スパイダーマン Stay Night   作:紅乃 晴@小説アカ

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第8話 英雄王の愉悦

 

遠坂の娘、遠坂 凛。

 

自分にとっては兄妹弟子でもある彼女から連絡を受け、最後のサーヴァントが召喚されたことには驚いたが、そのマスターがさらに驚愕的な存在だった。

 

スパイダーマン。

第四次聖杯戦争、その終局で起こった泥による厄災から10年間の中で冬木に突如として現れた自称「親愛なる隣人」。

 

彼の出現は聖杯戦争の残火から生まれたと言っても過言ではあるまい。冬木にいる多くのヴィランの根源は第四次聖杯戦争の被害者に起因している。

 

悪虐の限りを尽くしたマスターとサーヴァントによる被害者。あるいはサーヴァントに家族を殺された被害者。あるいはサーヴァントの力に魅せられて狂ってしまった被害者。あるいはサーヴァントに強い憧れを抱いてしまった被害者。

 

そんな彼らが巡り巡って人の道を踏み外した中、あの正義の味方は姿を現したのだ。

 

目覚ましい復興を遂げる冬木の新都の摩天楼を蜘蛛の糸で駆け巡り、人の目につかない場所で悲願を達しようと駆ける悪人を止め、対峙し、戦う存在。

 

治安が良くはない冬木の街で悪漢からか弱い人を守り、淑女を守り、子を守り、人を救う正義の味方。

 

そして同時に、彼らヴィランでもあり被害者でもある存在をより確立させる対立者でもあった。

 

「なんのつもりだ?ギルガメッシュ」

 

初めて目の当たりにしたスパイダーマンのことに思考を巡らせながら地下室に降りてきた言峰は、黄金のマスクと鎧から解放され、高級なソファに身を置きワインを楽しむ〝英雄王〟へ、そんな問いを投げかける。

 

英雄王、ギルガメッシュ。

世界最古の英雄であり王である存在。

 

そして第四次聖杯戦争で肉体を得た存在でもある彼は、年代物のワインの香りを楽しみつつ、それとは別の楽しみを浮かべて笑っていた。

 

「あの虫けらが我の居に来たのだ。歓迎しないわけにはいくまい」

 

第四次聖杯戦争の戦いが終わりしばらく、現世のありようを見たギルガメッシュにとって、彼が身を置く世界は退屈で、窮屈で、くだらないガラクタよりも劣る価値しか無かった。

 

この世界に蔓延る無益な人種への選定すら考えていた彼にとって、〝スパイダーマン〟という存在は転機だった。

 

「ずいぶんと気に入ってるのだな?あの少年を」

 

言峰がそう呟くと、ギルガメッシュは殺気だった目で言峰を睨みつけた。ワイングラスが地に落ち、床には血溜まりのような真っ赤な湖が生まれる。

 

「言峰。あの虫けらの正体を我の前で口にしてみろ。その頭蓋をいっぺんとも残さずに踏み砕いてやるぞ」

 

それは紛れもない言葉だった。言峰は「すまなかったな」と軽く返すが、ギルガメッシュにとってその言葉の先はタブー中のタブーである。マスクを被り、正義を為そうとする存在を悪戯に晒すなど楽しみに水が差される所の話ではない。

 

ふん、と鼻を鳴らしてギルガメッシュはソファへと背を預けた。

 

「この世に生を受け10年」

 

呪いのような言葉だった。生を受けるという意味がどれほど退屈なものであったか。この世界には神秘も神聖さの一欠片すら残っていない。そんな世界になんの面白みがあるのか、と。

 

だがその考えはいい意味で覆された。

 

「たったの10年だというのに随分と楽しませてもらった。初めは余興だと思い関心はなかったのだが、あの虫ケラも、雑種どももなかなかどうして意固地なものでな」

 

最初は些細な噂話程度だった。

 

背中に触手を生やした化け物。夜の街を飛び交う人影。クモのようにビルを這い回り、悪漢に襲われていた女性をあっという間に助け出したという。そんな噂を耳にした程度が始まりだった。

 

いつしかそれは現実となった。空を飛ぶ存在。砂を操る存在や、水と同化した化け物。狂ったゴブリンにそれを模範した狂人。イカれながらもただ自分の目的のためにひた走る彼らを見て、ギルガメッシュにとっての世界は色彩を取り戻したのだ。

 

観戦()ているのが稚拙な遊戯で物足りなくなってな」

 

王の如く道化が演じる演目を楽しもうと考えてはいたが、悪の力が貧弱すぎる。毎度毎度、特殊な力を持つスパイダーマンに良いようにやられて終わりだ。

 

それでは面白みがない。

 

終わりが決まっている演目など飽きが早くて仕方がない。だったら自分好みに染め上げれば良いではないか。そう思い至ったギルガメッシュが取った行動は実にシンプルだった。

 

「我が宝物の一部で作り上げたものも面白いように機能しておる。ヴァルチャーめが運営していた企業「わくわくスコープ」は、今や冬木の最も重要な複合企業となった。舞台装置としては不足あるまい」

 

「…その名前、もう少しどうにかならなかったのか?」

 

「知らん、若い我に文句を言え」

 

呆れた様子で言う言峰に、ギルガメッシュは興味なさげに答える。経営コンサルをするなら若返り薬を煽った自分の方が性に合っていただけという話だ。

 

だが、そのテコ入れが彼らをより強靭なステージへと誘う。悪の力が強まり、善が退くかと思いきや、意外や意外。たった一人で金と力で強化されたヴィランたちに勝ち越しているのだ。クモの力と糸を出す程度、身体能力が高い程度だというのに、その心は全く折れることはなく、立ち止まることも倒れることもない。倒されても立ち上がり、決してあきらめない。

 

故にギルガメッシュはスパイダーマンに固執する。楽しくて仕方がない。あの折れぬ鉄の意思を踏み砕き、叩き折り、粉微塵になる瞬間を見るのがたまらなく楽しみでもあり、そして同時にボロボロの姿になっても戦い続ける姿も楽しくて堪らなかった。

 

そして、あの戦争から10年。

最大にして最高の舞台が整った。

 

「聖杯戦争とスパイダーマン。これほど愉快な展開はあるまい。奴はどう動く?この世の全ての〝悪〟が鈍化した人種を飲み込むとしたら。答えなど分かりきってる。奴は現れ、そして悪事を働く不敬者と戦い、平穏な日々を守る」

 

何があろうと変わらない信念をとって戦う姿を知っているからこそ、その信念が〝壊れる〟きっかけもまた、ギルガメッシュは知っているのだ。

 

ギルガメッシュは深い紫の髪をする少女と、楽しげに話す短髪の女性の写真を眺めながらニヤリと笑みを浮かべた。

 

さぁ、楽しい新たなる演目の幕開けだ。

 

「だが、その行為自体が、かけがえのない者を失うという対価を要求されることになったら?奴の人間という本質がむき出しになる瞬間が来るやも知れん」

 

ギルガメッシュにとって、その本質を垣間見てこその愉悦…それこそが我がやつに求める至高の財なのだ。

 

 

 

 

 

 





慎二君がスパイディの「椅子の人」になるまでの経緯を描いた話もあるけど、みたい?
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