スパイダーマン Stay Night   作:紅乃 晴@小説アカ

10 / 19
第7話 喜べ少年、君の願いはようやく叶う

 

 

「ほんとに!?じゃあ冬木の街にヴィランも暴漢も犯罪者もいなくなって夜11時から次の日の昼までぐーたら寝れるね!!そこで聞きたいんだけど神父さん?この状況のどこで俺の夢が叶ってるのかな!?」

 

幽霊すら叩き起こされそうな戦いの音が教会の目の前で繰り広げられていた。

 

「衛宮くん?ほんとにその格好でいくつもりなの?」

 

「遠坂、頼むから外で俺の名前を呼ぶなよ?呼ぶならスパイダーマンにしてくれ」

 

遠坂たちと共に、魔術協会の支部でもある冬木の教会へと向かった士郎達だったが、出かける際の有事のためにスパイダーマンスーツを着ていたことが仇となった。慎二は魔術関係、とくに聖杯戦争のことには関わりたくないと言って不貞寝してしまっていた。故に、モニタリングしてくれているはずの慎二が不在だったため、士郎は迫るヴィランたちの存在に気が付かなかったのかもしれない。

 

「やぁ、スパイダーマン。今日は徒歩かね?」

 

遠坂たちと珍しく徒歩で教会を目指している最中、最初にスパイダーマンである士郎に攻撃を仕掛けてきたのは、魔術技術で作り上げられた翼を持つヴィラン、「ヴァルチャー」だった。脚部に備わる猛禽類の足を思わせる鋭い爪、そして翼に備わる武器、動力は慎二曰く本人の魔術回路が起因しているらしいが、実際に戦うとそんなことを気にする余裕なんてなかった。

 

「今日こそ引導を渡してやるぞ、スパイダーマン!!」

 

そして教会に近づくたびに、背中から海魔の触手を生やすオクトパスや、電気をこよなく愛するエレクトロ、ホムンクルスや非合法のキメラ、モンスターを専門に駆るクレイブン・ザ・ハンターが出現。

 

極め付けに怪しげなマスクを身につけたホブゴブリンがグライダーで現れる始末だ。「ヴィランのバーゲンセールでもしてるのかな?!」そう叫んだ士郎が激闘を繰り広げてゆき、言峰神父が騒ぎを聞いて悠々と教会から出てきたときには、遠坂やアーチャー、セイバーも巻き込んだ乱闘が発生していたのだ。

 

「もうっ!!冬木の街はどうなってるのよ!?魔術の秘匿はどうしたのよ!!」

 

「凛!君はこの地の当主だろ!?なぜこんなことになるまで知らなかったんだ!?」

 

「知らないわよ!!私が情報を得る前に、そこのクモ男が軽快にやってきて悪党をぶっ飛ばしてたんじゃない!?」

 

「おっと、クモ男と呼ぶより親愛なる隣人か、スパイディ、もしくはウェブヘッドと呼んでくれたらテンション上がるからね!?」

 

「たわけ!!そんなことを言ってる場合か!?」

 

スパイダーマンの軽口にいちいち文句を言うアーチャーだが、相手取るエレクトロが放つ放電攻撃を躱して距離を取る。干将・莫耶を両手に持って迎撃するが全く隙がない。遠坂も空を自由に舞うヴァルチャーとの戦いを繰り広げ、セイバーもかぼちゃ型の爆弾を投擲してくるボブゴブリンと交戦をしている。

 

聖杯戦争ではないというのに、並の戦争以上の戦いがこの場で繰り広げられていた。

 

「お前をここに近づけるわけにはいかないのだよ、スパイダーマン!!」

 

「オクトパス!!こんな街中で海魔を増やそうったって、そうはさせないぞ!!」

 

「ほざけ!!」

 

下水道に繋がるマンホールから水を媒介として海魔を呼び出すオクトパスをウェブスイングと共に蹴り飛ばして、教会の屋根へと着地する。執拗に攻撃を仕掛けるボブゴブリンを追って、セイバーも自慢の胆力で跳躍して士郎と同じく屋根へと身を移した。

 

「マスター!!何なんですか、この敵は!?」

 

「マスターじゃなくてスパイディ!!こいつらは冬木のヴィラン!!こんなに集まってるなんて教会の近くでダンスパーティーでもやってたわけ!?それにしては皆衣装のセンス皆無だね!!」

 

「アンタに一番言われたくない言葉よ!?それ!!」

 

「はぁ!?スパイダースーツがダサい!?何言ってるんだよ、このデザインは最高だろ!?」

 

「軽口を叩く前に目の前の状況を何とかせんか馬鹿者!!」

 

干将・莫耶を投擲するが凄まじい電力で跳ね除けられ、アーチャーは舌を打った。下手な魔術師よりも厄介な相手だ。矢を射ろうにも金属系の武器は磁界により無力化される。絶縁措置をしているはずもなく、武器を生成して戦うアーチャーにとってエレクトロは最悪の相手だった。

 

「うわわっ!?」

 

その背後で、遠坂が飛来したヴァルチャーの足に捕まり、そのまま空へと連れ去られてゆく。

 

「凛!?」

 

「遠坂の小娘がこんな夜更けに危ないだろう!ほれ!私が空の旅へと連れて行ってやろう!!」

 

みるみる地面が遠ざかっていく様子を見て恐怖するかと思っていたが、逆に釣り上げられたことに遠坂は腹を立てた。ポケットから宝石を取り出し、詠唱をキャンセルした魔術攻撃を構築する。

 

「あったまきた!!私の治める地で好き勝手やってるんじゃないわよ!!」

 

宝石魔術。魔力を宝石に蓄積し、膨大な魔力量を発揮する攻撃性が高い魔術だ。宝石という値が張るところが難点であるが、その威力は折り紙付き。ヴァルチャーを文字通り吹き飛ばした遠坂は解放されて、そのまま一直線に地面へと落下してゆく。

 

「アーチャー、着地任せた!!」

 

ぐっと身を縮めて着地をサーヴァントに託すと、遠坂の体が霊体化したアーチャーによって横から掠められるように持ち上がり、音もなく近くの屋根へと着地した。え?エレクトロの相手?オクトパスと戦う士郎になすりつけてきましたが何か?

 

「ええい!鬱陶しい奴らめ!」

 

電気を纏ったショックブラストをまともに喰らい、士郎が教会の屋根から地上へと叩きつけられる。ヴィランたちが上に集い、士郎を追って降りてきたセイバーや合流した遠坂達と共に士郎は屋根の上に集うヴィランたちを見上げた。

 

「オクトパス!!なんでお前たちは集まってる!!まさか教会に懺悔しにしたなんて言わないよな!?」

 

スパイダーマン流の軽口をオクトパスは鼻で笑う。普段はそれぞれがワンマンプレーをしてやりたいようにしているが、今夜は同じ目的でこの場に集っているのだ。

 

「あの方のご命令だ!ここに来た貴様を始末しろと言うな!!」

 

オクトパスの言葉に、士郎のスパイダーセンスが反応を示す。その気配は目の前にいるヴィランたちの比ではない。

 

「ゴールデンストライカーがいるのか!!」

 

「ねぇ、ゴールデンストライカーってなによ」

 

隣にいる遠坂からの質問に、士郎は見上げる視線を変えないまま簡潔に答えた。

 

「冬木のスーパーヴィランさ。奴はオクトパスや、エレクトロ、ヴァルチャーや他のヴィランをまとめる影のリーダー。冬木のシニスターシックスの親玉さ」

 

「なんか、迫力に欠ける名前ね」

 

ヴァルチャーやエレクトロやオクトパス…もう少しセンスというものがあると思うのだけど、と遠坂が呆れていると、教会の屋根の上に傲慢な笑い声が響き渡った。

 

オクトパスたちが付き従うようにその場を空けると、黄金のマスクと鎧を着た存在が士郎達の前に現れた。

 

彼の名は、「ゴールデンストライカー」。

自称、世界最古のスーパーヴィラン。

 

「ふはははは!!どうやら今日こそ死にに来たようだな!!虫けらめ!!」

 

上から見下ろす相手を見た士郎はウェブスイングで飛び上がると、腕を組むゴールデンストライカーと対峙した。

 

「ここで会ったがっていう奴だよ、金ピカくん!!」

 

「ふん、相変わらず気に食わぬ口煩さだが、今の我は機嫌が良い。冬木を舞台にした願望機をめぐる戦争。この世の全ては我の庭。そして全ての財は我のものだ。その財をかけて勝手に戦い合う者達など盗人猛々しいと唾棄していたが、貴様もその宴に参加すると言うなら話は別だ」

 

相変わらず傲慢な性格だな、と士郎は吐き捨てると、ゴールデンストライカーも楽しげに鼻で笑った。前回は冬木の地下施設で姫路城とピラミッドをドッキングさせようとする訳わかんない実験を止めたが、今回は何をするつもりなのか。

 

「俺はお前を倒す。悪事を働く事は許さないぞ!」

 

「思い上がったな?虫けら如きが。まぁいい。宴は始まったばかりだ。存分に楽しむがいい。貴様達、今日は退け」

 

「し、しかし…ストライカー様!!」

 

「くどい!!我が退けと言ってるのだぞ?」

 

「はっ!承知しました…!!」

 

ゴールデンストライカーの威圧に満ちた言葉に首を下げたオクトパスたちは、そのまま教会の裏側へと姿を消してゆく。

 

「次に会うまで首を洗って待っておくがいい、スパイダーマン!!ふはははははは!!!」

 

「待て!!」

 

ふわりと飛び降りたゴールデンストライカーを追う士郎だが、すでに教会の裏には誰もいない。まるで煙のようにヴィランたちは消え去っていたのだ。

 

聖杯戦争に呼応するようにヴィランたちも動き始めてきる。これから冬木の街で、いったい何が始まろうとしているのか…。

 

「さて、騒ぎも終わったのだが…麻婆豆腐でも食べながら聖杯戦争の詳細を聞くかね?」

 

夜の静寂が帰ってきたことを確認した言峰神父が、疲弊した遠坂たちにそう提案するが、彼女はうんざりした顔で首を横に振って答えた。

 

「また後日、今度はあいつ一人で来させることにするわ」

 

ふむ、と言峰が振り返って着地したスパイダーマンを見つめる。

 

「ところで少年?君の望みは?」

 

「週休2日のヒーロー業務がいいな。労災付きの」

 

なんとも現実的な願いだなと、言峰は小さく笑ってそう言ったのだった。

 

 

////

 

 

結局、セイバーのサーヴァントが召喚され、聖杯戦争が本格的にスタートするという情報だけを得た士郎達は、疲れ切った体を引きずって帰路へと着いていた。

 

学校でのランサー戦に加え、自宅での一悶着、そして教会で何かわかるかと思っていたら訳の分からない冬木のヴィランたちに襲われる始末。遠坂にとっては想定外の出来事が多すぎた。

 

「アンタね…あんなのと毎日戦ってるわけ?」

 

「隔週って感じかな」

 

その言葉に誰も何も言わなかった。あんなイカレタ集団と隔週で人知れず戦っているとは、アーチャーも小言を言う元気すらない様子だった。

 

「…まさか他にもいるの?」

 

遠坂が恐る恐る聞くと、士郎は少し思い出すように黙ってから指折りをして数え始めた。

 

「えーっと、砂の能力を操るサンドマンとか、水の力を操るハイドロマンとか、衝撃波を使うショッカーに、力こそパワーなライノとか、まぁ色々」

 

「…私、もう冬木が嫌いになりそう」

 

「そう?いい街だと思うけど?夜景も綺麗で、ここの坂道なんて春になると桜が満開で…」

 

ちょうど士郎達が差し掛かったのはなだらかな坂道が続く道路で、街路樹には桜の木々が植えられている場所だ。士郎もよくスパイダーマン活動の中、見晴らしがいいこの場に来るのだが、春になると一面桜色になる隠れた名所だ。

 

「こんばんは、お兄ちゃんたち」

 

そして、その道の真ん中には銀髪の幼い少女。そして隣には少女の4倍はあろう巨大と、赤い目がこちらを見つめていた。

 

「ああいう殺気立った筋肉のバケモンも出てくる。素晴らしい街だね、冬木って」

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。