紫は雪那を執務室に呼び出し、これ以上独断で動く事の無い様にと釘を刺した。

 

「ですが、許せないのです!」

 

「紫様に御刀を向けた逆臣が手の届く場所でのうのうとしている事に…何故私にお任せくださらないのです!」

 

「高津学長、お言葉が過ぎます」

 

 雪那の話を止めたのは折神紫親衛隊第三席、『皐月夜見(さつきよみ)』である。夜見は紫の警護の為、常に傍に付いている。

 

「貴様…」

 

 雪那は夜見に対し、憎悪の目を向けていた。何故か親衛隊の中でも彼女を一番目の敵にしている。

 

「雪那」 「はい!」

 

「貴様は先ずやるべき事をやれ」

 

「…もう良い。下がれ」

 

 雪那は夜見を睨み付け、執務室を出る。

 

 夜見は何も感じる事が無いかの様に表情を変えず立っていると

 

「夜見」 「…?」紫は彼女にある命令をする。

 

 ─

 

 ガラッ… 

 

 黒のワゴン車から二人の刀使が降りた。

 

「んん~…デース。」

 

「ったく、あのオホーツクババア…」プルルル…

 

 ピッ ─[薫、何か言ったか?]─

 

「ウェッ! マリモッ!」 ピッ…

 

「…どんだけ地獄耳なんだよ」

 

「薫も大変デスネー」他人事の様に言うエレン。

 

 

 ─それは昨日の事、

 

「日射しは最ッ高…だが、」

 

「…仮面ライダーに会えなかった。」シュン…

 

 折神家から解放され、湘南のビーチにて薫とエレンははバカンスを満喫していた。しかし、まだ夏ではなく少し肌寒い位の気温なのに薫はそれを感じない程、仮面ライダーを見つける事が出来ずに項垂れていた。

 

 エレンとねねはビーチバレーをしている。ねねのレシーブをエレンがジャンプサーブで打ち返すと薫の方へ勢い良く飛んで行った。

 

「ゴメンナサーイ、薫もやりマセンか~?」

 

「…遠慮します。」

 

 プルルル…ピッ 「ハイ、…えっ、任務?急デスね?」

 

「知らん、休暇中だと言って置け」

 

「知らん、休暇中だ…だそうデス。」

 

 エレンは悪戯を思い付いた様な笑みで薫の耳にスマホを当てると…

 

 ─[ゴルアァァァ!!薫、てめえ!ざっけんなぁ!]─

 

 電話の相手から凄まじい怒号が放たれた。その衝撃で傍にあった日傘も吹き飛ばされる。

 

「…だが、任務と言っても祢々切丸が無い。昨日宅配便で送ったからな」─[送り返した]─   

 

「…は?」

 

 すると、空から黒い飛翔体が薫達の前に落ちて来た。その飛翔体には宅配便で長船に送った筈の薫の御刀、祢々切丸が縄で括り付けられている。

 

「ワオ…」 「税金の無駄遣い…」 

 

 ─そして、今に至る。

 

「でも良い子にして頑張ったら、いつか仮面ライダーに会えるかも知れマセンよ…準備は良いデスか?」

 

「そうだな…行くか。」 「ねーっ、ねっ!」

 

 スーッ… 薫の頭に乗っているねねはその身を透明化させた。

 

「では…ミッション、スタートデス!」

 

 エレンが張り切りって取り仕切る。

 

 ─

 

「…!」タッ

 

 立ち止まっていた可奈美は何かを決心し、姫和を追いかけようと走り始めた。その時、

 

「見つけマシタァァァッ!」 キィン!

 

 ─新たな刺客が襲い掛かる。

 

「…美濃関学院、中等部二年、衛藤可奈美デスね?」

 

「っ!…そうだけど…」

 

「長船女学園、高等部一年、古波蔵エレン。」

 

「…で、こっちが薫~。」

 

「さあ、お前の罪を数えろ…」

 

「えっ?(私の罪状って他にもあったっけ…?)」

 

 薫の唐突な発言に困惑する可奈美。

 

「折神家当主に刃を向けた不届き者~、覚悟するデース!」

 

「…ところで、十条姫和はどこデス?」

 

「姫和ちゃんなら居ないよ…でも、追うなら私が相手になる。」

 

「なら、話は早いデス!」  ドガァッ!

 

「糞面倒臭い…」薫はエレンの隣で祢々切丸の鞘を割る様に破壊し、自身の御刀を構える。

 

 (薬丸自顕流…)

 

「キエー」  ドガァァァン!

 

 祢々切丸の斬撃の跡が地面にめり込んだ。

 

「何て威力…」

 

「ちっ、避けてたか…めんどくさ、受けたらそのまま潰せたのに「っ!」 ガキィン!

 

「はあっ!」 

 

 すかさず攻撃に移る可奈美の前に金色の輝きを纏うエレンがその身で防ぎ、蹴り上げて反撃する。

 

「金剛身!?」

 

 『金剛身(こんごうしん)』とは刀使の能力の一つで、写シとは違う防御方法である。肉体の耐久度を上昇させ、物理的な攻撃を防げるがその効果は長時間持続させる事が出来ないという。

 

 それに加えてエレンの流派は剣と格闘術を併用するタイ捨流である。尚更、金剛身と相性が良い。

 

 (金剛身を使ったタイ捨流と体術…?)

 

「…っ!」 キィン! キィン! キィン!

 

 可奈美が怯んでいる隙に薫は続けて斬撃を繰り出す。

 

 ガラガラ…

 

 (この子相手に距離を取ったら駄目だ、間合いを詰め無いと…)

 

「はっ!」戦況を分析している可奈美に間髪入れずエレンが攻撃し、邪魔をする。

 

 (これじゃ間合いが詰められない。この二人、まるで二人で一人!?)

 

 益子薫と古波蔵エレン、二人は刀使としてもいかなる時でも最高のコンビである。

 

 ガシッ! 「しまっ…」 「やった!」

 

 エレンはようやく可奈美の腕を掴み、薫の方へと振り向く。

 

「捕らえマシタ!今デス、薫…」

 

 

 

 

 

 振り向いたエレンの眼前に見えるのは斬りかかって来る十条姫和の姿だった─

 

 

 ザンッ!

 

 

 

 

 間一髪の所でエレンは姫和の斬撃を回避した。

 

「…はぁ~、危なかったデース…」

 

 

「姫和ちゃん、何で!?」「お前こそ何故逃げない!」「だって…」

 

「これでやっと2対2デスね!」

 

 可奈美と姫和は森の奥へと逃げる。だが完全に巻く事は出来ず、二人に追いつかれた。

 

 四人は戦闘を再開する。

 

「駄目!この人達、息がぴったりで…」「くっ…」

 

「ふふ~ん、私と薫はベストマッチ!デスから。」

 

「ならば…」姫和はエレンに対し斬りかかろうとするも、フェイントをかけて突進し、懐に飛び込む形で近くの木にぶつけた。

 

 一方で薫は祢々切丸をフリスビーの様に可奈美に向けて投げるが当然、彼女にそれ跳んで避けられてしまう。

 

 だが、  「ねねー、…っ!」ブンッ!

 

 透明化していたねねが尻尾で祢々切丸を掴み、振り回されそうになりながらも薫の方へ向けて投げた。

 

「荒魂!?」「そうだ。目が良いな…」薫の手元に戻る。

 

「どう言う事~?!」可奈美は更に困惑する。

 

 ─

 

「先日は試合で負けマシタが…今回はどうでしょう?」

 

 姫和が攻撃するとエレンは金剛身で防ぐ。

 

 彼女の余裕の理由と強みを大体、理解した姫和は

 

「こんな戦いを…」

 

「試合でやると、怒られマスねー。」

 

 エレンは挑発する様に右足を上げ、構えていた。

 

「…っ!」「!?」

 

 可奈美が目配せをして姫和がそれに気付く。

 

「覚悟!」エレンが攻撃を始める。

 

 対する可奈美も千鳥を振り下ろし、彼女は金剛身を発動するが─

 

「…っ!」

 

 攻撃を止め、エレンが狼狽えた隙に姫和が彼女の喉元に切っ先を突き付けた。

 

 その直後、薫は可奈美に狙われて動きを封じられる形となった。

 

「今度の刺客は長船か…何故この場所が分かった?」

 

「フッフッフーン、それは秘密デース。」

 

 姫和がエレンに質問していると、

 

  ガブッ 「ねねー…」

 

 ねねが姫和の足に噛みついて来た。

 

「何だ…? 荒魂!?」

 

「あの子の言う事を聞くみたい…」

 

 薫の方に目をやり、姫和に伝える。

 

「荒魂を使役か…質問に答えろ。さもなくば、」

 

「姫和ちゃん!」

 

「私は目的を果たす。阻む者は斬る…」

 

「ちょっと、待ってクダサイ!」

 

「話す気になったか?」

 

「もう少し、あと5秒程…」

 

「5秒…?」可奈美が疑問に思ったその時、

 

 ドオォォン! 「…ゲホッ、ゲホッ。」

 

 落ちて来た黒いロケットの様な飛翔体が二機、地面に突き刺さっていた。それを見た姫和は

 

「S装備!?対荒魂殲滅用の…?」

 

「えっ?私なんて研修で1回しか着た事無いよ?」

 

「私もだ…」

 

 その飛翔体は『S装備』、別名『ストームアーマー』と呼ばれる物が入っている運搬用のコンテナだった。

 

 S装備とは刀使が強力な荒魂や大荒魂に対抗する為に作られたパワードスーツでまだ試験段階にあり、滅多に装着する事の出来ない特殊武装である。

 

 煙の向こうにはS装備を装着した薫とエレンの姿が…

 

「フッフーン、お色直し完了デス!」

 

「仮面ライダー薫、見参…」

 

 薫がある意味、衝撃的な一言を発する。

 

「…は?」

 

「仮面…ライダー?」

 

「薫、二輪免許なんて持ってマシタっけ?」

 

「いや、俺はまだ…って、雰囲気だけで言っても良いだろうがぁ!」

 

 格好良く決める為の台詞が逆に空気を重くしてしまった事に薫は気付いていない。

 

「おい、こいつはさっきから何を言っている!」

 

「こっちの話デース、気にしないでクダサイ!」

 

「とにかく…これで形成逆転デスね!」

 

 エレンが仕切り直した後、可奈美と姫和は御刀を構えて

 

「姫和ちゃん!」「ああ…」

 

 

「行くよ、せーのっ!」  ヒュッ

 

 

「…えっ?」 二人は迅移を使い、その場を去る。

 

 静かな森の中、S装備の状態でいる薫とエレンだけが取り残された。

 

「おい!ヒーロー物の主役が活躍するシーンだろうがぁっ!」

 

 薫はこう叫んだ。

 

 ─

 

 刀剣類管理局の作戦司令室では雪那が紫に命じられ、鎌府女学院に戻る準備に取りかかっていた。

 

「鎌府の者は撤収だ。この件から手を引く…」

 

 (何のお役にも立てぬまま…)

 

 そう考えていた矢先、周りがどよめく。

 

「どうした?」真希が鎌府の生徒に尋ねた。

 

「横須賀基地から問い合わせが。南伊豆の山中にてS装備の射出があったかと…」

 

「そんな報告、受けていませんわ…」

 

 寿々花も戸惑う。

 

 送られてきた映像を見ると二機の飛翔体が上空を飛んでいる様子だった。間違い無くS装備の運搬用コンテナである。

 

 それは折神家の許可無くして発射する事は出来ない筈だと、殆どの者が驚愕した。

 

「撤収は延期だ!」 

 

 雪那は息を吹き返したかの如く、嬉しそうに声を張る。

 

「今すぐ正確な着地点を割り出せ!」

 

  ガチャ

 

 

「獅童さん、此花さん…」

 

 扉を開けたのは夜見であった。

 

 そして、二人に

 

「紫様から出撃命令が出ました」

 

 

      「ご準備願います」

 

 ─

 

「紫様も勿体つけますわね。」

 

「君が紫様のお傍を離れるとは珍しい…」

 

「索敵には私の力が役立ちます」

 

「結芽は居残りですの?」

 

「彼女が出ると、不必要な血が流れますので…」

 

 親衛隊の三人はヘリポートへと向かう。

 

 ─

 

 執務室にて、結芽は中央のソファに座っていた。

 

 その様子はかなり思い詰めている表情だった。

 

 

 

 「…」

 

 

 

 何も無い。まるで世界に自分一人しか居ない空間みたいで、恐怖で押し潰されそうだった。

 

 

 そんな中、彼女は考えていた。

 

 

 

 思い返していた─

 

 

 

 『結芽ちゃん!』『!?』

 

  嘘…

 

 『心配したんだよ。』

 

  止めて…

 

 『もしかして誰かに脅されているの?』

 

  見ないで…

 

 『無理をさせられてるなら僕が…』

 

  ─になった私を…

 

 

 『あのさ、』『えっ?』

 

 

 

 

 

 

 『だあれ? 君、』

 

 

 ─

 

 

 『いきなり退院して…刀使として立派に活躍してた。最初は驚いたし、心配もしたけど…』

 

 

 『でも、嬉しかった。』

 

 

 『!?』

 

 

 『やっと、結芽ちゃんの病気が直ったんだと思ってた…』

 

 

 

 

  決して後ろを振り向かなかった結芽─

 

 

  その瞳から流れる涙が頬を伝う。

 

 

 

 『でも、違うんだよね?本当の事を』

 

 

 

 

   ヒュッ

 

 

 ─

 

 

 「…」

 

 

 沈黙だけしか無い。

 

 

 その中で結芽は─

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「昇君の馬鹿ぁっ!!」ガシャァァン!

 

 

 

 テーブルに置かれていた花瓶を取り、思い切り投げた。

 

 

 

 花瓶は細かい破片しか残らない程、粉々に割れて床や壁は水でびしょ濡れになっている。

 

 

 

 花だけが放り出され、残っていた。根元から水分を吸収出来なくなって、後は枯れ行くばかりである。

 

 

 

 結芽は声を漏らす事も無く、ただ一人で泣いていた。

 

 

 ─

 

「追って来ないね…」可奈美達は何とか逃げ切った。

 

「まだ開発中の特殊装備だ。使用時間に制限があった筈…」

 

 パラパラ…

 

「…雨か、強くなりそうだな。」

 

「あっ」廃屋を見つけた。

 

 二人はそこで、雨宿りする事に

 

 ─

 

 ザーッ…

 

「で、どうだった。アイツらは?」

 

「能力的には問題無しデスね~。後は…」

 

「薫は、どう思いマシタ?」

 

「…ただの向こう見ずじゃ、なさそうだな」

 

 ─

 

 可奈美と姫和は見つけた廃屋の中で休息を取っていた。

 

 二人は黙り込んで座っている。雨音しか聞こえない中、可奈美が話しを始めた。

 

「ありがとう、助けに来てくれて…」

 

「…」

 

「…あの二人と戦う前、思ったんだ。姫和ちゃんの剣は重たいって」

 

 可奈美は続けて、今まで戦ってきた刀使の話をする。昨夜の敵の事、さっき戦った二人の事、それでも姫和の剣が一番重さを感じたと言う。

 

「…何が言いたい?」

 

「姫和ちゃんの剣には意志が乗ってる。目的を成し遂げようって意志、だから重たい…そう思った。」

 

 可奈美は御前試合で姫和と戦う事を楽しみにしていたと彼女に話す。だが、姫和の目には自分など映っていなかった事を不満に思っていたと伝える。

 

「私、結構頭に来てたんだ。姫和ちゃんに無視された事…」

 

「…あと、黙って見てたら殺されちゃう事にも」

 

「!?」姫和は可奈美の言葉に驚く。

 

 それもその筈、彼女の様な奇特な考えであの時の自分を助ける者などそうそう居ないからだ。

 

「私には覚悟が無かった。何をするって意志も…」

 

「でも、今なら言える。私の剣が護る剣なら…姫和ちゃんの目的と姫和ちゃんを護る!」

 

 可奈美の決意を聞いた彼女は閉ざしていた口を開く。

 

「それは結局、人斬りの手助けをするという事だ。」

 

「違うよ!」

 

「御当主様に化けた荒魂を斬る。それ以外は私が斬らせない!」

 

「…それが私の覚悟だよ。」

 

 彼女の覚悟を聞いた姫和は

 

「私が折神紫を倒す理由…」「えっ?」

 

「話したくなったら話せと言っただろう?」

 

「…今、話す。」

 

 二人が都内で逃亡生活をしていたある日の夜、姫和は可奈美に何も聞かないのかという質問をした。彼女は話したくなったら聞く。それまでは聞かないと言って問い詰める様な事は一切しなかった。

 

 姫和は可奈美の事を信頼した。だからこそ真相を打ち明けると決めたのだった。

 

「20年前の事件は知っているな?」

 

「相模湾岸大災厄?江ノ島で史上最悪の大荒魂が現れて、それを紫様率いる今の伍箇伝の学長達によって編成された特務隊が討伐したって言う…」

 

「その特務隊に…私の母もいた。記録には残されていない。」

 

「当然だ…世に知れ渡っている事の顛末は何もかもが虚偽だからな…」

 

「…どう言う事?」

 

 姫和は隠し持っていたある手紙を渡す。その内容は可奈美も知っての通り、大荒魂の事である。

 

「唯一、奴を討ち滅ぼす力を持っていたのが私の母だ…だが完全には倒せなかった。」

 

「…奴は折神紫に成りすまし、生き延びた。」

 

「刀使の力を使い果たした母は年々弱って行き去年、私が見守る中で息を引き取った。」

 

「その夜、私は誓った…母さんの命を奪ってそれでも尚、人の世に潜み続ける奴を討つと、母さんがやり残した務めを私が果たすと…!」

 

 姫和は押し殺す様に涙をこらえながら自分の決意、それによる覚悟を彼女に話した。

 

「お前の言う重たさの半分は刀使としての責務、半分は私怨だ。だからお前が付き合う必要は無い…」

 

 すると、可奈美は

 

「そうだね…でも、重たそうだから」

 

「私が半分持つよ」姫和の手を取りこう言った。

 

 ─

 

 南伊豆の山中、折神家が特殊機動隊『STT』を従えて拠点を敷く。その指揮は親衛隊である獅童真希が取っていた。

 

「雨、上がりましたわね」「ああ…」

 

 寿々花が空模様を伺い、真希は険しい表情で号令をかける。

 

「さあ、山狩りだ」

 

 ─

 

「雨…止んだね。」「指定された場所までもう少しだ…行くぞ、可奈美。」

 

 雨が止み、二人は廃屋から出てきた。目的地への移動を再開しようとするが

 

「…見つけマシタ、こんな所で仲良く雨宿りしてたのデスね。」

 

 薫とエレン…先程まで戦っていた相手に見つかってしまう。二人は雨の中探し回り、びしょ濡れになって疲れ果てていた。

 

「さっきの!」可奈美と姫和は再度、御刀を構える。

 

 対する二人は何故かクラッカーを構えていた。

 

 その時である。

 

 

 ゴ オ オ オ オ オ ッ 

 

 「…」

 

 ライトに照らされた四人は道路に現れた黒く光る大きな装甲車両を見て固まっていた。

 

 車両は黒い外観の中央に赤い目の様な物体が二つ、その上にYの文字にも見える銀色の触覚の様な突起物、後方には何か機械の様な物が収納されている円形状のコンテナがある。

 

 正に特撮ヒーロー物に出て来る巨大マシンその物だった。

 

 それを見た薫は

 

 (見るからに怪しい…けど、何かドキドキする…)

 

 ウイーン

 

 車両は中央から左右に分かれて開き、その中から二人の青年と一人の少年が出て来た。

 

 タッ

 

「雪ではなく雨が降った。翔太郎、読みが外れたね…」

 

「うるせぇ!」

 

「あっ、お姉さん達が他の刀使達と戦っています!」

 

 翔太郎、フィリップ、昇の三人はようやく可奈美達を発見し、四人の方へと足を進める。

 

「やっぱり、長船の代表二人が刺客だった。」

 

「ああ、お前の読みは当たったな。」

 

 可奈美と姫和は御刀を構えているのだが、後の二人はクラッカーを構えたまま目を丸くして固まっている。その異様な光景を見た翔太郎は

 

「なあ、フィリップ…良く分かんねえがあれも刀使の攻撃の一つなのか?」

 

「閲覧した本にそんな事は書かれていなかった…興味深い。今度、検索して見よう。」

 

「お前達は…」

 

「あの時、助けてくれた。確か…探偵…さん?」

 

「そうだ。やっと見つけたぜ…」「何故ここが…」

 

 姫和の問いにフィリップがこう答える。

 

「衛藤可奈美。君の靴に発信機を付けさせて貰った。」

 

「えっ…?」可奈美は靴を確認し、スパイダーショックの発信機を見つけた。

 

「積もる話は後にして、それよりも…」

 

 ここでフィリップはある提案をする。

 

「翔太郎、変身だ。」「!?」

 

 変身という言葉に薫は反応する。

 

「は?ドーパントじゃねぇんだぞ!」

 

「相手は刀使だ…相当な戦闘訓練を受けている。この状況を打開するにはそれが最善だ…」

 

「サイクロン!」

 

「…やるしかねえのか。」

 

「ジョーカー!」

 

 

      「「変身!!」」

 

 

    「サイクロン!ジョーカー!」

 

 

 二人は吹きすさぶ旋風に包まれる。それが止むと一人の青年は倒れ、もう一人は緑と黒、二色の戦士に変貌する。

 

  仮面ライダーW、サイクロンジョーカー

 

 翔太郎とフィリップの意識が一つとなり、『二人で一人』となった姿である。

 

 昇は気絶したフィリップを支え見守る。

 

「さあて、長船の刀使達…ここからは」

 

 パァン! 突然、クラッカーの音が鳴る。

 

「仮面ライダー!仮面ライダーだ!やっと会えた!」

 

 薫は大喜びした。

 

「ワンダホー!貴方達があの時の仮面ライダーだったんデスねー?」

 

 エレンは驚いたが薫と同様に喜ぶ。

 

「かっこいい!それ、どうなってるんですか?」

 

 可奈美もワクワクしながら聞いて来る。

 

「……えっ?…えっ?…えっ?」

 

 勿論、Wは困惑する。

 

「フィリップ、一体どうなってんだ?」

 

「…僕にも理解出来無い。」

 

「…ん?」

 

 何か気配を感じ、下を向く。

 

「ねー」 「ねねー…」

 

 ねねがWの足元に寄って来た。

 

「う、うわああああぁっ!ば、化け猫ぉ!」

 

「ねねーっ!」「違います!ねねは俺のペットです!」

 

 Wの左側に居る翔太郎は恐怖の余り、叫び声を上げた。薫は弁明し、ねねは心外だったのか怒り出す。

 

「翔太郎、落ち着くんだ!」

 

「だってよぉ!フィリップ、化け猫が…変な尻尾の化け猫がぁ!」

 

「それは荒魂だ!」「…えっ?…あ、荒魂?」

 

 更にこの状況について行けない者が居た。

 

 当然、姫和の事である。彼女は唖然としている。

 

 薫、エレン、可奈美にWが詰め寄られている中、少し離れていた姫和は話を聞く為、ポカンとしながらも歩みを始めた。

 

 ─

 

 Wは変身を解き、一同は落ち着いて話の整理をする事に。

 

 翔太郎、薫、エレンは地面に散らばったクラッカーの残骸をかき集め、掃除をした。

 

 そして

 

「…話は大体、分かりマシタ!」

 

「つまり…そこに居る燕結芽のボーイフレンドである小さな依頼人の為に、折神紫を倒すという目的でカナミンとヒヨヨンを探していたんデスね!」

 

「ひ…ヒヨヨン!?」

 

 いきなりあだ名で呼ばれ、姫和は戸惑う。

 

 昇は恥ずかしいのか、翔太郎の後ろに隠れる。

 

「そう言えば、君達はクラッカーを持っていたね…あれは一体、どういう意味なんだい?」

 

 フィリップが薫とエレンに尋ねると、

 

「あ…忘れてた、お前ら合格な。」

 

 薫が我に返り、可奈美と姫和にこう伝えた。

 

「あの…エレンさんと薫ちゃん、合格って…」

 

「待て!俺はエレンと同い年だ!」「えっ!?」

 

 以外な事に、翔太郎が驚く。

 

「翔太郎さんなら良い。だが、お前らには「あっ、私もエレンちゃんが良いデス!」

 

「うん、エレンちゃん!」「畜生、確定しちまった…」

 

「なんつーか、お前も苦労してんだな…」

 

 翔太郎は不敏に思い、愕然とする薫の肩に手を置く。

 

「文字通りの意味デス!お二人は『舞草(もくさ)』のテストに合格しマシタ!」「もく…さ?」

 

「舞草…初めて日本刀を作った鍛冶集団の一つと聞く。その名前を用いて刀剣類管理局内で変革派の折神紫に反発する組織がいると言う…成る程、それが君達だね?」

 

「良く調べたな…公になっていない情報の筈なんだが…」

 

「…そう言えば、閲覧や検索といった言葉を発してマシタね。貴方、もしかしてハッカー…デスか?」

 

 薫とエレンはフィリップに対し、警戒する。

 

「あぁ…いや、違う。まあ、似た様なもんだが…」

 

 翔太郎がフォローに回る。なってはいないが…

 

「そんな曖昧な言い方で「信じます!翔太郎さんの言葉なら!」薫?!」

 

 薫は何故か翔太郎の言葉を信用する。彼女は先程から、彼に憧れの眼差しを向けていた。

 

「信じて貰えないだろうが、僕等は君達の味方のつもりだ…力を貸して欲しい。」

 

 フィリップは率先して四人に頼み込む。翔太郎は驚いた顔をした。彼が他人に頭を下げる事など滅多に無いからだ。

 

「フィリップ…お前、一体どうしたんだ?今日は何かおかしいぞ…」

 

「…折神紫から燕結芽を救い出す為には刀使の協力がどうしても必要だ。」

 

「お願いします!結芽ちゃんを助けたいんです!」

 

 昇も必死に頭を下げる。そして、翔太郎も

 

「…頼む、この通りだ。」

 

 その時、

 

「…! ねねーっ!「どうした、ねね?」ねーっ!」

 

「荒魂だ!囲まれているぞ!」姫和の持つ方位磁石の様な物が、荒魂の反応を感知した。

 

 ブワッ! ねねはその方向へと走り出し、薫とエレンが追いかける。

 

「!? 来るよ!」可奈美が叫ぶ。

 

 すると、森の方から蝶の様な荒魂が群れをなして一同に襲いかかる。

 

「凄い数…何でこんなに?」

 

「とりあえず、お話の続きはここを突破してからデース!」

 

「分かった!行くぞ、フィリップ! 昇!」

 

 エレンの指示で全員四方に別れて荒魂を巻いた後、合流する事に。しかし、

 

「うわあああっ!」「昇、どこ行った!?」

 

「サイクロン!メタル!」サイクロンメタルに変身し、メタルシャフトと言う棍棒で荒魂を振り払おうとするが

 

 ブワアッ! 「ぐわあぁっ!!」

 

 Wは簡単に吹き飛ばされてしまった。

 

 ─

 

 郎…翔太郎…

 

「ん…」「翔太郎!」

 

「はっ!フィリップ、昇は!?」

 

「…すまない。大量の荒魂が押し寄せ、為す術が無かった。昇君とは…はぐれてしまった。」

 

 キュオン!

 

 Wの変身は強制的に解かれていた。フィリップの身体はエクストリームメモリが回収し、翔太郎の元に彼を届けた。

 

 このガイアメモリはフィリップをデータ化して取り込み、彼を守る事が出来る特殊なメモリの一つである。

 

「このままじゃ昇が危ねぇ…急いで探すぞ、フィリップ!」

 

 ザッ… 他の者の足音が聞こえる。その先には

 

「君達は…どこかで会った気がするな…」

 

「思い出しましたわ…確か御前試合の時、結芽に話しかけていましたわね。」

 

 翔太郎達が出くわしたのは真希と寿々花だった。

 

「荘厳と薔薇の刺か…」フィリップは含みのある言葉を口にする。それを耳にした真希は

 

「何の事だ?」「…こっちの話さ」

 

「おい!お前ら、折神紫の親衛隊だよな!」

 

 翔太郎が食ってかかる様に真希に話しかける。

 

「いかにも。親衛隊第一席、獅童真希だ…」

 

「知らないだろうが、お前らの御当主様は大荒魂だ!もうそんなのに…」

 

 ピクッ 

 

「!?」フィリップが真希の様子の変化に気付く。

 

「…今、何と言った?」

 

「だから、御当主様は大荒だ」「翔太郎!」

 

 ─カッ

 

 真希は自身の御刀を鞘から抜き、瞳が赤く光り、燃え上がる闘気を纏いながら、鬼でも憑依したかの様な鋭い目で翔太郎達を睨む。

 

 何も知らない彼女は紫を大荒魂呼ばわりされた事に激昂する。そして、

 

     ゴオオオォッ…

 

「紫様を愚弄するかっ!無礼者おおっ!!」

 

 

     ドオオオオオンッ!

 

 真希は御刀を振り下ろす。その斬撃はまるで、光の衝撃波を縦に飛ばした様な一閃だった。

 

 パラパラ…

 

「…っ。翔太郎、ここは一旦」

 

「! 翔太郎!!」

 

 フィリップが血相を変える。翔太郎の左上腕には切り傷があり、そこから血が流れていた。

 

「大丈夫かい!?翔太郎!」「ああ、問題無ぇ。ただのかすり傷だ…」彼の傷は幸い、浅かった。

 

「お前の言う通りだ。今すぐ逃げ」

 

 すると、フィリップは

 

「…よくも翔太郎を……許さないよ」

 

「フィリップ?」

 

「何を抜かすかっ!」

 

 ガキィン! 「!?」

 

 フィリップに斬りかかろうとした真希の剣が何かに弾かれた。

 

 ガシャン! ガシャン! 

 

 玩具の恐竜の形をした自立型の機械が彼への攻撃を防いだのだった。

 

「これはファングと言ってね…独立した思考回路を持つ…僕のSPの様な物さ」カチャッ!

 

 ファングと呼ばれる機械がフィリップの手の甲に乗り、彼はそれをある形状の物に変形させる。

 

 それはガイアメモリであった。

 

 ガシャ! 「ファング!」

 

「よせ、フィリップ!刀使相手にファングを使うな!」

 

「翔太郎…彼女の目は本気だ。戦わなければ僕等が殺される…」

 

「…」「ジョーカー!」

 

「ふざけた真似を…許さんっ!」「真希さん!」

 

 流石に状況が不味いと判断した寿々花は真希を止めようとする。だが、彼女の耳には届いていない。

 

「獅童真希、これ以上来るのなら…僕はもう、知らないぞ…」ガシャン!

 

 ジャキィン!  「変身!」シュイイイン!

 

 

    「ファング!ジョーカー!」

 

 

  オ オ オ オ オ オ オ オ オ

 

 

 大気は揺れ、その衝撃が周りを襲う。

 

 砂埃が消え、現れた戦士は満月に照らされ、猛る咆哮と共に姿を見せる。

 

 右側に白、左側に黒、歪な刺々しさを思わせる。正に獣と言える様相だった。

 

 

   ─仮面ライダーW、ファングジョーカー

 

 

 フィリップのみが変身出来る。強力なWの一つの形態である。

 

「…こんな」「真希さん?」

 

「こんな異形の者達が紫様を侮辱するのか…」

 

 ─カッ

 

 真希は完全に冷静さを失っていた。

 

「…っ、真希さんっ!」寿々花の制止も効かず、彼女は突撃して行く。

 

 ガシャン! 「アームファング!」ギィン!

 

        キィンッ!

 

 

 「はああああああああああああああっ!!」

 「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 

   ギリギリギリッ…  ガキィン!!

 

 真希の御刀『薄緑(うすみどり)』とファングジョーカーの右腕から生えた刃、アームセイバーが激しい鍔迫り合いを起こし、お互いが交差する様に跳んだ。

 

「しっかりしろ、ファングの力に呑まれかけてるぞ!」

 

「…問題無い、君が居る限り…僕は正気さ。」

 

 フーッ フーッ 

 

 フィリップは翔太郎にこう答えるが彼もまた、冷静さを欠いていた。

 

 ヒュッ (後ろが…がら空きですわ!)

 

 ファングジョーカーの後方から寿々花が迅移を使い、斬りかかって来た。彼女は真希の支援に回ろうと攻撃するが…

 

 ガシャン! ガシャン!

 

 「ショルダーファング!」キィン! ドカッ!

 

 「きゃあっ!」「寿々花!」

 

 ファングジョーカーの右肩から突き出る刃、ショルダーセイバーが寿々花の剣を防ぎ、彼女を弾き飛ばす。

 

「己、よくもおぉっ!」ヒュッ ダンッ!

 

 真希も迅移を発動する。彼女はまるで壁を蹴る様に相手の後ろにある木を踏み台として、空中まで跳んだ。

 

 真希はファングジョーカーの頭上へとその剣を振り下ろす。

 

「はああああっ!!」 ブンッ!

 

     ガキィン!

 

「オオオオオ…」ギリギリッ…

 

 ショルダーセイバーで受けた彼女の剣が肩に重くのし掛かって来る。当然、その重さに耐えかねて 

 

 ギィンッ! 「「ぐああぁっ!!」」 

 

     ドガァッ!

 

「ぐっ…」フィリップの動揺と翔太郎のドーパントで無い相手に対する配慮もあり、真希の圧倒的な剛剣に追い詰められていた。

 

「そんな…有り得ない!ファングジョーカーのパワーと互角…いや、それ以上だなんて…」

 

「伊達に親衛隊を名乗っちゃいねぇって事か…悔しいが、退くしか「…ぁ」フィリップ?」

 

「…あああああああああああああああっ!!」

 

「おい!どうした、フィリップ!!」

 

 フィリップは理解が追いつかず、混乱状態に陥る。そして、彼が取った行動は─

 

  ガシャン! ガシャン! ガシャン!

 

 

  「ファング!マキシマムドライブ!」

 

 

    「止めろ!フィリップ!!」

 

 ファングジョーカーの右足、その後方から最後の刃が出て来た。

 

 マキシマムセイバーと呼ばれるその刃で空中へと跳び、回転蹴りを繰り出す。

 

   ブォン  ブォン

  

「…所詮は化け物、本性を現したか」

 

 真希は薄緑の刀身を光らせ、マキシマムセイバーに目がけて

 

 重く鋭い一撃を放つ─

 

 

   「ファングストライザァァァッ!!」

 

 

     「喰らえっ!鬼突き!!」

 

 

 ドオオオオォォォォォッ! …ギギギギッ!

 

 

 

   バキィンッ! ドサッ! 

 

 

 互いの攻撃が反発しあい、凄まじい衝撃が巻き起こり双方共に吹き飛ばされる。

 

「ぐっ…!」ファングジョーカーは力を使い果たし、動けずにいる。

 

 

 

 だが、その前には真希が佇んでいた。

 

 

 

 彼女の瞳は赤く染まり、その眼光でファングジョーカーを見つめ、こう言う。

 

 

    

     「……終わりだ。」 ブンッ!

 

 

 

 真希は薄緑を振り下ろす。

 

 

 

 

 ギュィィィィン!(続く)

 

 ──────────────────────

 

 仮面ライダー W!!

 

「行きなさい、あの方の御為に…」

 

「通りすがりの刀使デース。」

 

「紫様ぁ~♪あーそーぼおっ!」

 

「…俺も少し、本気出す」

 

   これで決まりだ!

 

     第五話「迷えるY/露わになる禁忌」




お久しぶりです。

諸事情により、なかなか執筆に手を付ける事が出来ませんでした…(汗
この間、ふと思ったんですが「あれ?リボルギャリーって公道走れたっけか…W本編で普通に走ってた気がするから大丈夫だと思うけど…」
ですが、これしか移動手段が無いと思うので無理矢理押し通しました。

読んでくれた方々、お気に入り登録してくれた方々、ありがとうございます!
何かと不安定なペースで更新しますが、これからもご愛読頂けたら幸いです。

ご感想、お待ちしております。

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